実況パワフルプロ野球 鋳車和観編   作:丸米

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遅ればせながら、横浜のCS進出おめでとうございます。
四年前の先発陣と今を見比べてみてください。面白いですよ。涙が出るくらい


猪狩守はプライドが高い

猪狩守という少年は、よくよく傲慢であると勘違いをされるが、別段そういう訳でも無い。

確かにプライドも高く、実力も無く努力もしない連中に対する態度は辛辣そのものであるが、それも彼の高い意識と彼自身の能力が表象しているだけであって、傲慢さの表れという訳ではない。

という訳で―――訳も解らず唐突に土下座をされるにあたって、戸惑いを覚えてしまうのも致し方ない。

「-----いきなりなんだ、パワプロ」

パワプロという男は猪狩守にとって業腹ながら一目を置いている男だ。

中学生ながら完成されたフォームと高いミートセンスを持つこの男は、猪狩との対戦成績において三割近い打率を残している。これは、弟の進よりも遥かに高い率であり、猪狩のアンデス山より高いプライドに楔を残すには十分な事実だ。

その男が、眼前で土下座をしている―――これは一体どういう了見だろうか?

「一つ、頼みを聞いてほしい」

「だから、何だよ」

「―――あかつき大付属高校の、奨学金。そこに再来年、一人分枠を空けてほしい」

あかつき大付属校―――県下において、有数の野球強豪校。

その奨学金のほとんどが―――OBである猪狩の父が社長を務める猪狩コンツェルンによって成り立っている。猪狩の父ならば、奨学金の枠を一つ枠を空けておく程度、造作もあるまい。しかし、

「嫌だね―――奨学金はリトルの実績か学業成績を基に判断される。ロクな実績も残せなかった奴の為に、どうして僕が父に頭を下げなきゃいけないんだ」

実力主義の猪狩ならば、そういうのも当然だ。パワプロはそう切り返される事は十分に予期していた。

「そいつは、リトルにも行けないくらい、貧乏だったんだ-----!それでも、アイツは腐らずにずっと努力してきた。ボロボロの服を着て、グローブだって自分で修繕して-----それ位野球が好きなアイツが、もう高校で野球を辞めるって言うんだ。俺は、どうにかしてアイツを止めなきゃいけない」

「下らない。そんな事情に僕が同情するとでも思っていたのかい?実力のない者をあかつき大付属に入れる訳にはいかない」

「―――俺がお前の球に付いていけるようになったのも、そいつのおかげだ」

ピタリ―――とその瞬間に、猪狩は眼を細めた。

「-------どういう事だ?」

「そのままその通りだ。俺はそいつとずっと、川辺の土手で打席勝負をしていた。アイツは、小柄だけど凄い投手だった。アイツと勝負し続けて、今の俺がある」

ほぅ、と猪狩は呟いた。

「俺は―――アイツに、野球を辞めてほしくない」

「----ふん。それで、ただ土下座するだけでどうにかなると思っている訳ではあるまい」

「ああ、そりゃあ解ってる。ようするにさ、猪狩。リトルの実績なんか霞むくらい、とんでもない実績を積んでしまえば、奨学金を渡したって構わないんだろう?」

「何の実績だ?」

「―――お前を打席勝負で打ち取れば、それが十分な実績になるじゃないか」

猪狩は、土下座するパワプロを睨み付ける。

―――天才投手であり、天才打者である猪狩。その実力のほどを知らぬパワプロではない。

そのパワプロが今はいた言葉は「その男ならば、お前を打ち取れる」と―――そう宣言したも同然なのだ。

「今アイツは、アンダーに転向して新たに武器を研いでいる。お前を十分に凌駕出来るだけの投手に、今なろうとしているんだ-----。それならば、文句ないだろう?一カ月後、お前はそいつと―――鋳車と勝負する。勝てばお前は恥を忍んで親父に奨学金をせびりに行き、敗ければ放置。それでいい。凄くわかりやすいだろう?」

「―――そんな約束、僕が守るとでも?」

「守るさ。絶対に。―――勝負に負けた上で、その相手に勝ち逃げされる程腹立たしいことは無い。鋳車が勝てば、お前は必ずアイツに野球を続けさせようとするはずだ。自分が、勝つまで必ず続けさせるだろう」

猪狩の表情が徐々に歪んでいく。まさしく図星も図星。この男は―――実によく猪狩という男を理解している。

「一カ月後だ-----まさか、逃げないよな?」

「ふん。誰に向かって言っているんだい?------僕が勝負を逃げるなんて、それは絶対にありえない事だよ」

そう、結局の所パワプロも猪狩も根っこの所では同じなのだ。

勝負師であり、野球人。

それ故―――挑戦から逃げる事はありえない。

「受けてやろう」

猪狩は、そう答えた

 

 

 


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