一言: かっぱ巻き美味いよね
その1 横島一行麻帆良に来る
麻帆良行きを決めた日から数日。横島たち一行の姿は、麻帆良学園女子中等部にある学園長室にあった。
「いやー、魔法使いって凄いんすね。旧世界に来たと思ったら、すぐに転移させられるとは」
「フォフォフォ。あくまでも今回が特殊なケースなんじゃがな。普段は、魔法使いと言えど一般人と同じように飛行機などを使っておる。空を飛ぼうにも、認識阻害も絶対とは言えんからのぉ……。万が一があってはならんからのぉ」
「ハァ……」
現在、学園長室にはソファーに座る横島たちと、その向かいに座る後頭部に特徴のある老人。そして、その老人の背後に立つ高畑の五人である。
そんな中で横島があげた感嘆の言葉に答えたのが、後頭部が長い老人――麻帆良学園理事長兼関東魔法協会理事、
「さて……と、話に入る前に、まずは……申し訳なかったのぉ。急な転移で驚いたじゃろ?君たちは知らないじゃろうが……本来、魔法世界の人間が旧世界に渡るには、メガロメセンブリアのチェックをパスする必要がある。そして、旧世界で所属する魔法協会をメガロの元老院が決めるんじゃ」
「そうなんすか……。でも、オレたちは何の審査も受けてないっすよ?」
「そこは、ホレ。タカミチ君のおかげじゃ。彼は上に信頼されておるからのぉ。彼がスカウトしたから審査はなしになったんじゃ。そして、彼が緊急帰還用の魔法陣を起動させて、此処に転移したと言うわけじゃ」
「緊急帰還用……って、また大層なものを使いましたね」
「まぁ、魔法陣なんてのはまた書けばいいんじゃよ。それより、君たちがいち早くこちらに来ることこそが、大事じゃわい」
「そんなにっすか……」
近衛の言葉に驚く横島たち。高畑は理由を知っているからか、驚いていはない……が、苦笑は浮かべている。
「そもそも飛行機は使えんのじゃ。こちらでは国から国へ移動する場合は、戸籍が必要になるからの。君たちの戸籍が出来るまで待つ時間があれば良かったのじゃが」
「学園長。本当のことを言ったらどうです?」
「本当のこと……?」
黙って聞いていた高畑が口を挟む。横島たちは、騙されたのかと学園長に向ける視線が鋭くなる。
「これこれ、そんな言い方をせんでもよかろうに。安心せい、先までのことも本当じゃ。ただ、戸籍のことだけなら魔法陣を使用せんでもよかったんじゃ。飛行場には関係者専用の出入り口があるんじゃ。そっちを利用すればよいからのぉ」
「それじゃ、何で魔法陣を……?」
「なに、君たちは儂の趣味である占いの結果、急遽来てもらうことにしたからのぉ。戸籍とかは、順次用意すればいいんじゃが、飛行機などはねじ込むことになるからのぉ。君たちは前から呼ぶつもりだったと周囲に示す為には、仕方ないんじゃ」
「あー、予定していた人員だと思わせたいってことっすか。まぁ、占いの結果で呼んだなんて言われたら胡散臭いっすもんねー。オレたちも自己紹介しやすいですし」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
横島の言葉に、分かってくれるかと満足気に頷く近衛。小竜姫とタマモも、自分たちの今後の為に貴重な魔法陣を使用したのだと理解し、近衛に向けていた疑いの視線が弱まる。
そんな中、高畑はその顔に浮かべた苦笑を崩さない。彼は知っているのだ。近衛が言ったことも嘘ではないが、占いのことを伏せる大きな理由を。
(流石に言えないよなぁ。生真面目な人たちに怒られたくないからだなんて)
「さて、ここからが本題じゃが、まず此度は儂らの要請に答えてもらったと考えてもよいのかの?」
近衛が話を戻すと、先程までの和やかな雰囲気から一変、交渉の場へと変わる。近衛は交渉相手を横島と見ているようで、視線を横島から外さない。これは、小竜姫とタマモが横島のパートナー候補であると高畑から説明を受けていた為、リーダーと思われているのである。
「ええ。ただ、こちらからもいくつか条件を出させてもらいますが」
「ふむ。それは当然じゃろうて。して、そちらの条件とは?」
「その前に、そちらの要請を確認したいのですが。高畑さんから大体のことは聞いていますが、それが全部とは限りませんし。契約はきちんと確認しなければ、思わぬところで足元をすくわれますからね」
「ふむ。若いのに大したもんじゃ。どうじゃ?儂の孫の婿に?」
「……美人ですか?」
「無論。しかも、まだ若い」
「ほう。是非、紹介……「横島さん……?」……この話はまた」
ダラダラと冷や汗を流す横島。よく見ると、左右に座る小竜姫とタマモに太腿を抓られているのが分かる。そんな横島たちに、近衛は“若いのぉ”と呟くと交渉を再開させる。
「フォフォフォ。話を戻すとじゃ、儂らから要請することは、主に三つじゃ。竜姫君とタマモ君に麻帆良女子中学の一年A組に入学してもらうこと。次に、学園の警備に参加して欲しい。最後は、クラスメイトの護衛じゃ」
「大体聞いていた通りですね。それで待遇や仕事の内容は?」
「まず住居じゃが……。竜姫君とタマモ君には女子寮、横島君は近くの使っていない古い寮があるから、そこに……と思っておる。次に警備に関してじゃが、基本的には週に一回決められたルートを見回りしてもらう。これは、君たち三人とこちらで用意する一人で行ってもらう」
「用意する一人というのは?オレらの事情を知っている人ですか?」
「まずは、ここにいる高畑君と組んで仕事を覚えてもらう。その後は、こちらに所属もしくは契約している誰かと組むことになるじゃろ。賞金稼ぎをしていた君たちに比べれば、未熟かもしれんが」
「それは別に構わないです。それで、基本的にという事は、緊急時は?応援ってとこですか」
「そうじゃな。応援は支給する携帯電話で頼むことになると思う。その際は、対処をお願いしたい。あとは、儂の個人的な依頼も受けて貰えると助かる」
「まぁ、あまり面倒じゃなければ構いませんよ。場合によっては、断るかもしれませんが」
「まぁ、当然じゃな。警備に関しては、給料を支給する。また、応援や依頼についてはその都度支給じゃな。金額は後で構わんか?」
「ええ。そこらは最後で構わないでしょう」
「次に護衛についてじゃが……。これは副次的なものになる。竜姫君たちのクラスは、関係者を集めたクラスじゃ。無論、全てが関係者というわけではない。一般人も通うことになっておる。すでにクラスメイトの護衛は、そのクラスに所属予定の関係者に頼んでおる。頼みたいのは有事の際には、その者と協力して欲しいということじゃ」
「有事は……ですか」
「うむ。気を使ってもらえればそれでよい。基本的にこちらで対処するし、そもそも学園内ならば結界があるからの。そうそう大事にはならん」
「いいでしょう。他には?」
「あとは、横島君に関してじゃが。基本的に連絡が取れれば、何をしていても構わん。そうじゃ、便利屋でもしてみるかの?君に任せる寮の一階を事務所にでも、改装すれば良かろうて」
「便利屋……ですか?」
横島はこの言葉に驚く。てっきり、自分も学生になると思っていたからである。
「まぁ、便利屋の仕事がなくとも、生活するには困らん額を支給することになるじゃろうからな」
「……そういう事ですか」
「うむ。君はやはり鋭いのぉ」
近衛の意図に気づいた横島は、近衛に呆れた目を向ける。その視線を受けた近衛は、何処か嬉しそうである。言外に含ませた意図に気づく横島を、掘り出し物とでも思っているのであろう。
「ねぇ、何がそういうことなの?ただ、アンタが仕事しなくても、大丈夫って言ってるだけじゃない」
そんなやり取りに、そこまで口を挟まずに大人しくしていたタマモが、横島に質問する。反対側に座る小竜姫も疑問に思っていたのか、頷いている。
「いいか、タマモ。学園長は、オレを咄嗟の時に動かせる駒にしたいんだ。便利屋をしてれば、此処に来ても不思議じゃない。学園からの依頼とでもいえばいいしな。それに、学生や他の職業と違って自由がきくしな」
「その通りじゃ。実は、君のことは高畑君に少々調べて貰ってのぉ」
その言葉に、高畑に目を向ける一同。一斉に視線を受けることになった高畑は、苦笑しながら言葉を紡ぐ。
「言っても、噂を聞いて少々調べただけだよ。メガロにいたのは二日だけだからね。ただ、運良くメガロに来た行商の人から話を聞けてね。何でも、難攻不落の遺跡を一日で踏破し、かつ怪我もなく帰ってきた男がいたと。それで、その男の特徴が横島君にぴったりハマってたってだけさ」
「ま、そういうことじゃ。その遺跡は、全容も不明、生還者ゼロで有名じゃったからの。その顔を見るに知らんかったようじゃの」
近衛の言う通り、驚愕している横島。両隣りの小竜姫とタマモは、横島の非常識さを忘れていたと頭を抱えるのであった。出来る限り目立たないようにと、頑張っていたのは何だったのかと。
「それに他にも聞いてみたら、魔法使いが束になっても勝てなかった凶暴な黒龍を、ほんの一時間かそこらで退治したりしたって有名だったよ」
更に頭を抱える小竜姫たち。横島もそうであるが、自分たちもやらかしていたことに気づいたのだから、当然といえば当然の反応である。
「で、でも、あれくらいの龍なら他の方でも勝てますよね?噂になる程とは……」
「まぁ、確かに僕でも退治出来るとは思うけど」
「ほら!」
「何でそんなに必死なのかは知らんが……高畑君はこの関東魔法協会でも一、二を争う実力者じゃ。彼と同じことが出来るものは、数える程しかおらん」
「そ、そうなんですか……。あぁ、だから女将さんは封印箱を……。私たちが実力者だから、自分の装備を使って欲しいって」
頭を抱えて小声でブツブツ言う小竜姫。その様子は、近衛たちが大丈夫かと心配する程であった。
「本当に大丈夫なんじゃな?」
「ええ。目立たないように注意してたのが、無駄だったと分かって落ち込んでいるだけですんで」
「そうか。では、話を続けようかの。何処まで話たかの?」
「オレたちのことを調べたってとこですね」
「おお、そうじゃ。それで、調べた結果、あの遺跡を踏破できる横島君には、儂個人や協会からの個別依頼を主に。竜姫君たちには、有事の際の護衛と警備を主にやってもらおうと考えたんじゃ」
「それは分かりました。オレたちのことを知っていたから、テストなしで警備の仕事をさせるってことも」
「まぁ、魔法世界で賞金稼ぎをしておったんじゃから、それ相応の能力があることに疑いを持ちはせんよ。それで、こちらからは以上じゃが。そちらの条件とは?」
近衛の言葉に、横島は自分たちの要望を告げ始める。
「ふむ。まず竜姫君とタマモ君が、横島君と同じ寮で生活するのは、別に構わん。君たちの場合、パートナー候補らしいしの。次に魔法がバレた場合に関してじゃが……。君が言うように、護衛時や警備の際にバレた場合は不問としよう。日常でバレた場合も、口止めできたのなら構わん。そちらで解決できなかったり、問題が起こった場合に給料を引くくらいか。魔道書の閲覧に関しては、ある程度なら儂の方で魔道書を用意しよう。勿論、他人に見せてはならんぞ。で、最後の提案……というより、質問なんじゃが……」
横島の提案を次々と受け入れる近衛。しかし、最後の質問に関しては、眉をひそめた。
「何か問題でも?」
「いや、君たちが言うように“気”を使えることを隠す必要はない。魔法ではないからのぉ。ただ……」
「ただ?」
「何というか……。“気”でも魔法の様な現象は起こせるんじゃ。知っておるかの、陰陽師というのを。彼らは符を使い、気で火を点けたりできる。無論、魔力でも可能なんじゃが……」
「ああ、線引きが難しいってことですか。“気”を使っていても、魔法に見えるようなことは避けた方がいいってことですか」
「そうしてくれると助かるのぉ」
「えー、じゃあ狐火で横島を燃やせないの?」
「燃やすな!!」
「ちっ」
「舌打ちもやめれ」
「あー、物騒なことはせんでくれよ」
「ああ、わかってますよ。それと、オレの技で判断に迷うのがあるんすけど」
横島とタマモのやり取りに冷や汗を流す近衛。そんな近衛の様子を気にせず、横島が話を続ける。
「それは、見てみんことには判断がつかんのぉ」
「それもそうっすね」
そう言うと、横島はサイキックソーサーを出現させる。
「こういうのなんすけど。気の塊っすね。見ようによっては、魔法に見えなくもないですし」
「ふむ……。あまり、見せない方がいいかもしれんのぉ。気を具現化出来るものは少ないしのぉ。ただ、無理して隠す程でもないのぉ」
「そうっすか」
元々、人前で見せる気がなかった横島は簡単に納得する。横島が本当に見たかったのは、近衛の反応なのである。
横島は魔法世界に来てから人前では霊能を使用しなかった。使う必要がなかったことも確かであるが、見られたときのことを考慮したのである。タマモが使う狐火は魔法に見えるし、小竜姫の剣技は武術なので見られても問題はない。
しかし、横島の場合、その霊能が魔法よりなのか、気に似た力なのか判断できなかった。これは、“気”や魔法で出来ることをよく知らなかった為である。万が一、希少な技術であった場合、目立つことを避けられない為、人前で使用しないようにしていたのである。
その疑問が今、近衛の評価を聞くことで解消されたのである。横島が使う霊能は気の具現化で誤魔化せる範囲であると。
その後、金銭面での交渉を終えた横島たちは、学園長室をあとにする。結局、学園側の要請をほぼそのまま受け入れた形である。変更して貰ったことと言えば、小竜姫とタマモの住居くらいである。
「ふぃー、疲れたー。もう、交渉なんてしねー」
学園長室を退出するなり、気の抜けた声を出す横島。その姿は、先程まで組織のトップを相手に交渉をしていた人物とはとても思えない。
「ふふ、お疲れ様でした。かっこよかったですよ?」
「それは、愛の告白と…「燃やすわよ?」…せめて最後まで言わせろや」
「ま、アンタにしてはよくやったんじゃない?別人かと思ったもの」
小竜姫とタマモの視線に照れたのか、頭を掻きながらタネ明かしをする横島。
「実は、これを使ってまして」
そう言って見せるのは文珠。刻まれた文字は『冴』。
「『賢』いってのも考えたんすけど、交渉なら色々『冴』えた方がいいかと思って」
「文珠だよりか……。まぁ、所詮は横島ってことね」
タマモが馬鹿にしたように言うと、それにムキになる横島。そんな二人を見ながら、小竜姫は横島の能力について考えていた。
(全く横島さんったら。冴えるってのは、調子がよくなることなんですよ?いくら文珠はイメージが大事だと言っても、その効果は文字に縛られます。しかも、交渉に有利そうという曖昧な理由で込めたなら尚更。つまり、あの交渉は……)
「横島さん、アナタの力なんですよ?」
それに気づかず、全て文珠のおかげであると思っている横島が、横島らしくて小竜姫は何故かおかしくなる。それに、おそらくタマモもこの事実に気づいているのに、素直に口にだせないところも。
タマモと横島のじゃれあいは、高畑が学園長室から出てくるまで続けられた。
「それじゃ、学園内を案内するよ。まぁ、玄関までの道をだけどね。……っと、その前に」
学園内の案内をはじめようとした高畑であったが、ふと何かを思い出したのかポケットから何かを取り出す。
「はい。こっちの青いのが横島くん。黄色がタマモ君で、赤が竜姫君だ」
差し出されたのは携帯電話。横島はともかく、あとの二人は見たこともない機械に戸惑っている。
「これが、携帯電話というやつだよ。離れた相手とこの機械を通して話すことができたり、文章を送ったりできるんだ。まぁ、詳しい使い方は追々。とりあえず、今はそれが連絡手段だってのが分かればいいよ」
「「「はぁ……」」」
揃って気の抜けた返事をする三人。高畑は三人の様子を可笑しく思いながらも、案内をする為に歩き出すのであった。
「で、ここが玄関。昇降口だ。ここで、生徒は靴から上履きに履き替えるんだ。ああ、制服とか上履きは明日、買いに行く。集合場所は此処。時間は昼の一時で。勿論、横島くんも一緒に来てくれ。軽く街を案内するからね」
「「はーい」」「分かりました」
高畑に学園長室から昇降口まで案内された横島たち。タマモと小竜姫は、ここに通うことになるので、道中あたりをキョロキョロ見回していたのが可愛らしかった。
「それじゃ、君たちが住むことになる寮に……と、思っていたんだが、まだ準備が出来ていなくてね。事務所に改装することも考えると、当分はホテル住まいになると思うが、宜しく頼むよ」
続いて高畑にホテルへ案内される一行。どうやら、横島たちの住居はまだ使用できない為、当分はホテル暮らしになるとのことである。入学式までに移れるかは、半々といった所らしい。
「ホテルか~。ま、オレは寝られれば何処でもいいっすけど」
「コイツと同じ部屋?」
「いいや、男女別だよ。それと、朝食と夕食はホテルで食べられるから。昼食は各自調達って形だけど、竜姫君たちの入学までは色々案内することになるからね。僕が奢るよ」
「ゴチっす」
「ごちそうさまです」
「毎回横島に奢ったら、アンタ破産するわよ?」
「ハハハ……。大丈夫、経費で落とすから。落ちるかな……?」
横島の食欲を思い出し、青ざめる高畑。経費で落ちないかと気にするその背中は、中年男性の悲哀を感じさせるものであった。
こうして、横島たちの麻帆良での初日は過ぎて行くのであった。
ついに麻帆良へ到着しました。未だ、学園長室だけですが。次回から、生徒たちがちらほら出てくる予定。でも、彼女たちも入学前なので微妙か。
横島の便利屋は学園長の雑務が主になりそうですが、街の人々の手伝いとかもその内始める予定です。
今後の展開を作る上で気になっているのは、小竜姫とタマモの(バスト的な)戦力です。
明確な答えがないですし、タマモや小竜姫は実際どれくらいなのか。ネタにされるように貧乳なのか。気になります。
メガロメセンブりアが旧世界に渡る魔法使いの所属する魔法協会を決める。魔法使い専用出入り口が空港にある。
これらは作中設定です。
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