道化と往く珍道中   作:雪夏

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旧世界への道筋を得ると共に、新しい名前を得た小竜姫とタマモ。彼らは旧世界への準備を進めるのであった。

一言:いろいろ考えましたが、続けることにしました。



その3 横島一行旧世界への道

 

小竜姫とタマモの二人が新しい名を得た翌日。次の街へと向かう横島一行の前に、一つの問題が浮上していた。

 

「まさか、重量制限があるとは……」

 

横島たちの前に浮上した問題。それは、飛空艇を利用する時に判明した。

 

飛空艇とは、旧世界で言う飛行機に該当する乗り物である。飛行機は持ち込む荷物に、重量制限が課せられている。これは機体の重量が重くなる程燃料を消費する為である。制限を課すことで、燃料負担を軽減する狙いがあるのである。当然、それを超過する場合は、追加料金を払うことになる。

 

飛空艇の場合でも同様の理由から、重量制限が課せられていたのだ。最も、消費するのは燃料ではなく魔力であるが。むしろ、魔力である分制限は厳しいとも言える。

 

「しかし、置いてくわけにもいかんしなー。換金したら後が困るし……。どうすっかな……」

 

「そうですねー。こういう場合、荷物を運ぶ専門の業者に頼むそうですけど……私たちの場合、滞在時間が限られてますからね。受け取りに時間を取られるわけには行きません。それに、余計なお金は払いたくないですしね」

 

横島と小竜姫がどうするべきか話し合う。既に一本飛空艇を見合わせている為、話し合いに時間をかけて、飛空艇に乗れなくなるという事態も避けたい。二人が顔を付き合わせて悩んでいると、タマモが横島に質問をする。

 

「アンタの文珠でどうにかできないの?例えば……『小』で小さくして、後で『戻』すとか」

 

「そりゃ、出来るが重さが変わるかどうかはわからんぞ?それに、文珠は出来るだけ節約したい。煩悩を刺激してくれれば、すぐに作れるかもしれんが……ん?あれ?それを名目にすれば……と、言うことで小竜姫さま!文珠の為に此処は一つ!ほら……「せいっ!」……ドムッ」

 

小竜姫に鼻息荒く迫る横島であったが、タマモと小竜姫の肘をくらい沈む。タマモは倒れた横島の頭を踏みつけながら、他にいい方法がないか考える。しばらく考えてもいい考えが浮かばなかったのか、タマモは一際強く横島を踏みつけた後、ため息まじりに口を開く。

 

「ハァ……。最悪、横島の言う通りにするしかないのかしら……?「何と!では、早速」……狐火!「……ほのぉ!」……全く。こいつが陰陽師だったら、影に収納できるのに……。私も転生前なら出来たんだろうけど、その知識はないしなー」

 

狐火で横島を燃やしながら零したその言葉に、燃えていた筈の横島が反応する。立ち上がったその姿は、火傷一つない。

 

「影か……。出来るかもしれんぞ?昔、冥子ちゃんの影に入れられたことがあるからな。イメージは完璧だ。まぁ、あとは何て文字を入れるかだが……。『影』で行けるか?」

 

「それはやめた方がいいでしょう。出来たとしても、文珠の持続時間が分かりませんし。その内、横島さんなら文珠なしでも出来るようになるとは思いますが、現段階では文珠に頼るしかありませんからね」

 

「そうね。飛空艇で効果が切れたら意味ないし」

 

横島の言葉を、小竜姫が否定しタマモもそれに続く。結局、いい答えが見つからない三人。いっそのこと、文珠で荷物を『隠』すという方法も思いついたが、それも重量が変わるわけではないので困っていた。

 

そこに、宿泊していた宿の女将が声をかけてくる。話を聞くと、見送りついでに買い出しに来たようである。

 

「それで、なんで此処にいるんだい?搭乗口はあっちだろ?」

 

困り果てていた横島たちは、女将に事情を説明する。事情を聞いた女将は、それならと箱を一つ差し出す。

 

「なんすか、これ?」

 

「これかい?これは封印箱ってヤツさ。本来はゲートとかを通る時に、武器を封印するのに使う箱さ。重量、大きさ、量まで無視して封印できる。ま、封印も開封にもそれ専用の魔法が必要だがね」

 

「へー。便利っすねー。オレたちには使えそうにないっすけど。ところで、何で女将さんはこれを持ってんすか?」

 

「私も昔は、従者として旧世界に行ったりしてたからね。そん時に、ちょっとしたコネで買ったのさ」

 

「女将さん従者だったんですか……。だから私たちに、仮契約を……」

 

「ま、今は旦那としがない宿屋をやってるオバサンさ。で、本題。これをアンタたちにやるよ」

 

そう言って小竜姫に箱を手渡す女将。小竜姫は、あまりにもあっさりと渡されたので、思わず受け取ってしまう。

 

「い、いいんですか?それに、専用の魔法が必要だって……」

 

「あー、いいのいいの。今は、食材の持ち運びにしか使ってないし。専用魔法と言っても、呪文を覚えちまえばすぐ使える魔法だしね。アンタらみたいな現役の賞金稼ぎの方が必要だろうさ」

 

「でも……。私たち魔法は……」

 

「おや、気の使い手だったかい?まぁ、賞金稼ぎだから魔法が使えるってわけでもないか。そうだね、じゃあ私の方で魔法をかけてやるよ。開封はキーワードで出来るようにしてやる。但し、これは一回限りだからね?また封印する時には、呪文が必要だから魔法使いの仲間を探すか、魔法を覚えるんだよ?」

 

「おお!ありがとうございます!」

「ありがとう、女将さん」「ありがとうございます」

 

気前のいい女将に、感謝を述べる横島たち。そんな横島たちに笑って、準備を促す女将であった。

 

「あ、そうだ。これ、お礼です」

 

横島が差し出したのは、一つの首飾り。受け取った女将も、横島たちも知らないことだが、その首飾りには呪が施されており、身につけていれば宝くじの一等は無理でも、二等から三等が当たるくらいの幸運を引き寄せるというものであった。これ以降、女将の宿は繁盛することとなる。

 

 

「おや、いいのかい?ありがたく頂くよ。それじゃ、封印するよ?」

 

女将はそう言うと、横島たちの荷物――主に財宝類――へ箱を向ける。そのまま呪文を唱えると、荷物が光に包まれる。次の瞬間には、荷物が消え封印が完了する。

 

「これで終わりさ。開封する時は、キーワードを唱えな。ちょっと待ちなよ……よし、この紙に書いたからね。無くすんじゃないよ?ちゃんと呪文も書いてあるからね」

 

そう言うと、箱と紙を差し出すと去っていく女将。女将に礼を告げると横島たちは、飛空艇の搭乗口へと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

「いや~助かったっすね~。女将さんには感謝っす」

 

飛空艇の中で一息ついた横島たち。その話題の中心は女将のことであった。

 

「そうですね。本当に助かりました。このまま、旧世界まで開封しなければいいわけですしね。ただ、折角呪文も教えて頂いたのに、魔法が使えませんからね。勿体ない気もしますが」

 

「まぁ、その内覚えて見ればいいんじゃない?横島の影が使えるようになるのが先か、魔法が先か。どっちかしらね」

 

「そりゃ……どっちだろな?」

 

横島が影を使える様になる可能性と、未知の技術である魔法を一から学び使えるようになること。前者は横島に素養があるかが鍵であり、後者は教える者がいないのがネックである。

 

「まぁ、いいか。ところで、さっき仮契約がどうこうって言ってましたけど。何だったんですか?」

 

「……え!?聞こえてましたか……?」

 

横島の問いかけに、頬を染めながら質問で返す小竜姫。隣に立つタマモもうっすらと頬が色づいている。横島はそんな二人の様子に、襲いかかりそうになるのをグッと堪える。

 

「……(我慢だ、我慢)ええ。聞こえてました」

 

「そ、そうですか。いえ、その、あのですね?次に行く街にその、仮契約屋さんがありまして。そこで、その仮契約したらって勧められましてね?」

 

「そうなんすっか」

 

横島に慌てながらも説明する小竜姫。その脳裏には、キスと言う単語がぐるぐる回っているのであろう。タマモに助けを求めようにも、顔を背けている為、小竜姫は自身でどうにかする他ない。

 

「ええ、そうなんです。何でもアーティファクトというものを召喚出来るようになるとかで」

 

「へー。便利なんですかね?あの女将さんが勧めってことは」

 

「そうみたいですよ?」

 

「それじゃ、やってみますか?役立つものが出るなら、やっといて損はないでしょうし」

 

「そうですねー。「ちょ!小竜姫さま!」……え!?」

 

「いやー、てっきり従者契約って言うから、雇用契約みたいなもんかと思ってましたが、そんな便利アイテムをくれるんすねー」

 

半分壊れていた小竜姫は、適当に返事をしていたのだが、タマモの声で我に返る。正気に戻った小竜姫の目の前には、仮契約を便利アイテムの贈与と受け取った横島の姿が。その契約の方法を教えていないのだから、妙に乗り気である。

 

いや、この男のことなので契約方法がキスだと知ったら、更に乗り気になるであろう。

 

 

 

 

 

「どうすんのよ?アイツに本当のこと言うの?と言うか、仮契約するの?」

 

横島から離れ、小声で会話をする小竜姫とタマモ。

 

「それなんですが、旧世界に思ったより早く行けそうですからね。必要ないかと。まだ魔法世界に留まるというのなら、仮契約したかもしれませんが」

 

「そうよね。元々、私たちに言い寄る男避け目的だったしね~」

 

「ええ。まぁ、そのアーティファクトってのに興味はありますが、必ずしも必要かと言われると」

 

「そうだ!仮契約屋で魔法陣だけ買うってのは?暇な時、解析してもいいし。気が変わったらすればいいだし」

 

「そうですね、それでいいのかもしれません。問題は……」

 

そこで二人は横島の方に目を向ける。そこには、ぼーっと窓の外を眺める横島の姿があった。

 

「横島さんが納得してくれるかですね。もし、契約方法がキスだなんて知られてしまったら……」

 

何を想像したのか、頬を朱く染める二人。しかし、そのすぐあとにはげんなりした顔になる。

横島とのキスを想像して頬を染めたのだが、想像の中の横島は鼻息荒く唇をタコのように突き出して迫ってきた為、げんなりしたのである。

 

「無理。アイツとのキスは不意打ちじゃない限り、笑い話になりそう」

 

「そうですねー。鼻息荒いですし、タコだし」

 

あくまで想像の中でのことなのだが、現実でもそうなると予想している二人である。なにせ、全く同じ想像をしているのだから、現実もそうなる可能性は高いであろう。

 

結局、二人は魔法陣を購入することにする。勿論、横島を置いてだが。

 

 

 

 

 

メガロメセンブリアにある旧世界と魔法世界を繋ぐ、ゲート施設内部に旧世界から転送されてきた一団の中にある男の姿があった。

 

「さて……と、予定より一日程早く着いたけど」

 

その男は、白いスーツ姿でタバコを口に咥え呟くと、懐から一枚の紙を取り出し、その内容を確認しながら外へ向かって歩き出す。

 

(目的の三人は、麻帆良に居る未来があることから、亜人ではないか、混血だろう。純血の亜人は魔法世界は出ないしね。それで、外見的特徴は……と、男が黒髪で頭に赤いバンダナを巻いてて、ジーパンにジージャン?やけに古いファッション……いや、こっちじゃそうでもないのか?それで女性の方が……)

 

「赤毛の女性と、金髪のナインテール?……ナインテールって?」

 

 

そのまま、男の姿は街の雑踏に紛れるのであった。

 

 

 

 

――横島たちがメガロメセンブリアに到着する前日のことである。

 

 




色々考えましたが、このまま続けることにしました。

次にご報告ですが、小竜姫の麻帆良での立場が決定しました。

タマモと同様に、クラスメイトとなることに相成りました。
アンケートにご協力頂きありがとうございます。

仮契約屋で魔法陣が購入できる、封印の箱(正式名称は不明。原作でネギたちの武器を封印していた箱)には専用の呪文が必要である。これらは作中内での設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。

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