「なんだ、無事だったんだ」
帰って早々、トマリの言葉に、マキリは肩を落とす。村人たちの反応も似たり寄ったりだ。「おお、無事だったか。まあそうだろうと思った」「お帰り、薬草はとれたかい?」「なんかお前臭いな」「薬草が臭いとか俺嫌だぞ」最後の言葉はあろうことか大工の親父である。
時刻は既に夜。多くの家が仄かな明かりをつけ、夕食の準備をしているところだった。
しかし、マキリはホイレンの肩を借りて村に戻ると、飯も食わずにベッドに突っ伏した。
もう何もする気は起きなかった。身体は緊張と疲労で岩石のように硬く、重くなり、立っていることすら億劫だ。
そんな様子に気付いていたのだろう。オババは何も言わず、家で休むようにと厳命した。
マキリは頭の半分では感謝して、半分では何も考えず、その疲労に身を任せ、意識を静かに、無意識の海に沈めた。
※
「よしマキリ。一狩り行こうぜ」
「断る」
「そう言わずにさあ、行こうぜ?な?」
出会いの日が明けた朝一番、ホイレンがマキリの家に来たのはそんな時だった。
リビングに設置してある椅子に陣取り、ホイレンは絶えず話し続けた。
既にリビングには朝食の準備をしており、家の中にはホットミルクの香ばしい匂いが漂い、テーブルにはアイルーによって作られたおかずが並んでいた。
まさに朝食を頂こう。そう思った時に現れたホイレンは、その要件も相まってまさしく邪魔ものであった。
朝から騒々しい奴だな。マキリは苦々しく思いながらも、顔には出さない。
「僕、昨日死にかけたんだよ?」
「あ?死にかけたことと狩場に行かないことと何の関係があんの?」
何を言っているのかわからない。とでも言いたげなホイレンの表情に、マキリは呆れる。
「死にかけたんだぞ。少しは休むにきまってるだろ」
ホイレンは納得したように頷いて、けれど、すぐ横に振った。
「違うなマキリ、死にかけた時ってのは、次の日も疲れが続いているから休むんだ」
「なにが違うんだよ。今あんたが言った通りだろ」
「だってお前、疲れてねーんだもん。俺だって疲れてない。ほら、いけるだろ?」
マキリは眉間に皺を寄せた。何を言っているのかが分からないわけではなく、何故そんなことが分かったのか、という理由で。
「疲れてるよ。全身がたがた言ってる」
「嘘つけ。疲れてるやつはそこまでハキハキ受け答えなんてしねえ」
あっさりと嘘だと見抜かれる。
確かに、マキリは昨日、動けないほど疲労したものの、体力自体は全快している。
なるほど、観察眼はあるらしい。マキリは再び内心で舌打ちした。
言うまでもなく、マキリは狩りになど行きたくなかった。
そもそもの話、マキリは普段の雪山にすら行きたくないのだ。轟竜が居る雪山など言わずもがなだった。
なんとしても、マキリは行きたくない。
「しつこい」
強く、語気を強めた。
強い語気でこう言えば、大体の人間は引き下がる。誰だって好き好んで嫌われたくはない。わざわざイラついている人間に関わろうなんて言うのはよほど物好きか、人を怒らせるのが好きな人格破綻者くらいだ。
しかし、どうやらホイレンは物好きの類らしかった。
言われた言葉をものともせず、口角を上げていた。
「イラつく元気があるなら大丈夫だ。ほら、行くぞ」
引く様子は毛ほども見えない。
マキリは顔を顰めながら、頭を回転させた。
何か良い言い訳はないか。ひねれば、案外あっさりと、テーブルの上に目が向いた。そして、その瞬間、自分の考えに自分で頷いた。
これで行こう。
「武器がない」
思った時には、既に声に出していた。
「あ?」
何を言っているのかわからない、と言いたげなホイレンに、マキリは再び言った。
「昨日武器が壊れた。だから今日はいけない」
マキリはそう言って、テーブルの上に置いてあるボーンククリの残骸を指さした。
※
『良いかマキリ。武器というものは己の分にあったものでなくてはならない』
重装備を身にまとったマキリの前任ハンターが、目の前に立っていた。
特徴的な飛竜、フルフルの装備を身に纏うその姿と、どんなに腕が磨かれても自分を律し続けるその姿は、ハンターの中のハンターだった。
前任者が、常に口を酸っぱくして言っていたのが武器と防具についてだった。
『己の分に過ぎた武器は自分を過信させる。防具も同じだ。自分の実力に見合ったものを身に着けろ。さもなくば、お前は簡単に死ぬことになる』
前任者は基本的に寡黙な男だったが、マキリにとってそれは気にならなかった。
自然の調和を守るハンターという仕事をしている前任者のことは誇りに思っていた。
だから二年前から今日この時まで、その言葉を忠実に守ってきた。
常に己の実力に見合ったマフモフシリーズを身に着け、初心者用として前任者から渡されたボーンククリを使い続けてきた。
けれど、もうその言葉を守る必要もない。
「僕はあんたが来るまでの繋ぎなんだ。だからもう、武器を新調するつもりはない」
マキリにとってハンターとは一時的な職に過ぎない。あくまでも繋ぎだ。
マキリには狩猟より農業の方が性に合っている。自分のほかにハンターが誰も居なかった。だから自分がやってきた。
それも、これで終わりなのだ。
「あんたはティガレックスを相手に撃退するくらいの実力者だ。それなら僕が居ようが居まいが変わらない」
昨日、ティガレックスはいつの間にか消えていた。
マキリには何が起こったかわからなかったが、ホイレンが追い払ったのだろう。それくらいの実力はある、すなわち、一人で専属ハンターをやるだけの実力はあると、マキリは判断していた。
しかし、ホイレンはそれを笑い飛ばした。
「ははは!そいつは買い被りだマキリ。ティガレックスは飯になるか飯にならねえか、その判断しかしねえよ。あいつが逃げたのは肥し玉の匂いを嫌ったのと、そこに俺が一撃叩き込んでやったからだ」
流石に臭い中で戦うのは嫌だったんだろうさ。ホイレンはそう言って笑った。
マキリは、自分の見当違いな予測に赤面したが、咳払いをして仕切り直す。
「とにかく、あんたはそれなりに強いわけだろ。リオレウスを狩れるくらいなんだからさ」
「んー、まあな。けど、ティガレックスは正直、勘弁だな」
分かってんだろ?と、マキリはホイレンに問いを向けた。しかし、マキリは首を傾げる。
お前と同じさ、ホイレンは最初にそう言って続ける。
「確かに俺は経験を積んだ。だが、万が一がないわけじゃない。特に、ティガレックスとかの狂暴で、往生際が悪い奴らをしてにするときはいつだって命懸けだ」
マキリは少し意外に思った。
リオレウスを狩るほどのハンターともなれば、狩りを楽しみとしている人間ばかりだと思っていたのだが、なかなかどうして、マキリにも納得が出来る『臆病な』心情を持ち合わせているらしい。
狩りに絶対はない。
狩る側だったはずがいつの間にか狩られる側に代わっていることも少なくない。特に、マキリに限って言えばほとんどのモンスターは狩るものではなく狩られるものだ。
だから、ホイレンの心情は痛いほどに理解できた。
ただ、誰とも知らない人間のために、マキリは自分を犠牲にするつもりなど更々ない。
「・・・でも、僕はハンターに向いてない」
「強情だなお前。ハンター協会の頑固爺どもにめちゃくちゃ似てる。そういうやつって大体自分が無能なことを知られるのが怖いから動かないだけなんだよな。知ってる知ってる」
「分かってるなら、もう構わないでくれ」
ホイレンは意外そうな顔をしてマキリを見た。予想していた答えと違ったらしい。ハンターならば、それなりの誇りを持っているとでも思っていたのだろうか。
ちゃんちゃらおかしい。そんなものなど疾うの昔に捨てている
マキリは鼻で笑う。
「自分が腰抜けだってことはわかってる。だからハンターに向いてないって言ってるんだよ」
ハンターは命懸けだ。
臆病な人間とは、最もそれを生業にしてはならない人間のことだ。
「ハンターとは恐怖に打ち勝てる人間だ。臆病な人間がやっちゃいけない」
マキリは二年間のハンター生活で、いや、それ以前でも、既に学んでいた。
リスクを取れない人間が大成することはない。いざというとき、リスクを取って挑戦する人間こそ強いハンターになれる。
人間よりもはるかに巨大な生物を相手にするハンターには必要不可欠なその心意気が、マキリには足りていない。
ホイレンは腕を組んで一度深く頷いた。
「・・・なるほどな。まあ、お前の言うことは少しわかった」
「そっか、じゃあ」
「だが、お前には一緒に来てもらう」
「・・・あのなあ」
眉間に皺を寄せ始めたマキリを、ホイレンは右手で制した。
「一緒に狩りに来い、とは言わん。だが、俺も情報収集はしたい。ここに駐在するとなると雪山の地理には通じている必要がある。だから案内を頼む」
マキリは一瞬呆気にとられる。
意外だった。こんなにもあっさりと諦めるとは。
マキリから見てホイレンは、言ってしまえば遠慮がなく、あくまでも自分の考えを押し通すような人間だとみていたのだが、どうやらその認識を改めなくてはならないらしい。まあ、第一印象が違うなんてことはよくあることだ。
それはともかくとして、マキリは考える。
確かに、雪山の地形は単純なように見えて複雑だ。その複雑さを知っていると知っていないのでは雲泥の差がある。昨日のように、大型モンスターから一時的に身を隠すための洞穴も雪山にはいくつか存在しているし、雪に隠れたクレバスの位置なども詳しく把握しておく必要があるだろう。
これからこの村のハンターをやってもらうのだから、それくらいのことはしてやらなければ罰が当たる。
性格の悪いことを言ってしまえば、すぐに死なれては、マキリにとっても都合が悪い。
「・・・うん、わかった。それくらいならやるよ」
恐らく、これがハンターとしての最後の仕事になる。
有終の美、というほど中身のある仕事ではなかったが、きちんと後任に引き継げるのであれば、悪くない。
今までのハンター生活に思いを馳せるマキリは、ついぞ気づくことはなかった。
向かいのホイレンが、どこか意味深な笑みを浮かべていることに。
※
エリア6と言われる場所。
そこは大きく開かれた広間のようになっており、山と崖に挟まれた雪原だ。
二人の男はそこで絶え間なく動き続けていた。
「聞いていいかな」
ぐしゃり、と何かが潰れる音と共に、マキリが口を開いた。
「なんだ」
燃え上がるような音と共に、ホイレンが答えた。
「この大剣、僕にぴったりなんだけど?」
ぎゃあぎゃあ、と、鳥のような声が周囲から鳴り響く。
「昔の俺と体格が同じなんだろ」
ホイレンは『炎剣・リオレウス』を振り下ろしながら答えた。
「納得はしてないけどいいや。で、もう一つ聞いていいかな」
血しぶきが舞う。
「なんだ」
肉の焦げた匂いが鼻を衝く。
「どうして僕はモンスターと戦ってるのかな」
大剣『アギト』で鳥竜種に類するモンスター『ギアノス』を吹き飛ばしながら、マキリはホイレンを睨み付ける。
しかし、睨み付けられたホイレンはと言えば、口笛を吹いてマキリを称賛した。
「様になってるじゃねえか。結構訓練しただろ」
「万全な訓練をしておかないと不安だからね。でも、大剣は嫌いだ」
「なんで」
「重いから逃げ辛い」
「・・・腰抜け」
「なんとでも」
マキリとホイレンは、雪山に赴いていた。
出会った次の日のうちに。すなわち、マキリが行くと了承した日のうちに。
しかし、本来なら二人が雪山に来るまでには少なくとも五日はかかる予定だった。
理由は、マキリの武器だ。
マキリはボーンククリを新たに作るつもりはなかったが、有り合わせの、既製品で済ませてしまうとグリップの感触の相違などでうまく動けないのではないか、という不安があった。
モンスターと戦わないとしても、狩場に行くからには万全を期しておかなければならない。
だから仕方なく、加工屋に頼んで今回限りのボーンククリを作ってもらおう。そのボーンククリが出来るまで、五日かかる。よって、出立も五日後になるだろう。そう思っていた。
そこでホイレンが待ったをかけたのだ。
「こんなこともあろうかと!って奴だな」
マキリの手の中にあるアギトは、それなりに強力な大剣だ。重量も威力も、今までのボーンククリよりは断然上だろう。これはホイレンが昔使っていたものらしい。それが今のマキリにぴったり合うのだから、偶然というものは恐ろしい。
しかし、マキリの言いたいことはそこではない。いや、前任者の『分を弁える』という教えを平然と破ってしまったことについては少し弁解する必要があるが、問題はそこではない。
「さっきの戦闘は避けられたよね?どうして音爆弾でわざわざ誘き寄せるようなことをしたのか、納得できる説明をしてもらおうか」
「お、おう。というかお前、なんか性格変わってないか?」
「お前に遠慮するだけ無駄だと学んだだけだよ」
あんた、からお前、に呼び方が変わっていることからも、マキリの怒りの度合いが見て取れる。
ホイレンはマキリの様子に少しだけ気圧されながらも、咳払いをして話し始めた。
「良いか、俺たちが今戦ったギアノス、あいつらは何体だった?」
「七体だよ。結構な群れだ」
マキリは周囲の死体を眺めながら、冷静に分析する。
自分ひとりだったら確実に逃げていたし、そもそも見つかるような真似はしない。
ホイレンは頷き、指を一本立てた。
「あいつらの数で奇襲されると、俺でも少し厳しい。死にはしないが、怪我をするくらいはするだろう。後顧の憂いは絶った方がいい」
「要するに後で邪魔をされると面倒だから先に殺したと、そういうことで良い?」
「そういうことだな。うん」
マキリは大きくため息を吐く。
「・・・ハンターとは思えない。無用な殺生は密猟者と変わらないだろ」
「ち、違うって。こういうのは、安全を確保するために必要なんだよ!お前、大型モンスターと戦わないから分からないだろ!小型モンスターの鬱陶しさ!」
マキリは思わず呻いた。
確かに、ハンターとしての実力が伴っていない人間がする発言ではなかった。
「・・・悪かったよ。でも、出来るだけ戦闘は避けてくれ。流石に死にたくはない」
マキリはアギトを背中に納刀すると、ため息交じりに歩き出した。
ホイレンは、マキリの背中を見て少しだけ目を細めた。
「・・・やるとなったらやる、と」
「何してる?さっさとしないと夜までに帰れないぞ!」
「お、おう、すまん」
案外、人に対しては物怖じしないようだった。
※
「ここから先は狭い通路になってる。だから中型モンスターから身を隠したいときとかはここを使う」
「はあ、よく見つけたもんだな」
「見つけないと死ぬからね」
マキリは肩を竦めながら答えた。
そこはエリアとエリアをつなぐ、行ってしまえば通路のような場所。モンスターは基本的に大きなエリアから離れることはないが、激昂していたり卵を盗んだりするときはどこまでも追いかけてくる。そういう時は隠れる場所が必要だ。
いま二人が居るのは雪山の中に張り巡らされた洞窟だ。ドスギアノスなどの中型モンスターであれば通ることが出来るが、飛竜などの大型モンスターは間違っても入ってこれないような場所。
「まあ、あんたに必要な情報なのかは分からないけど」
「いや、助かる。武器を研ぐときにも使えるからな」
ホイレンはそう言いながら、地図に場所と用途を書き込んでいる。見た目に合わずまめな男だ。
作業が終わるまで、マキリはちょっとした段差に腰掛けて待つ。
周囲を覆うのは外の白銀とは打って変わって、氷の青色だ。外から入ってくる風が甲高い音を響かせている。時折どこからかギアノスの鳴き声が響くが、音の反響からしてかなり遠くだということがわかる。だが、警戒は怠らない。
雪山は厳しい環境だ。適応できない生物は片っ端から凍え、あるいは飢えて、死んでいく。
適応したとしても、そこにあるのは厳格な食物連鎖。さらに、食物連鎖を打ち壊すような外来種、『轟竜』『古龍』といった存在。
そんな場所で、人間が出来ることは驚くほど少ない。
ただ風が吹いただけでも倒れてしまいかねないのが人間だ。そんな場所で二年間も、何事もなくやってこれた。マキリの顔には自然と笑みが作られる。
「嬉しそうだな」
ホイレンはメモを取りながら話しかけた。
マキリは気の緩んだ場面を見られて軽く赤面したが、素直に頷く。
「嬉しいよ。雪山はモンスターの危険がなくても、油断したら死ぬからね。肩の重荷が取れた」
「それは良かったと思うが、ちょっと疑問があるんだよな」
ホイレンはメモを取り終えたのか、マキリに目を向ける。いつもは軽い言葉ばかり並べる男の目には、少しの真剣さがあるように見えた。
「お前、そんなに臆病なのになんでハンターやってんだ?」
「僕以外にやれる人間が居ないからだよ」
マキリは即答した。昔から訊かれ続けてきた問だった。
なぜハンターをしているのか。臆病なのに、向いていないのに。
時折雪山に遠征しに来るハンターたちに、そういった問いを向けられることは幾度もあった。
その度に答えてきたことだ。自分以外にやれる人間が居なかった。
そういえば、ほとんどの人間はそうか、と言ってそれ以上追及しない。深入りすれば『じゃあ、あなたがやってくれませんか』と言われるとでも思ったのだろうか。それとも、ただ単に興味がなかったのか。
しかし、ホイレンはそうではなかった。
「いや、ほかにもいるだろ。あの嬢ちゃんとか」
「トマリのこと?」
「そうそう、まあ、お前に比べれば体格はよくないが、威勢は良いじゃねえか。頭一つ分も違うお前に食って掛かるような奴だぜ?」
「・・・それ、本気で言ってる?」
マキリは目を細めて、ホイレンを睨み付けた。
詳しいことはホイレンには分からないが、そこには確かに怒気が含まれていた。
しかし、ホイレンはからからと笑うばかりで相手にしようとしない。
「怒るな怒るな。だってよ、お前、思わねえの?あの嬢ちゃん、お前が狩場に行くことが当然だって思ってるぜ?『じゃあお前が狩場に行ってみろ』そう言いたくなったこと、本気でねえの?」
マキリの頬が少し強張ったことを、ホイレンは肯定と受け取った。
「あるだろ?お前に慣れない得物をもって、道案内して来いって言ったのもあいつだもんな。狩場の怖さをわかってるとは思えねえ」
「トマリはいつも正しいことを言っているだけだよ。僕は大剣が扱えるし、あんたに道案内をするなら早くした方がいい」
「お前の気持ちを無視してるじゃねえか」
「それこそどうでもいいことだ。僕よりも村のことを取るのは当たり前だろ」
「あいつの言い方は高圧的すぎるだろ」
「そのくらいじゃないと僕が動かないからだよ」
最初、マキリはホイレンの大剣を借りるつもりはなかった。
理由は既製品のボーンククリを買わなかったのと同じだ。グリップが手に合わない可能性はもちろん、動き方も普段とは違う。ましてや大剣は武器の中でも屈指の動きにくさを持つ武器だ。ホイレンにいくら頼まれても、それだけは曲げるつもりはなかった。なにより、前任者の教えに反する。
しかし、マキリとホイレンの討論に、突如としてトマリが参戦したのだ。
唐突にマキリの家のドアが開き、その場で堂々と発言した姿には、さしものホイレンでも言葉を失っていた。
『あんた、昔は大剣も太刀もランスも使ってたでしょ。うだうだ言ってないでさっさと行って来て』
一応、あんたはまだハンターなんだから。との言葉を付け加えられ、マキリは肩を落としながら従った。
それがホイレンには不思議だったのだ。
「お前、あの嬢ちゃんに弱みかなんか握られてんのか?やけに素直だよな」
「・・・この話は帰ってからにしよう。まだ回るところはある」
マキリは一方的に話を打ち切ると、周囲に警戒しながら、細い通路を歩き出した。
ホイレンはふうん、と、言いながら、少しだけ口元を歪めた。
「訳アリか」
弱みを握られているのか、そう聞いた時の苦々し気な表情を、ホイレンは見逃さなかった。
めちゃくちゃ書き直すことがあります。すいません。