アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

4 / 12
アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#4

【アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク #4】

 

#OOARAI:njslyr:現状確認重点

#OOARAI:hoshiimo:試合申請期限来た。先方に了承返信済。明日告知

#OOARAI:hoshiimo:10対10フラッグ戦。戦車不足分検討中。最悪10対8

#OOARAI:ycnan:トレーニングプログラム出来。オオアライUNIX設備?

#OOARAI:Citron:スゴイテック社製オテガルE16型20台

#OOARAI:ycnan:不足。別機種当方で用意。即日搬入させる

#OOARAI:peach:予算?

#OOARAI:ycnan:NP。心配無用。

#OOARAI:hoshiimo:センシャドー受講者全員、明日コーチ来る告知済

#OOARAI:ycnan:懸案事項

#OOARAI:njslyr:懸案?

#OOARAI:ycnan:適性の問題。全員が認識できる可能性保証なし

#OOARAI:peach:oops

#OOARAI:Citron:適性無し受講者?

#OOARAI:ycnan:戦力カウント困難

#OOARAI:hoshiimo:その場合の対応策あり。まずは状況開始重点

#OOARAI:njslyr:重点

 

01101010100101………

 

翌日、オオアライ女子学園IRCセッションルーム。20畳ほどの広さの部屋に円卓状に数十のチャブが配置され、搬入したての最新型UNIXが光沢を放つ。そこから伸びたケーブルは全てが連結され、更に円卓の中央にある大型チャブに置かれたサーバーに接続されている。そこに各々座っているのは、数十人の女生徒だ。

 

「ドーモ、はじめまして。特別訓練教官イチロー・モリタです」円卓の上座に座っていたフジキドが立ち上がり、女生徒達にアイサツした。その姿は普段のトレンチコートでなく、偽装のためのネオサイタマ国防軍士官服だ。「ドーモ、補佐官のナンシー・リーです」「ド、ドーモ、トレーニングケア担当、エーリアス・ディクタスです」

 

その左右に座っていたタイトスーツ姿のナンシーと、下士官服のエーリアスも同様にアイサツを行う。「エー、みんなも知ってると思うけど、次の試合の相手、デンエンチョーフ女学園は新設校だけど既にクロモリミネも倒した強豪だ。正直、現行の訓練を繰り返すだけでは厳しいかもしれない」アンズが説明を始める。

 

「と言う訳で、ネオサイタマ国防軍の最新トレーニングを実践してもらうため、多忙な中こちらのモリタ少尉たちに来ていただいた。拍手!」不揃いな拍手が起こる「止めっ!」止まる。「……本当に軍人なのか?」カバ・チームの一人、カエサルが小さく言う。「ウム、硝煙の匂いというには違う風情がある」同チームのエルウィンが応える。

 

「武田信玄……」「どちらかというと、オカダ・イゾー的な血の匂いを感じるゼヨ」その隣のサエモンザの呟きに、更にその横のオリョウが続く「「「ソレダ!」」」一斉にオリョウに向かって指をさす三人。「そこ、お喋りは禁止だ!」オオアライ生徒会広報のカワシマ・モモがその一団に怒声を投げる。

 

「おおお……ロールアウトしたばかりのスゴイテック社メガハヤイZ型MkV……! まさか直接触れる日が来るとは……!」その一方で卓上のUNIXに目を輝かせているのはネコニャー達アリクイ・チームだ。「確かこれって物凄い高かったんじゃ……」「ウチのお父さんの半年分の稼ぎが飛ぶって言ってたっちゃ」左右に座る、同チームのモモガーとピヨタンも高価な芸術品に触るように丁寧に触れる。

 

パン、パン。「はい。それでは早速始めるわね。今から行うのは、イメージトレーニングと最新鋭UNIX技術を組み合わせた疑似体験トレーニングです。今から配布するフロッピーディスクをUNIXに差したらヘッドフォンを取り付け、両手をキーボードに置いて下さい。何かをタイピングする必要はありません。体の力を抜き、リラックスしてください」

 

軽く手を叩いて場を静めると、ナンシーはフロッピーを各チャブに回していった。エーリアスは先行して潜るために、生徒への使用例を兼ねて既にチャブに座り、UNIXに身体を向けて、椅子にもたれかかりながら画面を見つめている。「……ねえ、ミホ=サン、これって本当に大丈夫? 何だかニュースとかのハッカー・ドージョーっぽくない?」

 

ミホの横のチャブに座るアンコウ・チーム通信手、タケベ・サオリが不安そうな顔を彼女に向ける。「ごめんね、サオリ=サン。不安だと思うけど、信じてもらえないかな」ミホは控えめな笑顔をサオリに向けた。「ムー……分かった! ミホ=サンは嘘は言わないしね」「大丈夫ですよ。私たち先に試しましたから」反対側のユカリも補足する。

 

そう言っている内に、サオリのチャブにもフロッピーが回ってきた。UNIXのドライブに差し込み、言われた通り出来るだけ体の力を抜きキーボードに両手を乗せる。読み込みが始まり、カリカリと音を立てるドライブと連動するようにモニターに緑の文字列が出現し、装着したヘッドホンからはアンビエントめいた穏やかな電子音が流れてくる。

 

気分は悪くない。ゼンめいた穏やかな気持ちになり、ヘイキンテキになってゆく。次第に文字の流れが速くなってゆく。光の明滅。時折画面を横切るウサギとカエル。自然とキーボードに乗せた指が動き始める。本来、サオリのタイプ速度は並みの学生レベルで、決して速くはない。だが、指の動きは更に速くなってゆく。

 

タイプ、文字列、光、ウサギ、カエル、指、音、文字列、フラットになってゆく、文字列、音、タイプ、緑の光、文字

011010110110010010101011101010100100010100111101001101011010010010010010101101010010010010010010110100101011101010010110001001010101101011110100100010010011110101010010011001010

 

「……へ?」サオリは、自分がオオアライの校庭に立っている事に気が付いた。「え、あれ?」きょろきょろと周囲を見回す。やはりサオリの知っている校庭だ。だが何か違う。常に重苦しい雲に覆われているはずのネオサイタマの空には雲一つない青空が広がり、その遥か上には黄金の立方体が浮かんでいる。

 

「遅いぞ。サオリ=サン」「わっ!?」背後から急に声をかけられ、サオリは跳ねるように振り返った。見ればアンコウ・チーム操縦手、レイゼイ・マコが立っていた。「お、驚かさないでよマコ=サン!」「皆が遅いから退屈していた」「退屈って……ねえ、ここは……」「どうやら、他の皆も来たようだ」

 

マイペースに話を進めるマコが校庭のある個所を指さした。よく見ればそこに0と1の数字列が浮かんでいる。それが次第に密度を増し、人の形に近づいてゆく。線画めいた輪郭が作られ、色が付き、形となる。「……あらあら、ここは……?」「ハナ=サン!?」そこに出現したのは同じアンコウ・チーム砲手、イスズ・ハナだ。

 

それだけでなかった。校庭のあちこちに0と1の風がつむじ風めいて巻き起こり、ミホ、ユカリ、アヒル・チームのコンドー、ウサギチームのマルヤマ等、知った顔が次々と現出してゆく。「……ひょっとしてこれが、イメージトレーニングの世界の中って事? うわ、スゴイ! 本当に現実と変わらないじゃん!」興奮するサオリ。

 

それから数分後、校庭にはIRCセッションルームにいた女生徒数十人が立っていた。「思った以上に『入れた』みたいね」通る声が響き、パンツァージャケット姿になったナンシーとエーリアスが一団の前に進み出た。自然と整列し、話し声が収まってゆく。「それじゃ各チーム、自分の所のメンバーが全員いるか確認してもらえる?」

 

「……ゴモヨ、いや、ゴトウ=サンがいないな」「うちも会長がまだ見当たりません」「ええっと……うーん、うちもスズキ=サンがいないみたいだね」何人かが手を挙げて報告する。「……やはり、全員とはいかないみたいね」「ま、予想の範疇だな。悪い方に行ってたら不味いし、一度抜けて様子見してくる」

 

エーリアスはそう言うと目を閉じ、再び0と1に拡散して姿を消した。(……本当に疑似空間なんだ)その光景を見てサオリは改めて実感した。「それじゃ、揃っていないチームのメンバーはこの空間に慣れる事に集中して。揃っているチームは、早速だけど自分の戦車に搭乗してもらうわ」

 

「そう言われても、戦車は……うわっ!?」イソベ・ノリコが手を挙げると、その瞬間彼女らの背後に数両の戦車が出現した。「流石は疑似空間、何でもありだな」あくまでマイペースにマコが呟く。「何でもって訳じゃないのよ……皆にも言っておくけど、この空間での過度の怪我は実際の私たちにも影響が出るわ。勿論私たちも最大限の補助をするけど、決して無茶はしないようにして」「「「はーい」」」

 

「よし、それじゃ私達も乗りましょう」ミホがそう言って、背後のⅣ号戦車に搭乗する。その後に続くユカリ、マコ、サオリ、ハナ。「スゴイですね、マークからシュルツェンから、全部現実の私達の戦車と同じです」表面にプリントされた、デフォルメされたアンコウのイラストを撫でつつユカリが言った。

 

中に入り、各自が持ち場のポジションに機敏に着く。幾十幾百と繰り返した動作。「……うん、大丈夫。握り心地も同じだ」操縦席に入り込んだマコが操縦桿に指を添え

感触を確かめる。「砲弾も十分あります!」ユカリが車長席のミホに言う。『戦車のイメージは搭乗者のイメージが強いほど、現実のそれとリンクするわ』通信機からナンシーの声が聞こえる。

 

『教官、それでどういった訓練を?』今度はウサギ・チームのサワ・アズサの声。『この空間では実際の時間とは異なる時間が流れているから、放課後の時間を使うだけで一日分の訓練をこなす事ができるわ。また通常の訓練ではできない環境での戦闘もできる』『スゴイニャー……』ネコニャーの感心した声。

 

『そして今回はまず個々人の現時点での練度を確認してもらうために、1対1の個人戦をしてもらいます』『個人戦?』『正面を見て』その言葉と同時に、彼女らの車両の前方に01の風が起こり、先ほどの彼女たちの出現より大規模なエフェクトが発生する。「……これは!?」カエサルが息を呑む。三号突撃砲F型、M3Lee、八九式中戦車、三式中戦車……彼女らが乗る戦車と完全な同モデルの戦車がそこに出現していた。

 

『貴女たちの過去の試合データと戦車のスペックから、大会優勝時のコンディションの同型戦車を用意したわ。もちろん搭乗しているのも、貴女たちの判断や行動のパターンを可能な限りトレースした人工プログラム。つまり、今回の相手はベストコンディションの自分と戦ってもらうという訳』『己の敵は己という訳か。面白い!』

 

戦意を上げるエルウィン。「あれ? でも、私達のⅣ号戦車はいないみたいですけど……」並ぶ敵戦車を見ながらユカリが言う。『隊長車は特別プログラムだ』そこで今まで沈黙していたフジキドの声が響いた。Ⅳ号戦車の正面に、今までとは違う赤黒の01の風。『モリタ=サン?』『ニシズミ=サン、おそらく次の試合、アハトアハトは確実に隊長車にオヌシの姉のマホ=サンを調整して乗せてくる。オヌシの動揺を誘う為に』

 

特定指向通信で、Ⅳ号の車内のみに向けられた通信が送られる。『……オヌシは、過去の自分に勝つだけでは足りぬ。チーム全体が更に上に、更に強くならねば勝てぬ』01の風が止み、新たな戦車を現出させる。『……はい』『故に、私が相手をする』

 

「戦」「壊」の二文字を刻まれた、赤黒塗装のⅣ号戦車を。『ドーモ、アンコウ・チーム=サン。タンククラッシャーです……手加減はせぬぞ』『……はい!』

 

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#4終わり #5へ続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。