一言:好きなGSキャラは横島です。
老師が語るには、魂の殻を破った横島は下級神魔並の霊力を得るとともに、魂の器が拡がっているそうである。そして、今の状態ならば、多少霊体を失っても影響はないそうなのだ。
「本当に大丈夫なんすか……?」
「うむ。問題ない。それにこの方法で得た霊体と、お主が持っておるルシオラの霊波片。これを合わせれば、ルシオラを復活させることもできるかもしれん」
「マジっすか!!アイツが……!!」
「そうですよ!足りないのは僅かな霊体ですから……。きっと!!」
「まぁ、やってみんと分からんがのぉ。ベスパと違って大部分を失っておるからのぉ。横島から取れる霊体次第では、魂を復活させるだけで精一杯かもしれん」
「それでも、確実に魂は再生するんすね?」
「ええ……確実にルシオラさんは転生できます」
「そうすっか……。ってことは、ルシオラとあ~んなことや、こんなことも……?」
いつものように軽い発言をする横島だが、その目の端には涙が溜まっていた。それを認めた小竜姫は、反射的に振り上げた神剣を静かに下ろす。
「まぁ、魂が回復して意識が戻るまで大体十年くらいか?体の再生に関しては何とも言えん……専門外じゃしな。それに魂の補填はできるが、体を再生できるほどの霊体は取れん」
「そ、そんなにかかるんすか……?だってベスパは……すぐに大きくなって」
「あやつは自分の分身である眷属を回収したから、あんなに早く再生出来たんじゃ。魂も眷属に分けておったんじゃろ?」
「そうですね。彼女の場合は、その為にすぐ復活することができました。その点、ルシオラさんの場合、魂の大部分は霧散していますから」
「そうっすか……」
「ま、そういうことで霊体を貰うぞ?少しばかり痛いじゃろうが、我慢せい」
「え~と……優しくしてね?」
横島がバカなことを言っているうちに、老師の手により霊体が削られる。その瞬間、横島は自分の体の中から消えゆくルシオラを確かに感じた。
「ま、こんなもんじゃろ。あとは、外に待たせているジークに任せるとしよう」
「……って、まだジークのやつ居るんすか?パピリオを魔界に連れて行くとかで、魔界に行くのを見送りましたよね……?」
「これから行くんじゃ。まぁ、次に会うのはルシオラが復活した頃かのぉ。その頃には。パピリオも多少は成長しとろうて」
何でもないことのように言う老師。小竜姫の方を見ると、彼女も知らなかったのか驚いている。すぐ戻ってくると思っていた弟子が、そうではないと知って驚いているのだろうと横島は思った。しかし、そうではなかった。
「老師……?ジークさんもパピリオも知ってたのに、私だけ知らなかったんですか?」
「まぁ、元々ジーク経由の提案じゃからのぉ。パピリオはついでじゃ」
「そ、そんな……」
何やら落ち込む小竜姫を慰めるべきか、ジークに礼をいいに行くべきか悩む横島をおいて、老師はルシオラの霊体を持って、外へ向かう。横島が小竜姫を立たせて、外に向かうと既にジークたちの姿はなかった。
「挨拶もなしに行きやがった……」
やや憮然とした態度で言う横島に、老師は早く魔界に行かなくてはならなかった理由を告げる。
「挨拶ならしたではないか。修行前に。それにここは神族の修行場。小さな霊体の状態で過ごすには向かんからの。早く魔界に行く必要があったんじゃ」
その説明を受けて、裸で南極にいるようなものかと納得する横島。うんうんと頷く横島に、老師はまたもやさらっと告げる。
「おお、そうじゃ横島。修行前よりちょっとはマシ程度に霊力は減っておるからの。もう下級神魔クラスの霊力は無理じゃ」
「……へ?マジっすか?」
「マジじゃ」
「どうしてくれるんじゃー!!美神さんに殺されてまうやんけー!!何も変わってないなんて言ったら……いやー!時給下げんといてー!!」
何を想像したのか、パニックになる横島。美神本人が聞いていたら、激怒しそうな言葉を続けざまに言い放つ。
横島が脳内で美神に折檻されていると、その間に立ち直った小竜姫が老師に説明を求める。一度は下級とは言え神魔クラスになった霊力が消えた理由を。もう一度、その境地にたつことはできないのかと。
老師は仕方ないといった態度で部屋で説明すると告げると、転げまわっていた横島を引きつり中へと入る。小竜姫も慌ててその後を追う。
「霊力が戻った理由は簡単じゃ。修行で拡がった魂を削ったんじゃ。魂の器が小さくなれば、霊力もそれ相応に減るのは道理じゃ」
「ああ、そうですよね。そうでしたね……せっかく、横島さんが神魔並の霊力を持ったのに……」
「どういうことっすか?さっきは霊体を削ったんであって、魂は関係ないんじゃ?」
納得する小竜姫と理解していない横島。小竜姫は横島にも理解しやすいように、先ほどの説明を言い換える。
「厳密に言うとややこしいんですが、簡単に言うとですね。魂=霊体です」
「また、えらい簡単になりましたね」
「まぁ、ざっくりと言ったらです。それとも、詳しく説明しますか?「いいえ!結構です!!」……そんなあっさりと。まぁ、いいです。それで、魂の大きさが霊力の強さに直結するってのは知ってますよね?」
「まぁ、大体は。つまり、修行でオレの魂は神魔並みに大きくなっていたと」
「そういうことです。普通はありえないんですよ?横島さんに魔族の霊体が混じっていたから出来たことです」
「ああ、そういうことっすか。さっきので、魔族の霊体を削ったから、元の人間並の霊力に戻ったと」
「はい。そういうことです。それに、先ほど魔族の霊体部分をごっそり削りましたからね。もう一度、神魔並の霊力っていうのは無理でしょうね。それほど、人間と神魔では魂の大きさが違うんです」
そこまで聞いた横島は、大きくため息を吐く。一度は手にした時給アップのチャンス。ルシオラの復活と天秤にかけるものではないが、惜しいと思うのは仕方ないことであろう。
「まぁ、そう落ち込まないでください。それでも、一度は拡がった魂です。神魔並は無理でも、大妖怪と言われるレベルは可能な筈ですから。勿論、修行したらの話ですが」
「大妖怪っすか……。まぁ、霊力はどうでもいいんです。いや、あんま良くはないけど……。ただ、このままじゃ美神さんに殺されちまう」
大量の涙を噴出させながら言う横島に、美神の苛烈さを知っている小竜姫は乾いた笑いを浮かべるのであった。
結局、美神と約束したタイムリミットが来てしまった為、妙神山を下山することになった横島。小竜姫と老師、ついでに鬼門に見送られるその姿は、何処か哀愁が漂っていた。
「それじゃ、小竜姫様、老師。また近いうちに顔出しますね。ルシオラのことがありますし」
「まぁ、一年くらいは変わらんとは思うがの。ま、修行なら歓迎するぞ?今度は儂が鬼をやってやろう」
「……遠慮しとく」
大猿となった老師に追われる自分を想像したのか、横島は引きつった顔で断りを入れる。そこに、小竜姫がお札をもって横島の前に進み出る。
「横島さん」
「小竜姫様……。大丈夫です。男、横島すぐにアナタに会いにきますよ!!」
いつものように、小竜姫の手を掴みカッコつける横島。微妙に様になってないのもいつも通りである。
ただ、この日は少々違った。小竜姫が握り返して来たのである。
「私考えたんです!横島さんの才能を埋めておくのは勿体ないと!!」
勢いよく身を乗り出してくる小竜姫に、横島は落ち着かない。この男、自分が迫るのはいいが、迫られるのはダメなのである。
「ちょ、落ち着いてください!」
「でも、妙神山は遠いですし、横島さんにも都合があります。此処に留まることも、通うことも難しいでしょう……。そこで、このお札です!!」
小竜姫が差し出したのは、妙神山とデカデカと書かれたお札。よく見ると、高度な術式が組まれているのだが、書かれた文字の大きさがお札の凄さを打ち消している。
「これは……?」
「はい!それはですね!何と、私の部屋にある転移陣に直接転移できるんです!!それに、その札があれば、私が妙神山から札のある場所まで転移することも可能になるんです!!あ、私が不在の時や、夜中は私の部屋に転移はできません。その場合は、鬼門の前に転移しますから」
「それって、最初から鬼門の前でいいんじゃ……」
横島の言うことも最もである。小竜姫が部屋にいる時間は、一日のうちのほんの数時間程度なのだ。その内、夜中もダメとなると部屋に転移させる意味はないと思うのもしょうがないことである。
そんな横島の指摘など気にしていないのか、ハイテンションで小竜姫は続ける。
「つまりですね!この札を使って私のところに来てください!!私も遊び……じゃなかった、用事があるときはその札を通して伺いますから!!二枚差し上げますから、一枚は横島さんの部屋の壁に貼って、もう一枚は肌身離さず持っていてくださいね!!」
「……はぁ。分かりました」
小竜姫のテンションの高さに押し切られる形となった横島。内心混乱しながらも、横島はそのまま下山していくのであった。
……鬼門に声をかけることなく。
「泣くな……右の」「お前もだ……左の」
「はぁ~、緊張しました。でも、これで横島さんの傍にすぐ行けますね。早速、今夜にでもテストがてら転移してみましょうか。ルシオラさん……。アナタが復活するまでの数年、その間に……横島さんと……」
ブツブツと呟きながら、足早に敷地内へと戻っていく小竜姫。その背中には、炎が燃え盛っているように見える。それを眺めながら、老師もゆっくりと敷地内へと戻るのであった。
「ルシオラが復活すると分かって、追い詰められたか……?しかし、部屋と繋げるとは小竜姫も逞しくなったのぉ。これも横島の影響かの……?いや、美神か」
妙神山から戻った横島は、早速部屋の壁にお札を貼り付けると、夕飯の買い出しに向かう。確かにストックしていた筈のカップ麺が、全滅していた為である。おそらく、雪之丞の仕業であろうとあたりをつけ、雪之丞への仕返しを考えながら向かう。
「雪之丞め。キツネうどんまで食いやがって……。切らすとタマモがうるさいってのに……フフフ、おキヌちゃん経由で弓さんにあることないこと吹き込んでやる」
雪之丞にとって物騒なことを考えながら、歩く横島。
既に日は暮れており、人通りも少なく、歩き慣れた道が何処か違って見える。立ち止まって見る景色も何処か悲しい。そんな感傷に浸りながら、横島は独り言をこぼす。
「あ、今のオレかっこいい?」
いろいろ台無しだった。
「いやー、キツネうどんが安くてよかった。本当」
スーパーでの買い物を終えた横島は、家路を急ぐ。そんな横島に、声をかける人物が。
「横島!」
「ん?タマモ……とひのめちゃん?何で外に?隊長は?」
振り返った先に居たのは、赤子――ひのめ――を抱きかかえた少女――タマモ――である。
「美智恵なら、そこのスーパーに行ったわ。私は車で待ってたけど、アンタを見かけたから」
「そうけ。こんばんは、ひのめちゃん。お兄ちゃんだよ~」
横島は二人に近づくと、ひのめを覗き込み挨拶する。ひのめは横島に笑顔を向けながら、その両手を伸ばす。タマモからひのめを受け取ると、横島はペチペチと叩いてくるひのめに笑いかけながら、タマモに尋ねる。
「そういや、美神さんたちはどうした?一緒じゃないのか?」
「美神たちは仕事で青森って言ってたわ。私は子守で残ってて、美智恵が夕飯に美味しいお稲荷さんをご馳走してくれるって……」
「よだれ垂れてんぞ……。ったく、こっちは今からカップ麺だっつーのに。イタタッ、ひ、ひのへひゃん、ひゃなひふぇ」
「ほ~ら、ひのめそんなヤツの口を引っ張ったら汚いわよ~。ほら、はなす」
タマモに言われたからなのか、横島の口から手を離すひのめ。しかし、横島の顔を叩くことはやめない。
「にぃ」
「本当、ひのめはアンタがお気に入りみたいね~。やっぱり、玩具って分かってるのね」
「おい」
タマモにジト目を向ける横島であったが、本人も薄々そうではないかと思っていた為言葉に力はない。そこに、スーパーから美智恵が出てくる。彼女は、横島と横島に抱かれた愛娘を見つけると、笑顔で近寄る。
「こんばんは、横島くん。あら~、良かったわね~ひのめ。大好きなお兄ちゃんに抱っこされて~」
「こんばんはっす、隊長。タマモに聞いたっすよ~今から寿司なんですって?いいですね~」
そう言いながら、チラチラと美智恵を伺う横島。その分かりやすい態度に美智恵は苦笑する。
「ふふ、まぁ、ちょっと違うんだけどね……。良かったら、横島くんも来る?タマモちゃんも構わないわよね?」
「ええ~。しょうがないわねぇ。言っとくけど、お稲荷さんは私のよ!!」
「いや、オレは関東のお稲荷さんはちょっと……うまいんやけどなぁ、中がアレやないと違和感が……」
「何それ?ま、いいわ。早く行きましょ!!お稲荷さんが私を待っているわ!!」
「よっしゃ!これで一人寂しくカップ麺を啜らんですむ!!しかも、おごり!!」
横島の言葉に疑問を持つが、稲荷寿司を取られないことが分かったタマモは安心する。横島も一人寂しくカップ麺をすすることがなくなり、一安心といったところである。まぁ、美智恵は横島にもご馳走するとは言っていないのだが……
一同はタマモに促されて車へと向かう。全員が乗り込むと、車はゆっくりと走り出す。当然ながら運転手は美智恵であり、タマモが助手席に、後部座席に横島とひのめ。勿論、ひのめはチャイルドシートであり、時折、横島があやすかのように指を差し出すとそれを掴もうと手を伸ばす姿が愛らしい。
「ところで、横島くんは妙神山に行ってたんじゃ……?」
「ええ。さっき下山したところでして。美神さんが、夜までに帰ってこいって言ってたんで。何か仕事行っちゃったみたいっすけど」
「ああ、急遽払いのいい仕事が入ったとか言ってたわね。それで、修行の方はどうだったの?」
「あ~、鬼ごっこしてました。おかげで、少しだけっすけど霊力が上がりました」
「へ~。良かったじゃない」
軽く相槌をうつ美智恵だったが、その内心では考えを巡らせている。
横島の霊力量――マイト――は、修行前の時点で世界最高クラスであった。その数値は――約120マイト。成人男性の平均が5マイト、国家資格であるゴーストスイーパー試験の最低合格ラインが40マイトであることからもわかるように破格の霊力量である。更に、100マイトを超えるものは
(本当優秀なのよね……ひのめも懐いているし……今からでもオカルトGメンに引っ張れないかしら。本当、令子の事務所は人材が豊富すぎよ!!
「フフフ……」
不気味な笑みを浮かべる美智恵にビビる一同。それは、目的地に着くまで続くのであった。
食事を終えた一同はお店の前で解散しようとしていた。車に乗り込んだ美智恵が、歩いて帰ると言う横島に話しかけている。
「本当に乗せてかなくていいの?」
「大丈夫っすよ。食い過ぎたっすからね。腹ごなしに歩かないと……で、なんでお前はオレの頭に乗ってる?」
横島の言うように、タマモはその本性である『
「美味しかった~。人間ってどうしようもないけど、お揚げさんと娯楽だけは認めてあげてもいいわ」
「おい、聞けよ!!」
「ふふ。今日はそのまま横島君のとこで預かってくれない?令子たちは今日は帰ってこないし、事務所に一人よりはいいでしょ。家でもいいけど、ひのめがね……。今日は疲れてるでしょうし、ゆっくり休むのには向かないから」
「はぁ……。まぁ、この姿なら場所も取らないんでいいですけど……」
「じゃ、お願いね。……襲っちゃダメよ?」
「襲いませんって……」
最後に一言添えると美智恵は走り去る。残された横島は、ため息を一つ吐くと家へと歩き出すのであった。
「ほれ、降りろタマモ。着いたぞ~」
「う~ん……。軽い頭を重くしてあげてるんだから、このままでいいじゃない」
「アホなこと言うなや。オレが寝転がれんやろが……ったく」
「気にしない、気にしない。……ん?ねぇ、横島?」
帰宅した横島が、頭に乗せたタマモに降りるよう声をかけるが、タマモは降りるつもりはないようである。横島は言っても無駄と思ったのか、買ってきたカップ麺を買い物袋から取り出そうとする。すると、何かに気づいたタマモが横島に声をかける。
「なんじゃい。これはオレの貴重な食料やからやらんぞ?」
「違うわよ……いや、お揚げさんは欲しいけど」
「まぁ、揚げだけなら考えんでもないが……。で、なんじゃ?」
「その霊符は何?凄い霊力を感じるんだけど……。あと壁のも」
タマモが気になっていたのは、小竜姫から貰った転移札であった。流石は、妖狐。霊符に込められた霊力を感じ取ったらしい。
「これか……?これを使えば、妙神山と行き来ができるんだと」
「へぇ~(嗅いだ事がない女の匂いがする……)」
自分で聞いたのに興味なさげに答えるタマモに、横島は何か文句を言う為に口を開く。しかし、横島が文句を言うことは出来なかった。横島がタマモに見せる為に手に持っていたお札――転移符――が強烈な光を発し始めたからである。
「「「……へ?……イダッ!!」」」
光が収まった時、部屋の中に横島たちの姿はなかった。後に残ったのは、普段通りの部屋と――
――力を失った転移符だけであった。
世界移動開始。横島たちはどうなるのか。一体何が起きたのかは、次回判明します。
当分、説明が多い回が続きますがお付き合いください。ある程度解消しておきたいので。小竜姫について、神魔について、宇宙意思についてなど。
また、考察を含めた独自設定集を投稿しております。設定集はその内、分割します。
次回、横島くん驚愕する に続きます。