道化と往く珍道中   作:雪夏

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街をめぐり宣伝していく横島は、辿り着いた世界樹に誓う。自分らしく生きていくことを

一言: どんどんキャラ出してくよー。きっと。


4時間目:誰が為の福音
その1  竜姫とタマモと少女たち 前編


 

 

 

 

便利屋「よこっち」の本格開業となるこの日。便利屋「よこっち」と書かれた看板を立て掛けながら横島が、登校前のタマモと小竜姫に話かけていた。

 

「これでよしっ……と。これで本格的に開業や。ま、最初は依頼なんてないやろがな。二人も今日から授業が始まるんやろ?」

 

「ええ。今日は確か、英語らしいです。担任の授業をするそうです」

 

「なんでも、初日の授業は半分交流みたいなものらしいわ。ま、何とかなるでしょ」

 

「学生は大変だぞ~。授業に宿題、テスト。成績が悪かったら補習ってのもあるしな」

 

「妖狐舐めないでよね。人間の学問なんて簡単よ」

 

勝ち誇るように言うタマモに、横島は疑惑の視線を向ける。その視線に気づいたタマモが何か言う前に横島が告げる。

 

「お前の言う人間の学問ってのはいつの時代だよ……。英語や理科のない時代だろうに。小竜……竜姫は大丈夫そうですか?」

 

名を言い直す横島に、苦笑しながら小竜姫は答える。

 

「まだ名前に慣れませんか? いざとなればアダ名と誤魔化せますが、早く慣れてくださいね? それに、敬語も要りません(ええ、より親密になる為にも敬語は……)」

 

「いやー、そう簡単には。ま、気をつけるよ」

 

「気をつけてくださいね? 普段からそう接していれば、すぐ慣れる筈です。それで、授業のことでしたっけ? 多分、大丈夫だと思いますよ? タマモちゃんは妖狐ですし、教える為の教師です。英語は全く知りませんが、分かりやすく教えてくれる筈です」

 

「いや、教師にもあたり外れが……。ま、いいか。じゃ、学校を楽しんでこい」

 

「はい!」「うん!」

 

横島に見送られて二人は学校へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

早い時間に出た為か、特に混雑に巻き込まれることなく教室へと辿り着いた二人。教室内には既に数人の生徒がおり、それぞれ会話をしたりしている。

 

「う~ん、木乃香たちはまだ見たいね。それに、ほとんどいないわ」

 

「そうですね。まだ時間が早いのでしょうか?」

 

二人が席に向かいながら時間を確認すると、時計の針は8:00。朝のHRが始まるのが8:30なので早いと言えば早い時間である。時計を見ては考え込む二人に近づく一つの影。

 

「お二人ともどうかされましたか?」

 

「へ?」

 

「時計を見て考え込まれていましたが……? その時計の時間は正確ですわよ?」

 

「そういう訳ではないんですよ。雪広さん」

 

二人に近づき話しかけて来たのは、雪広あやか。先日の委員決めで学級委員長になった少女である。二人が悩んでいるのを見て、近寄ってきたのであろう。

 

「そうそう。ただちょっと来るの早かったかなぁーって」

 

「ああ、そう言えばお二人は外部からでしたわね。麻帆良では大体の生徒が始業開始時間の10~20分前に登校が集中しますの」

 

「10~20分前? どうしてよ?」

 

「単純に電車の時間ですわ。各学校の始業開始時間に間に合うように駅に着く電車は決まってますわ。それに乗った場合、大体その時間帯に学校に着くんです」

 

「へ~。私たちもその時間帯にしようかしら」

 

「あまりオススメはしませんわ。麻帆良は生徒数が多いですから。凄く混雑しますわよ? 今の時間帯が丁度少ない時間帯ですわ。これより早いと職員の方や朝練の方たちの混雑に巻き込まれますし」

 

あやかの言葉に混雑に巻き込まれた自分を想像する二人。人ごみに好き好んで巻き込まれたくはない、と登校時間は今日と同じにすることを決めたのであった。

 

「教えてくださってありがとうございます、雪広さん」

 

「ありがとう」

 

「いえいえ、これくらい何てことありませんわ。それより、お二人共私のことはあやかと呼び捨てに。クラスメイトなのですから」

 

「じゃ、私もタマモでいいわ。よろしく、あやか」

 

「私は竜姫と。よろしくお願いしますね? あやかさん」

 

「よろしくお願いしますわ。タマモさん、竜姫さん。何かありましたら、委員長である私に相談してくださいな。それでは」

 

そう言うとあやかは、遠巻きにこちらを見ていた二人の元へ向かう。タマモと竜姫も自分の席へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

あやかの言う通り、始業の10分前から次第に教室に人が増えてきた。しかし、一向に木乃香たちは教室に現れない。遅刻かとタマモと小竜姫が話していると、教室に滑り込むかのように流れ込む複数の人影が。その影は荒い息を吐きながら、各自席へと向かう。そのうち、タマモは自分の前の席に座った影――木乃香に話しかける。

 

「大丈夫?」

 

「あ~、タマちゃん? 平気、平気。思ったよりしんどかっただけや。明日からはエア・トレック履こう……」

 

「寝坊でもしたの?」

 

「あー、明日菜がな。中々起きんかったんよ」

 

「だから、ゴメンってば。私もまさか起きれないとは思わなかったのよ」

 

「夜ふかしでもしたの? 明日菜」

 

タマモの疑問に、切らした息を整え答える明日菜。走ってきたせいか、ツインテールにした髪が乱れている。

 

「違うのよ。ちょっと訳あって、早朝のバイトを始めてね。一度帰って寝なおしたら、ね」

 

「起きれなかった……と」

 

「そういう事。走ればギリギリって電車にどうにか乗れたのが幸運だったわ。あ~、明日からは目覚まし増やそうかしら」

 

「どうやろな~。慣れるしかないんやない?」

 

木乃香の言葉に突っ伏す明日菜。そんなやり取りを横目に竜姫は後ろの席に座った夕映に話しかけていた。

 

「夕映さんとのどかさんはどうして? お二人なら余裕を持って登校しそうですが?」

 

「実は寝坊したです。私とのどか、それにそこで机に伏せているハルナが同室なのですが……」

 

竜姫の言葉に、ハルナに一度視線を向ける夕映。竜姫が夕映の視線を追うと、机に伏せた少女の姿が。確か、漫画研究会に入りたいと言っていたなと竜姫が思い出していると、夕映が続きを話しだす。

 

「それで、昨日のことです。部屋に帰った私とのどかをハルナが捕まえて、原稿を手伝わせたのです。最初は良かったんです。でも、次第にハルナのテンションが吹っ切れてしまい……」

 

夕映の脳裏には、原稿を奇声をあげながら書き進めるハルナの姿が。想像しただけで疲れるその光景に、夕映はため息を吐くと遠くを見ながら続きを話し出す。

 

「ええ。深夜まで手伝わされてしまいました。まぁ、深夜と言っても二時まではいってなかったと思います。ただ、慣れない作業とハルナのテンションに疲れていたのか、ぐっすりと眠ってしまいましてね。私とのどかが起きた時は、もうギリギリでした。その後、中々起きないハルナを叩き起こして……。間に合ったのが奇跡でした……」

 

「そ、そうですか……(原稿って何でしょうか?)」

 

小竜姫が遠い目をする夕映に、原稿とは何かを尋ねようとした時、HR開始のチャイムがなり同時に高畑が教室へと入って来た為、結局尋ねることは出来なかった。

 

 

 

 

 

HRはすぐに終わり、次の身体測定の時間となる。当然、高畑は退出しており、教室内には生徒たちと、測定を担当する刀子が残されていた。

 

「はいはい、あまり騒がないの。身体測定の流れを教えるからよく聞きなさい。まず教室で体重と身長、座高の測定。これは私と保健委員がやるから。終わったらクラス単位で移動して、順番に講堂でスリーサイズ、視聴覚室で視力と聴力の測定。そのあと、保健室で内科検診。全部終わったら、教室で講義。分かった?」

 

刀子の言葉に明るく返す面々。刀子は本当に分かっているのだろうかと、疑問に思いながらも続ける。

 

「移動の際は委員長の指示に従って行動すること。いいわね? じゃ、機材を運ぶから保健委員は手伝ってくれる? それ以外は、騒がずに待つこと。じゃ、行きましょうか」

 

退出する刀子の後を慌てて追いかける保健委員の少女。二人の足音が遠ざかると、一気に教室内は騒々しくなる。

 

聞こえてくるのは、体重がピンチやらウエストがなどの言葉。幼くとも女性という事である。

 

そんな中、タマモと小竜姫は自分に向けられる複数の視線に気づいていた。何処か期待するような視線は、先日の自己紹介で竜姫の剣術という言葉に反応した二人であろう。

 

そして、もう一つ。値踏みをするかのような、こちらを観察する視線。わざと気づかせるかのような、露骨なソレ。

 

 

 

 

その視線の主は、西洋人形の様なその容貌に不釣り合いな笑みを浮かべ、静かに二人を見続けるのであった。

 

 




身体測定の内容は飛ばすかもしれません。というかほぼ飛ばします。入れても会話を少々? 中一時の彼女たちのスタイルが想像しにくいので。

始業開始時間。登校集中時間帯。夕映、のどか、ハルナが同室。教室外での身体測定について。木乃香がエア・トレックを履いている。
これらは拙作内設定です。

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