実況パワフルプロ野球 鋳車和観編   作:丸米

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サブマリンの前兆

こうして―――様々な思いが交差する中、県大会が始まった。

各県の一回戦は特に波乱が起こった訳でも無く、順当な滑り出しとなった。

あかつき大付属は左右両エースを温存しつつ一回戦を勝ち抜き、帝王高校もまた山口を欠く中、一年の久遠ヒカルが試合を作りクリーンナップの猛打によりコマを進めた。

そして―――二回戦の相手が、それぞれ決定する。

 

あかつき大付属VS恋々高校。

帝王高校VS海東学院高校。

 

高野連に対する飽くなき署名活動により、初の女性プレーヤーを擁する恋々高校。

右腕サブマリン早川あおいと、六道聖の女性バッテリー。そして、広い守備範囲と強力なコンタクト能力を誇る女性遊撃手小山雅を擁する彼等は―――初戦のバス停前高校を粉砕した。

「油断ならん相手だ。女だからとなめてかかるなよ。あそこの主力は、間違いなくウチでも主力を張れる選手だ」

「というより、ありえないでやんす。このあおいちゃんって選手、鋳車君と同じアンダーフォームなのに球速がさほど変わってないでやんす」

「鋳車は、彼女より沈み込ませるフォームをしているけど---それにしても、脅威なのは変わらない。女の子なのに、って言い方は失礼だけど----本当に凄まじい」

「恋々高校には、鋳車さんを起用するみたいですね。サブマリン対サブマリン。かなり盛り上がる戦いになりますよ」

矢部、パワプロ、進はそれぞれこのように分析していた。

早川あおい。

まとまったコントロールに、精度の高い高速シンカーである「マリンボール」で奪三振の山を築いた初戦の戦いぶりは、全国でも衝撃を与えた。

今まさに、注目されているカードだ。

「-----オイラ達は、絶対に悪者でやんすね」

「それは仕方がないでしょう。―――審判の判定も、ちょっと辛くなる可能性がありますね」

「まあ、仕方ない。俺だって、観客の立場で言うなら頑張ってもらいたいのは強豪校より、署名集めしてまで出場した彼女達だろうし----けど、容赦はしない」

彼女達も―――生半可な覚悟でここに臨んできている訳ではない。

女だから、という遠慮を求めて、あれだけ必死な活動が出来る訳が無い。

彼女達も、他の出場校と変わらない。変わらぬ必死を求めている。きっと、そうに違いない。

だからこそ、容赦の二文字は無い。

全力で―――叩き潰すのみだ。

 

 

「----二回戦の相手は、あかつき大付属か。相手にとって、不足無し」

「----最初から、強い所と当たっちゃったなぁ」

「いずれ、戦わねばならない所だ。私達の目標は、甲子園にまでいく事―――その為の高い障壁が、後に来るか先に来るかの違いでしかない」

「うん、そうだね。実をいうと、凄く楽しみなんだ」

「その意気だぞ、あおい先輩」

恋々高校のグラウンド上、二人の女性がユニフォーム姿で喋っていた。

早川あおいと、六道聖。

バッテリーを組む彼女達は、練習を終えてグラウンドの整備を行っていた。

「みずきの新球の感触はどう?」

「制球がまだまだです。―――そして、恥ずかしながらまだ私の捕球も追いつかない」

「そっか。だったら、まだちょっとアテには出来ないかな」

「はい。残念ながら」

その向こうでは、未だ二人の部員が練習を行っていた。

小山雅。そして、橘みずき。

汗に泥に塗れながら、彼女達は何処までも必死に練習をしていた。

「―――恐らく、相手は鋳車和観選手になるらしい」

「僕と同じサブマリン投法の人だね。―――ビデオで見たけど、凄いピッチャーだったな」

「あおい先輩も、彼に負けていません」

「―――聖」

「はい」

「―――正直な所、勝算はどの位あると思う」

「-------」

「僕にだけでいいから、キャッチャーとして見た目から、教えてほしい」

「----二分もない、というのが正直な所です」

「----そっか」

「クリーンナップの差が、やはり響いている。猪狩兄弟とパワプロ選手がどかりと座ったあの打線は脅威です」

「----」

「ピッチャーは、五分だと思います。あおい先輩と鋳車選手。投げている球の力に、それほど差があるとは思えない」

「ううん、聖―――僕は、そうは思わない」

「というと?」

「ビデオで、見た。鋳車君のピッチングを。その時―――悔しいけど、もの凄く見惚れてしまった」

「----」

「僕よりもずっとずっと、投げている姿が堂々としていた。-----何だか、凄く、執念を感じたんだ」

「曖昧、ですね」

「うん。僕も凄く曖昧だと思う。けどね―――女である、っていう明確な欠点を持っている僕は、ずっとそういう曖昧な精神の部分で、誰にも負けてたまるものか、って思いながら野球をやって来たんだ」

「----」

「だけど、その部分でさえも圧倒的な存在感を持っている相手を見つけちゃって、凄く凄く今、悔しい」

言葉に反して―――あおいの口元は、笑っていた。

「それでも―――それでも、楽しみなんだ。そんなピッチャーと投げ合えることが。そんなことが出来る今の現状が。頑張ってきてよかった、って心の底から思う。―――ねえ、聖」

「はい」

「僕達が勝てる部分があるなら―――聖しか、いないと思う」

「私、ですか」

「うん。―――僕は、聖のリードを信じるから。頼んだね」

そう言って、あおいは笑った。

勝てないのかもしれない。相手はとても強大だ。

けれども、―――そんな世界に望んで入ったのは、自分自身の意思だ。

だったら、後悔なんてしない。

―――あかつき大付属高校。胸を貸して頂きます。

 

 

二日後、試合が開始される。

あかつき大付属高校VS恋々高校。

先発は鋳車和観と早川あおい。

―――全国が注目する、世にも珍しい「男女別サブマリン対決」が繰り広げられようとしていた―――。

 


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