一言: 今日実家から帰ってくる予定。
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タマモと竜姫の一日
――08:00 「よこっち」3F:個人部屋
「う~ん。ん? ……やーらけー」
差し込む朝日が眩しかったのか、スズメの鳴き声が煩わしかったのかベッドの中で寝返りをうつ人影。人影――横島は、寝返りをうった先で、手から伝わる柔らかい感触を堪能する。
「やーらけー。それに、いい……匂いも……?」
伝わる感触と香る匂いに疑問を持つ横島。この部屋に移り住んでからは、布団ではなくベッドを利用しているが、このような心地よい感触には心あたりがない。非常に心地よい感触ではあるが、その正体を確かめなくてはと横島は眼をゆっくりと開く。
最初に見えたのは、視界一杯に広がる金色。聞こえてきたのは静かな寝息。右手に感じるのは、
「ハハハ……まさか。一人で寝てたし、アイツは自分の部屋にいる筈……。大体、ワイはロリやない……」
「……ちょっとイタイわ。もっと優しくしなさい」
「す、すまん。……こうか?」
横島の隣、右手が触れている物体からあがる声。うまく頭が働いていない横島は、その声に従い、無意識に強く動かし続けていた手を、一度中断し今度は力の加減に気を配りながら優しく動かし始める。
「ん。いい感じ……」
「そ、そうか? ……って、ちゃうわ!! なんでここにおるんや!! タマモ!!」
慌てて手をどけながら叫ぶ横島。怒鳴られたタマモは、横島の声がうるさかったのか耳を押さえながらゆっくりと体を起こす。
「なんで……って。覚えてないの?」
「な、なんや! 昨日何があったって言うんや! ワイは無実じゃ、ロリちゃうんや! 覚えてないことを残念に思ってなんかない!! 本当やぞ!?」
タマモの言葉にますます混乱する横島。そんな横島を眺めながらタマモは言葉を続ける。
「(反応は上々ね。これなら……)冗談よ。竜姫に言われて起こしに来たついでにからかってみただけ」
「本当やな? ワイはまだ何もしとらんのやな? 知らんうちに……とかないんやな? ロリじゃないんやな?」
「ええ、そうよ。大体、私の格好を見なさいよ」
そう言われてベッドから出たタマモの姿を確認する横島。ベッドで横になっていた為、多少の着衣の乱れはあるものの、昨日購入した服をしっかりと着用していた。その姿から、何もなかったと、自分はロリに手を出す男ではなかったと安心する横島であったが、それもタマモの言葉で崩れることとなる。
「ま、さっきまで私の胸を揉んでたから、完全に何もなかったとは言えないけど……。ガキには興味ないって言っておきながら……」
そう言いながら横島の“ある部分”に視線を向けるタマモ。その視線に気づいた横島は、慌てて“ソレ”をシーツで隠す。
「こ、これは違うんや! あ、朝……そう、朝やからや! 決して、感触がよかったとか、意外と大きかったとか、いい匂いがしたとかやないからな!?」
「はいはい。そういうことにしといてあげる。早く着替えて降りてきなさいよ?(うわ~、アレって平均より……)」
そう告げるとタマモは部屋から出ていく。よくタマモを観察していれば、顔に朱に薄っすらと染まっていたり、声が上ずっていたことも、退出する足取りが異様に早足だったことも分ったであろう。しかし、それを確認できる唯一の存在であった横島は、先のタマモの言葉と態度に頭を抱え苦悩している最中であった。
「わ、ワイってやつはロリコンやったんか? いや、違う! そ、そうだ! 小竜姫さま! 彼女に反応すればワイは
この後、食堂でご飯をよそっていた小竜姫に突撃し、撃墜された横島の顔は何処か満足気であったことを記しておく。
――12:15 「よこっち」2F:食堂
早めの昼食を終え、学園長室へ向かう横島を見送った二人は食堂で一息入れていた。二人ならんで緑茶を飲む姿は様になっており、とても中学生には見えない。まぁ、実年齢は中学生ではないので当然といえるかもしれない。
「しかし、横島さんにも困ったものですね。いきなり、ロリコンではない証明に~なんて意味不明なことを言いながら襲いかかるなんて。つい、いつもより強く肘を入れてしまいました……」
小竜姫の言葉に、一筋の汗を垂らすタマモ。自分が原因であるとは言いにくいし、小竜姫に抜け駆けを責められるのも避けたいタマモであった。
「ま、アイツが意味不明なのはいつものことじゃない? 気にするだけ無駄よ」
「まぁ、そうなんですけどね? ……そう言えば、朝横島さんを起こすのに随分時間が…「そ、そんなことないわよ? 決してアイツのベッドに潜り込んだとか」…タマモちゃん?」
誤魔化そうとして墓穴を掘るタマモ。焦ると余計なことを口走るのは、彼女たちの(書類上の)保護者に似たのであろうか。そんなタマモを見つめる小竜姫の眼は、決して笑ってなどいなかった。
その眼に気圧されたのか、今朝の出来事を洗いざらい吐くタマモ。話の途中、度々小竜姫から吹き荒れる
「全く……。いくら横島さんに対する意趣返しだからってやり過ぎです!! 聞いてますか? タマモちゃん! そんな羨ま……じゃなかった。ふしだらなことをするなんて。大体なんで急にそんなことを。子供に興味がないと言われたからにしては、やりかたが……。今までだって、そんな方法は……」
「今、羨ましいって……。いえ、何でもないわ。だから、その霊気を抑えて……」
「す、すみません。つい、感情的になってしまって……。横島さんのこととなるとどうも。以前はそうでもなかったのですが……」
タマモの言葉に霊圧を発する小竜姫。どうやら、横島のこととなると感情を抑えるのが難しいようである。感情的になるだけならば、恋する乙女ということで微笑ましいのであるが、小竜姫の場合、漏れ出る霊圧だけでも相当なものであり、その身で受けることになったタマモにとっては迷惑以外の何物でもない。
ただ、小竜姫も自覚はあるようだが、改善までは至っていないようである。そのような自分を恥じるように、その身を小さくする小竜姫に対し告げる言葉を持っていないタマモは一つ溜息をつくと、小竜姫の疑問に答えるのであった。
「ま、気をつけてくれればいいわ。それで、なんでこんなやり方をしたかってことね? 確かに今までの私ならこんなやり方はしなかったと思うわ。多分なんだけど……こっちに来てから妖狐の本能が強くなってきてるんだと思う」
「妖狐の本能が……ですか?」
「そ。竜姫なら知ってると思うけど、妖狐……というか妖怪は強いものに強く惹かれるわ。それは単純に力の強さだったり、妖力の強さだったり、他にも群れをまとめる高いカリスマ性だったり、権力だったりするわね。妖狐はその中でも、高い権力に強く惹かれる傾向にある。実際、私の前世は“時の権力者”に惹かれ、その庇護を求めてたわ。覚えてはいないけど、体を使ったこともあると思う」
「それが今回と何の関係が……?」
「つまり、私の本能も横島を求めているのよ。そして、てっとり早く横島を手に入れる為に、あの行動が一番だと判断したの……無意識にね。私としては、バカ犬やおキヌちゃん、美神のこともあるし、楽しかったから、今すぐ横島を手に入れようなんて思ってなかった筈なんだけどね」
そう言うと溜息を吐くタマモ。彼女としては、誰が横島を手に入れるかも含めて、あっちでの生活を楽しんでいたようである。だからこそ、一番有効そうな手段をあえて取らず、からかいの延長のようにアプローチし続けていたのだ。勿論、最終的には自分が横島を手に入れるということは疑っていないようであるが。
「そうなんですか……。しかし、なぜ急に妖狐の本能が強まったのでしょうか」
「多分、こっちに来てしまったから。この世界には守ってくれていた美神も美智恵もいない。でも、横島はいる。それにほら、この世界でも横島は強者でしょ? その上、私たちの為に横島なりに頑張ってくれた。そして、トドメが……頼りになる横島の姿を見たからよ。権力者と渡り合うっていうね。それで、無意識に感じたのでしょうね。こいつに守られたい。こいつの寵愛を受けたい……こいつの心を手に入れたいって」
淡々と語っていくタマモ。小竜姫もタマモの言葉に同意するところがあるのか、相槌を打っている。
「確かに、この状況なら妖狐としては、一刻もはやく
「ま、今度からはああいう手は使わないわ、多分。何だかんだいっても、今の姿でも十分横島の射程範囲内みたいだしね。焦る必要はないって分かったもの」
「そうですか……」
タマモの言葉になんと返せばいいのか分らない小竜姫。同じような手を使わないと断言しなかった以上、警戒を続けるべきか悩んでいるようである。そんな小竜姫の様子を見たタマモが言葉を続ける。
「それに、私はアイツを体を使って縛ろうだなんて思ってないわ。私はアイツの心が欲しいのよ。例え、他に何人の寵姫がいてもアイツの心の中に私がいれば、アイツの傍にいられればそれでいい。アイツが私を裏切らないのは分り切っているしね。それでも思うの。アイツが私一人に寵愛を授けてくれるなら……どれだけ幸せかって」
そう言って笑いかけるタマモに、小竜姫は自分がタマモを見誤っていたことに気付いた。妖狐の本能を知っていたからこそ、タマモは庇護を求めて横島の傍にいるだけだと心の何処かで彼女の想いを軽んじていた。
でも、違ったのだ。彼女は、庇護だけを求めているのではなかった。自分だけに愛情を注いでくれたらと彼女は言ったのだ。彼女は心から横島を求めていたのだ。――自分と同じように。
「……そうですか。私も、寵姫の一人でもいいんです。末席とは言え、竜神族の王族に私も名を連ねていますから、そのような形態があることも理解していますし」
小竜姫は決意する。タマモに宣戦布告をすることを。
「それでも、私はあの人の愛情を独り占めしたい。例えそれが、どれほど困難であろうと。きっと、それは心地よい筈だから。だから……」
タマモも小竜姫に宣戦布告をする。
「ええ。競争ね。どちらが先に横島の心を手に入れるか。アイツが私たちの内どちらか片方を選ぶかもは分らない。他の誰かかもしれない。それでも、私はアイツの心を手に入れて見せる」
「ええ、私も負けません。彼の心を手に入れて見せます」
ここに戦いの火ぶたは切っておとされた。
「ところでタマモちゃん……」
「なに?」
「横島さんが、二人とも選ぶといったらどうしますか? 私を排除しますか?」
「そんなことしないわ。アイツにより多く愛されるように頑張るだけよ。アンタ排除する気なの?」
「いえ、そんなことしませんよ。ただ、実際これが一番可能性高いかと思って」
「まぁ、そうね……」
「ですよね……」
――14:30 「よこっち」1F:事務所
宣戦布告をしたりしたが、険悪になるでもなく小竜姫とタマモの二人は、仲好く事務所の整理をしていた。それが一段落ついたころ、夕映、のどか、木乃香の三人が事務所を訪ねてくる。話を聞くと、夕映とのどかはハルナから逃げるため、木乃香は暇だったため誘いあって、事務所の整理の手伝いに来てくれたらしい。しかし、事務所の整理もほとんど終わってしまっていた為、現在は皆でお茶をしているところである。
「やはり、観葉植物とかがないと……」
「そうやな~。時計や食器は増えたけど、殺風景なんは変わらんし」
「あの中身がスカスカな書類棚が丸見えなのもちょっと……」
お茶を飲みながらも三人は事務所の殺風景さが気になるようである。
「それは開業までには間に合わないわねー。何ていったって明日だし、開業」
「まぁ、おいおい揃えていけばいいんじゃないですか? 横島さんも最初の一週間は宣伝と営業に費やすって言ってましたし」
小竜姫の言葉に、夕映が質問する。
「宣伝に……営業ですか?」
「ええ。前々から宣伝できていれば営業だけでいいとも仰ってましたが……。ねぇ、タマモちゃん?」
「ん? ああ、そう言ってたわ。営業ってのは、街に出てその場で依頼を受けることらしいわ。実績と宣伝を兼ねた一石二鳥の策なんだって」
「へ~。頭ええなぁ」
「確かにこういうのは知名度がものを言うです。街中で実績を上げつつ、知名度を得る。これが成功したら、かなりの効果が見込めるです。ただ……」
「ただ? 何か問題があるの? 夕映」
言葉を濁す夕映に、何か問題があるのかと問うのどか。他の三人も同様のようで夕映の答えを待っている。
「この作戦は、街中で依頼を受ける必要があるです。その場合、断ったり、失敗したりするとその……」
「……悪い噂が広がるってこと?」
「はいです」
「う~ん、それは困るな~。簡単な仕事やったらええんやけど、こればっかりはな~」
「……も、もし、依頼を受けれなかったら?」
「のどか……最初に言ったじゃないですか。宣伝を兼ねてと。その場合は宣伝をしに来たのだと割り切ればいいです。まぁ、ずっと宣伝ばかりというのも考えものですが……」
「じゃあ、やっぱり夕映のいうように失敗できないってのが問題なのかな……?」
「「「う~ん」」」
自分のことではないのに、真剣に考え込む三人。そんな三人を眺めていた小竜姫が何を告げればいいのかと悩む中、タマモが口を開く。
「大丈夫よ。横島だし」
「……そうですね。横島さんですし、心配するだけ無駄ですね」
タマモの言葉に同意する小竜姫。二人の横島に対する信頼を感じたのどかたち三人は、顔を見合わせると深く頷く。
「そうですね。きっと大丈夫です。なんと言っても、不思議な親しみやすさがあの人にはあるです。のどかもあの人には、普通に話せますしね。直接街中で宣伝する上で、親しみやすいということは武器になるです。それだけで宣伝効果も上がる筈です」
「そやな~。ウチも横島さんとは楽しくお喋りできたし。タマちゃん達が言うように、大丈夫かもしれんな~」
「わ、私もそんな気がしてきました……」
それから、口ぐちに横島について話をしていく少女たち。口から出るのは、どれも横島に好意的な言葉であった。横島が、さり気なくエスコートしてくれたという言葉からはじまり、話を合わせてくれた、笑顔がよかった、面白かった、よく見ると顔も中々だった、ファッションは古いがソレがよく似合ってる……etc.
そんな言葉を聞いたいたタマモと小竜姫は……
「よ、横島が女性から好意的な感情を……」
「……きっと、相手が子供だからですよ。ええ。そうです。そうに決まってます。彼女たちも、優しい友達のお兄さんって感じなんですよ……きっと」
「のどかは男性が苦手って言ってた割に、横島に普通に接していたような気がするけど、それも兄弟みたいに感じたからよね? ……買い物している時、横島とずっと一緒だったけど……それも、そういうことなのよね?」
「のどかさんが笑顔を見せてたような気もしますが、そういうことなんですよ……」
――現実逃避をしていた。
彼女たちは、木乃香が、昨日の買い物中横島とのどかがいい雰囲気だったとからかっているのも、それを受けて頬を薄っすらと染めるのどかの姿も見えていないふりをする。
昨日の木乃香を筆頭に三人とも横島と楽しそうに会話していたことも。人懐っこい木乃香はいいとして、最初は距離を置いていた夕映とのどかの二人が、気づくと横島の隣に陣取って会話していたことも。……全てを気のせいなのだと、言い聞かせている。
小竜姫とタマモの二人にとって、初対面の女性に横島が好意的に見られていることはそれほど予想外のことなのであった。
実際、タマモたちが思っているように、木乃香たちは横島のことを、“友達の優しい兄”のように認識しているのだろう。タマモや小竜姫のように、異性として意識している可能性は“まだ”低い。それは彼女たちもよく分っている。
それでも、二人の現実逃避は、木乃香たちが声をかけるまで続くのであった。
――16:30 麻帆良学園 世界樹広場前
「あ、いたわ」
タマモと小竜姫の二人は、横島を迎えに来ていた。別に何かがあった訳ではない。何となくそうしたかったのだ。
横島を見つけるのは簡単であった。横島の霊力は彼女たちには一際目立って感じられる。その上、超感覚を持つタマモがいるのだから、見つけられない訳がない。……ナンパしながらティッシュを配る男の目撃談を辿れば、すぐ見つかったことは秘密である。
二人が見つけた横島は、世界樹に背中を預け空を見上げていた。
「何をされているんでしょうか? 何か言っているようにも見えますが……」
「う~ん、小声で言ってるみたいだけど……風向きが悪いわね。聞こえないわ」
「唇を読もうにも、上を向かれては……」
二人とも、横島が何を言っているのかが気になっているようであるが、内容を知る術はなく、どうしたものかと顔を見合わせる。再び、横島の方を向いた二人はこちらに気づいた横島に手を振りながら呼びかける。
「横島ー!!」
「横島さーん!!」
タマモはいつか横島の心を手に入れると、小竜姫は横島の心からの愛情を受けるにふさわしい存在になると、それぞれ誓いながらこう告げるのであった。
「「帰りましょう!!」」
「おう!!」
横島君の初依頼の日の裏側。その頃の小竜姫とタマモ+αのお話でした。
次回からは4時間目に入ります。タマモと小竜姫と横島。それぞれが麻帆良で築く新たな人間関係。その出逢いは彼女にとって福音となるのか……。刹那の修行は……。その時、力を抑えつけられた彼女は……。
みたいな感じです。
小竜姫が王族(末席)。
これらは拙作内設定です。
それと、ptについてヒロイン表最下部に追記しました。
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