腰抜けハンター奮闘記   作:重さん

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第8話

「・・・こんなところかな」

 ひと段落したところで、マキリはふっと息を吐いた。

 肩の荷が下りた気分だが、今の自分の状態が一層自覚されて、むしろ気は重くなった。

 数年かけて、元の状態まで、ドスファンゴ程度を狩れる程度までは実力を戻し、最低限の活動を出来るようになった。

 しかし、身体が成長したにも拘らず狩猟にかかる時間は昔とどっこいどっこいだ。安心して狩れるのは、この二年間一度も怪我をせずに狩ることが出来ていたガウシカくらいなもので、他のモンスターを相手にするときには心臓の鼓動数は急激に跳ね上がる。

 そして、それは二年たったところで収まることはなかった。

 限界まで身体を稼働させ、敵の攻撃範囲から逃げ、僅かなスキを突く。変わったのは紙一重で躱していたものを確実に躱せるように間合いを取る習慣がついたことくらい。

「・・・なるほど。あー、一応聞くが、あれだよな。今は両親のことは」

「二年も経てば折り合いもつくよ」

「だな。じゃあ、特にそこらへんは気にせずに行くぞ」

 ホイレンはごほん、と下手な咳払いをして仕切り直す。

 マキリもまた茶々を入れずに言葉を待つ。

「・・・ま、お前が臆病者じゃなかったってのは実のところ、意外じゃなかった」

「え?なんで?」

 マキリが尋ねれば、ホイレンは面倒くさそうに説明する。

「だってお前、明らかに行動と態度があってねえし。轟竜にやられそうになった時も一応、冷静は冷静だっただろ。じゃなけりゃ肥し玉使うなんてことはできねえよ」

 死にそうなときに冷静な臆病者とか、わけわかんねえしな。ホイレンはそう呟きながら、頭をガシガシと乱暴に掻いた。

「・・・まあ、お前が戦いたがらない理由も、嬢ちゃんに従ってる理由もわかった。わかったが」

 ホイレンはそこで言葉を区切り、ため息交じりに、マキリから目を逸らしてそっぽを向いた。

「あれだな。弱みは弱みでも惚れた弱みだったな。悪い」

「・・・あの、そう言われると急に恥ずかしくなってくるんだけど」

「聞いてるこっちはもっと恥ずかしい。何が悲しくて十代の赤裸々な恋愛事情を語られにゃあならんのか」

「待った。ちょっと待った」

「お前結局格好つけたいだけか。いや、良いんだぜ、別に。ただハンターって女の子受けは良いけど大人の女にはあんまり好まれなくてだな」

「話の重要なところはそこじゃねえだろ!」

 マキリは顔をこの上なく赤くさせて、ホイレンに怒鳴り散らす。ただ、ホイレンの顔には底意地の悪い笑みが張り付いていた。

「いやあ、本当に悪いなあ。そんなつもりじゃなかったんだよ。お前が何か弱み握られてるんだったら俺が何とかしてやろうと思ってたんだがな?そんな事情だったら首を突っ込むのも野暮ってもんだよなあ。馬に蹴られて死んじまうよ」

「・・・・・・・・・・」

 赤い顔は恥ずかしさか、それとも憤りからか、それは分からないものの、マキリは顔を下に向けて肩を震わせていた。どうやら、よほど効いたらしい。

「・・・くそ、話すんじゃなかった」

 引かれることも反応に困られることも覚悟していたが、まさか一転攻勢をかけられるとは思っても居なかった。

 つくづく、この男は自分の予想を超えていく。

「・・・ま、でも確かに、お前にとっては結構絶望的な状況ってわけだ」

 ホイレンは瞬時に表情を真剣なものへと切り替えると、本題を切り出した。

「トマリの嬢ちゃんの言葉をまともに受け取れば、まあお前自身が嫌いだしハンターも嫌いだし、でもハンターをやってないお前を見るのはもっと嫌いってな論法だな。どこをどう直せばいいのやら全く分かんねえって感じだ。正直役満だな。あきらめた方が吉だ」

 ホイレンが肩を竦めるのを見て、マキリは肩を落とす。

「・・・だよね」

 マキリも二年間。ずっとそう考えてきたが、打開策が見いだせずにいた。この話を聞いたばかりのホイレンに解決できるなどという考えは甘すぎるのだろう。

 露骨に落ち込んだマキリを見て、ホイレンは珍しく苦笑いを浮かべる。

「ああ、だが、慰めるわけじゃないが世の中わかんないことの方が多い。可愛さ余って憎さ百倍って言葉があるだろ?」

「・・・追い打ち?」

「ちげえよ。憎さ余って可愛さ百倍ってこともあり得るんだよ。実例がある」

「・・・え?マジで?」

「マジマジ。俺が知ってるやつはハンターの夫婦で、昔は会えば毒殺撲殺斬殺となんでもござれだったが、今は周りがうんざりするくらいのおしどり夫婦だよ。二人揃うと会話が成立しなくてイライラする・・・っと、今はどうでもいいな」

 ホイレンは言葉を区切ったが、マキリは地味にその夫婦が気になる。一体何が起こればそんな事態が起こりうるのだろうか。ご教授願いたい。

「あのさ、その夫婦ってどうやってそこまで持って行ったの?」

「二人して古龍の夫婦に遭遇して命辛々逃げ延びた。そしたらいつの間にか好きになったらしい」

「・・・そうですか」

 ホイレンはなんてこともなさそうに言うが、マキリからしてみれば何を言っているのか理解が出来ない。

 古龍の夫婦?遭遇して逃げ延びた?いつの間にか好きになった?なんじゃそりゃ。

 理解不能にもほどがあった。マキリが遭遇したなら一体だけでも逃げ切るのは不可能だ。

 どうやら自分には適応できそうもない。マキリはそう結論付けて、今の話を頭の片隅に押しのける。

「しっかし、アイさんはそんなこと感じさせなかったけど、知らないのか?」

「トマリから聞いてるのかもしれないけど、僕は知らない。それに、みんなは僕たちの雰囲気が変わっても態度が全然変わらなかったんだ。だから、僕たちに干渉しないようにっていう暗黙の了解でもあるんじゃないかな」

 マキリが臆病になってから村人たちの話題にマキリとトマリに関するからかいがなくなったことが何よりの証拠だ。明らかに触れようとはしていない。気を遣われている感覚がひしひしとして、マキリとしてはあまり好きではない。が、気を遣われている以上それを無下にするのも気が咎める。どうにも面倒な状況だった。

「・・・ま、そりゃそうか」

 ホイレンは静かに呟き、顎に手を当てて、少しだけ唸った。ホイレンが考え事をするときは、大抵このような格好をする。マキリは考え事が終わるまで待つことにした。

 と、気が付けば、外に響いていた風の音が消えていた。どうやら天気が回復したらしい。

 明日雪山に行けるかどうかは雪山の様子を見なくてはならないが、今年は比較的天候が良い。どうにかなるだろう。マキリは勘と少しの願望を込めて予想した。

 考えているうちに、ホイレンは姿勢を戻していた。考え事が終わったらしい。マキリもまた姿勢を戻し、ホイレンに向き合う。

 ホイレンはうん、と一度頷いて、マキリに向かって笑いかける。

「明日、稽古するか」

「・・・はい?」

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?なんでオッカイが居るの?」

 翌日の朝、マキリがホイレンとの稽古のため訓練場に行くと、そこにホイレンはおらず、代わりにオッカイがいくつかの武器が置かれた木箱の前で仁王立ちしていた。

 オッカイは目を閉じ、そっと息を吐き出した。呆れているような仕草だ。

「・・・今日の朝、ホイレンに来いと言われてな。武器を使うから調整しろと」

「え、それで来たの?わざわざ?」

「ああ、あいつは遠慮というものを知らんのか。殴ってやろうかと思った」

「じゃあ、なんで来たの?断ればよかったじゃない」

 マキリがそういえば、オッカイはマキリの顔を見て、再びため息を吐いた。

「・・・協力するといった手前、そういうことも出来んのだ」

「協力?何に?」

「お前は知る必要のないことだ。それよりも、早くこっちに来い」

 オッカイはそう言って会話を打ち切る。そして、マキリを手招きして木箱の前に立たせた。マキリは首を傾げたが、知る必要のないことというのであれば必要ないのだろう。そう思い、疑問ごと頭の中から消去した。

 そこにあったのは大剣をはじめ、太刀、ランス、ガンランス、ハンマー、双剣、片手剣と言った遠距離武器を除いたほとんどの武器だった。全て初心者用と呼んで差し支えないものではあるが、持ってくるのはそれなりに大変だっただろう。

「これからこいつらをお前用に調整する。少しこいつを握れ」

 オッカイはそう言いながら、マキリに粘土のようなダンベルのようなものを渡した。何とも言い難い形状をしたその道具は、マキリの手の大きさを図るためのものだ。

「・・・今更、これ必要なの?」

「一応だ。万が一があるなど俺が許せん」

 流石、職人気質。マキリは心の中で呟くと、その道具を握り、オッカイに渡した。

 それをもとにオッカイはあっという間に柄の太さを調整していく。調整の仕方は布を巻くといった簡素なものだが、それでも他人の手の大きさに合わせるにはそれなりの経験が必要だ。

「お、やってるやってる」

 その調整が終わるころ、ホイレンはやってきた。

 その恰好を見て、マキリは呆れる。

「・・・寒くないの?ホイレン」

「ホットドリンクを飲んできた。それに、マフモフってモフモフしてるから動きにくいんだよ」

 ホイレンの格好は、上下にインナーを着ただけの姿だった。正直、ハンターでなかったなら不審者として通報されてもおかしくない。

 ホイレンは背中に大剣を背負っていた。間違っても狩りをする姿ではないが、武器を振るだけならばそれでもいいだろう。

 つまり、今日は武器を振るだけということらしい。

「・・・あのさホイレン。なんで、稽古なんてするの?」

「もやもやしたもんを吹き飛ばすには運動するのが一番だ。そうだろ?」

「・・・まあ、否定はしないけど」

「だったら、とりあえず運動して気晴らしするに限る。というわけで稽古すんぞ」

 理屈が通っているような通っていないような、マキリは納得しかねていたが、納得しようとしなかろうとホイレンには関係ないということに気付くと考えるのを辞めた。

「で、稽古って何をするのさ」

「単純にお前が武器を振って、俺が動きの悪い点を指摘するくらいだな。まあ、今日は気晴らしが主な目的だからそんなに口うるさくするつもりはねえさ。あ、俺もちゃんと振るぞ。たまには別の武器も振ってみねえとな」

 マキリはふと思う。これは、普通にハンターのやることではないだろうか、と。

 僕はこれからハンターをやるつもりはないのに、こんなことをやる必要はないのではないか、と。

「・・・あの、気晴らしだったら農場に」

「俺が気晴らし出来ねえから却下」

 極めて自分勝手な理由だった。しかし、マキリが農場を提案した理由も自分勝手なので反論する気にはならない。

「じゃ、まずは大剣から行ってみるか。まあ、問題ねえとは思うけどな」

「そういうの、プレッシャーになるからやめてくれないかな」

 マキリは並び立つ武器を見て、そっと、誰にも聞かれない程度に呟く。

「・・・手を抜くの、好きじゃないんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 トマリは窓から外を見て、ほっと息を吐いた。

 窓枠からはフラヒヤ山脈が一望できる。昨日の嵐の名残らしき黒雲が遠くに見えるが、山の美しさに水を差すほどではない。

 薄汚れた自分の部屋から目を外すには、遠くにある山は絶好の的だった。

「・・・今日は、どうしようかな」

 仕事は昨晩終わらせた。アイに頼まれた分も、オッカイに頼まれた分も、既に作ってあるしここから一週間ほどは急ぎの仕事もない。

 要するに、トマリは暇だった。

 ちらり、と自分の本棚に目を向けるが、そこにあるのは表紙が擦り切れるほどに読み込んだ参考書だけ、間違っても娯楽本など置いていない。

 そういったものは、昔すべて処分してしまった。

「・・・どうしよう」

 道具屋にでも行って、何か面白いものでもないか見てこようかな。それとも、ポッケ農場に行ってコジロウと遊ぼうかな。

 でも、今日は狩りに行かないみたいだし、たぶんマキリも居るだろうな。

 そう思うと、ポッケ農場に行くという選択肢は自然と消える。

「うん、道具屋かな。やっぱり」

 もしかしたら新しい参考書も入荷しているかもしれない。そんな期待と共に、トマリは椅子から立ち上がった。

「トマリ?起きてる?」

 そこに、母、カリンの声が聞こえてきて、トマリは出鼻が挫かれたように感じられた。わざわざ自分を呼ぶということは、何かしら用事があるのだろう。

 途端に憂鬱になった。例えるなら、自分から勉強しようと思っていたときに母親に勉強しろ、と言われるときと同じような感覚だった。今まで暇で何もしていなかったのだから何かをすることは構わないはずなのに、決心してからすぐに別の用事を言い渡されると、なんとなく、やる気がうせる。

「起きてるよ」

 だからと言って返事をしないわけにもいかず、トマリは元気に、けれど少しだけ不満を混ぜて返事をした。しかし、カリンはそんな微妙なニュアンスを気にした様子はなく、部屋に入ってきた。

「トマリ、ちょっと料理手伝って。ってあんた、もうちょっと掃除しなよ」

「これはみんな必要なの。しっちゃかめっちゃかに見えるかもしれないけど」

「まさしくそれね。ま、必要ならいいわ。さっさときて」

 カリンはサバサバと会話を打ち切ると、キッチンへと向かっていった。自分の母親ながら、その自由奔放なふるまいには辟易させられる。

 自分も、あれくらい自由に振る舞えたらなあ。

 トマリは、密かに父親似の性格を疎ましく思いながら、ため息を吐く。

「・・・マキリ、多分、農業やってるんだろうな」

 その光景は、容易に頭の中に像を結ぶ。

 真剣な表情で、コジロウと共に農業に勤しむマキリ。釣りをして、大物を釣り上げたときに仄かな微笑を浮かべるマキリ。ピッケルを使って岩肌を削り、石ころしか出なかった時の落ち込むマキリ。

 そのすべては、長い年月を共に過ごしてきただけあって確かなリアリティをもって再現できる。

 そして、その行為をするたびに、トマリは自分の心の中に言いようもない苛立ちを感じるのだ。

「あーあー、ダメだダメ」

 トマリは自分の頭をぶんぶんと振り回し、頭の中の像を振り払う。

 自分の頭の中に浮かんだ黒い、沈んだ感情を踏みつぶし、粉砕し、息と共に吐きだす。

「しっかりしなきゃ」

 トマリは自分に喝を入れて、カリンの後を追った。

 だから、窓から見える雪山が再び暗雲に覆われるのを、トマリが見ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃音が訓練場に轟いた。

 煙を出しながら次弾を装填するガンランスの挙動はそれなりに素早く、リロードした後の攻撃もそれなりに鋭かった。

「へえ、やっぱり様になるな」

「ああ。だが、やはり所々に挙動の乱れがある」

「基本は抑えてるんだがな」

 ホイレンとオッカイはマキリの挙動を見て、それぞれの意見を出す。その意見は程度の差こそあれ、マキリがそれなりの動きを出来ているという一点においては一致していた。一方では、普通のハンターの域を出ない、とも言っていたが。

 ガンランスは武器の中でも特に扱いが難しいものの一つだ。その理由は、第一に構造が複雑なこと、第二に重いこと、第三に弾薬の扱いも考えなくてはならないこと。おもな理由はその三つだ。

 ボウガンとランスを合体させたような武器である以上仕方がないともいえるが、それにしても複雑な挙動をする。慣れていなければスムーズに動くことは出来ない。

 今のマキリが良い例だった。

 実は、マキリがガンランスを持ったのはこれで二度目だ。

 大剣や太刀、ランスと言った武器は、小さな子供の体に合わせれば振れないことはない。もちろん、幼い身体に掛かる負担は相応のものだ。

 しかし、ガンランスは違う。砲撃の反作用を体で支えられるほどの力がなくてはならない。間違っても子供に扱わせるようなものではない。

 同年代に比べて体格の良いマキリがガンランスを扱える年齢になったのですら十三歳。それも一度触っただけだ。そのすぐ後には両親の死があり、マキリ自身も戦えなくなった。ガンランスの練習などする気もなく、今この時まで触ることすらなかった。

 そんなマキリが慣れる等ということが出来るはずもない。マキリは今手探りで、ガンランスの操作を確認している最中だった。

「・・・ま、それにしても大したもんだ」

「満足したか?」

「ああ、ま、不満なところもあるけどな」

 ホイレンは少しだけ口角を上げると、まだガンランスを振るっているマキリに声をかける。

「おい!マキリ!」

「ちょっと待った。あと少し」

 ホイレンは目を丸くして、マキリを見る。傍らのオッカイは驚いている気配はなく、むしろ懐かしそうにその光景を見ていた。

 そんなホイレンの様子に気付くことなく、マキリは真剣な面持ちでガンランスの挙動を確認していく。バックステップ、突き、突き上げ、砲撃、竜撃砲は先ほど撃ったため使うことが出来ないが、その他の動きを確認すると、マキリはやっと一息ついた。

「お待たせ。何?」

 ホイレンはガンランスを背中に畳んだマキリを見て、怪訝そうな表情をする。

「・・・お前、妙な奴だなあ。ほんと」

「はあ?」

 マキリは訳が分からない、と言いたげに聞き返すが、ホイレンはため息を吐くばかりで答えようとはしない。オッカイに目を向けるが、そちらも肩を竦めるばかりだ。

「・・・なに、いったい」

「なんでもねえよ。とにかく、これで全部の武器を振る作業が終わったわけだが、感想は?」

「別に?まあ、久しぶりに色々と触れたから楽しかったけど」

 特に、今回は普通の、初心者用の武器がそろっていたから何の気兼ねもなく使うことが出来た。もしもアギトのような上級武器だったなら、前任者の教えを気にしていてうまく振るえなかっただろう。

 それを聞くと、ホイレンは「そいつはよかったな」と言って、オッカイに目を向けた。

「オッカイ、あんたから何か言うことは?」

「ない。まあ、片手剣は上達していたな。というくらいだ」

「そりゃあ、二年間はほとんど片手剣しかやってないからね」

 マキリは苦笑いを浮かべながらそう返した。

 しかし、ホイレンは腰に手を当てて、再びため息を吐く。

「・・・何でもかんでもうまく行くもんじゃねえなあ」

 ホイレンのつぶやきを聞いて、マキリはオッカイに目を向ける。オッカイは再び肩を竦めたが、その仕草でマキリはすべてを察した。

 いったい、何故くだらないことを探っているのだろうか。この男は。

 行動原理がいまいちわからない。マキリとトマリの関係に干渉するということもそうだが、武器の熟練度を調べるなどなんの利点があるのか全く分からない。

 しかし、マキリもホイレンにすべてを曝け出す気などない。そこまで時間も重ねていないし、これこそ何のメリットもない。

「・・・んー、よし、それじゃあ偶然、すべての武器の熟練度が大体同じくらいだったってことで、今日の鍛錬はお開きにするかね」

 ホイレンはそう言って、背筋を伸ばす。その表情にあった不満の色は徐々に薄れ、いつも通りの軽い笑みが浮かんできた。

「で、今は昼時だが、お前ら一緒に飯食いに行こうぜ」

「良いよ。オッカイは?」

「俺も行こう。とはいっても、俺は弁当だが」

 マキリとホイレンがオッカイの荷物に目を向けると、確かにそこには布にくるまれた弁当らしきものがあった。

「愛されてるね」

「いい奥さんが居て幸せもんだな、お前は」

 二人に立て続けに妻を褒められ、オッカイは少しだけ耳を赤くしながらそっぽを向く。

「さっさと行くぞ」

 二人より先行するオッカイを見て、ホイレンは笑いながら、マキリは苦笑いを浮かべながら、ゆったりと歩いていく。

 三人が雪山に起こっている異常事態を知ったのは、それから数時間後になる。


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