アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

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アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#6

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#6

 

(これまでのあらすじ)疑似戦闘スポーツ、センシャドー。突如高校センシャドー界に現れた無敗の新設校の正体は、アマクダリの兵士育成計画のモデルタイプだった。敵ニンジャ・アハトアハトが機械的に調整し育成したかつての戦友たちとの戦いに備え、フジキド達はローカルコトダマ空間の演習場を作り、急場の訓練を開始する。

 

順調に進む訓練がある一方、コトダマ空間適性を持たないメンバーの存在、フジキドの容赦ない実践演習で叩きのめされるアンコウ・チームなどの不安要素も現れてきた。残されている時間はあと数日。果たして試合までにミホ達はフジキドに一矢報いる事ができるのか? 光れ! アンコウよ、光れ!

 

 

「いやー、参ったね。まさか私が適性無いとは思ってなかったわ」全く堪えてないような表情で、アンズはそう言いつつ干し芋を一切れ口に含んだ。ここはオオアライ女子学園IRCセッションルーム。コトダマ空間ではない現実である。演習を終え、エーリアスのナビゲートによって戻ってきたセンシャドー履修者たちは、初めてのコトダマ空間と演習の感想をそれぞれに話し合っている。

 

適性が見られなかったのはアンズ、あとはカモ・チームのゴトウ、レオポン・チームのスズキだった。チームの他メンバーは空間を認識できたとはいえ、チーム内での連携が重要となるセンシャドーにおいては一人欠けるだけで重大な問題となる。

 

「でも、そうなるとウチは5両しか訓練できません。8両での試合参加こそ可能ですが、練度に大きなムラが出来てしまいますね……」生徒会副会長のユズが不安そうに言った。「あー、それなら大丈夫。対応策は考えてあるから」気楽そうに言うアンズ。ナンシーは彼女に尋ねた。「それは、どういう策なの?」「……多分、そろそろ向こうから来るんじゃないかな?」「向こうから?」その時、激しい足音が部屋に迫ってきた。

 

「かっ、会長!」校内放送の呼び出しを受けていたモモが息を切らして飛び込んできた。髪は乱れ、眼鏡がずり落ちかけている程に動揺している。「こ、校門前に……!」「?」「……来たね。それじゃ、みんなで迎えに行こう!」そう言うとアンズは立ち上がり、教室のフスマを開けてミホ達を促した。

 

「うわぁ……!」校門前に広がる光景に、ユカリは目を輝かせた。JS-2、M4シャーマン、マチルダⅡ、ティーガーⅡ、そしてCV33。国柄もバラバラな5両の戦車が整然と並ぶ。そしてその前に立つ十数人の女生徒。沈黙の中、迎える側のアンズが進み出て先にアイサツを行った。「ドーモ、ゴブサタしています。カドタニ・アンズです」中央に立つ、黒髪長身の少女がアイサツを返す。続けて他の少女たちも「ドーモ、カドタニ=サン、ゴブサタしています。ノンナです」「アリサです」「オレンジペコです」「アッサムです」

 

「エリカです」「ペパロニっス」「ペパロニ=サン、アイサツはちゃんとしろ! ……ドーモ、アンズ=サン、アンチョビです」「カルパッチョです」……更に他の搭乗員のアイサツが続く。「皆さん……どうして?」突然の来訪に驚きを隠せないミホに対して、アンズが言った。「ウチとデンエンが試合するって告知したら、そりゃ、ねえ?」「はい」短く答えるノンナ。

 

分厚い書類を広げる。「我々全員、今一度オオアライに転校させていただきます。全員分の転校手続き書類はこちらに」「厳しい戦いだよ」「……カチューシャ=サンを連れて行かれ、私はその場でセプクするつもりでした。一度捨てた命です」「……何だかおっかねえな、あの姉ちゃん」後ろから見ていたエーリアスが呟く。

 

「『わが軍の右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能だ。状況は最高、これより反撃する』……フランスの軍人、フェルディナン・フォッシュの言葉です」その横、ノンナと比べれば遥かに小柄な金髪の少女、オレンジペコ。「……多分ダージリン= サンなら今の状況をそう言ったと思います」「奪われたものを奪われたままでは、納まりませんわ」その隣のアッサムが続ける。

 

「まあ、能天気でお人好しで、怒ると怖い隊長だけどさ……やっぱ、あの人じゃないとサンダースの隊長は務まらないのよ」頭を掻きつつアリサ。「あの時、隊長は間違いなく勝ってた。王者クロモリミネが、あんな下らない事故で敗け扱いじゃ黙っていられないわ」腕を組みつつエリカ。一同の言葉に頷くアンズ。「なるほどね……それじゃ、チョビ達は?」

 

「フン。高校センシャドーの危機に、この私が黙って見ていられるか!」「あれ? 姐さん、告知を見て『前大会ベスト8の我々アンツィオを無視して次はオオアライだと!?』ってデンエンチョーフ行ったら門前払い食らった腹いせじゃなかったんスか?」「皆が立派な事を言った後だから、引っ込みがつかなくなっているのよ」「聞・こ・え・て・る・ぞ!」

 

「これが策か」フジキドは小さく言った。「一本の矢で死なぬ敵も三本刺さったら死ぬ」とはミヤモト・マサシの格言の一つである。学校を超えて集った彼女らは、その三本の矢になるかもしれぬ。「よーし、OK!全員歓迎するよ! コヤマ=サン! この子たちが今夜から寝泊りできる部屋の用意! カワシマ=サンは書類の処理! 自動車部は戦車をガレージまで誘導してメンテナンスお願い!」「「「了解(です)!」」」

 

てきぱきと指示を振りつつ、アンズはフジキド達に近づいてナンシーに言った。「今夜は準備や支度が色々とあるから、明日彼女たちの適性を見てみて。戦車の実力は、戦った私達が保証するよ」「アンズ=サン、貴女も案外タフなのね」「会長だからね」ナンシーの差し出した手にハイタッチを行うと、アンズは校舎に戻っていった。

 

 

早速翌日から、新たに来たメンバーの面通しとコトダマ空間への適性判断が行われた。やはり何人かの適性の無い人はいたが、幸いだったのは小規模なオオアライと異なり他の大人数校の場合、チーム色が薄く車長以外のメンバーの替えが効いたことだ。結果、試合参加車両はⅣ号・三突・八九式・三式・M3Lee・JS-2・M4・マチルダⅡ、ディーガーⅡ・CV33(P40を所有はしているが修繕中とはアンチョビの言)となった。

 

その後の数日は慌ただしく過ぎて行った。訓練だけをすれば良い訳ではない。試合会場の選択権は被挑戦側にあるため、その場所の検討。敵の戦力・作戦行動の予測。「おそらく、他校の生徒が転校してきた情報もアマクダリには筒抜けでしょうね」ナンシーはそう言い、敵が各校隊長も必ず出してくると予測した。では、それに対してどう動くべきか。

 

また、訓練にしてもチームプレイが重要となるセンシャドーで個人戦ばかりをしていては勝てない。紅白戦・電子データ車両を相手にした10対10の疑似練習試合・局地戦を想定した2対2・3対3のミニチーム戦など、時間の流れの長いコトダマ空間においてもなお足りないと思うほどに時間は過ぎて行った。

 

―――そしてその間、未だにアンコウ・チームはフジキドに白星を取れていなかった。

 

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#6終わり #7へ続く




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この後の予定としては#8で試合開始、#10で完結の予定です。
感想欄に書いた内容より伸びてしまいましたが、あと少しお付き合い
頂ければと思います。

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