アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

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アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#3

【アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#3】

 

(これまでのあらすじ)高校センシャドー界に突如現れた強豪校、その正体は秘密結社アマクダリ・セクトの非合法兵士育成計画によるものだった。オオアライ女子学園アンコウ・チーム装填手のアキヤマ・ユカリは学校偵察の一環でその秘密の一端に触れ、敵ニンジャ・アハトアハトの脅威に晒される事となる。

 

そこに現れたニンジャスレイヤー。しかしアハトアハトは既に策を張っていた。アハトアハトのバイタルサイン消失に合わせ、負けを恐れたオオアライが自身を暗殺したという偽情報を拡散させるシステムが構築されていたのだ。醜聞の真偽に関わらず、それをされればオオアライの女子たちのセプクは免れない。

 

苦悩するフジキドにある決意を固めたユカリは言う。「勝ち方を教えてください!」オイオイオイ! ニンジャスレイヤー=サン、アンタにコーチができるのかい?転校させられた各校隊長さんもヤバそうだし、こりゃ厄介になりそうだぜ!

 

 

翌日の夜。時間貸しの機密レンタル会議室に6人の男女の姿があった。「やはりそうね。彼らがドサンコで持ち帰った簡易コトダマ空間認識プログラム、それが使われている」ライダースーツ姿の金髪の女性、ナンシー・リーが書類を回しつつ説明する。先刻までIRC空間にダイブしていたのだろう。豊満な胸元には汗が浮かんでいる。

 

「コトダマ……空間?」その向かいの席に座る癖毛の少女、アキヤマ・ユカリが怪訝な表情を浮かべる。「え、えっとね、アキヤマ=サン、ヤバイ級ハッカーの人たちは、IRC空間に、げ、現実と変わらない世界が見えるらしいんだ……ボ、ボクは当然、まだ見る事はできないけど」その横に座る、長い金髪と細身の体。それとアンバランスな牛乳瓶の底を思わせる分厚い眼鏡が特徴の少女がたどたどしく補足する。

 

彼女の名はネコタ。ハンドルネームのネコニャーを普段から名乗る、少し変わった少女。オオアライの中ではアリクイ・チームの車長を務めている。今回の打ち合わせについて、全チーム内でUNIX知識に最も長けていたため、随行する事になった。「良く知ってるわね」「はっ、はいぃ!」ナンシーの言葉に、ネコニャーは弾かれたようにオジギした。

 

「ドサンコの、モータルにコトダマ空間認識者が大量に発生したという件か」議長席に座るトレンチコートの男。モリタ・イチロー――フジキド・ケンジでもあり、ニンジャスレイヤーでもある――が続きを促した。「そう。あの時は知識もない、LAN端子の埋め込みもしていない幼女がメガデモの視聴効果だけで認識者になった。それの応用」

 

「応用とは?」「より効率化したメガデモとケミカルを使い、強制的にコトダマ空間への『眼』を開けさせて、空間内で軍事演習を行っている。国防軍使用の最新型シミュレート」「電子シミュレーションなら、私たちもやっていますけど……」「密度が違うの」ユカリの質問にナンシーは神妙な表情で答えた。

 

「コトダマ空間は現実とは時間の流れが一定ではないし、空間内では睡眠も食事も必要ないわ。例えば24時間で、通常の一か月の訓練を終える事もできる。そして現実に戻れば、そこで身に着けたノウハウや知識はそのまま使える」「……当たり前だけど、素人がそんな無茶をして平気な訳はないぜ。そう遠くない内にニューロンは損傷する」

 

今まで黙っていた、ナンシーの横、ネコニャーの反対に座っていたショートボブの少女がナンシーの説明に付け足した。エーリアス・ディクタス。ニンジャであり、他者の精神へのダイブを得意とする能力を持ち、ハッカーではないがコトダマ空間認識者である。

 

「そ、それって、相当に危険なんじゃ……!」「ああ。良くて記憶の欠損。悪ければ廃人」ネコニャーの額に汗が浮かぶ。「……何で、そこまでするんでしょうか?」また別の声。フジキドの正面の席に座る、栗色の髪のショートカットの少女が口を開いた。ニシズミ・ミホ。オオアライ女子学園、センシャドーの隊長にして全国制覇の立役者。

 

「今、キョート国防軍とネオサイタマ海上警備隊や国防軍の関係が険悪化しているのは知ってる?」「……はい」「おそらくは、そのパーツの一つ。学生を即席でベテランの兵士に育て、戦場に送り込む。そのテストケースとしてセンシャドーが利用されている。そう考えるのが妥当でしょうね」「そんな、そんな事の為に……?」

 

「ニンジャとは、そういうものだ。他者を踏みにじる事に一切の躊躇も無い」フジキドはミホを正面から見据えて言った。「ミホ=サン、オヌシが相対しようとしているのは、そういう存在だ。ニンジャは空想の産物でも幻想でもない。その悪意によって産まれた兵隊と戦わなければならない。通常のセンシャドーの常識は通用しないだろう」

 

フジキドの言葉には容赦は無い。だがそれが冷たさからではなく、危険に直面させまいとする気遣いからのものである事を、会って間もない時間ではあったがミホは理解していた。奥ゆかしさというものは時間や世代を問わず通じるものだ。「……それでも」膝に置いた手を握りしめ、ミホはフジキドの視線を正面から受け止めた。「それでも、戦います」

 

「センシャドーは……センシャドーは戦争の道具じゃありません。戦車を通して、仲間と通じ合い、試合をした相手とも分かり合える、凄い競技なんです。ここで諦めたら、私のセンシャドーは死んだのも同じです」その口調は静かだが、一切の怯えは無かった。

 

「……そうか」フジキドはそれだけ答えた。ミホの言葉には重みがあった。小柄な少女の身体の中に、覚悟を決めた戦士の決意があった。それは或いは幾万のペルシア軍に挑むスパルタの戦士めいた蛮勇かもしれぬ。しかし、それを止める事は誰にも出来ぬとフジキドはミホの瞳からそれを読み取った。

 

「で、でも、今の話じゃこっちに勝ち目は無いんじゃ……今から必死に練習しても、向こうは質も量もそれ以上の練習を積んでる事に、な、なるんですよね?」青い顔のままネコニャーが問いかける。「そこで、俺だ」エーリアスが答える。「相手がコトダマ空間を利用してきてるってのなら、こっちも同じ手を使う。それも、より安全にだ」

 

「IRCネットワークを使わないローカルネットワークを使って全体の負荷を抑えて、向こうが使っているようなケミカルを一切使わない方法を試してみましょう。ドサンコで認識者になったモータルの大半は後遺症も残っていなかった。前例はあるわ」「まあ、手段は俺たちに任せておいてくれ。なあに、メンタルケアの専門家とヤバイ級ハッカーが揃ってんだ。出来ない事は無いさ」

 

親指で自分の胸を指しつつエーリアスは笑った。屈託の無い笑顔に、部屋の空気に僅かな和やかさが戻る。「ヤバイ級……ナンシー……nancy……アイエッ!?」その一方で何かに気付いたネコニャーが小さな叫びを上げる。だが、現実には何も変わっていない。絶望的な強敵、おそらくは試合で相対するであろう仲間。ここから、現実を変えるのだ。

 

(お姉ちゃん……)ユカリの録画画像に残っていた、まほの姿がミホの脳裏に過ぎる。あの苦しそうな表情。おそらくマホは、敵陣に呑まれながらも未だ戦っているのだ。(……パンツァー・フォー)イクサの始まりを告げる言葉を、ミホは心の中で唱えた。

 

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#3終わり #4へ続く


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