アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

8 / 12
アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#8

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#8

 

(これまでのあらすじ)兵士育成計画のモデルタイプとしてセンシャドーを利用し、名門校の選手を吸収した仕上げにオオアライに迫るニンジャ・アハトアハトとその部下として調整されたデンエンチョーフ女学園センシャドー部隊。演習を重ね、それを迎え撃つオオアライ&各校連合。イクサの時は迫っていた。

 

演習最終日、コトダマ空間でマホが送ったボコのメッセージによって自分を取り戻したミホは決戦用作戦「ニンニン作戦」を発案。フジキドの操る戦車についに勝利を収める。割れた履帯、裂けた転輪、四散するシュルツェン……自身の白旗を前提とする捨て身の策、ニンニン作戦を携え、アンコウ・チームは決戦の地、イバラギ学園都市跡へ向かう。全てを取り戻すために。

 

 

「教官。到着しました」国防軍用輸送列車の士官室のフスマを開け、銀色のパンツァージャケットとサイバーサングラスを装着した少女が室内のアハトアハトに報告する。「良し。3番、皆既に降車しているな?」「はい、教官」3番と呼ばれた、転校前にはダージリンと呼ばれていた少女は無感情に答えた。

 

アハトアハトは外套に袖を通し、「イバラギ学園都市」という表示板すら朽ちかけた駅に降り立った。かつては利用者で賑わっていたであろうホームは荒廃し、一部割れた屋根からは月の光が漏れる。そこに整然と並ぶ、同一の服装とサイバーサングラス姿の数十名の少女たち。その非人間的な統一感は、どこかクローンヤクザを思わせる。

 

美しい、とアハトアハトは思った。それは少女としての美しさではない。磨き上げられた拳銃や研ぎ澄まされたカタナ的な美しさだ。アハトアハトは戦争自体を好む訳ではない。自分が育て、磨き上げた美しい「兵器」たちが敵を蹂躙する様を見たいのだ。美しさに欠けたり、折れた兵器は捨てるだけだ。そこにアハトアハトは一切の憐憫の情も持たぬ。

 

「諸君、ついに我々の偉大な演習も仕上げの時が来た」『はい、教官』一糸乱れぬ返答。「俺はお前たちの健闘を祈らん。何故なら俺の育てたお前たちが勝つのは当然で、祈る必要が無いからだ」『はい、教官』「ユウジョウ、感傷、信念、慈悲、怒り、焦り、悲しみ。それらは濁った不純物に過ぎん。それをオオアライのお子様達に教えてやれ」『はい、教官』

 

「この後、ネオサイタマTVの取材がある。1番と4番は俺に随行しろ」「「はい、教官」」番号を呼ばれた二人の少女が一歩前に出た。「……フム、そう言えば相手の一人は、確かプラウダの副隊長だったか」アハトアハトは軍帽を被り呟いた。「……丁度いい。怒りが如何に能力を鈍らせるか、お前らに見せてやろう」

 

 

それから一時間ほどして、センシャドー連盟のレンタル車両が同じ駅に到着した。先程の少女達とは対照的に、賑やかに、また物珍しそうに周囲を見回しながら降車してくる。「はーい、集合ー!」アンズが手を上げて皆を誘導する。その中にはトレンチコート姿のフジキドとスーツ姿のナンシー、ジーンズにアベ一休シャツのエーリアスの姿もあった。

 

「ここがイバラギ学園都市跡ですか」リュックを背負ったユカリが朽ちかけた表示板を見ながら言った。申し訳程度の灯に照らされた構内にはボロボロの「イバラギへようこそ」「良い学習環境」「全て揃う」「ワンランク上」「高層」「安全と安心」などのノボリが並ぶ。「よし、そんじゃモリタ教官。一言」「……私が?」

 

「これから戦地に向かう皆を、励ましてあげてよ」「……」フジキドはぎこちなく、並ぶオオアライ女生徒たちの前に立った。数十の瞳がフジキドに向けられる。「……ドーモ、イチロー・モリタです。皆、不慣れな訓練によく最後まで付いてきてくれた」オジギし、再び話を続ける。「敵は強いだろう。それは誤魔化しの効かぬ事実だ」

 

「だがそれに勝つために我々は演習を重ね、そしてここに来た。イクサにおいて最後に勝敗を決めるのは、如何にカラテを積んだか、そして自身の積んだカラテを信じる事ができるかだ。それはセンシャドーでも変わらないと私は思う……皆は間違いなく、このイクサに勝てるだけのカラテを積んだ。思うようにいかぬ時、追い詰められた時、外す事が許されぬ場面になった時、それだけは己を信じてほしい」

 

フジキドは深々と頭を下げ、言葉を終えた。『はい!』元気な声が夜のホームに響く。「堂に入ってきたわね」小声で横のナンシーが悪戯めいて言う。「……私はやはり教官には向いてないようだ」疲れたようにフジキドは答えた。今晩はここで試合前の諸条件の宣誓を行い、宿泊をする事になる。翌朝の試合開始まではそれ以外はフリーとなる。

 

元ターミナルだった駅前広場に簡素なプレハブと大型テントが幾つか、明日の観客用の組み立て式客席が設営されていた。サーカス会場めいたテント周辺には輸送された戦車が並び、僅かな月の光に照らされている。オオアライの一同がテント内に入ると、中では整備中のデンエンチョーフ女学園の部隊員がせわしなく行き来していた。

 

「やあやあ、ご到着ですか」迷彩色の防塵マスクと軍服を着けたアハトアハトが仰々しく一行の前に歩み寄ってきた。無言でフジキドが一歩前に出る。「今回は私達のような経験の浅いニュービーの試合申し込みを受けていただき感謝します。ドーモ、はじめまして。デンエンチョーフ女学園専属教官のムタグチ・マサノブです」

 

「……ドーモ、はじめましてムタグチ=サン。オオアライ女子学園教官、イチロー・モリタです」アイサツを交わし、互いの声が他に聞こえない程度に顔を近づける。「ネオサイタマの死神が今度はセンシャドーの教官か。次はスシ・デリバリーの店員か?」「我々は勝つ為にここに来た。それを忘れぬ事だ」

 

「『田舎者のスモトリ、リキシリーグを知らず』とはよく言ったものだ」含み笑いを浮かべ、アハトアハトは言った。「どうだ、ニンジャスレイヤー=サン、ひとつ提案がある……オヌシがセプクするのならば、我々は手を引いてもよい。ラオモト=サンからの慈悲深いご提案だ。感謝するがいい」

 

「ほう」「戦車の整備不良などの適当な理由で無効試合としようではないか。貴様は女生徒たちを守ることができる。我々はニンジャスレイヤーという障害を排除できる。これは実際win-winな提案ではないかね?」無論、アハトアハト自身もこんな提案が通るとは思っていない。挑発の枠を出ない話だ。だが、フジキドの返答はどの予想とも異なっていた。

 

「ならば、私からも提案だ」「……何?」「……この試合、もしオオアライが勝てば、他校から強制転校させられた女生徒を全員解放してもらう。逆にデンエンチョーフが勝てば、私はセプクしよう」「……プッ、ハッハハハッ!」アハトアハトは堪えきれず、周辺に聞こえる程に笑った。

 

「フゥー……愚か者もここまで来ればコメディアンよな。つまり我々は、オオアライの名選手と、貴様の命の両方を貰える事になる訳だ。素晴らしい! その提案、受けさせてもらう」「セプクの件は宣誓書に載せず彼女らには知らせるな。口約束だろうと私は破らん」「……良かろう」

 

「何だか、盛り上がってるねえ」「何を話しているんでしょう?」二人を眺めるアンズとユズに気づき、フジキドは一歩下がりアハトアハトにもう一度オジギした。「ドーゾ、ヨロシクオネガイシマス」「ヨロシクオネガイシマス」アハトアハトも下がり、部隊員の様子を見に行く。「……!」その先にいる部隊員に、ノンナの視線が止まった。

 

おそらくは最小サイズを与えられたろうに、それでも銀色のジャケットを持てあます小柄な体と、目元だけでなく顔半分を覆っているサイバーサングラスの隙間から覗く金髪。「……カチューシャ=サン!」ノンナはその小柄な隊員に駆け寄った。やはりそうだ。元プラウダ高校隊長。「小さな暴君」「地吹雪」の名を持つ少女。カチューシャである。

 

「カチューシャ=サン、よく無事で……」「申し訳ありません。どなたでしょうか?」だが、ノンナの労りの言葉は無感情な返答で遮られた。「……カチューシャ=サン?」「今は車両の整備中のためお相手できません。御用の場合は教官にお話を通してください」「………」言葉を挟む余地もない拒絶。そのままカチューシャは作業に戻っていった。

 

(……ちょっと、アイツに誰か声をかけなさいよ!)その背中を眺めながらアリサが横のエリカを肘で突いた。(冗談じゃないわ。何で火のついた火薬庫に突っ込むような真似しないといけないのよ!? ミホ=サン、アンタ隊長なんだから何とかしてよ!)(え!? ええっと……)「あ、あの、ノンナ=サン……」「大丈夫ですよ」「アイエッ!」

 

おずおずと声をかけるミホに、ノンナは驚くほど平静な声で答えた。ミホは思わず小さな悲鳴を上げた。「明日、取り戻せば良いだけです」そう言って、ノンナは僅かに微笑んだ。「は……はい! 頑張りましょう!」まだ怯えをを残しながらも、ミホもそれに答える。(……不味い、かもな)エーリアスはその光景を後ろから眺めつつ、ノンナが眼前のミホを見ていない事に気づいていた。

 

その後、センシャドー連盟役員立ち合いのもと試合の宣誓内容の確認と宣誓が行われた。デンエンチョーフ側が勝利した場合、ニシズミ・ミホ以下アンコウ・チーム全員は即時オオアライからデンエンへ転校手続きを行う事。逆にオオアライ側が勝利した場合は、デンエンチョーフ側が設立時からの試合で強制転校させた生徒全員を元の学校に戻す事。

 

当初はこちらと同じ人数の少女の解放が条件だったデンエン側の大幅な譲渡に、アンズは何かに気づいたようだったがそのまま宣誓は行われた。双方のハンコが押された正式なものである。これを反故すれば、センシャドー連盟からだけでなく学園自体がムラハチに会うことになるだろう。

 

その一方、オオアライ側の大型プレハブの中ではチャブ上に広げられた学園都市の地図を元に作戦会議が行われていた。「今回の試合は10対10のフラッグ戦。市街地の広さと地形、車両数からお互いに包囲戦を仕掛けたり、はっきりした前線を構築するのは難しくなります」「双方、フラッグ車を隠しての遊撃戦か……」

 

ミホの説明にモモが顎に指をあてて考える。「はい。そこで各個撃破を防ぐため、本隊、偵察隊、ツーマンセル・スリーマンセルの遊撃2部隊に分けたいと思います。偵察隊はフラッグ車の発見を最優先にしつつ敵の動きや状況の把握。遊撃部隊はフラッグ車以外の車両の撃破と分断を目的に動いてもらいますが、撃破困難な場合は無理をせず、敵の動きをかく乱する事を優先してください」

 

「偵察隊にフラッグ車を発見してもらい遊撃隊で戦力を分断。最後に本隊で手薄になったフラッグ車を撃破するという流れね。それで、編成は?」「はい、それは……」エリカの質問に、ホワイトボードに部隊と車両が書き加えられてゆく。

 

本隊はⅣ号(フラッグ車)、ティーガーⅡ、JS-2。偵察隊に八九式、CV33。第一遊撃隊がM3Lee、シャーマン。第二遊撃隊が三式、三突、マチルダ。部隊名はミホの判断により本隊がペンギン、偵察がトビウオ、遊撃第一がラッコ、遊撃第二がイルカとなった。ミホは動植物の名前を部隊名に付けるのを好むが、今回はアクアリウム系だったようだ。

 

「作戦名は『ちょこちょこ作戦』で行きます。狭い所を利用して、ちょこちょこ動いて敵をかく乱しながらフラッグ車の撃破を目指しましょう」「おーおー、作戦もだいぶ纏まったみたいだねえ」宣誓から帰ってきたアンズが、室内の様子を見て満足そうに頷いた。「会長、お帰りなさい」「こっちもビッグニュースがあるよ」

 

「ニュース?」「うん。今回の試合に勝てば、過去の試合で強制転校された生徒全員を解放してくれる事になった」「本当ですか!? で、でもどうして……?」「さあね。……ま、向こうがそう言ってくれてるなら良いんじゃない?」部屋の片隅でゼンを組むフジキドを横目に見つつ、アンズは言った。

 

「そんで、どう、ニシズミ=サン。作戦はまとまった?」「はい。今、ちょうど」「よしっ! それじゃ……」「それじゃ?」「出陣式だー!」アンズがそう言って拳を振り上げたのを合図に、大型プレハブ内に次々と人と物が入ってきた。チャブ、ドリンクケース、鍋、スシ容器、イタマエ、バイオアンコウに吊るし台。

 

「え? え? え?」突然の流れについてゆけないミホ。「今回は私は試合に出れない分、裏で色々奮発させてもらったよー! みんなー! 今回、オオアライ商工会の皆さんのご厚意で、アンコウ丸ごと一匹頂いたよ。何とアンコウ吊るし切り実演付きー!」「……お」「おおー……!」まだ流れを把握できていないのか、拍手はまばらだ。

 

「ん~? 拍手が小さい! そんなんじゃイタマエが帰っちゃうぞー!」大きい拍手!「モウイッチョー!」万雷の拍手! 場が温まる! 「それだけじゃないぞー! 今回、各学園からも応援の物資を貰ってるからね! まずサンダースからはフライドポテトとハンバーガー山盛り!」「太りそう……」サオリが素直な感想を言う。「プラウダからはボルシチの炊き出し!」「任せてけろ!」応援部隊のニーナが寸胴鍋を回す。

 

「クロモリミネからは自家製ザワークラフトと本場ウィンナー山盛り!」万雷の拍手!「アンツィオからはお徳用冷凍ピザ人数分!」まばらな拍手! 「総帥(ドゥーチェ)、反応微妙ッスよ」「仕方ないだろ! これでもP40修理基金を切り崩して買ったんだぞ!」「聖グロリアーナからはうなぎのゼリー寄せだー!」BOOOOO! 圧倒的なブーイング! 「……分析通りの反応ですわね」「仕方ないですね」

 

いつの間にかプレハブ内は横長のチャブとザブトンが行きわたり、エンカイ場の用意が完成していた。ゼンを解いたフジキドやナンシー達も誘導され上座に座らされる。チャブ上にはアンズの言葉通り国籍の入り混じった料理が所せましと並び、個々人の手前にはオーガニックでこそ無いが粉末整形でないスシが置かれ、その中央には数名ごとに用意されたアンコウ鍋が火を入れられている。

 

「ジュースは行き渡った? ……それじゃ、カンパーイ!」エンカイ開始の合図となるチャントをアンズが言うと、それに合わせて皆がカップを掲げた。『カンパーイ!』「……驚いたものだ。こんな用意をしていたとはな」フジキドがアンズに言った。「いやあ、この位しかできないからね……それに、モリタ=サンに比べれば大した事はしてないよ」

 

「……私に?」「今回の宣誓の条件変更。何かしてくれたんだよね? 多分あそこに書けないような内容……ケジメか、セプクか」「……旨いアンコウだな」「誤魔化し方が本当に下手だよね、モリタ=サン……まあいいよ、そういう事にしておく。そんじゃ、私も出し物の用意をしないとね」フジキドの反応は予想の範疇だったのか、アンズは気を悪くする様子もなく立ち上がり、出て行った。

 

急な宴ではあったが、場はこの荒廃した都市跡の中とは思えないくらい盛り上がっていた。格言シリトリを繰り広げるカバ・チームとオレンジペコ。色恋話に花を咲かせるアリサとサオリ。山盛りのポテトを瞬く間に消化してゆくハナ。マコとマルヤマのように無言で向かい合うだけの席もあるが、それはそれで楽しんでいるようだ。

 

「本当に、普通の女の子たちよね」横のナンシーが呟く。数時間後には戦車に乗り、演習弾とはいえ砲声の飛び交う場所に彼女らは挑むのだ。「……なあ、あのプラウダの、ノンナ=サンだっけ? あの子、居るか?」その更に横のエーリアスがタマゴ・スシを口に入れつつ聞いてきた。「……見当たらんな」「席を外しているのかしら」

 

「……そうか」こういう場が好きなエーリアスにしては、場違いなほどにその表情はシリアスだ。「あの姉ちゃん見つけたら教えてくれ……どうも嫌な予感がする」「予感?」「ああ。思い過ごしならいいんだけどな」それ以上はエーリアスは何も言わなかった。その時、軽快なシャミセンの音が場内に響いた。「!?」「ちょ、これって……!」

 

オオアライ勢はその音楽の意味を知っているのか、どよめきが広がっている。「ミホ=サン、何が始まるのだ?」「え!? え、ええっと、その……」フジキドに聞かれたミホは、顔を耳まで赤くして返答に詰まる。『エンモタケナワではありますが! ここで出し物の時間だよ! 試合出場メンバーに送る、勝利祈願のアンコウ・オドリ!』

 

スピーカーからアンズの声が響くと、プレハブ外からアンズを先頭に数名の女生徒が入ってきた。モモ、ユズ、カモ・チームとレオポン・チームのメンバー達。彼女たちは全員が、全身をタイトに包むエラ付のピンク色のタイツに身を包み、おそらくはアンコウを模したと思われるラバー帽子を被っていた。

 

『ア・アアン・アン、ア・アアン・アン、ア・アアン・ア・アアン・アン・アン・アン』シャミセンの軽快な音と共に、コブシの乗った女性歌手の歌が流れだす。「えっと、つまり、オオアライに昔から伝わる、伝統的なモージョーだそうで……」これから始まるものに少しでも意義的なものを持たせようと、ミホが何とか説明しようとする。

 

『アーノコ、アイタヤ、アノウミ、コエテ……』アンコウの灯りを模した動きから腕を交差して回転。それを繰り返した後に足を上げ膝の裏で手を叩く。手を横に添えて体を揺らし、背を見せて腰を振る。古くからのモージョーにしては実にアグレッシブであり、少女達がそれをする姿は煽情的でもある。『モヤシテ、コガシテ、ユーラユラー……』

 

「……スゴイな」「エキセントリックね」「……うぅ」エーリアスとナンシーの感想に最早言葉でのフォローは不可能と悟り、ミホは赤面したまま下を向いた。その内に1コーラスが終わり、アンズが声を飛ばす! 「応援したいってのは私達だけじゃないよー! Come.on! モリタ教官!」

 

「ッ!? ゴホッ! ゴホーッ!」出来るだけオドリを見ないようにしつつコブチャを飲もうとしていたフジキドは突然の振りにチャを吹き出し、激しく咽た。『ほらほら、早くしないと始まっちゃうよ! 教官! 教官!』煽り立てるようにアンズがコールを始めると、これが既定ではないサプライズ展開と悟った面々がコールを広げてゆく。

 

「「「教官! 教官!」」」「………」フジキドは無言でナンシーを見た。「やってあげたら、 教官?」「安心してくれ。ユカノ=サンには内緒にしておいてやるよ」横のエーリアスもニヤニヤと笑うままで、助け船を出すつもりは無いようだ。最後にフジキドは正面のミホを見た。「あ、あの……べ、別にやって頂かなくて、大丈夫ですから……!」

 

スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……「ミホ=サン。貴女、なかなかね」「ああ、大したもんだ」「え? え?」「………wasshoi!」チャドー呼吸を行い、かけ声と共にフジキドは立ち上がった。決死の瞳で挑む姿は、まさに戦士を思わせる姿だった。ア・アアン・アン・ア・アアン・アン……

 

少女たちは笑い、食べ、飲み、語り、そして眠った。朝が来る。決戦の朝が。




思った以上に試合前の描写で尺を取ってしまいました。
#10と言っていましたが、#11まで伸びてしまうかもしれません。
完結までの流れは出来上がってますので、もう少々お付き合い下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。