道化と往く珍道中   作:雪夏

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楽しく買い物をする横島たち。途中、横島は数々の誘惑に襲われる。しかし、その誘惑に耐え、横島は無事日用品を買い終えるのであった。


一言: 好感度ランキングも作成しなくては……。まだいいか。





その3 横島くん初めての依頼 前編

 

 

 

 

「あー。疲れた」

 

「ダメですよ、横島さん。だらしないですし、ここはかふぇ?です。人の目があるんですよ?」

 

だらしなく声をあげ、横島が突っ伏す。それを小竜姫が注意する。

今、横島たちは日用品を買い終えた後、デパート内のカフェで休憩をしている所である。

 

 

 

 

 

「いやー、でも正直疲れますって。皆はよく疲れないなー。食器に時計を選ぶだけでオレはヘトヘトだっていうのに……。あのあと、服でどんだけ時間使ったことか」

 

「仕方ないんよ。二人とも素材がええから、選びがいがあって楽しくて。な~、のどか?」

 

「そうですね~。二人とも服に興味ないなんて、もったいないです」

 

木乃香とのどかの言葉に、頬を人差し指で掻きながらタマモが答える。

 

「どうも、そう言うのは苦手でね~(いつも変化してるから、服を選ぶってのが良く分からない……なんて言えないわよね)」

 

「私も動きやすければ別にこだわりは……(修行の邪魔になりますしね)」

 

「私は、服はその人の好みで選ぶのが一番だと言ったのですが……」

 

「まぁ、夕映ちゃんの言う通りだとは思うが、木乃香ちゃんとのどかちゃんの言うこともわかるな。タマモと竜姫はこんなに可愛いんだ。着飾ったところも見てみたくなるよな」

 

何度も頷きながら告げる横島。その言葉に、同調する木乃香とのどか。言われた二人は、横島がお世辞ではなく本心から言っていることに気づき、タマモはそっぽを向き、小竜姫は微笑む。二人に共通しているのは、微かに頬を朱に染めているところだろう。

 

 

 

そんなやりとりを目前で繰り広げられた夕映は、横島について一つの確信を得るのであった。

 

 

 

(木乃香さんは、まぁ普段が普段ですから、あまり参考になりませんが……。あの恥ずかしがり屋なのどかが、横島さんとは自然に会話できていることから見ても、横島さんは人の懐に入るのがとても上手みたいですね。私だって街中でのナンパを見たというのに、彼にのどかのことを任せてました。竜姫さんが言ってたように、期待してたのでしょうか?無意識に、この人なら……と。それとも、優しい人と感じていた……?)

 

横島のことについて考えていた筈なのに、自分の内面へと考えがズレてきたことに気づいた夕映は、頭を左右に一度振ると周囲を伺う。幸い、誰も夕映の行動に気づいていないようで、タマモとのどか、小竜姫が会話しており、横島は木乃香と笑顔で会話している。

 

(今は、私ではなく、横島さんのことです。事務所であった時の可愛いという発言。それに、先程の会話……横島さんは、自然に甘い言葉を言うタイプみたいですね。これは天性のものでしょうか?それに、年上だからかもしれませんが、包み込むような優しさを感じるのも確かです。

 

「…夕映ちゃん?どうかしたか?ボーっとして」

 

今だって、木乃香さんと会話しながら、会話に入ってこない私に話しかけて……ハッ!!)

 

 

「おーい。夕映ちゃん?大丈夫か?」

 

 

我に返った夕映が見たのは、自分の目の前で手を上下に振る横島の姿。他の面々も、会話をやめて夕映に注目しているのだが、それには気づいていないようである。

 

「ゆーえちゃん?」

 

「は、はい!夕映です!」

 

「お、帰ってきた。大丈夫か?ぼーっとしてたみたいだけど……。具合でも悪いのか?」

 

「あ、いえ。ちょっと考え事をしていまして……」

 

ぼーっとしていたのが恥ずかしかったのか、夕映は頬を染め俯く。その姿を見た木乃香が、フォローを入れる。

 

「夕映は集中力が凄いんよ。一度考えに没頭すると、いつもこうなんや」

 

「そうなんです。哲学書を読んでるときとか、いくら呼びかけても気がつかないくらいで」

 

「哲学書なんて難しい本をよく読めるなー」

 

「アンタだったら、一ページも読まないうちに寝るわね」

 

「そうそう、こう一行読んだら、グーっと夢の世界へ……って、やかましいわっ!!」

 

タマモの言葉に横島がおおげさに反応している間に、小竜姫が夕映の考えごとに興味があるのか内容を尋ねる。

 

「夕映さん。差し支えなければ、何を考えていたのか教えていただけませんか?」

 

「え……?その(横島さんについて考えてたなんて言えるわけないです!!……どうにか誤魔化さなければ)……きょ、今日のクラス懇親会のことです!」

 

 

 

 

 

夕映が“よくひねり出したです!私!”と自分を褒めていたとき、横島がその話に興味を持ってしまう。

 

「そういや、今日は懇親会があったんだっけ?後は委員決め?どんな感じだったんだ?」

 

(く、くいつかれたです……!!)

 

横島の言葉に、焦る夕映。横島が興味あるのは、先程まで夕映が考えていた内容ではなく、懇親会そのものである為、別に夕映が焦る必要はないのであが、そこまで頭が回っていないようである。

 

言葉に詰まる夕映の代わりに、木乃香が話始める。

 

「え~となぁ~。今日は教科書配ったり、プリントの配布が最初にあって、それから委員決めがあって、最後に懇親会をしたんよ」

 

「ほー。この中で委員になった子は居るのか?」

 

「ウチが書記で~、のどかが図書委員や」

 

「書記?生徒会かなんかか?」

 

木乃香が言う“書記”に疑問を持つ横島。その疑問はすぐに、木乃香に説明されることとなる。

 

「ちゃうちゃう。ほら、クラスで会議したりするやろ?そん時に、黒板に意見を書いたりするんよ」

 

「あ~、そういう事。そんで、のどかちゃんが図書委員か……」

 

「はい。あと、学園統合図書委員も兼任してます……」

 

「学園統合図書委員?」

 

「簡単に言うと、図書委員が各学校の図書室で貸出とかのお仕事をします。それで、統合委員の方は図書館島でのお仕事をします」

 

「二つもやるのかー。大変じゃない?」

 

「クラスが多いですし、図書館島は司書さんもいますから。担当が回ってくるのも月に一度程度ですし、大丈夫ですよ?それに、本好きですし」

 

「お、そうか。いやー、えらいなぁー、木乃香ちゃんものどかちゃんも」

 

そう言って笑うと、横島は隣に座っていた木乃香の頭を撫でる。撫でられた木乃香は、最初驚いていたが、嫌がる素振りもなくそのままにしている。横島の向かいに座るのどかが、何処か羨ましそうに見ているのは気のせいであろうか。

 

「で、残りは何もしないのか?」

 

ひとしきり木乃香を撫でた横島は、顔を残りの三人に向けて質問する。

 

「してないわよ」

「ええ」

「面倒です」

 

それに対する返答はごく短い言葉であった。それでも構わなかったのか、横島は懇親会の様子について話題を移す。

 

「それで、懇親会はどうだったんだ?」

 

横島の問いかけに、一同は説明を始める。

 

 

 

 

 

 

「……今日から早いとこは、部活の仮入部期間が始まるから、仮入部したい場合は、今日配った用紙に必要事項を記入しておくこと。以上で連絡事項は終わりだね。……それじゃ、懇親会を始めようか?とは言っても、何か特別なことをするってわけではないからね。みんなで好き勝手喋る時間かな。授業ってわけでもないから、好きに帰っても構わないよ」

 

そう言って高畑は教室をあとにする。それを合図に、教室内は自席の周囲の人間と話すもの、仲の良いクラスメイトに話しかけるものとに別れる。流石に、すぐに帰るものはいないようである。

 

「どうする?竜姫」

 

「そうですね~。明日菜さんは、高畑先生を追いかけて行ってしまわれましたし……」

 

……何事にも例外は存在しているようである。

 

「じゃ、木乃香と話す?それとも刹那?」

 

「昨日のことを聞きたいので、刹那さんと言いたい所……ですが」

 

「あ~、いないわね。昨日から避けられているのかしら?」

 

「私たちをってことではないみたいですけどね?ほら、木乃香さんが落ち込んでます」

 

「あ~、昨日の時と同じってこと?」

 

「おそらく。話を聞くなら学校外がいいでしょうね」

 

二人の視線の先には、刹那の席の近くで項垂れる木乃香の姿が。おそらく、刹那に話しかけようとしたが、刹那が捕まらなかったのだろう。そのまま、木乃香は自席――タマモたちの所――へ戻ってくる。

 

「う~、タマちゃん。竜姫さん。ウチ、何かせっちゃんにしたんやろか?」

 

「さぁ?きっと、そのうちどうにかなるわよ。刹那も過剰に反応してるだけだろうし」

 

「そうですよ。久しぶりに会う木乃香さんと、どんな顔で会えばいいかわからなくて思わず逃げているだけですよ」

 

「せやな。まだ、二日目やし。せっちゃん恥ずかしがり屋さんやったし、竜姫さんの言う通りかもしれんな。ウチ、せっちゃんが落ち着くまで待ってみる」

 

そう宣言すると二人に笑顔を向ける木乃香。それに、同じく笑顔を返す二人であった。

 

 

 

 

 

「そのあとすぐに買い物の約束があるからって、教室を出たわね」

 

「ええ。そのまま女子寮まで行って、帰宅してからは横島さんもご存知ですよね?」

 

「ああ、一緒やったし……って、他の生徒とは交流しとらんやないか!?」

 

横島のツッコミに顔を見合わせる木乃香、タマモ、小竜姫の三人。そして、口を揃えていうのであった。

 

「「「言われて見れば」」」

 

 

 

 

 

お約束としてズッコケた横島は、気を取り直してのどかたちに水を向ける。

 

「そっちはどうだった?楽しかったか?」

 

それに対する夕映とのどかの反応は、否定の言葉であった。

 

「いえ……」

 

「ん?楽しくなかったんか?まぁ、まだ二日目だからな、徐々に交流して…「違うんです」…どういうこと?」

 

フォローをしようとした横島の言葉を遮って、夕映が説明する。

 

「私とのどかは、ハルナ……友達に引っ張られて教室をすぐに出ていったです。ですから、交流自体してないのです」

 

「あ~、そういうこと」

 

「そういえば、ウチが寮から出ようとした時に二人にあったもんな。教室に残ってたら、あそこにおるわけないもんな」

 

「ええ。それがあったから、今此処にいることができているです」

 

つまり、今この場にいるのはクラス交流をすっぽかした面々と言う訳である。横島は、そのことに思い当たると、夕映が何故懇親会について考えていたのか分かった気がした。

 

「そうか、だから夕映ちゃんは懇親会を気にしてたんだな。自分たちが早々に抜けちゃったから」

 

「え?……あ、ああ。そうです。私たちが抜けたあと、ちゃんと懇親会が行われたのだろうかと思いまして」

 

「まぁ、皆いい子だから懇親会なんて出てなくとも、すぐにクラスに馴染めるさ」

 

とりあえす、強引に会話を締める横島であった。

 

 

 

 

 

「それで、話はもどすが……買い物は終わりか?」

 

「あー、横島はここで待ってなさい。アンタを連れて行ったら警察呼ばれるわ」

 

「はぁ?お前、何意味の分からんことを…「横島さんは此処で荷物番をしててください。そんなに時間はかかりませんから」…竜姫まで。まさか、木乃香ちゃんたちも?」

 

「待っててや」「す、すみません」「待つのがいいと思うです」

 

「チックショー!ワイだけ仲間ハズレやなんて、ヒドイやないか!!嫌だー!ワイも一緒に…「シッ!」……」

 

急に沈黙する横島。椅子に深く腰掛け俯く姿は、一見居眠りしている姿にも見えなくはない。……小竜姫の抜き手が決まってさえいなければ……だが。

 

「あらあら、横島さん。ここで待っててくださるんですか?それじゃ、皆さん行きましょうか」

 

そして、小竜姫は何事もなかったかのように、一同を促すのであった。急に沈黙した横島を不思議に思いながらも、これから向かう売り場のことを考え、好都合と判断したのか席をたつ一同。最後に、小竜姫は横島に向かって一言告げるのであった。

 

「一時間もすれば戻ってきますので。それまで、荷物番しながら飲み物でも飲んでいてください。もし、この場所から離れたら……わかってますね?」

 

 

 

 

 

小竜姫たちが立ち去ってから、数秒後横島は何事もなかったかのように顔をあげる。

 

「おー、怖え。連れてってくれないなら、ナンパでもってのバレてたな。くっそー、折角の機会だってのに……。いや、ヤルか?でも、バレたらあとが怖いしなー」

 

そこに、携帯の着信音が響く。懐から携帯を取り出した横島は、着信画面に表示された名前に一瞬眉をひそめたあと、電話にでる。

 

「はい、横島」

 

『もしもし?横島くんかのぉ?』

 

「何か用っすか、学園長?」

 

『開業前のとこ悪いが仕事の話じゃ。明日、正午過ぎに学園長室に来てくれ』

 

「タマモたちは?」

 

『君さえ来てくれれば、どちらでも。任せるわい』

 

「了解です。それじゃ、明日」

 

学園長との電話を終えた横島は、一言呟くのであった。

 

「初仕事決定……と。まだ開業前なのに、幸先がいいというべきなのか。さて、どうしたものか……」

 

今後のことについて考える姿は、中々決まっており、かっこいい。外見だけは。

 

 

 

 

(ナンパに行くべきか、それとも……。いや、やはり行くべき……ああ、どうしたら)

 

 

 

 

中身はこんなものである。

 

 

 

 

 

 

横島が電話を終え苦悩している頃、小竜姫たちはというと。

 

「流石にここに横島を連れてくるのはねー」

 

「そうですね。……下着売り場に連れてきたら、それこそ警察沙汰ですよ」

 

「不審者として通報されるわね」

 

「あ、あのー」

 

会話する小竜姫とタマモに、声をかける夕映。木乃香とのどかは売り場内を見て回っており、近くにはいないようである。

 

「恥ずかしいから、横島さんを残したのではないのですか?」

 

思いがけない言葉を聞いたかのように、顔を見合わせるタマモと小竜姫。

 

「違うわよ?アイツがここに来たら、挙動不審になって警察呼ばれるからに決まってるじゃない」

 

「ええ」

 

「そ、そうですか(横島さんって……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




冒頭は夕映パート。所謂考えすぎ状態です。
懇親会と言ったのに、ロクに交流していませんでした。当初の予定では、ここで多少の交流がある筈でした。何処で間違ったんだろう?

現状、のどかと木乃香の横島に対する意識は、友達の優しいお兄さんって所です。
夕映は分かりませんが。

クラス書記の仕事。図書委員と学園統合図書委員の仕事。懇親会の時間、内容。
これらは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。

-追記-
ヒロイン決定しました。ヒロイン表を更新。ptについても更新しています。

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