道化と往く珍道中   作:雪夏

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麻帆良での新生活二日目。横島たちが出会ったのは桜咲刹那という少女に、葛葉刀子という女教師。横島たちの物語は彼女たちも巻き込んで進む……

一言: ネギ美味しいよね。


その3 竜姫とタマモと1-A 前編

 

 

 

 

 

麻帆良学園女子中等部前。本日は入学式であり、新しく始まる中学生活に胸を膨らませる新入生とその保護者、彼女らを向かい入れる在校生に学園教師。沢山の人々で溢れかえっている。

 

その中に、真新しい制服に身を包んだ小竜姫とタマモの姿があった。

 

「いやー、沢山いるわね。一学年で700人以上だっけ?」

 

「そう聞いてますね。この中から、刹那さんを探すなんて無理じゃないですか?」

 

どうやら、入学式の前に刹那と待ち合わせをしているらしい。

 

「ふふ~ん、甘いわね竜姫。私の鼻を甘く見ないで頂戴!ちょっと香水の匂いがキツイけど、刹那の匂いは特徴的だからね。ちょっと集中すれば……」

 

「あ、あの。タマモさん?」

 

「ちょっと、待ちなさい。この特徴的な匂い……刹那の匂いは近いわ…「タマモさん!!」…なによ、刹那?」

 

「分かっててやってますよね!?」

 

「ええ。アンタの匂いは特徴的だから、近くにいたらすぐわかるわ。おはよ、刹那」

 

タマモが振り向くとそこには、同じく制服に身を包んだ刹那の姿が。

 

「お、おはようございます。あ、あの匂いがどうのって、その……」

 

「ああ、別に匂いっていっても、気や魔力をそう例えているだけ。私みたいなヤツにしかわからないし、臭いってわけじゃないわよ?」

 

「そ、それでも嫌なんです!!……大体、竜姫さんも気づいてましたよね!?目が合いましたし!?」

 

「お茶目ってヤツですよ」

 

刹那の訴えに笑顔で答える小竜姫。ヒャクメにからかわれることが多かった小竜姫にとって、刹那は自分がからかうことが出来る数少ない友になったようである。

 

一通り言い終えた刹那は、改めて二人に挨拶すると周囲を見渡す。

 

「お二人ともおはようございます。……ところで、あの……横島さんは?」

 

「あー、今は……事務所の改装に付き合ってるわ。何か、ガスとかで立ち会わないといけないみたい」

 

「今はガスでしょうかね?それとも、いんたーねっとの回線工事でしょうか。まぁ、そんな訳で今日は来れません。私たちも入学と同時に、事務所に移りますからね。来たがっていましたが、準備を頼みました。……まぁ、彼の目当ては保護者のお姉さんたちなので、丁度良かったんですが」

 

「そうですか……。来ないんですか……」

 

タマモと小竜姫の言葉に、目に見えて落ち込む刹那。本人に自覚かあるかは怪しいが、横島に会いたかったようである。もしかしたら、制服姿の感想を聞きたかったのかもしれない。

 

そんな刹那の様子に、タマモと小竜姫は小声で会話をする。

 

(ね?刹那は……もう、手遅れでしょ?)

 

(そうですね。本人は何で落ち込んでいるのか、分かってないみたいですけど……時間の問題って感じですかね)

 

(はぁー。おキヌちゃんが言ってたことがよく分かるわ)

 

(何のことです?)

 

(あいつは……所謂“人外”にモテるらしいわ)

 

(ああー)

 

タマモの発言――正確にはおキヌだが――に納得する小竜姫。

 

目の前のタマモもそうであるが、人狼であるシロも横島を慕っているらしいし、ヒャクメやワルキューレ、パピリオも横島には好意的である。それに、ジークや老師も横島のことは気に入っているし、殿下――天龍童子もそうだ。本当かどうかは知らないが、韋駄天とも仲が良いと聞いたことがある。

 

成程、彼は男女に関係なく“人外”に好かれるのかもしれない。

 

 

 

 

 

小竜姫たちは密談を終えると、刹那と共にクラスに移動を始める。廊下を歩きながら、校門で貰った新入生名簿に目を通す三人。三人以外に校舎内に人の姿はない。まだ集合時間まで時間がある為、外で記念撮影に興じているようである。

 

「へー。私らのクラスだけ33人なんだ」

 

「他のクラスは30人だったり、31人だったり……。関係者を集めたからでしょうか?」

 

さっと、目を通したタマモがクラスの人数について話と、それをきっかけに会話が始まる。

 

「でも、大半の方は一般人だと聞いてます」

 

「あー、確か一般人だけど優秀なヤツも集めてんだっけ?」

 

「そう聞きましたね。所謂、“天才”と言う方たちですね。突出した才能は、時としてその人に不幸をもたらします。理解されない孤独に苛まれたり、心無い差別、嫉妬の対象になったり。後は、才能欲しさの誘拐とかですか」

 

「それを防ぐには、一纏めにした方が都合が良かったってわけね」

 

タマモの言葉に小竜姫は頷く。

 

「護衛の観点からもそうですが……。天才は天才を知る……。異常には異常を。そういう事でもあると思います」

 

「ハッ、人間って面倒な生き物ね。まぁ、だから面白いんだけどさ」

 

頭の後ろで手を組みながらタマモが言うと、小竜姫が同意しながら刹那に話しかける。

 

「そうですね。ところで、刹那さん学園長から聞いた話だと、学園長のお孫さんのように身内は関係者でも本人は知らないと言う方もいるらしいですね?」

 

「そう聞いています。ただ、お嬢様以外の方は狙われる理由がない為、他の生徒と同じ扱いです。私たちを含め、クラス内の関係者が護衛につくことはありません」

 

「学園外学校行事中の護衛……だっけ。誰が関係者で、誰が対象か刹那は聞いてる?」

 

「この“エヴァンジェリン”さんと“龍宮”は関係者ですね。護衛対象は分かりません。私はお嬢様の専任警護ですが、タマモさんたちはその都度分担されるのではないでしょうか。常時護衛対象者は、“雪広あやか”さんと“那波千鶴”さん。麻帆良と関わりの深い大企業のご令嬢です。“綾瀬夕映”さんは、祖父は有名な方らしいですが、家はそれほどでもない為、状況次第だそうです」

 

「そ。じゃあ、私たちは何かあった場合、その三人の護衛になるってこと?」

 

「そのあたりは、実際に学園外へ行くときに話すって言ってましたね。学園内では護衛は不要って言ってましたし」

 

タマモの疑問に答えたのは小竜姫であった。護衛についての説明は二人同時に受けた筈なのだが、性格からかタマモは覚えていなかったようである。

 

「ま、学園生活を楽しみながら気楽にやりましょ?」

 

 

笑顔でそう告げるタマモに、同じく笑顔で頷く小竜姫。ぎこちない笑顔の刹那。そこからは、堅苦しい話しは終わりとばかりに他愛のない会話をしていく。

 

しかし、刹那の表情はクラスに近づくにつれ固くなっていく。それに気づいたタマモが話しかける。

 

「どうかしたの?刹那。体調でも悪いの?」

 

「あ、いえ。大丈夫です」

 

「そう?……ならいいんだけど」

 

何処か腑に落ちないタマモであったが、本人が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろうと考えることにした。そのまま、教室まであと少しという所に来たとき、突然の大声が廊下に響いた。

 

 

 

「あ~!!せっちゃん!!せっちゃんやろ?うちや、木乃香や!久しぶりやな~」

 

 

 

唐突に聞こえた刹那を呼ぶ声。声の方向を向くと、そこには長く綺麗な黒髪を持つ美少女がこちらを指差している。

小竜姫とタマモが刹那に、知合いなのかを問おうと刹那の方を見るが、先程までいた場所に刹那の姿はなく、脱兎のごとく走り去ったあとであった。

 

 

「せっちゃん……」

 

突然の出来事に戸惑うタマモと小竜姫であったが、少女の悲しげな声に正気に戻る。そこに、タマモの携帯がメールの着信を告げる。

 

「えーと、こうだったかしら……?」

 

操作を思い浮かべながら、メール画面を呼び出すと刹那からの着信であった。小竜姫と一緒にその内容を確認するタマモ。

 

 

『突然すみませんでした。

わけあって、お嬢様とはしたしくできないです。

さがさないでください。せつな』

 

 

「何か理由がある……という事でしょうか?」

 

「そうなんじゃない?」

 

刹那からのメールを確認した二人は、刹那のことは放っておくことにした。探さないでと書いてあることだし。

 

タマモが了解と、たどたどしい手つきで返信を行っている間に、小竜姫が少女に話しかける。刹那のメールや本人が言っていたことから判断するに、彼女が学園長の孫である近衛木乃香なのであろう。

 

「あのー」

 

「は、はい!」

 

落ち込んでいる所に突如話しかけられた少女――木乃香は思いの他大きな声で返事する。

 

「刹那さんとは、どう言うご関係で?あ、私は妙神竜姫。一年A組です」

 

「葛葉タマモ。A組」

 

「あ、うちは近衛木乃香言います。せっちゃんとは、こっちに来る前のお友達で……。あ、うちもA組です!」

 

「そうですか。木乃香さんですね?私のことは竜姫と。ここでは何ですから、教室に向かいながらお話しましょう?刹那さんもA組ですし」

 

「せっちゃんも……?」

 

「ええ。行きましょう?」

 

「は、はい」

 

小竜姫に促され歩き始める木乃香。ようやく返信を終えたタマモも、二人から少々遅れて歩きだす。

 

 

 

 

 

 

「そうですか。京都で一緒に遊んでいたんですか」

 

「そうなんですよ。それで、竜姫さんはせっちゃんとはどう言うご関係で?」

 

「その前に敬語は不要です。同じクラスの仲間なのですから」

 

「そう?そやったら、竜姫さんも敬語いらんよ?」

 

「私はこれが癖なので。刹那さんとは麻帆良に来たときに、先生方に一緒に街を案内して貰ったんですよ。私もタマモちゃんも中学から麻帆良にきましたからね」

 

「そうなんや~。タマちゃん……あ、タマちゃんって呼んでええ?」

 

「まぁ、構わないわ。それで?」

 

「タマちゃんと竜姫さんは、前は何処におったん?」

 

「私たちは各地を転々としてましたね。長く滞在するのは、麻帆良が初めてじゃないでしょうか?」

 

「そうなるわね」

 

木乃香の人柄か、和やかに会話を進める一同。そのうちに教室へと、辿り着く。

 

 

「あ、ここやね。一年A組」

 

「刹那は……いないみたいね。ま、中で待ってればその内くるでしょ」

 

そう言ったタマモを先頭に教室の中へ入る。時間よりも大分早く着いた為か、教室内には数人の姿しかなかった。そのまま、三人は黒板に書かれた通りに、自分の席へ向かう。

 

「しっかし、見事に固まったわね。私の横が竜姫で、前が木乃香。私たちの後ろや、竜姫の前の席はまだ見たいね。通路を挟んだ席もまだ……か」

 

「時間まで大分あるから仕方ないと思いますよ?」

 

「そやそや。うちはおじいちゃんとこに行っとったからこの時間やけど……他の人はまだ掛かるんとちゃうかな。あ、うち言ってなかったんやけど…「学園長の孫でしょ?」…知っとったん?」

 

「入学手続きの時に学園長にはお会いしましたから。その時にお名前を」

 

「へー。あ、うちの席の隣な?明日菜言うねん。小学校が同じクラスで寮が同室なんや」

 

木乃香の説明にタマモが新入生名簿を開いて確認する。黒板を見れば、フルネームが書いてあるのだが、気にしてはいけない。

 

「アスナ……あ、あった。神楽坂明日菜ってヤツね?」

 

「そや。うちと明日菜に桜子、いいんちょ、柿崎は同じ小学校やね。まぁ、他にもおるかもしれんけど」

 

「ふーん。いいんちょって?」

 

「ああ、アダ名やアダ名。ホントは雪広あやかって言うんよ。学級委員をしてたんや。せやから、いいんちょ。この中等部には、うちが通ってた麻帆良初等部の他に二つの学校から生徒がくるんや。あとは、タマちゃんみたいな外部からやな」

 

木乃香に中等部の説明を受けるタマモたち。興味ないのだが、木乃香が説明している所に水を差すこともないと、相槌をうつ。

 

「そうなんだ」

 

「そうなんよ。それに、麻帆良は学校や学年の垣根を越えた部活がいくつかあんねん。有名どこで言うと、うちが所属しとる図書館探検部やな。このクラスやと、夕映にのどか、ハルナも図書館探検部やね」

 

「へ~。じゃあ、仲いいんだ」

 

「そうやね。初等部の時はグループが一緒やったし、中等部も一緒に組む約束しとんよ」

 

「仲がいいお友達がいるのはいいですね。私もタマモちゃんも、来たばかりで……」

 

小竜姫が羨ましそうに呟くと、木乃香は嬉しそうに笑う。刹那のことで落ち込んでいた時とは、打って変わったその表情に、こちらが木乃香本来の姿なのだと改めて感じる小竜姫であった。

 

 

 

 

 

「竜姫さんとタマちゃんは、寮は何号室なん?今日は入学式だけやし、遊びに行ってもええ?」

 

その木乃香の提案に顔を見合わせるタマモと小竜姫。少々迷ったが、別に秘密にすることでもないことから素直に教えることにする。

 

「私と竜姫は自宅?……アレって、自宅なの?」

 

「自宅でいいんじゃないでしょうか?」

 

「自宅?自宅から通学なん?でも、全寮制な筈や」

 

二人の言葉に疑問を持つ木乃香。当然といえば、当然である。

 

「特例ってヤツ?ま、すぐにバレるでしょうけど、騒がれるのも面倒だから当分は秘密にしといて。それで、知合いが近々開く便利屋の二階?に住むことになってるのよ」

 

「まだ私たちも入ったことはないんです。今日、入学式が終わってからそっちに移る予定で」

 

「へー。せやったら、家具とかは?今日、運ぶん?」

 

「いえ。元が使っていない寮なので、部屋に大体の家具は入ってるそうです。足りないものは、明日買いに行こうかと」

 

「あー、明日は土曜で午前中だけやもんな。ほなら、明日遊びに行ってもええ?お店案内したるよ?」

 

 

「いいの?」「いいんですか?」

 

 

「ええって。お友達を案内するんは当然や」

 

 

 

 

朗らかに笑う木乃香に、おキヌの姿を重ねるタマモと小竜姫であった。

 

 

 

 




一気に入学式当日へ。今回は木乃香回でした。

因みに、前話ラストからの案内は特にこれといった出来事はありませんでした。横島がナンパばかりしようとするので、途中から首輪をつけられたくらいです。

学園話になるので横島くんの出番は次話もありません。あっても、名前が出るくらい?

Aクラスは優秀者を集めたクラス。あやか、千鶴に護衛。中等部の生徒は三つの小学校と外部からなる。木乃香たちが同じ小学校。夕映、のどか、ハルナ、木乃香が図書館探検部に初等部から参加している。
これらは作中設定です。

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