道化と往く珍道中   作:雪夏

33 / 59
身体測定の最中も感じる視線。一体、何が目的なのだろうか。

一言: ちょいだししていたあの人が遂に……。


その3  竜姫とタマモと少女たち 後編

 

 

 

 

同時に大声をあげた裕奈とあやか。大半の生徒は悲鳴を上げ、項垂れたあやかに注目していた。しかし、アキラに口を抑えられている裕奈の言葉を聞いた者もいた。その人物は、目を輝かせ裕奈たちへ近づくのであった。

 

 

 

 

 

「裕奈落ち着いた?」

 

裕奈の口から手をどけながら尋ねるアキラ。

 

「まぁね。それで! 竜姫さんさっきのは……「裕奈!声が大きい!」……もう、アキラも大きいじゃんか」

 

「だ、だって……。大きな声で男の人と同居なんて……。竜姫さんが困るよ」

 

アキラの言葉にもっともだと納得したのか、頭を縦に振る裕奈。そんな二人に小竜姫が話しかける。

 

「別に無理してまで隠すことではないので……。私とタマモちゃんが寮にいないのはいずれわかるでしょうし」

 

「そうねぇ。木乃香たちも知ってるけど、別に口止めなんてしてないし」

 

 

「そうなの?」

 

「そうよ。ま、あんまり騒がれても鬱陶しいから、積極的に言うつもりはないけど」

 

「で、アンタら男と同居って本当なの?」

 

「そうよ。横島と竜姫と私の三人で住んでるわ……ところで、朝倉だっけ? アンタなんで隠れてんの?」

 

タマモが後ろを振り向きながら言うと、名を呼ばれた少女――朝倉和美がタマモたちの背後にある机の影からその身を現す。小竜姫は相変わらず微笑んでいるが、裕奈とアキラの二人は展開についていけてないのか疑問を顔に浮かべている。

 

「あちゃー、バレてた?」

 

「私から隠れようなんて……そうね、百万年早いわ」

 

「そりゃ、手厳しい。で、何で葛葉と妙神はその男と同居してんのさ? 全寮制でしょ女子中等部(ここ)

 

「それは…「タマモちゃん、待って!」…何で?」

 

理由を語ろうとしたタマモをアキラが止める。その顔は真剣であった。裕奈は止めた理由が分かっているのか、うんうんと頷いている。

 

「タマモちゃんと竜姫さんって外部組だったよね? 麻帆良には、“報道部発世界行き”って言葉があるの」

 

「何それ?」

 

「簡単に言うと、報道部が知った情報は世界中に拡がるってことかな。そういう言葉ができるくらい、報道部は色んな情報を麻帆良中に配信してるんだ。そして、影響力も大きい」

 

「ああ、それで。確か朝倉さんは報道部に入るつもりだと自己紹介で……」

 

小竜姫が和美の自己紹介の言葉を思い出し、納得する。目の前の少女は確かに報道部に入ると言っていた。大スクープがあったら教えてとも。

 

「そういうこと。報道部相手にネタになりそうな発言は控えるのが、麻帆良では基本なんだよ。騒がれたくなければ尚更」

 

「大丈夫だって。不正とかじゃない限り、本人の許可がないと報道できないし。大体、私が目指してるのは正義の記者。人に迷惑をかける報道は私のポリシーに反する」

 

「そうなの?フラレたのを報道されたとか、勝手に写真をネットに掲載されたとかって話も聞くけど」

 

「それは報道部じゃないって。個人でサイトもってる奴か、ゴシップ系を扱ってる同好会のヤツら。アイツらみたいなのがいるから、報道部も誤解されてんだ」

 

「へぇ~。知らなかった」

 

「実は、この前見学に行った時に先輩が言ってたんだけどね。で、安心してくれたかな?」

 

最期はタマモと小竜姫に向けて言う和美。それにタマモが疑問を告げる。

 

「まぁ、わかったわ。それで、何でさっき隠れてたの?」

 

「いや~、スクープの匂いがしたから、つい。初等部の頃からネタを探してたら、自然とそういうのが上達しちゃって。今は半分くらいネタを集めるのが趣味みたいになっちゃってるし。あ、安心して! さっき集めた情報を誰かに教えたり、勝手に記事にしたりはしないから」

 

「まぁ、信じてあげるわ。それに別に聞かれて困る話じゃないし」

 

「サンキュー! で、さっきの続きだけどさ……」

 

何処からか取り出したメモ帳を片手に、目を輝かせながらタマモに質問していく和美。一度はタマモの発言を遮ったアキラと裕奈であったが、やはり興味はあったのか一緒になって質問している。

 

小竜姫は説明をタマモに任せると、今も感じている視線について考える。

 

(エヴァンジェリンさんでしたか……。学園長や刹那さんから聞いた話だと関係者ということでしたが。それに警備も担当しているらしいですし……実力を図っているのでしょうか? タマモちゃんの超感覚で吸血鬼と分かりましたが……。彼女は霊力も魔力も気もほぼゼロ……)

 

視線の主の姿を思い浮かべる小竜姫。長い金髪に碧い瞳。小さな体躯と非常に可愛らしい姿の少女。強さに容姿が関係しないことはよく分かっているが、それでもこんな少女がと思わずにいられない容姿である。

 

(タマモちゃんの超感覚を誤魔化せる隠蔽術があるのなら、吸血鬼だというのも誤魔化せる筈ですし……。何かしらの制限がかけられているのでしょうか? 学園長も流石に吸血鬼を野放しには出来なかったということですかね? それとも、吸血鬼の力を抑えることで日中の行動を可能にしたのでしょうか……?)

 

小竜姫が思い浮かべたのは、元の世界の知合いであるピートであった。彼は人間と吸血鬼のハーフであった為、吸血鬼としての能力は真祖のそれに比べると弱い。その代わり、吸血鬼として受ける数々の制限も緩和されている。

 

ハーフではないエヴァンジェリンは自身の吸血鬼の力を抑え、魔力などの力を減少させる代わりに、日光や流水といった制限を緩和しているのではないかと小竜姫は考えたようである。

 

(もし、そうだとすると……。昼間はほぼ人間と変わらないということに……。ああ、だから観察はしても接触はしないんですね。万が一敵対してしまったら、昼間は不利ですからね……)

 

疑問が解けたからか、何処か清々した表情となる小竜姫。そのまま彼女は、タマモと少女たちの話に加わるのであった。

 

 

 

――この小竜姫の推測は実のところ間違いである。

 

そもそもエヴァンジェリンは、力を制限せずとも日中の行動は可能である。何故なら、彼女は日光を克服した吸血鬼――ハイ・デイライトウォーカーであり、魔力が感知できないのは学園に貼られた結界によって抑えられているだけだからである。

 

また、学園結界によって魔力の大部分を封じられているせいで、魔法はおろか吸血鬼の能力さえまともに使用はできないことは事実であるが、彼女には永き戦いの中で身に付け、研鑽してきた体術と無数の戦闘経験がある。不利な状況であろうが、そこから撤退するだけの力を持っているのである。その上、一般人が多くいるクラス内では魔法や気は使用できない為、エヴァンジェリンが接触するのに慎重になる理由はないのである。

 

では、エヴァンジェリンがタマモと小竜姫に接触せず、露骨な観察を行っているのは何故か?

 

簡単である。暇つぶしに見ているのだ。露骨に観察しているのも、反応を見る以外の理由はない。

 

あの人気づくかなぁ? どうするのかなぁ? こっち来るかなぁ?(可愛らしく翻訳しております)

 

こんな子供じみた発想のもと、観察しているのである。

 

そして、何の反応もなければ、次の観察対象(刹那)に視線を移すつもりでいたのだ。

 

 

 

 

だが、彼女は次の観察に入ることはなかった。何故なら……

 

 

アキラたちと話していたタマモが、自然な動作で一瞬、エヴァンジェリンの方を向き、唇の動きだけで伝えたのだ。

 

 

「あんまりジロジロ見てると……燃やすわよ? 吸血鬼のお嬢ちゃん?」

 

 

……と。その行動は、エヴァンジェリンと小竜姫以外には見つからなかった。タマモとエヴァンジェリンの視線があったのは、ほんの一瞬の出来事であったし、タマモは小竜姫の肩ごしにそれを行ったのだから当然である。

 

 

 

 

その視線と言葉を受けたエヴァンジェリンは、数秒固まっていたがすぐに口元に笑みを浮かべた。

 

(くくくっ……。面白い、面白いぞ“葛葉タマモ“。私の視線に気づき、尚且つ挑発までしてくるとは……。魔法世界出身のくせに、この私を……『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』と恐れられた私を、最強の魔法使いたる私を挑発してくるとは……。決めたぞ、ヤツを私の別荘に招待してやろう!! そして、誰を挑発したかその身に思い知らせてやる!!ついでだ……妙神竜姫も可愛がってやろう。くくくっ、恨むなら私を挑発した小娘を恨むのだな……)

 

「マスター、嬉しそうですね?」

 

「ふふ、そう見えるか? まぁ、いい暇つぶし相手を見つけたってところだ。それに、お前の能力を確かめるのにも、丁度いい機会だ。帰ったら連携訓練をするぞ? アレを用意しておけ」

 

「了解しました、マスター。……ところで、アレとは何でしょうか?」

 

「む?……そういえば、教えていなかったな。帰ったら教えてやる」

 

そこまで言うと、エヴァンジェリンは自分の従者であり、クラスメイトである絡繰茶々丸から、小竜姫にお小言を言われているタマモに視線を向ける。タマモは、小言を受けながらも楽しそうに、まるで先程の言葉が嘘であったかのようにクラスメイトと会話していた。

 

 

 

「さぁ、準備が整うまでの間の僅かな平和を満喫するがいい。……私と茶々丸が思い上がっている小娘に……現実を見せてやろう。何、殺しはしないさ……絶対的な力の差を、絶望をプレゼントしてやる……。ふふっ……やはり光の中は……私には無理そうだよ」

 

 

 

エヴァンジェリンが寂寥感と共に紡いだ言葉は、主の姿を見つめる彼女以外の誰に聞かれることもなく霧散する。

 

吸血鬼とガイノイド。人ならざる彼女たちは静かに、その物語を紡いでいく。

 

 

――福音を告げる物語は静かに、確かに紡がれ始めた

 

 




小竜姫は疑問に答えを出し落ち着きましたが、タマモは我慢の限界に来ていました。
エヴァから絡んでもよかったのですが、タマモから喧嘩を吹っかける形に。
タマモは気も強いですし、こういうのもいいかなぁと。同じ人外ですから挑発と受け取ったという事で。
エヴァも本能的にタマモたちが人外と悟っているので、余計にイラついています。

エヴァが戦闘準備を始めましたが、すぐに戦闘にはなりませんでした。茶々丸が起動して日が浅いので、訓練や能力の確認を終えた後に招待となるでしょう。

そういえば、エヴァは何故、結界内では牙もなくなるのでしょうか?牙というヴァンパイアの特徴まで失っているという事は、魔力だけに聞く結界ではないのでしょうか?牙に有効なら不老や不死にも効果があるのでしょうか?

”報道部発世界行き”という言葉。報道部の他に似たような同好会がある。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。また、活動報告もたまに更新しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。