道化と往く珍道中   作:雪夏

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対峙するタマモとエヴァンジェリン。余裕を見せるエヴァンジェリンに対して、タマモは……

一言: 戦闘描写には期待しないでください。



その7 激突??妖狐と吸血鬼

 

 

 

――“来たれ(アデアット)

 

 

タマモが取り出したカードは、その力ある言葉によって変化する。それを目撃したエヴァンジェリンは、未だ悠然とした態度のまま言葉を紡ぐ。

 

「……ほう。アーティファクトか……試したいこととはそれか」

 

「ええ。昨日手に入れたばかりなの。悪いけど、アンタで使い勝手を確かめさせてもらうわ!!」

 

そう叫ぶとタマモは召喚したアーティファクト――黒地の扇を体の横で勢いよく開く。扇には九尾の狐が描かれており、エヴァにはその九つの尻尾のうち一本が他に比べ色が薄く見えた。

 

「くくくっ……、この“闇の福音(ダークエヴァンジェル)”を相手によく言った!! くるがよい……貴様の力の全てを見せてみろ!!」

 

エヴァンジェリンの言葉に呼応するかのように、勢いよく距離を詰めるタマモ。扇を持つ手とは反対の手には徐々に炎が集まっている。

エヴァンジェリンとタマモの距離が、残り二メートル程となった時、タマモはその手を前に振りかざす。

 

「“狐火”!!」

 

その言葉と共にエヴァンジェリンを襲う炎。その数は六。螺旋を描きながら向かってくる炎を、エヴァンジェリンは無造作に手を横に払うことでかき消す。

 

直後、エヴァンジェリンの背後に、“狐火”を放つと同時に回り込んでいたタマモが、閉じた扇で一閃を加える。

 

対するエヴァンジェリンはその一撃を予測していたのか、魔法障壁ではなく素手で受け止めると、そのまま扇を掴みタマモに笑いかける。

 

「中々考えてあったが……どれも軽い。囮の攻撃には、こちらを害する意思が全くない。これでは、囮だと自白しているようなものだ。まぁ、“狐火”とか言ったか? あれのコントロールは良かったぞ?」

 

「それはどうもっ!!」

 

「そう吠えるな。これでも褒めてやってるんだぞ? 所々お粗末な点はあったが、正直に突っ込んでくる馬鹿どもより何倍もマシだからな」

 

そう言うとエヴァンジェリンは、掴んでいた扇から手を離す。タマモはその行動に不思議そうな表情を一瞬浮かべるが、すぐに距離をとる。

 

「うむ。反応も中々いいじゃないか。もう少し反応が遅ければ、“魔法の射手(サギタ・マギカ)”を叩き込んでいたところだ」

 

そう言って掌をタマモに見せるエヴァンジェリン。そのまま、誰もいない中空に掌を向けると“解放(エーミッタム)”と一言呟く。すると、エヴァンジェリンの掌から氷で出来た矢が中空へと射出される。

 

「……それが無詠唱ってヤツかしら?」

 

「ちょっと違うな。今回使ったのは遅延魔法だ。キーワードを唱えることで事前に待機させていた魔法を発動できる。無論、無詠唱で叩き込むこともできたが……それだと、貴様が気づかない可能性もあるだろう? 遅延魔法なら、キーワードを唱えるという手順が必要になるからな」

 

「あら、優しいのね」

 

「簡単に終わっては楽しくないだろう? それに、貴様のアーティファクトにも興味がある。触れた感じだと、それ自体に攻撃力があるというわけではないな。それに、先程の炎……“狐火”と言ったか? そんな魔法は知らないし、陰陽師共の術は呪符を使う。と、いうことは……だ。“狐火”とやらはその(アーティファクト)の能力。違うか?」

 

「さぁ、どうかしら?」

 

冷静に分析するエヴァンジェリンに対し、扇をむけながら答えるタマモ。その先には再び炎が集まっていた。

 

「まぁいい。ここからは戦いの中で暴いていくこととしよう。……簡単に終わってくれるなよ?」

 

「それはこっちの台詞よっ! “狐火”っ!」

 

タマモの掛け声を受け、扇に集まっていた炎がエヴァンジェリンに向かって放たれる。先程と違い、真っ直ぐに進む炎はその軌跡と速度から光線のようにも見える。

 

「ふむ……“狐火”とはキーワードのようなものか? さてどうするか……そうだな。まずは“氷盾(レフレクシオー)”……ほれ、おまけだ! “氷の17矢(グラキアーリス)”!!」

 

エヴァンジェリンは迫る炎を氷の盾で遮る。炎は盾を砕くことなく、タマモに跳ね返される。更に17本の氷で出来た矢が、跳ね返された炎を追うように射出される。

 

タマモは、それらを大きく横に飛ぶことで避けると扇を再び開く。エヴァンジェリンは、扇に描かれた九尾の尾、その中の二本が揺らいでいるのをはっきりと目撃する。

 

(見間違いではなかった。先程は一番外側の一本。そして、今は外側の二本が他より色が薄い……というより暗くなったのか?……まだ情報が少ないな)

 

「避けたか……今度は少し数が多いぞ? “リク・ラク ラ・ラック ライラック 氷の精霊(セプテントリーギンタ・スピリトゥス)37柱(・グラキアーレス)集い来たりて(コエンウンテース・イニミクム)敵を切り裂け。(・コンキダント)魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の37矢(グラキアーリス)”!!」

 

放たれた矢は37本。次々と襲う矢に対し、タマモは扇を一度閉じてから再度開く。そして、先より大きな炎を手に集めると掛け声とともに迫る矢に向け振りかざす。

 

「“狐火”!!」

 

矢へと向かう炎の数は、矢と同数かそれ以上。中空で衝突する矢と炎。それによって、衝突点を中心に水蒸気が生じ、霧となってあたりを覆う。

それを確認したエヴァンジェリンは、上空に飛翔することで霧から逃れると、次の魔法を詠唱しながらタマモのアーティファクトについて考えていた。

 

(迎撃の前にわざわざ扇を開き直した……。それに、暗くなった尾の数が三本に増えていなかったか? おそらく、扇の開閉と暗い尾が関係しているのは間違いない。……が、大事なのはどう関係しているかだな。炎の威力があがったようにも見えるが……)

 

エヴァンジェリンがアーティファクトについて頭の片隅で思考している間に、次の魔法の詠唱が終わった。後は、魔法名を告げるだけ。目標(タマモ)は未だ霧の中から出てこないが、問題はない。何故ならエヴァンジェリンが詠唱していた魔法は、魔法の矢(サギタ・マギカ)よりも攻撃範囲が広く、現在霧が晴れていない範囲全てを攻撃出来るのだから。

 

「いくぞ、葛葉タマモ……“闇の吹雪(ニウィス・テンペスターズ・オブスクランス)”!!」

 

その言葉とともに強烈な吹雪と暗闇が広場を襲うのであった。

 

 

 

 

 

「ふむ。ヤツの姿はないな……まさか、下に落ちたか?」

 

エヴァンジェリンが放った魔法は、霧が覆っていた場所全てを捉えていた。魔法の衝撃で霧もはれており、エヴァンジェリンはタマモの姿を探すが地上には見当たらない。

 

一応、塔の下には衝撃を和らげる為に魔法をかけているが、それも物が落下した衝撃で壊れないようにとかけたものである。死にはしないだろうが、無傷ではないだろう。

少々やり過ぎたかと悩んでいると、上空からこの戦闘中に何度も聞いた言葉が聞こえてくる。

 

「“狐火”!!」

 

上空を見上げたエヴァンジェリンが見たもの。それは、直径三メートルはある特大の炎を自分に向かって打ち出すタマモの姿であった。

 

(でかい!! あれほどの力に何故気づかなかった!! どうする、避けるか?……冗談ではない!!)

 

「面白い!私の氷と貴様の炎どちらが上か……力比べといこうか!! “氷神の戦鎚(マレウス・アクィローニス)”!!」

 

無詠唱で巨大な氷塊を作り出すとエヴァンジェリンは、上空の炎に向かって打ち上げる。中空で衝突したそれらは、衝撃とともに再び霧を発生させる。

先程と違うのは、エヴァンジェリンが衝撃で地面に叩きつけられたこと。そして、タマモが未だ宙にあり、次の攻撃の力を蓄えていること。

 

「追い打ち……いかせてもらうわ!! “狐火”!!」

 

タマモの言葉から追撃を察したエヴァンジェリンは、体勢を立て直すことより攻撃することを選ぶ。選択した魔法は、無詠唱での魔法の矢(サギタ・マギカ)。属性は氷、矢の数は67。

 

「ちっ! “氷の67矢(グラキアーリス)”!!」

 

エヴァンジェリンは魔法の矢を広範囲に放ちながら、体勢を整えるとすぐ様その場を飛び退く。追撃の為の詠唱を開始しながら、エヴァンジェリンは霧の向こうに居る筈のタマモに気配を探る。広範囲に射出した矢で、炎とタマモの位置を割り出そうというのだ。

 

「(先程は後手にまわったが、次はそうはいかん。“これ”は魔法の矢(サギタ・マギカ)の比ではないぞ?)……見つけたぞ!」

 

エヴァンジェリンが見つけたのは、霧の中に浮かぶ炎と氷の激突。そして、それとは別の方向から伝わる“手応え”。エヴァンジェリンは迷うことなく“手応え”を感じた方向へ向かい魔法を放つ。

 

「“氷槍弾雨(ヤクラティオー・グランディニス)”!!」

 

放たれたのは多数の氷の槍。それらは霧を切り裂きながら、勢いよく目標へと向かっていく。その向かう先にはタマモの姿が。

 

「何で!?」

 

慌てて迎撃しようとするタマモであったが、焦りからか炎が上手くまとまらない。そのまま、氷の槍がタマモを貫くかと思われたそのとき、タマモは閉じて持っていた扇を開くきながらその言葉を叫ぶ。

 

「“狐火”!!」

 

その瞬間、タマモは自身の前に巨大な炎を出現し、タマモを氷の槍の脅威から守る。ぎりぎりのところでエヴァンジェリンの攻撃をやり過ごしたタマモは、エヴァンジェリンと距離を取ろうとして自身の腕に何かが絡まっていることに気づく。

 

「……糸? まさか!?」

 

「そうさ、それが貴様の位置を私に教えてくれた。貴様も魔法世界に居たんだろ? 聞いたことはないか?……“人形使い(ドールマスター)”という名を。糸を使って位置を探るなど私にとっては朝飯前ってやつだ。しかし、“氷槍弾雨(あれ)”を防がれるとは思わなかったぞ。正直、やり過ぎたと思ったくらいだ」

 

そう言いながら、糸をタマモに見せるエヴァンジェリン。その糸の先は、タマモの腕に絡まっている糸に繋がっていた。

 

「そう……陽動は無駄だったみたいね」

 

「先程後手に回ってしまったからな。本当は貴様相手に使う事態にはならはないと思っていたんだ。誇っていいぞ? 私に魔法と糸の両方を使わせたヤツはここ最近では貴様だけだ」

 

「それは、他のヤツが弱かったんじゃないの?」

 

「かもしれん。……だが、貴様が強いことは確かだ。それは認めてやろう」

 

「そう、それは光栄ね。お互い実力も分かったことだし、ここらでやめにしない?」

 

「くくくっ、馬鹿なことを言うな。ここからが楽しいんじゃないか。どちらかが倒れるまで続けようじゃないか!!」

 

「アナタ不死でしょ? そんな相手に倒れるまでなんて、私に勝ち目無いじゃない」

 

「……ふむ。そういえば決着についての取り決めをしていなかったな。では、こうするとしよう。貴様が降参と言ったら私の勝ち。貴様は……そうだな、私の首にその(アーティファクト)なり炎なりを突きつければ勝ちでどうだ?」

 

楽しそうに提案するエヴァンジェリン。その顔は、“貴様には無理だろうがな”と如実に語っている。提案を聞いたタマモは、しばし考える素振りを見せたあとに了承の言葉を口にする。

 

「……そうね。それでいいわ。アナタの首にアーティファクトを突きつけてあげる。約束破らないでよ?」

 

そう言うと、タマモは扇に描かれた絵柄をエヴァンジェリンに見せつけるかのように開きなおす。そこには、六本の尾が暗くなった九尾の狐が描かれていた。

 

「ああ、約束は守るさ。まぁ、貴様に出来るとは思わんがな……」

 

そこまで言うと、思考の半分をタマモのアーティファクトへ裂く。

 

(今が六本。霧で見失う前は暗くなっていたのは三本。それまでは、扇の開いた数と暗くなった尾の数は一緒。霧が晴れ後は二回開いた。つまり、見失った時にも一回開き直した可能性が高い。そして、“氷槍弾雨(あれ)”を相殺した炎を出す前にわざわざ開閉していたということは……開閉することで“狐火”の威力を一段階あげる、または一時的に力をブーストすると言った所か。尾が暗くなっているのは、力を使用したから。つまり、あれは全部で九回使用でき、残りは三回)

 

エヴァンジェリンはそこまで考察すると、思考の全てをタマモに向ける。その瞳には獰猛な光が。そのエヴァンジェリンの視線を受けたタマモも口角を上げて答える。

 

「それじゃ、そろそろ幕引きとしますか」

 

「ああ、来るがいい!! 我が魔法の真髄をその身に味あわせてやろう!!」

 

タマモの言葉に、両手を広げエヴァンジェリンは高らかに応え、魔法の詠唱を開始しようとしたその時。エヴァンジェリンは背後からの声を聞く。

 

「でも、残念。アナタの負け」

 

それは今も対峙しているタマモの声。間違っても背後から聞こえてくる筈がない声であり、その声はエヴァンジェリンに扇を突きつけ、彼女の負けを宣告していた。

 

「何故、貴様がそこに……?」

 

「私は狐よ? 騙すのは得意なの」

 

その言葉とともに、エヴァンジェリンが対峙していたタマモの姿が次第に薄くなっていく。やがて、完全に目の前から消える。

 

「幻覚……。まさか、この私が嵌められるとはな」

 

「長く生きてればそんなこともあるわよ。で、負けを認めるの?」

 

「ああ、認めるよ。騙されたのは気に食わんが、一度した約定を違える気はない」

 

 

 

――エヴァンジェリンとタマモの戦いは、タマモの勝利で幕を閉じるのであった。

 

 

 




タマモvsエヴァ。対決編です。色々疑問はあるでしょうが、次回で説明が入る筈なのでお待ちください。

追伸:戦闘描写は難しいですね。正直よくわかりません。

塔から落下した時の為に緩衝魔法をかけている。
これらは拙作内設定です。

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