道化と往く珍道中   作:雪夏

15 / 59
様々な要因で見知らぬ土地に転移した横島たち。彼らのこれからは……?

一言:文珠を要らないと言う人間はいるのだろうか。



その4 横島くん情報を集める

 

 

 

 

 

 

 

小竜姫の説明から数日後。

 

横島たちはある村の中を、村の外へ向かい歩いていた。横島はその背に三メートルはある巨大な物体を背負っている。

 

 

「いや~、ボロい商売やったな~。角を切るだけでお金が貰えるなんて」

 

「そうね~。こっちがちょっと霊力開放すれば相手はビビって抵抗しないし、角を切ってしまえば別に殺す必要もないし。しかも、切った角は高値で売れるっていうオマケつき」

 

 

その背に背負った物体――龍の角――の重みを感じさせない軽やかな足取りの横島が、その頭上に陣取るタマモ(Ver.狐)と会話をしている。その横では、小竜姫が不満気な顔つきで歩いている。

 

「不満気っすね。どうかしたんすか?報酬がしょぼかったっすか?」

 

「いえ、ただ……。その……同じ龍の一族として、ちょっと情けないなと……。あの程度の霊波で身動きできなくなるなんて……」

 

「まぁまぁ。小竜姫さまが自分で言ってたじゃないっすか。龍にしては霊力が小さいって」

 

「そうなんですけど……」

 

「しょうがないんじゃない?あの龍は、自分には天敵はいないって感じで堂々としてたわ。きっと、自分より圧倒的に強いヤツにあったことがないのよ」

 

「タマモちゃんの言うことはわかります……。同じ龍の一族ならもう少し抵抗してくれても。あの程度で諦めるなんて」

 

小竜姫としては、人に仇なす龍を討伐に行ったのに、霊波を少し開放しただけで終わったことが気になっているようである。武人としても、同じ龍の一族としても、もう少し骨があって欲しかったという不満があるようである。

 

 

 

そのまま、一同は角を換金できる大きな街へ移動を始める。その道中で、今後についての相談をしていく。

 

「それにしても、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)ね~。本当に別の宇宙っぽいすね。これからどうしましょうか」

 

「とりあえず、この世界について情報を集めたい所ですが……」

 

「そうっすね~。幸い言葉は通じますしね。多分、この世界に掛かっている力のせいだとは思うすけど」

 

「おそらくそうでしょうね。しかし、文字が読めないのは不便ですね。それに、周りに不自然に思われるかもしれませんし」

 

「そこは何とか誤魔化しますよ。いざとなれば、文珠で『理』『解』して『共』『有』しますか?」

 

困ったときの文珠頼りと横島が提案する。小竜姫としては、そのような方法に頼るのもどうかと思うのだが、文字を覚えることを優先するのならその方法が一番早いこともわかっている。小竜姫は武人として、人を導く修行場の管理人として、どうすることが正しいのか葛藤し始める。

 

「まぁ、文字が読めるようになることも大事かもしれないけどさ。何の情報を優先して集めるの?魔法?世界?帰る方法?」

 

「オレとしては、旧世界に行く方法を優先したいな。話を聞く限り、旧世界はオレたちの知ってる地球と大差ないようだし。米を食いたい。あとは、タマモのお揚げさんもどうにかしないと」

 

「……そうですね。帰還については、私に考えがありますし。タマモちゃんの霊力回復のためにも、旧世界には早めに行きたいですね。それに、私もこっちの食事はちょっと……」

 

「そうよ。油揚げの為にも旧世界?っていうのに行くべきなのよ。それまで、アンタの頭からは動かないわよ」

 

「……お前、ただ歩きたくないだけだろ」

 

 

結局、各々の食事事情から旧世界の情報を優先して集めることに決めた一同。他の情報も勿論集めるのだが、魔法がありふれたこの世界では魔法に関する情報は勝手に入ってくるであろう。

 

 

 

 

 

「いや~。意外と簡単に情報が手に入りましたね」

 

街に着くなり、龍角を換金した横島たちは、街中で情報を集めた結果を宿で報告しあっていた。

 

「そうですね。メガロメセンブリア……そこに、ゲートと呼ばれる旧世界と魔法世界を繋ぐ装置があるということ」

 

立派な魔法使い(マギステル・マギ)という人助け集団がいる……胡散臭いわね」

 

仮契約(パクティオー)っていう魔法と魔法使いの従者(ミニステル・マギ)

 

「アリアドネーっていう学術都市がある。仮契約屋ってのがある。人間と亜人、魔獣がいて、南のヘラス帝国ってとこが亜人が多くて、北のメセンブリーナ連合ってのが旧世界出身者が多いと」

 

「あとは、20年程前に戦争があったこと。それを解決したのが紅き翼(アラルブラ)っていう英雄たち……ですか」

 

集めた情報を列挙した後、沈黙する一同。手に入れた情報をもとに、各人がこれからどうするべきかを考えているようである。

 

「う~ん。どうすっかな~。ここから近いゲートは、メガロなんちゃらってところらしいんだが……。立派な魔法使いっていう、胡散臭い奴らの本拠地みたいだしなー」

 

「人間のくせにタダ働き大好き、人助け大好き、正義の塊……なんて、嘘くさいわよねー」

 

「そうですねー。タダで働くなんて……」

 

旧世界に行く手段は判明しだのだが、場所が気になっているようである。

首都、メガロメセンブリア。まさに聖人君子というべき、立派な魔法使いの認定、旧世界への派遣、および旧世界の魔法組織をまとめているという。

横島達にとっては胡散臭いことこの上ない。

 

横島は元々そうであったが、神魔相手に高額な報酬を要求する美神という人間を見てきた小竜姫とタマモにとっても、その聖人君子ぶりは胡散臭く感じるようである。

 

 

 

 

 

「とりあえず、近くまで行ってみますか。それと、立派な魔法使いには気をつけましょう。本当に話の通りなのか疑わしいですし。まぁ、情報操作の可能性が高いとは思いますけど。道中は、引き続き情報を集めながら、お金を稼ぎましょう。メガロなんちゃらの情報と、立派な魔法使い、旧世界の魔法組織についての情報は優先的に……こんなとこですかね」

 

長い沈黙の後で横島が方針を告げる。二人も異論がないのか、黙って頷く。

 

その後しばらく、道中の計画と必要な物資について話し合う三人。しばらくは、この街を拠点としてお金を貯め、一気にメガロメセンブリアを目指すことにする。

 

「それじゃ、方針も決まったことですし。ここらで、一旦解散ということで……」

 

「それは構いませんが……。何処へ行く気ですか?」

 

「そりゃ、魔法世界の美女をナンパに……ハッ!誘導尋問!?ち、違うんです!そ、そう!!情報収集です!ええ、そのついでに綺麗なネェーちゃんとお近づきに……」

 

言い訳をしているつもりで自爆している横島を、ジト目でみる小竜姫とタマモ。二人は目で会話をすると、タマモが子狐の姿に変化する。そのまま、タマモは横島の頭上に飛び乗り、寝そべる。

 

「……確かに、情報はまだまだ不足していますから。情報収集お願いしましね?私の方でも集めてみますから。……タマモちゃん、横島さんのことお願いね?」

 

「任せて。横島がナンパしそうになったら、噛みつくわ」

 

「……マジメに情報集めてきます」

 

あんまりなタマモの言いように文句を言おうとした横島。しかし、彼は口をつぐむとそそくさと退散する。なぜなら……

 

(あの笑顔はアカン。目がかけらも笑ってなかった……。シメサバ丸を持ったおキヌちゃん並みにアカン。文句言ったらズブリって刺される……)

 

小竜姫の微笑みに恐怖を覚え横島。役立つ情報を集めないと刺されるのではと、怯えながら情報収集に励むのであった。

 

 

 

 

 

横島が怯えながら情報収集を始めたころ。旧世界――人間界――魔法組織にて二人の人物が会話をしていた。そのうち、壮年の男性が口を開く。

 

 

「メガロメセンブリアに……ですか?それは、構いませんが理由を聞いても?」

 

困惑しながら問いかける男性に、椅子に腰かけたまま、問われた老人が答える。

 

「うむ。儂が東洋呪術も使えるのは知っておるな?」

 

「ええ。でも、一つしかできないと仰ってませんでしたか?それで、西洋魔術を学ばれて、今では……」

 

「それじゃ。その一つだけできる呪術がな、占術なんじゃよ」

 

「占い……ですか?そう言えば、あの子も占いは好きでしたね」

 

「まぁ、孫のことはいいんじゃ。それで、たまに占っておるんじゃがの……。急に、未来が見えなくなったんじゃ」

 

「見えなくなった……?」

 

男性の問いかけに、どう答えるべきか考え込む老人。やがて、考えがまとまったのか口を開く。

 

「儂が占うのは近い未来、それも大きな出来事じゃなく、小さな出来事だけと決めておるんじゃ。例えば、明日の夕食のメニューとかじゃな。これは、遠い未来になればなるほど的中率が下がるというのもあるが、未来で何が起きるか知っておったら楽しくないからなんじゃが……」

 

「はぁ……」

 

老人の話を静かに聞いている男性だが、話が見えず困惑した声を漏らす。そんな男性の様子など気にも留めず、老人は話を続ける。

 

「そう決めておる儂が……じゃ。……うむ、あれを虫の知らせ、とでも言うのかのぉ。この学園の未来を占ってみたくなったんじゃ。あと、一ヶ月ほどであの子たちも中学生じゃからの」

 

「まぁ、そうですね。それで、その結果が見えなかったのですか?」

 

「うむ。正確にはちと違うが。儂が見えたのは、あの子たちのクラスに入学を予定していない二人がおったこと。その二人が、儂らとあの子たちに変化を与えるということじゃ」

 

「予定していない二人……ですか」

 

老人の言いたいことについて、聞き返しながら考えをまとめていく男性。老人はその様子を満足気に眺め、言葉を続ける。

 

「そうじゃ。そして、その二人は今から一週間後メガロに現れる。もう一人の青年と一緒にじゃ」

 

「青年?その彼も、僕たちに変化を与えるんですか……?」

 

「それが分からんのじゃ。儂が見えたのは、二人の少女があの子たちと教室に居ったことと、彼女らが儂らに変化をもたらすということ。そして、彼女らが青年とメガロに現れるとこまでなんじゃ。そこまで、占うので魔力を消費してしまってのぉ。日を改めて占ってみたら、未来が見えなくなっておったんじゃ」

 

そう言うと、老人は男性に視線を向ける。その視線に含まれた意図を感じ取った男性は、大きく頷くと力がこもった声で返事をする。

 

「わかりました。その二人、もしくは三人をこの学園に招待したいのですね?そして、僕がメガロまで迎えに行くと」

 

「そうじゃ。君には苦労を掛けるが、魔法世界(向こう)の人間を連れて戻るには、君の知名度、実力が必要なんじゃ。頼めるかのぉ」

 

「大丈夫です。ただ、迎えに行く前にあの子の所に顔を出して来てもいいですか?」

 

「迎えに行く前なら構わんよ。あとで、迎えに行く三人の特徴をまとめて物を届けさせる。相手がすんなりとこちらに来てくれるかまでは分からんし、トラブルがないとも限らん。危険を伴うこともあるじゃろうが、頼んだぞ」

 

「任せてください」

 

 

 

 

――旧世界と魔法世界。二つの世界で、運命の歯車が回り始める。

 

 

 

 




方針決定回。それと同時に、旧世界でも動きがあったようです。最後に出てきた二人は一体誰なのか。それは、本格的に登場するまで秘密です。ええ、バレバレでも秘密なんです。

因みに、時系列は原作開始前。また、先の話ですが、小竜姫とタマモは麻帆良では偽名を使います。ただ、単純な偽名なので他作品で使用されていないかが心配です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
また、活動報告にもアンケートなどを記載しております。宜しければ、ご協力の程お願い致します。タイトルに【道化】とある記事が関連記事となります。

では次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。