道化と往く珍道中   作:雪夏

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買い物へと出かける横島たち。おっとりした木乃香、冷静沈着な夕映、男性恐怖症ののどかの三人に案内されて、麻帆良の街へと繰り出すのであった……


一言: 豆腐のお味噌汁も好き。でも、やっぱり油揚げのお味噌汁が一番だと思う。


その2 横島くんたち買い物に行く 後編

 

 

 

 

「タマちゃん、タマちゃん。このカップよくない?」「どれ?」

 

「竜姫さんは湯呑ですか。渋いですね」「そうですか?やっぱり日本茶は湯呑じゃないと」

 

麻帆良学園都市にあるデパートの食器売り場に横島たちの姿があった。

 

タマモは木乃香と、小竜姫は夕映と一緒に食器を見て回り、横島はのどかと一緒に来客用に使う食器を選んでいる。

 

「ゴメンな、のどかちゃん。選ぶの手伝わせて。なんだったら、タマモたちの所に行っても……」

 

「あ、いえ。大丈夫です。それに……」

 

「ん?あ、これよくないか?ほら、何処かホームズっぽいしな。帽子とキセル柄って。便利屋って探偵に似てるし」

 

「そ、それはどうなんでしょうか……?お客さんに出すのなら、絵柄が入っているものより、シンプルに無地なものがいいかも……」

 

「あ~、そうか。じゃあ、無地のヤツ見に行くか。無地のヤツは……?」

 

「あ、こっちみたいです」

 

「お、そっちか。いやー、のどかちゃんはしっかりしてんなぁ」

 

「そ、そんな」

 

何かを言いかけたのどかに気づかず、手に持ったカップを見せ意見を尋ねる横島。おどおどしながらも、きちんと意見を伝えるのどか。その後も、二人は会話を交わしながら食器を選んでいく。

 

その光景を見守っていた夕映。木乃香がタマモと食器を見に行った際に、のどかの男性恐怖症を克服する為と横島と二人きりにさせたが、心配は心配であったらしい。

 

意外と上手くやっている光景に、一安心といった様子である。

 

「ふふ。のどかさんが心配ですか?」

 

「気づいてたですか!?」

 

「あれだけ振り向いておいて、気づかない方が難しいかと。心配しなくとも大丈夫です。のどかさんに手を出したりしませんよ」

 

「そのような心配は……。いや、街中でのナンパを見てますから、完全に信用してる訳でもないのですが」

 

夕映の脳裏によぎったのは、デパートに来るまでの道中で、片っ端からナンパしてはタマモや小竜姫に止められる横島の姿。

 

何処かコントじみていたその光景は、事務所で気を配っていた横島とは別人のようで、彼も所詮ただの男かと思ったものである。

 

……何故か、木乃香とのどかは笑って、楽しい人だねと言っていたが。

 

「?それでは、何を心配なさっているのですか?」

 

考え事に集中していた夕映は、小竜姫の質問で我に返ると、自分が心配していたことを告げる。

 

「のどかは男性が少々苦手なのです。それが、横島さん相手だと多少マシな反応を見せてました。ですから、思い切って二人きりにしてみたのですが、やはり心配で」

 

「そうですか……。何故男性が苦手なんでしょうか?」

 

「のどかは基本的に恥ずかしがり屋な性格でして。最初はそれが、異性には特に強く出ているだけだったなのですが……。小学生のころに、男子生徒にからかわれた体験や、奴らの粗暴なところ、こちらを気にしない身勝手な行動などから、男性に近づくことに多少の恐怖を覚えるようになったのです。結果、徐々に苦手意識が積み重なり今にいたってます」

 

「そうなんですか。でも、横島さんが相手ならきっと大丈夫ですよ」

 

「何故ですか?」

 

言い切る小竜姫に、疑問の声をあげる夕映。それに、答える小竜姫の顔は何処か誇らしげだった。

 

「横島さんは、優しい方です。特に女性や子供には。それに……」

 

「それに?」

 

「期待には必ず答えてくれます。きっと、のどかさんのことも……」

 

 

 

 

 

そんな会話がされているとは知らないのどかと横島は、順調に食器を選んでいく。

 

「う~ん。茶請け用の皿も必要か……?それに……」

 

「あ、あの……。さっき選んだカップと同じデザインのカップが、あっちでティーセットとして売られていました。フォークとお皿もセットになっていますし、そちらの方が統一感がでていいんじゃないでしょうか?あとは、日本茶も出すなら湯呑も必要になるんじゃないでしょうか?」

 

「そうなのか?それなら、そっちを買った方が良さげだな。それに、湯呑も必要か……。本当、のどかちゃんがいて助かってるよ。ありがとな」

 

「そ、そんな。私なんか……」

 

「ダメだぞ~。君みたいな可愛いくていい()が、私なんかって言っちゃ。時として謙遜は罪になるってもんだ。イケメンがいくら自分はイケメンじゃないって言っても、それはイヤミでしかないかんな。……チクショー!顔がいいからって、余裕かましやがって!!」

 

過去の出来事を思い出しているのか、宙を見上げ叫ぶ横島。横島の突然の奇行に、怖がるより先に呆気に取られるのどか。しばし呆然としていたのどかであったが、こみ上げてくる笑いを耐えることができなかった。

 

「ふふ」

 

「お、やっぱりのどかちゃんは可愛いな~。笑ったら、更に可愛いとは」

 

「あ、あぅ……」

 

横島の言葉に顔を朱に染め俯くのどか。長い前髪で、その表情の大半を隠しているが、それでも隠しきれていない。

 

そんな分かりやすいのどかの反応に気づきもせず、横島は会話を続けていく。

 

「ああ、そう言えば聞くタイミングを逃していたんだが……。のどかちゃんと夕映ちゃんは、何で一緒に来たんだ?」

 

「え?」

 

「あ、いや。来ちゃダメだったとかじゃないぞ? ただタマモからは、木乃香ちゃんだけ連れて来るって聞いていたからさ」

 

「そ、それは……、木乃香が」

 

横島の質問に、のどかはゆっくりと自分たちが同行することになった経緯を話始める。

 

 

 

 

 

「どこ行くですか?木乃香さん」

 

「あ、夕映にのどか。ハルナは一緒やないん?」

 

寮の自室で着替えを終えた木乃香が、外出しようとエレベーターを待っていると夕映とのどかに声をかけられる。

 

「ハルナは、漫画研究会にも入るつもりらしくて……。麻帆良祭での販売枠がどうのと言って部屋に篭っているです」

 

「販売枠?」

 

「何でも漫画研究会では、研究会で認められた作品を麻帆良祭で売るみたいで……。その枠に入る為に、構想を練ってるみたい……」

 

「なんや、ハルナ考えてなかったん?」

 

「それを聞いたのが、今日漫画研究会を覗いたときらしくて……。考え事の邪魔になりそうだから、図書館島にでも行こうかって夕映と」

 

「そうなのです。これまでは、初等部の生徒は仮部員ということで、図書館探検部の発表会には参加できてましたが、地下には入れませんでしたから」

 

「あ~。ウチらも中学あがったから、地下三階までいけるんか。でも、正式に部員になれるんは部活紹介が終わってからやろ?それまでは入れんのと違うん?」

 

木乃香の指摘に顔を見合わせる夕映とのどか。どうやら、忘れていたらしい。

 

「失念していたです。……どうしましょうか、のどか?」

 

「う~ん。部屋には戻りにくいし」

 

悩み始めた夕映たちに、木乃香はそうだと手を胸の前で合わせると、二人に提案する。

 

「そや!二人もウチと来いへん?」

 

 

 

 

 

「……と、言う訳で木乃香に誘われる形で……。タマモさんと竜姫さんもいいって言ってくれたので」

 

同行することになった経緯をのどかが説明すると、納得したのか大げさに首を縦に降る横島。

 

「なるほど。せやったんか。しかし、探検部とかあるんか」

 

「図書館島を探索して、その蔵書の全てを見つけるのを目的に作られた中等部から一般までの合同サークルなんです。初等部も一応所属できるんですけど、そっちは自分たちだけでは探索できなくて、仮扱いなんです。探索の他にも年に数回ある発表会では、探索の成果を発表し発足時から毎回新発見が報告され続けているんですよ?それに、地下深くには魔道書や秘宝、世間から抹消された書類もあるとか。他にもですね……」

 

自分の好きな本の話題である為か、先程より興奮気味に言うのどか。正直、本にはそれほど(全く)興味のない横島だが、探検や秘宝という部分には男として心惹かれるものがあるようで、きちんと話を聞いている。

 

「そうか、ちょっと興味あるな……。ま、その内行ってみるか」

 

横島がそう言うと、背後から声がかけられる。

 

「そん時はウチらが案内したるよ?タマちゃんも行く?」

 

「私は興味ないわ」

 

声をかけたのは木乃香であり、その横にはタマモが。タマモの食器を選び終えたのであろう。その手には買い物かごがある。

 

「お、決まったか?こっちも……ほら。のどかちゃんのおかげで」

 

横島が差し出したかごの中を確認するタマモと木乃香。のどかは先程までの興奮した自分を思い出したのか、恥ずかしさで固まっている。

 

「ほえー。流石はのどか。シンプルで品のいいやつばっかや。これなら、お客さんに出すのにピッタリや」

 

「そうね。横島に任せたら、うけを狙って変な絵が描いてあるカップばっか買うだろうし。のどかが付いてくれて正解だったわね」

 

「お前なぁー。確かに絵柄があるのを選ぼうとしたが、その言い方はないだろ?大体、お前もアレだろ?どうせ油揚げの絵が描いてあるのを選んだんだろ?」

 

「ハッ!バッカじゃないの?油揚げは好きでも、そんなカップ選ばないわよ。私が選んだのは……コレ!」

 

そう言うと自分が選んだ食器の中からマグカップを突きつけるタマモ。横島はその勢いに押されながら、マグカップを受け取り確認する。のどかにも見える位置で持っているのが、流石である。

 

「こ……これは!?」

 

「ふふん。いいでしょ。こう、ピンっと来たのよね。私にはこれが相応しいって」

 

そのカップには、ある動物の姿が描いてあった。その動物とは……

 

「わー、可愛いキツネさんですね」

 

のどかが口にした通り、デフォルメされたキツネであった。

 

「せやろ?ウチが見つけたんよ。そしたら、タマちゃん気に入ってなー。流石にスプーンやフォークは子供っぽいからやめたけど、他の食器は全部キツネさんが描いてあるやつにしたんよ」

 

「タマモさん、キツネ好きなんですか?」

 

「ええ、まあね。キツネって頭いいし、可愛いし、もう最高の生き物ね。狼なんか目じゃないわ」

 

「(こ、こいつは……自画自賛か!!)」

 

決してこの場で口に出すことは出来ないが、横島はそうツッコミたくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

横島が何とかツッコミ衝動を抑えた頃、小竜姫と夕映も選び終わったのか合流していた。

 

「へー、竜姫はそういう感じの選んだんだ」

 

「龍やな。竜姫さんは龍が好きなん?」

 

「わ、かっこいい」

 

小竜姫が選んだ食器は、龍が描かれているものばかりである。タマモのキツネ食器と違う点は、デフォルメばかりではないというところか。

 

「ええ。名前に一字入っているからか、龍に親近感がありましてね。夕映さんに頼んで探して貰いました」

 

「竜姫さんのイメージに合うように、可愛らしいものよりかっこいいものを中心に選んだです。我ながらいい仕事かと」

 

「そやなー。この湯呑のヤツとかピッタリや。竜姫さんの凛とした雰囲気にあっとる」

 

「やるわね、夕映」

 

「(タマモはともかく、アンタもですか小竜姫さまー!!くそっ!ツッコミたいのにツッコミが出来んとは……。関西人にこの仕打ちとは……ワイを殺す気か!!)」

 

 

 

 

 

その後、フロアを移動し他の品を買うときも、タマモと小竜姫の二人はキツネと龍がデザインされたものばかりを選ぶこととなる。

 

その度に、横島はツッコミを耐えるという苦行を行うのであった。

 

(ツッコミを……ツッコミをさせてくれー!!この際、ワイやなくてもええ!!誰かこの二人にツッコミを!!頼む!!)

 

 

 

 

 




誰か横島の代わりにツッコミを。

予定外にのどかの横島への好感度が上がっていく。懇親会と委員決めは次回で。ええ、引っ張りますとも。

のどかが男性が苦手な理由。女子寮にエレベーターがある。漫画研究会が麻帆良祭で同人販売をしている。図書館探検部の初等部は、仮部員。図書館探検部は、定期的に探索結果の発表会を開いている。
これらは拙作内設定です。

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