実況パワフルプロ野球 鋳車和観編   作:丸米

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次の投稿でアンケは打ち切らせてもらいます。希望があるならば、お早めにお願いいたします。

※ミスがあったので修正。すみません。


帝王VSあかつき⑦

その後―――後続を打ち取った鋳車であったが、それでも大きな大きな2点を追加されてしまった。

矢部のエラーから始まり、クリーンナップに連打を浴びた鋳車は、7回の表で代打を送られ、交代する事となる。

鋳車和観の課題を挙げるとするならば、その球数の多さだろう。

その投球スタイルの特異性故、投げる球はどれも被打率が低いけれども、その分三振が多くなる。それ自体は悪くないのだが、シンカーを主軸として使っている為か、直球を見逃される事が多く球数が多くなってしまう。

しかし、鋳車の投球はそれでも、その後に続くリリーフに大きな恩恵を与える。

その特殊な軌道を描く投球スタイルに二巡、三巡と付き合わされた相手打線は、明らかにバッティングが狂い、リリーフにその後正統派のピッチャーを放り込むと途端に打てなくなる。例えば、猪狩守から後続のリリーフにバトンタッチした際のデータと見比べてみると一目瞭然である。明らかに、鋳車の後のリリーフの方が結果が出ている。

七回裏、鋳車からバトンタッチした速球派の猪本は、高めの直球を武器にその後を三者凡退に抑えた。浮き上がる直球に見慣れた打者の視界には、オーバーからの高めの直球に、対応できなかった。

そして―――八回表。

三番猪狩進。

―――今、援護が二点入った状況で、僕を歩かせる訳が無い。

そうなると、四番のパワプロと勝負をせざるを得なくなる。折角打線の機能を完膚なきまで破壊していたというのに、ここで進を出塁させることはもう一度それを取り戻させる事になるかもしれない。

―――だったら、僕が狙うべき球は、一つだけだ。ストレートを狙う。そして、コースは、外角。

八回に入れど、その球威に衰えは見えない。フォークの落ちも全く変わらない。―――だが、この辺りから山口の直球が打ち込まれやすくなるデータがある。

疲労からか、リリースが若干縦から斜め方向にずれる事で、直球がシュート回転しやすくなるのだろう。映像で見た限りでも、その傾向が見られた。

―――シュート回転がある直球で、左打者の内角は攻めることは出来ないだろう。真ん中へ行きやすくなるし、それでもゾーンに投げ込もうと思えばデッドボールのリスクもある。ある程度、外角を中心に組み立てるに違いない。

ならば、

ギン、という音と共に―――進の打球は三遊間を破りレフトの前へと運んで行った。

―――内角を恐れず、外角に踏み込んでいけばいい。

進は、外角の球を押し込み強い打球を放つ事が得意な打者だ。その上で内角には投げないであろうと解った上であるならば、いくら山口相手でもやりようはあるのだ。

―――パワプロさん。後は頼みました。

 

 

―――お前を四番に据えるには、まだ長打が物足りない。

そうパワプロは監督に言われた。

―――お前は内角を前で捌き、外角の球をキッチリ後ろで捉える能力がある。それ自体は素晴らしい。そのバッティングがあるから、お前を守の後ろで打たせる分には何も文句はない。だが、ランナーが二・三塁にいない状況であれば、相手バッテリーは絶対にお前に内角には放らん。―――外角にさえ投げておけば、大怪我にはならないと解っているからだ。いいか、パワプロ。この夏の間に、外角の球を逆方向にぶち込める技術を手に入れろ。そうしたら、お前に四番を渡してやる。

 

昔からよく、外角の球に対して逆方向に引っ張る、という感覚があると言われている。

今まで、パワプロの感覚において外角は「流す」モノだった。

球に対してそのままバットを割り込ませ、球の反発を利用して、ヒットコースに流してやる-----それが、パワプロの外角の打ち方であった。

そして、今。霧栖弥一郎のバッティングを見た。

―――あのバッティングは、流しているんじゃない。間違いなく、押し込んでいる。後ろのポイントで球を流すんじゃない。バットの面にボールを長くつけて、ボールの勢いごと押し込んでいる。

それを、外角ではなく内角に(・・・)行っているのだから凄まじい。そのバッティングを、未完成の高校一年生が行使しているという事実に、ある種の衝撃を受けた。

―――軸足を意識しろ。

―――手首の返しは、限界まで我慢しろ。

眼前の山口を見る。配球は、変わらず外角一辺倒。

打つ。

打ってやる。

外角への球---それが、シュート回転し甘めに入り込んできた瞬間を、パワプロは見逃さなかった。

軸足へ、体重を限界までかける。

インパクトの瞬間、振り切るその瞬間まで、リストを固定する。

その二つが行使された瞬間―――外角への直球を、パワプロは打った。

打球は低めのコースからぐんぐんと伸びていき―――フェンス直撃のツーベース。俊足の進がホームに帰り、1点を返した。

セカンドベース上で、思わずパワプロは吠えた。

軸足が、重い。

手首が、痛い。

―――逆方向に押し込むバッティングとは、これ程までに負荷がかかるモノなのだ。体重をインパクトの瞬間まで支えた軸足も、球をインパクトしたまま固定した手首も、痛い。

そうか。まだまだ鍛え足りないと言う事か。

パワプロは新たに掴んだ手応えに―――思わず、口元を大きく歪めた。

 

1-2。

まだまだ、諦めるにはまだ早い。

 

―――そう思ったのも束の間、

 

八回裏、帝王の攻撃。

フォアボールで友沢を出塁させた、次の打席。

―――バゴン、というド派手な音が響き渡った。

ピッチャー猪本の、ど真ん中への失投。失投であれど、140後半の球威を伴ったその球を―――引っ張り上げて、凄まじいライナーにて観客席に叩きこんだ。

1-4。あかつきの希望を容赦なく打ち砕く、霧栖弥一郎の一発であった。


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