道化と往く珍道中   作:雪夏

19 / 59
旧世界へ行く為にメガロメセンブリアへ向かう一行。時を同じくして、ある男性の姿がメガロメセンブリアにあった。彼の来訪によって物語は加速する……

一言: 徐々にPCの予測変換が愉快なことに。


その4 横島一行決意する

 

 

 

 

メガロメセンブリア。”メセンブリーナ連合”と呼ばれる新しき民を中心とした連合の盟主。旧世界の魔法使いには”本国”と呼ばれる国。

魔法世界の人間の大多数が所属し、世の為、人の為にその力を行使する“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”と言う名誉ある職業を目指し、日々研鑽を積む魔法使いたちの国。

 

そして、魔法世界最大の軍事力を持つ超巨大魔法都市国家。

 

そのメガロメセンブリアに横島たちの姿があった。

 

 

 

「それにしても、魔法陣だけで良かったんですか?仮契約しなくても。大体、魔法が使えないオレたちじゃ起動できないんじゃ?」

 

横島が言っているのは、昨日滞在していた街で購入した仮契約の魔法陣のことである。昨日、小竜姫が仮契約屋に魔法陣を買いにいったのである。

 

「良いんですよ。仮契約は気でもできるそうですから、霊力でも問題なく出来るでしょう。ただ、霊力のことは出来るだけ知られない方がいいと思って、魔法陣だけ購入したんですよ」

 

「あー、成程。それなら、いつでも出来ますもんね。まぁ、急いでやる必要もないですし」

 

「はい。そういうことです。しかし、この世界にも妖精や妖怪がいると分かったのは収穫ですね」

 

「そうっすね~。これで、タマモは妖狐とのハーフで通しても問題ないと分かりましたし。まぁ、事情を知らないヤツの前では、人間として振舞った方がいいのは変わりませんが。だから、お前も変化するときは気をつけろよ?」

 

「わかってるわよ。アンタもうっかり本性をださないようにね。ナンパ禁止なんだからね」

 

「……分かってるよ。だから、その背中に爪を立てるのはやめてもらえませんかね?」

 

「……チッ」

 

「舌打ちすんなや!!」

 

横島たちが妖精の存在を知ったのは、昨日の仮契約屋であった。小竜姫が店を訪れると、接客に出たのがオコジョだったのだ。

 

 

 

 

 

「ごめんください」

 

「はいはい、ようこそ!仮契約屋へ!」

 

小竜姫が声を主を探すが、姿が見えない。店の奥に居るのかと思っていると、足元からこっちですと声がする。彼女がその声に従って足元を確認すると、そこには一匹のオコジョが。

 

「お、オコジョ?」

 

「おや、お姉さんオコジョ妖精をご存知ない?猫妖精(ケットシー)と並ぶ由緒正しい妖精なんですがね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「へい。私らオコジョ妖精は元々、旧世界で生活してましてね。魔法使いの方々がこっちに来る際に、私らも半分くらいのヤツらが一緒に渡ってきたんですわ」

 

「そうなんですか。という事は、妖精種が旧世界にはいるんですね?」

 

「そうですね~。私らの他には猫妖精くらいですかね?他の妖精種は全部こっちに移ったって聞きますし。私らや猫妖精は使い魔として、魔法使いについてくことが多いんで向こうにもいますけどね。後は、妖精じゃないですけど、妖怪とかは結構いるって聞きますね」

 

「そうですか」

 

オコジョ妖精の説明に考え込む小竜姫。思わぬ所で、旧世界の情報を手に入れることが出来た。そんな小竜姫の様子を気にもとめず、オコジョ妖精は商売の話を始める。

 

「それで、お姉さんは何用で?お一人でいらしたということは、仮契約の魔法陣ですかい?」

 

「え、ええ。そうなんです。仮契約をしようかと考えてるんですが……」

 

「みなまで言いなさんな。最近は、オコジョでもキスを見られるのは……ってのが多いんですわ。お姉さんもその口でしょ?」

 

「ええ、まぁ。二人分お願いしたいんですが……」

 

「おや、二人分ですかい?まぁ、私らは儲かるんで問題ないですが。それでは、仮契約や料金とかの説明をしやすね」

 

このオコジョが言うには、一口に仮契約と言っても様々なパターンがあるそうである。

 

一つ目は、魔法使い(気の使い手)をマスターに、一般人をパートナーにする契約。

 

二つ目は、一般人をマスターに、魔法使い(気の使い手)をパートナーにする契約。

 

三つ目は、マスター、パートナーともに魔法使い(気の使い手)である

 

ここで言う一般人とは、技能がないもの以外にも、魔力(気)が少ないものも含むようである。魔力(気)が少ないからと言って弱いわけではないのだが、この場合は魔法陣に影響を与えないと言う意味で一般人と同列であるらしい。

 

「それで、お姉さんの場合はどれですかい?それによって用意する魔法陣が違いますんで。料金は、三番目が一番高くて、一番目と二番目は変わりません。それと、マスターの性別と、異性同士かを教えくだせぇ」

 

「えーと、気も関係するんですよね?それでしたら、三番目です。それと二つとも、マスターは男性で、異性での仮契約です」

 

少々顔を赤らめながら答える小竜姫。それを横目にオコジョ妖精がその小さな体で、魔法陣を巻物に書き始める。

 

「いやー、良かった。これで、同性だったらもっと細かに設定しないと、マスターとパートナーが入れ替わったりしますからね……っと、できやした」

 

作業を終えたオコジョ妖精が、巻物を巻きながら説明を再開する。

 

「これで、巻物を開けば魔法陣が待機状態になりやす。その後、魔力か気を持った人が魔法陣の中に入れば、自動的に発動しますから。あ、気をつけて欲しいのは、キスする箇所っすね。唇以外だとスカカードって言うのが出てきますから。その場合は、契約できてません」

 

「それだと、魔法陣の力は消えてしまうのですか?」

 

「発動から五分間くらいなら何度でもやり直しは利きますぜ。ただ、最初に魔法陣に入った二人以外には効果はないんで、その点も気をつけてくだせぇ」

 

「分かりました。それで、他にも何か注意することはありますか?例えば、魔法陣は何時までに使用しないといけないとか」

 

「そうですねー。期限とかは特に。巻物を開かなければ大丈夫です。開いても魔法陣の上に立たなければ、問題はないと思いますが保証はちょっとできないですね。あと、仮契約カードとかの説明はこっちの巻物に書いときやすね。カードの複製の方法とかもあるんで」

 

「ありがとうございます。それで、おいくらでしょうか」

 

「あー、今回の場合は、魔法陣作成代と巻物代合わせて3000ドラクマですね。あと、仮契約が成立した場合、私の方に連絡だけ入りますんでご了承くだせぇ。ま、成立したかしかわからないんで、そこまで気にすることはないですがね」

 

小竜姫はその後、代金と引換に巻物を二本受け取ると仮契約屋を後にするのであった。

 

このようなやり取りの結果、妖怪と妖精の存在が明らかになったのである。

 

 

 

 

 

横島たち一行は、ゲート施設の場所を確認する為にゲート施設前に来ていた。彼らが侵入を狙っているのは、午後から三回に分けて行われる転移の三回目。

 

ゲートは、魔法世界と旧世界を繋ぐ魔法である。ここメガロメセンブリアのゲートで転移出来るのは、旧世界各地にあるゲートのうち稼働中である数箇所のみ。その数箇所をローテーションして開いているのである。今回開くのは、順にエジプト、ペルー、ウェールズ。そのウェールズのゲートが開くときを狙おうというのである。何故ウェールズかと言うと、横島たちの勘である。

 

「はー、アレがゲートっすか。三回目ってことはまだ先なんすよね?」

 

「そうですね。午後から順番にって話ですから。思ったより早く着きましたから、大分時間はあるみたいですけど。一度内部を見学したい所ですが」

 

「あー、どうっすかね。ぶっつけ本番ってのもアレですけど、下手に下見ってのも」

 

「とりあえずご飯食べてから考えましょ。最後くらい名物を堪能してあげるわ」

 

タマモの提案で魔法世界名物を探すことにした一行。旧世界とのゲートがあることから、旧世界の魔法使い相手に名物を売っているのでその辺りは充実しているのである。

 

 

 

 

 

「名物を探しているのなら、僕が案内しようか?」

 

そんな一行に声をかける男性が。歳は三十前半と言ったところか。白いスーツ姿に、無精髭、咥えたタバコがくたびれた印象を与えるが、無駄のない体捌きから強者であることが一行には分かった。

 

「結構です」

 

彼からにじみ出る強者の雰囲気に、横島は即座に断りをいれる。必要以上に返答が素っ気なくなったのは、彼を見て黄色い声を上げている周囲の存在も無関係ではないだろう。

 

嫉妬じみた横島の態度に苦笑しながら、小竜姫たちも断りを入れようとするが、それは男性からの言葉で遮られることとなった。

 

「おや、警戒させてしまったかな。実は、君たちに話があってね。話だけでも聞いてくれないかな?」

 

「私たちに……ですか」

 

「そうさ。君たちに用があるんだ。ここじゃなんだから、ご飯でも食べながら……どうだい?いい店を知ってるんだ。奢るよ?」

 

その男性の言葉に、横島が反応する。

 

「貴様ー!!ワイの女をナンパするとは、いい度胸やのー!!ちょっとくらい顔がいいからって、調子に……。くっそー、男は顔やないんやー、中身なんやー!!どいつもこいつも、イケメンばかり優遇しやがって……。そんなにイケメンが好きかー!!」

 

どうやら、男性のことをナンパしに来たと思ったようである。魔法世界に来る前からのことであるが、横島が隣にいても気にせずナンパする男たちが多数いた為に生じた勘違いである。

 

その横島の言葉に、呆気に取られる男性。その内、小竜姫たちからもナンパと思われたのか、断りの言葉を告げられる。

 

「あの、こんな人ですが仮契約(パクティオー)を結ぼうと考えてる人なんです。ですから、お話はありがたいのですが」

 

「私たちこいつにしか興味ないから、ナンパなら他を当たりなさい」

 

「小竜姫さま!タマモ!それは告白と受け取っても…「「せいっ!」」…ぎゃん」

 

タマモの言葉を聞き飛びかかる横島を撃墜する二人。その後、男性に向かって微笑む二人の姿は、“しつこいとお前もこうだ”と言外に告げている。

 

その微笑みを向けられた男性は、めまぐるしく変わる光景に気後れしながらも、誤解を解くために口を開く。

 

「ご、誤解だよ!僕は、君たち三人に用があるんだ。ナンパだなんてとんでもない!」

 

「ほー。自分はモテるからナンパなんて必要ないと……?けっ!」

 

「横島さん……?」

 

悪態をつく横島に、笑顔を向ける小竜姫。その瞳は全く笑っていなかったが。小竜姫が横島を黙らせている間に、タマモが話を続ける。

 

「ナンパじゃないってのは、信じてあげる。とりあえず、場所を変えましょうか?あまり目立ちたくないのよね」

 

「分かったよ。こっちにいいところがあるから……ついて来てくれるかい?」

 

「仕方なく……ね。ほら、行くわよ!」

 

「了~解」

 

男性を先頭にその場を離れる横島たち。未だに警戒を解いてはいなかったが、人目がなければ逃げることは容易い為、大人しくついて行くことにしたようである。

 

男性の後を追いながら、横島たちは小声で相談をする。

 

「いいんですか?ついていって。私たちより弱いとは言え、今まであった人間ではダントツに強いみたいですが……。それに、罠かもしれませんよ?」

 

「そうね。こっちに知り合いのいない私たちに用事だなんて……。いざとなれば、私が幻覚を見せて……」

 

「う~ん。多分、大丈夫だろ。悪いことにはならんと思うぞ?まぁ、オレの勘だから保険は必要だろうから、文珠はいつでも使えるようにはするが」

 

その横島の言葉に、警戒を緩める小竜姫とタマモ。いざとなれば文珠があるというのもあるが、横島が悪いことにはならないと言ったことが大きい。横島の危機感知能力は非常に高いからである。まぁ、身についた理由が、美神との覗き攻防戦の結果であるのが締まらないが。

 

 

 

 

 

男性の後に続き店内に入った横島たち。席に着くと、ここは奢ると言われ注文を片っ端から頼む横島。それに呆れながらも、男性は話を切り出す。

 

「え~と、話を聞いてくれるってことでいいのかな?」

 

「こりゃ、美味いこりゃ美味い」

 

「ああ、こいつは気にしないで。私たちが聞くから」

 

運ばれて来た食事にがっつく横島はおいて話を進める男性。その顔には、やっと話を進められることへの安堵が見てとれる。

 

「まず、自己紹介をしようか。あの場ではちょっと出来なかったからね。僕は、高畑・T・タカミチ。気軽にタカミチとでも呼んでくれ」

 

「タカミチ……ね。どっかで聞いたような……」

 

「タマモちゃん、アレですよアレ。大戦の英雄、紅き翼の生き残り」

 

「ああ!噂では他のメンバーは全員死んだって言う、あの不吉な!」

 

どっかで聞いたことのある名前に考え込むタマモに、小竜姫が横から告げる。思い出したのか大きな声で言うタマモに、男性――高畑――は冷や汗を垂らしながら答える。

 

「いや、皆死んだ訳じゃ……。僕と旧世界にいる一人以外は、姿を隠してるだけで」

 

「ふ~ん。で、その英雄様がなんの用?別にまだ何もやってないわよ?」

 

「(……まだ?)その前にそちらの名前を聞いても?」

 

「ああ、そうね。私はタマモ。葛葉(くずのは)タマモ。タマモでいいわ」

 

「私は妙神(みょうじん)竜姫(たつき)です。竜姫でかまいません。彼は、横島忠夫」

 

事前に決めていた偽名を名乗る二人。何処か誇らしげに答えているのは、準備が役に立ったからであろうか。

 

二人の名を聞いた高畑は、小竜姫の名に疑問を持つ。

 

「タマモくん、竜姫くん、横島くんだね?ところで、横島くんは竜姫くんのことを小竜姫さまと呼んでた気がするんだが……?」

 

「ああ、竜姫は横島の戦いの師匠なのよ。正確には姉弟子なんだけどね?それで、竜姫の師匠が竜姫のことを“小竜姫”って呼んでて。それを横島に使わせていたら、定着したってわけ」

 

「へー。じゃあ、二人とも何か武術をおさめているのかい?」

 

「へぇ、気になるんだ?」

 

「いや、僕も武人の端くれだからね。気になって」

 

タマモの警戒するかのような返答に、高畑は自分の言葉が探りと取られかねないと思ったのか、慌てて言葉を付け足す。

 

「別に隠すことでもないのでいいですよ、タマモちゃん。私は師匠から剣術などを教わりましたが、横島さんは違います。彼は、組手ばかりで戦いの基礎は教わってません」

 

「へー、そうなのか。失礼だけど彼からは武人って感じはしないから、姉弟弟子ってとこを不思議に思ってたんだが……」

 

「ワイは痛いのは嫌いなんや」

 

高畑の言葉に、食事を続けながら横島が一言告げる。それに苦笑しながら、小竜姫は言葉を続ける。

 

「こういってますが、魔獣程度なら軽く撃退できるんですよ?あまり、やる気がないので」

 

「それで、話を戻すと……本題は何?私たちは英雄に話しかけられるようなことは……してないはずよ」

 

このままでは話が進まないと考えたのか、タマモが強引に話を戻す。若干、間が開いたのは心あたりを探したのであろう。

それを聞いた高畑が本題を語り始める。彼はこの為に、メガロメセンブリアに派遣されたのだから当然ではあるが、スラスラと説明し始める。

 

「まず、僕は関東魔法協会というところに所属している。まぁ、その傍らNGO団体に所属して、魔法使いの仕事をこなしているんだが。で、今回僕がメガロに来たのは、関東魔法協会の理事からの依頼でね」

 

「関東魔法協会?」

 

「そうさ。旧世界にある日本。ああ、日本はわかるかい?君たちの名前からして、日本出身の旧世界人の子孫だとは思うんだけど」

 

「ええ、日本はわかります」

 

無論、高畑の言うような事実はないのだが、相手の勘違いを利用することにした小竜姫。美神や横島と知り合ってから、このようなことは楽にこなせるようになっていた。

 

「そこの麻帆良というところに、本部を置く協会なんだ。そこには、日本にいる魔法使いの多くが所属している。そこの理事が占いを趣味にしていてね」

 

「はぁ」

 

「ハハハ、言いたいことは何となくわかるよ。それが何の関係がってとこだろ?」

 

「ええ、まぁ。まさか、その占いに私たちが出てきたから、会いに来たなんてことはないでしょうし」

 

小竜姫の言葉に、一層笑いを強める高畑。そんな高畑に、タマモは引き、横島は食事を続ける。

 

「そのまさかなんだ。何でも、君たちが学園に通っている光景を見たらしくてね。ああ、関東魔法協会は麻帆良学園っていう学園を経営していて、協会の理事が学園長をしているんだ」

 

「学園……ですか」

 

「ああ。何でも関係者に旧世界の常識を教えながら、魔法を教えるには学園を創るのが一番だってことから代々続いているらしい。まぁ、昔の話だから確かなことはわからないけどね」

 

「それで、私たちをスカウトに来たんですか?」

 

「まぁ、そういう事だね。向こうで学生をしてもらいながら、警備の仕事をしてもらいたいんだ」

 

「警備……?」

 

「そうさ。学園には巨大な図書館があってね。そこには、貴重な魔道書なんかも多く保管してある。勿論、一般人が入れないところにね。それが狙われたり、数箇所ある魔力溜りを狙ったりする奴らがいてね。まぁ、学園には結界も貼ってあるし、滅多にこないんだけどね」

 

「そうですか。それで私たちのメリットは?」

 

「ああ、来てもらえるのなら戸籍を用意するし、在学中の学費は免除。警備の際は、給料を支給する。あとは、仕事の斡旋や生活の援助。援助金の額や他の要望は学園長に直接交渉してくれ」

 

「住居は?」

 

「今の所、君たちには学生寮をと思っている。横島くんは使っていない寮があるから、そこを自由にしてくれて構わないと言ってたかな」

 

「私たちと横島さんの住居は別なんですか?」

 

「君たちの学生寮は女子寮だからね。なんなら、横島くんと一緒に使ってない寮にするかい?パートナーなら問題ないだろうしね」

 

「そうですね。それで、私たちが入る学園と言うのは?」

 

「麻帆良学園女子中等部の一年生に入ってもらいたい。見たところ、君たちは旧世界の中学生くらいの年格好だし、旧世界の常識を学ぶにはいいと思う」

 

「他に理由はないの?」

 

「実は……そのクラスには、所謂関係者たちを集める予定でね。それと言うのも、魔法は知らないが親が関係者だったりする子や、旧世界の有力者の子供なんてのは邪な考えを持つ者に狙われやすいからね。関係者を一箇所に集めることで、護衛しやすくしてるんだ。君たちにも護衛を兼ねて貰えないかとは思っている」

 

「そう。それで、いつからなの?」

 

「承諾が取れたらすぐにでも。今日の午後、ウェールズへのゲートが開くからその時にでも、一緒に旧世界に来てもらいたい。入学の準備に時間がかかるからね」

 

「返事は何時までに?」

 

「そうだな……。早ければ早い方がいいのは変わらないよ。遅くとも、一週間後までに連絡が欲しい。承諾してくれるなら、隣の宿に来てくれ。そこの302号室に泊まっているから」

 

「そう、わかったわ。相談するから、アナタは支払いをして先に宿に行ってなさい」

 

「ああ、わかったよ。それじゃ」

 

そう言うと、高畑は伝票を持って去っていく。彼が一度振り返った時、横島たちは早速相談を始めているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

高畑の姿が完全に見えなくなると、タマモが横島に声をかける。

 

「ご苦労さま、横島」

 

「おう」

 

返事をする横島の手には『正』『直』の文珠。横島が、会話に参加しなかった理由は、文珠を二つ連携させて発動するのに集中していた為であった。

 

「それにしても、目の前にあるメシを食えないってのは辛かったぜ。まぁ、集中しないと持続時間が短くなっちまうから、しょうがないんだが……」

 

横島たちの目の前には、料理の山が。高畑が説明をしていたとき、確かに横島が食べていた筈なのだが、運ばれてきてすぐに横島が口にした料理以外は手付かずのままであった。

 

「今から食べればいいじゃない。しかし、幻覚に見事に引っかかったわね。まぁ、食べてる姿が幻覚なんて思わないか」

 

どうやら、食事をしている横島は途中からタマモの幻覚であり、本人は文珠を発動していたようである。

 

「しかし、小竜姫さまもやりますねー。オレが見せた文珠を見ただけで、意図を汲み取ってくれるなんて」

 

「美神さんたちといたらこれくらいは……。それに、私のやったことは高畑さんが、自分から話やすいように聞き手に回ったくらいで。元々、高畑さんが説明しに来た以上、それも当然ですし」

 

「いいのよ、それで。話やすいように、上手く相槌をすることが大事なんだから。それに、さりげない疑問を告げる感じが良かったわね。文珠の効果を確認するのに、最適だったわ。アレがあったから、最後の方は大胆に聞きたいこと聞けたわけだし」

 

「そうでしょうか」

 

「そうよ。ま、タカミチってヤツも災難ね。人を騙す専門家である妖狐と、文珠のせいで話さなくてもいいことまで話すことになって。しかも、本人にその自覚はないし」

 

タマモの言う通り、本来なら説明しない筈であったことも高畑は話してしまっている。しかも、本人からすれば『正』『直』に答えただけなので、疑問に思うこともない。

 

悪い顔をしながら笑うタマモを他所に、いつの間にか料理を食べていた横島が小竜姫に問いかける。

 

「それで、どうします。オレとしては乗ってもいいかと。隠してることもありましたが、あの程度ならどうとでもなりますし。それに交渉次第ですが、安定した生活拠点を手に入れられそうですしね。何より、日本に行けて戸籍も手に入りますからね」

 

「そうですね~。私としても問題は……人間の学問を学ぶなんて面白そうですし。タマモちゃんは?」

 

「お揚げが食べられるなら、それでいいわ」

 

「じゃあ決まりっすね。メシ食い終わったら、早速宿に行きましょう」

 

「はい」「ええ」

 

 

 

 

 

麻帆良行きを決めた横島たち。この決定は彼らに何をもたらすのであろうか。それは――

 

 

 

――誰も知らない。

 

 

 

 

「あ、それ!私が食べたかったのに!!」

 

「ふっ。食事とは戦争なのだ。気を抜いたタマモ、お前がわ…「あ、それいただきますね?」…ちょ、小竜姫さまー!そりゃ、ないっすよ…「いただきっ!」…ちょ、タマモまで!?」

 

 

……知らない。

 

 

 




3000ドラクマが一体いくらかは気にしてはいけません。適当です。

オコジョ妖精や他の妖精種について。ゲートの転移先は週ごとで変わる。これらは作中内での設定です。

因みに、他のゲートの場所は、パリ、インド、中国、オーストラリアですかね。
ストーンヘンジ、ピラミッド、マチュピチュ、秦始皇帝陵、モンサンミッシェル、エアーズロック、タージマハル。此処まで考えましたが多分出てきません。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。