道化と往く珍道中   作:雪夏

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強くなることを誓う刹那。横島たちの修行とは……?


一言: 色々重かったので投稿遅れました。



その5 妖狐と竜神と吸血鬼と……煩悩人と 中編

 

 

 

 

 

 

”よこっち”二階にある食堂では、小竜姫の手料理が振舞われていた。

 

「……おいしい」

 

「ありがとうございます。お口にあったようで良かったです」

 

「本当、竜姫の料理は美味しいわよねぇ。味付けは薄めで、素材の味を活かしてるっていうの?」

 

「だよなー。嫁さんにしたいくらいだ……っていうか嫁に来ないか?」

 

「……私ならいつでも……」

「ちょっとは覚えた方がいいのかしら……」

「料理かぁ……。覚えたらもう少し仲良くなれるのかなぁ……」

 

横島の言葉に沈黙が訪れる。正確には、言われた小竜姫を始め小さく何かをつぶやいているのだが。

 

「ボ、ボケにはツッコミを入れてくれんとキツいんだけど……。まぁ、いいや。刹那ちゃんは何処まで二人に聞いてきたんだ?」

 

「……ふぇ?」

 

「いや、だから修行のこと」

 

「えーと、特には。剣術の修行ではないという事だけで……」

 

「じゃ、最初から話さんといかんな。ま、それもメシ食ってからだ」

 

そう告げると残りをかきこみ始める横島。刹那も再び料理に舌鼓を打つのであった。

 

 

 

 

 

「ふー、うまかったー。ご馳走様でした」

 

「ふふ、お粗末さまでした。今、お茶いれますね?」

 

勢いよく手をあわせ横島が言うと、小竜姫が全員分のお茶を用意する為に立ち上がる。それを見送った横島は、改めて刹那に修行の話を始める。

 

「さて、改めて修行についてなんだけど……。詳しい内容については、あとで話すとして……刹那ちゃん、修行を受ける気はあるかい?」

 

「……はい。私は強くなりたいんです……。最初に聞いた時は、別流派の修行を受けることで強くなるのか、中途半端にならないかとも思いました。ですが……」

 

刹那は一度言葉を止めると、決意を込めた瞳で横島を見る。そして、告げるのであった。

 

 

「私には、強くならなければならない理由があります。そうじゃないと……弱いままだと……私はあの人の傍にいる資格を失ってしまう!!私は強くないとダメなんです!!」

 

 

まだ中学生になったばかりの少女が持つには、悲しすぎる刹那の決意。傍にいる為に強くなる。それはかつて横島も経験した覚えのあるものであった。

 

「(オレも昔ワルキューレに言われったけな……。戦士だけがあの人(美神さん)と居られるって。……それで、文珠(ちから)を身につけた。刹那ちゃんがオレと同じとは言わんが……)そうか……。じゃあ、決定だ。刹那ちゃんには()()()修行を受けてもらう。二人とも、いいよな?」

 

「ええ、異論はありません。強くなろうとする者を導くのも私の役目ですし。ふふ、あの時の横島さんを少し思い出しますね」

 

「いいんじゃない? 刹那には素質があるんだし」

 

横島の言葉に同意する二人であったが、刹那には意味が分からない。修行をつけると申し出たのは、横島たちからだと聞かされていた刹那には、“本当に”という言葉が引っかかるのである。

 

「あ、あの……本当にって…「刹那ちゃん」…は、はい!」

 

「最後に聞かせて欲しい。君の言うあの人というのは……」

 

「は、はい」

 

質問しようとした刹那に横島が真剣な顔で告げる。

 

「男か!?」

 

「へ?」

 

「男なんやな! くっそー、刹那ちゃんみたいな可愛い()に此処まで想われるなんて!!」

 

「え? あの、男の人じゃない……」

 

「オレも美少女に想われたいわ!!……そうだ、呪おう。刹那ちゃんには悪いがワイの敵やもんな。ああ、でも刹那ちゃんの気持ちも分かるし……ワイはどうしたらええんやー。やっぱり、ヤるか?…「狐火!!」…ほわぁっ」

 

「落ち着かんかっ!! ……刹那の言ってるのは木乃香のことよ」

 

「……燃やしたことへの謝罪はなしか?…「ないわ」…さよけ」

 

タマモの狐火により(強制的に)落ち着く横島。そんな横島の様子を苦笑とともに見ていた小竜姫であったが、刹那の反応がないことに気づく。

 

「刹那さん? どうかしましたか?」

 

「ふぇ?」

 

「どうしました?」

 

「え、あ、その、また可愛いって言われて、嬉しくて。で、でも、気づいたら燃えてて……! きゅ、救急車!!」

 

「ああ、いつものことです。大丈夫ですから、落ち着いてください。ほら、横島さんも元気でしょう?」

 

刹那は突然燃え上がった横島に驚いてしまったらしい。慌てて立ち上がる刹那に、小竜姫が横島を指差して大丈夫だと伝えると、安心したのか崩れ落ちるように座る。慣れない人には衝撃的だったかと、小竜姫がタマモを注意するのを他人事のように眺める刹那であった。

 

 

 

 

 

「さて、脱線してしまいましたが修行について説明しますね。まず最初に質問です。刹那さんは“霊力”を知っていますか?」

 

「“霊力”……ですか? 一般人が霊視とか除霊とかをテレビでする時に言うインチキのことですか? ……あ、あの……それも気になるんですが……。よ、横島さんとタマモさんは何を……」

 

小竜姫と向かい合って説明を受けていた刹那であったが、視線はチラチラと横にそれている。その視線の先には横島とタマモがいるのだが……

 

「ああ、お仕置きだから気にしないで。ほら、横島早く」

 

「早くってなぁ……。初めてやるから文句言うなよ?」

 

「分かってるって」

 

 

 

「タマモさんが……狐になってるんですけど。しかも、横島さんの膝の上で」

 

刹那の言うようにタマモは子狐の姿で横島の膝に乗っており、横島の手によるブラッシングの最中であった。刹那には妖狐であると明かしたからこその行動であるが、尻尾の数は一本である。流石に九尾であることまでは明かさないようである。

 

「ええ。タマモちゃんの毛を整えるというお仕置きですから……羨ましい」

 

「え?」

 

「さ、説明の続きです。“霊力”についてですが……実在しています。私たちは“霊能力者”なのです。先程見ましたよね? タマモちゃんが使った“狐火”を」

 

刹那が思い浮かべたのは、横島の前に出現したオレンジ色の炎。刹那の知る陰陽術と違い、御札を使わず言霊のみで発動した炎。感じた力も、それなりに力を込めた御札を使った場合と変わらなかった。それは刹那の常識ではありえないことであった。だからこそ、呆然としたし、慌てたのだ。

 

「あれが“霊力”……?」

 

「ええ。妖狐の技を“霊力”で行ったのです。妖魔が扱う場合、妖力と置き換えますが本質は変わりません。“霊力”で出来ることは、“狐火”のような術や肉体の強化と多岐に渡りますが、人によって向き不向きがあります。これは“気”や“魔法”でも同じ筈ですよね?」

 

「はい……私もそれほど詳しい分けではありませんが、同門の中でも“気”で強化するより放出する方が得意という方もいましたし」

 

「さて。あとは何を説明すれば……?ああ、刹那さんも疑問があったら言ってください。私たちは霊力について基礎知識がある方に教えたことはありますが、何も知らない方に教えるのは初めてなんで」

 

「そうですね……。まず、“気”や“魔力”と違い、世に知られていないのは何故ですか?」

 

「“霊力”は他の二つに比べると目覚めにくいんです。……大半の霊能力者は、先天的素質に恵まれた者が、幼少から訓練することで“霊力”に目覚めます。これは他の二つの力でもあることだと思いますが、その素質が問題になります。“気”や“魔法”は鍛錬次第で誰でも使えるそうですね?」

 

「ええ、そう聞いています。素質の有無は、より大きな力が扱えるかどうかであって力自体は誰もが使えると」

 

「ですが、“霊力”を力として扱うには、最低でも一般人の約五倍の“霊力”が必要なんです。それ以下の場合、第六感が優れているとか、占いがよくあたるとか……その程度なんです。つまり、誰もが行使出来るというわけではないんです」

 

「なるほど……それで。でも、それだと私にはその資質があるってこと……ですか?」

 

「あるわ。間違いなく、ね」

 

小竜姫の言葉に納得を示した刹那は、当然の疑問を小竜姫にぶつける。その刹那の疑問に答えたのは、何処か満足気なタマモの声。ブラッシングは終えた今も子狐の姿のままであり、膝から横島の頭上に移動している。尻尾が揺れているところを見るに非常に満足したようである。

 

「妖狐の私が言うんだから、信じなさい。それで、何処まで話したの?」

 

「それが、修行に関しては全く。まずは”霊力”について知ってもらわないと」

 

「まぁ、そうよね……。簡単に言うと、“霊力”は“魂”の力。だから、生まれに大きく左右されるし、鍛錬で身につけるには向いていないわ。……まぁ、後天的に“霊力”に目覚めることがないわけではないけどね。それで、刹那の“霊力”が大きいから、私たちとの修行で目覚めさせようってわけ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。こっちに来てから出会った人たちの中でも大きい方ね。それで、刹那が“霊力”を覚えるメリットなんだけど……横島?」

 

「ん? 何だ? オレに難しいことを説明させても無駄だぞ?」

 

自分には関係ないいとばかりにお茶を飲んでいた横島だったが、タマモに話をふられ会話に加わる。

 

「説明じゃないわ。サイキックソーサーを見せて欲しいのよ。さっき、”狐火”は見せたからね。収束系の技も見せたいのよ」

 

「アレは見せたって言うのか?……まぁ、いいけどさ」

 

そう言うと、右手を掌を上に向けて前に出す横島。次の瞬間、横島の掌から五センチ程上の位置に緑色に輝く六角形の盾が出現する。

 

「ありがと(相変わらず何の予備動作もなく出すわね……)。さて、これが横島の霊能の一つ、“サイキックソーサー”よ。私の“狐火”と違って単純に“霊力”を固めた技なんだけど……どうしたの?」

 

「い、いえ(そんな……予備動作がなさすぎる!!)」

 

「そう? それで、これを見せた理由なんだけど……これ、“霊力”の扱いを覚えれば誰にでも出来る技なのよね(横島並の強度になるかは別だけどね)。ま、こういうことも出来るようになるって一例ね。そして、ここからが本当のメリットの話。まず、“霊力”に目覚めることで、勘がよくなるわ。所謂、霊感ね。次に、“気”だけを使っている時より、技の威力が向上するわ。あと、肉体強化の効率も違う。“気”の二倍……とまではいかないけど、それに近いんじゃないかしら?」

 

「そ、そんなに違うのですか?」

 

「そうですね……。感覚的なものなので、正確なところは分かりません。ただ、間違いなく今より強くなれます。ただ、他の鍛錬時間は減らしてもらいますが」

 

「何故ですか! 私は早く強くならないと…「まぁまぁ刹那ちゃん、落ち着ついて」…ですがっ! 「オレたちを信じて」…はい」

 

小竜姫の言葉に噛み付く刹那を横島がなだめる。何とか刹那が落ち着いたのを確認した小竜姫は、続きを告げる。

 

「“霊力”は先程も言いましたが魂の力です。その修行では、心身に大きな負担がかかります。修行以外での鍛錬は逆効果になりますし、危険ですから。勿論、刹那さんの流派の修行は続けてもらいます。ただ、それも刀子さんと相談してからになりますが」

 

「そ、その……素振りとか筋トレもダメなのでしょうか?」

 

「そうですね……。負担にならない程度なら構いませんが、しばらくは控えてください、ああ、こちらにはタマモちゃんがいますから隠れて鍛錬してもわかりますからね?」

 

「妖狐の超感覚を甘く見たらダメよ。疲労の度合いなんて、匂いを嗅げば一発で分かるから」

 

「美少女が美少女の匂いを嗅ぐって、何かアレな感じだな。ゆ…「それ以上言ったら噛みつくわよ」…はい」

 

「まったく、この男は……。あ、そうだ」

 

横島を脅しつけたタマモは、横島の頭から飛び降りてテーブルに着地すると、刹那の肩へ駆け上がる。突然のことに緊張する刹那の耳元で、タマモは横島に聞こえないように呟く。

 

「“霊力”に目覚めると、スタイルがよくなるわよ」

 

「ふぇ!?」

 

「まぁ、ある程度だけどね。“霊力”は魂の力。“霊力”に目覚めるってことは、魂の影響を今まで以上に受けやすくなるってこと。当然、肉体にも魂は影響するわ。男ならより力強く、女ならよりしなやかに女性らしく……って具合にね。分かる? 女性らしい肉体……つまり、スタイルがよくなるってことよ」

 

「それに、力自体も向上しますので、筋力向上に時間を費やす必要もありません。筋トレなどしなくとも、鍛錬だけで十分効果があります。成長期に筋肉をつけ過ぎると、成長の妨げになりますからね。それが解消されるのですから、必然的に今後の肉体的成長が望めます。その上、タマモちゃんが言ったように、魂の影響で女性らしく成長するので……あとは分かりますね?」

 

いつの間にか刹那の真横に移動していた小竜姫が、タマモとは反対側の耳元で囁く。その囁きに刹那は思うところがあったのか、考え込む。

 

(ウチの成長が遅いんは鍛錬のやりすぎのせいやったんか……。龍宮はあまり筋肉をつけんかったから、あんなにデカく……。ウチも龍宮みたいな体に……)

 

刹那も少女。同室の少女との差には色々考えることがあったようである。しかし、小竜姫とタマモが刹那に告げたことは嘘ではないが、確実にスタイルがよくなるということではない。あくまでも可能性の話なのであるが……。希望に顔を輝かせている刹那に、水を差すようなことは言うまいと目で会話をするタマモと小竜姫であった。

刹那のスタイルが今後どう変化するのか。それは、例え最高指導者でも予測できないだろう。

 

 

 

 

 

霊力についてある程度の話を終えた一同は、修行については修行場が完成してから説明することにして、談笑していた。

 

「そういえば、刹那はあの吸血鬼のこと何か知ってる?」

 

そんな中、タマモが刹那にエヴァンジェリンについて尋ねる。因みにタマモは人間の姿に戻っており、今はお茶請けの羊羹を摘んでいる。

 

「吸血鬼……ああ、エヴァンジェリンさんのことですか? 詳しくは聞いてませんが、今は封印状態で魔力を失っていますが、封印前は最強クラスの魔法使いだそうです。封印状態でも、そこらの魔法使いでは太刀打ち出来ないとか。あ、あと刀子さんが言うには、高畑先生にも訓練をつけたことがあるそうで、その時は魔法を使っていたそうです。他には……あ、プライドが高いから無闇に挑発しないようにと。私程度ではどうあがいても勝てないからと」

 

「ふ~ん。……ちょっと、マズったかしら。視線を感じなくなったから、ビビったのかと思ってたけど……仕掛けてくるかな?」

 

「味方なんですから、いきなり仕掛けてくることはないと思いますよ? ただ、訓練とか、実力を図るという名目で全力戦闘を仕掛けて来る可能性は否定出来ませんが。それに、最強クラスの魔法使いなら従者もいるでしょうし」

 

「そうよねー。プライドが高くて実力もあるヤツは、舞台を整えて徹底的に実力の差を分からせてやるって考えるのが普通だし。魔法使いと従者はセットって話だから、普通に従者も連れてくるでしょうね」

 

「……お前、何やったんだ?」

 

タマモと小竜姫の会話に疑問の声をあげる横島。

 

「ちょっとお子様吸血鬼に喧嘩を売っちゃった」

 

「何やっとんだ、お前は……。ま、吸血鬼相手ならにんにくパウダーで楽勝だろ」

 

「イラって来てついやっちゃったのよ。にんにくパウダーって、よくピートにやってたヤツね。でも、にんにくの匂いってキツいのよね」

 

「まぁ、お前は鼻がいいからな……。あ、お茶なくなったな……。刹那ちゃん急須とって」

 

「あ、あの、どうぞ」

 

刹那は横島に震える手で急須を渡す。その間に、タマモは携帯を手に取って席を立つ。どうやら、電話がかかってきたようである。それを見送りながら小竜姫は、困り顔で話をつづける。

 

「しかし、困りましたね。にんにくを使えば確かに簡単ですが、武人としてそのような手を認める訳には……」

 

「そ、そうですよね。正々堂々、勝負をしないと……って、エヴァンジェリンさんに喧嘩を売ったんですか!!」

 

「おお、ノリツッコミ」

 

「横島さんは黙ってください!! いいですか? エヴァンジェリンさんは吸血鬼の真祖。しかも、太陽を克服した上に、魔力を封印した状態でも相手を圧倒できる武の持ち主と言う話なんですよ!! それを……。ああ、今からでも遅くありません。謝罪して……」

 

実は先程から、話を理解するのを拒んでいた刹那であったが、タマモたちの事の重大性を理解していないとしか思えないやりとりの数々を聞くうちに我慢の限界が来たらしい。

 

そこへ電話を終えたタマモが戻ってくる。

 

「あ、タマモさん! 今からでも遅くはありません、エヴァンジェリンさんに謝罪して……」

 

「あー、手遅れみたいよ? お子様吸血鬼が訓練を申し込んできたって、学園長が」

 

「そ、そんな……」

 

自分のことのように沈み込む刹那。余程、エヴァンジェリンとは敵対するなと教えられていたようだ。

 

「大丈夫だって。訓練なんだし、刹那に被害はないから」

 

「訓練ということは、やはり身の程を教えてやるってことでしょうか? それとも衆目の前で痛めつけるのが目的? 何かルールなどは?」

 

「あー、何でもアリらしいわ。実戦形式での訓練で、私と竜姫を相手に。此処に刹那も居るって言ったら、刹那も来いって」

 

「わ、私もですか!?」

 

「そ。ま、訓練は私と竜姫だけらしいから。それで、見物人兼いざという時の制止役に学園長がやるって。時間は明日の放課後で、学園長室に集合だってさ」

 

「おー、大変だなぁ。にんにくパウダー買っとくか?」

 

気楽な顔で告げる横島。自分が参加しないことと、訓練であることに加え、今まで会った吸血鬼の真祖がアレなこともあり全く心配していない。どうやら、刹那の言った“最強クラスの魔法使い”という部分は忘れているようである。

 

「あと、横島も来るようにって。従者候補の訓練だから気になるだろうって」

 

「オレも戦うんか?」

 

「それも言われたけど、断っといたわ。アンタはサポート型だからって言ってね。アンタが戦ったら本当ににんにく使いそうだし、それは流石にね」

 

「アホか。勝つ為に相手の弱点を突く。これの何処が悪い」

 

「悪くないわよ。匂いがキツいから私が嫌なの。それに竜姫の相手もして、にんにくも何て不死でもツラいわよ」

 

「あー、そうだな。竜姫の相手をするとか災難だよな。不死だからうっかり殺しちまった……何てことがないのが救いかな」

 

タマモと横島は、刹那を慰めている小竜姫を見ながら、エヴァンジェリンに同情する。竜神であり武神でもある小竜姫が相手というだけでも同情に値する。その上、最近の彼女は体を動かす機会がないことを不満に思っていたようだから、久々に体を動かすことが出来ることが嬉しくて、うっかり力の加減を見誤るかもしれない。

 

 

ここ最近の小竜姫を見ていると冷静沈着な人物と思われるかもしれないが、本来の彼女はどちらかと言えば、感情的な人物である。特に戦闘時はその傾向が顕著であり、相手の挑発に乗りやすい。

修行においても、楽しくなったりムキになった時に、思わず本気を出すなんてこともよくあることなのだ。

 

もし、エヴァンジェリンが小竜姫相手に遠慮するなとでも言えば、様子見などしないで、いきなり超加速を使うなんてこともありえる。

 

 

「フォローを考える必要があるかもしれんな」

 

「そうね。私も何か手を考えとくわ。……刹那! アンタそろそろ帰らないと門限でしょ。横島に近くまで送らせるわ」

 

その言葉にゆっくりと立ち上がる刹那。その顔は暗い。出来るだけ関わらないようにしようと決めていたエヴァンジェリンに、急遽関わることになったからだろうか。

 

「元気出せって。刹那ちゃんが喧嘩売った訳じゃないんだし、訓練だって見学だけみたいだしさ」

 

「そうですね……。これも見取り稽古と思って、見学させてもらうことにします」

 

「前向きでいいことだ。それじゃ、刹那ちゃんを送ってくるな」

 

「ええ。また明日ですね。修行については、明後日にでも刀子さんを交えて話しましょう」

「じゃ、明日学校で」

 

「あ、あの夕飯ご馳走様でした。刀子さんには明日伝えておきます」

 

「じゃ、行くか。場所を知らんから刹那ちゃんが案内してくれ」

 

「は、はい。こ、こちらです」

 

深々と一礼すると刹那は横島を見上げる。横島はその視線に気づくと、刹那を促し歩きだす。刹那は横島と二人きりで歩くという事に思い至った為か、急に緊張しだす。

 

そんな二人を見送ったタマモは、湯呑を片付けている小竜姫にある提案を行うのであった。

 

 

 

 

 

その頃、学園長室にはエヴァンジェリンと学園長の姿があった。二人は囲碁をしながら、会話をしているようである。

 

「しかし、お主が急に此処に来た時は何事かと思ったぞ」

 

「私が事前に連絡したことがあったか?」

 

「まぁ、そうなんじゃが……。しかし、部屋に入るなり、あの二人の実力を私自ら試してやると言って来たのには驚いたぞ。しかも、すぐ電話をかけろと言うし」

 

「妙神竜姫と葛葉タマモは、私のことを知らんようだからな。今後、舐めた態度を取れないように、ちょっと驚かすだけだ。なに、心配するな。やり過ぎはせん。それにお前の同席も認めただろうが」

 

「……まぁ、儂もあの二人の実力には興味があるしのぉ。しかし、二人同時に相手するのかの?」

 

「茶々丸のテストも兼ねているからな。二対二ならフェアだろう?」

 

「よく言うわい」

 

「くくくっ……。これで舞台は整った。茶々丸との連携も上手くいってるし、別荘なら私も全力を出せる。葛葉タマモめ! 二度とお嬢ちゃんなどと舐めた口を聞けないようにしてやる!!」

 

大声で宣言するエヴァンジェリンに、学園長は冷や汗を流すのであった。

 

「ああ、儂早まったかも……」

 

 

 

 

 

 




挿絵機能が実装されたようですね。私は絵が描けないので、利用することはなさそうです。

刹那に強化+αフラグ。タマモと小竜姫の??フラグも。
タマモたちとエヴァの激突は次回の予定です。まともな勝負になるかは疑問ですが。

小竜姫が料理上手。霊力あれこれ。刀子が刹那にエヴァについて語っている。
これらは拙作内設定です。

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