アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク＃12

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク＃12

KABOOM！　KABOOM！　「ンアーッ！？」「総帥（ドゥーチェ）、やっぱりそのウィッグ邪魔っスよ！」「だから地毛だ！」イバラギ学園都市、学園付近。CV33は敵砲撃を全力で回避しながら一路校舎へ向かっていた。「お、落ち着け！　砲塔が回らない三突は我々に当てられないし後方のチャーチルは同士討ちを避けて撃てない。怖いのは敵Ⅳ号だけだ！」

「そのⅣ号が一番怖いんスよ！」『こちらアンコウ、状況はどうですか？』Ⅳ号からの通信。「こちらアンチョビ！　あと……どの位だ、カルパッチョ=サン！？」「今の位置だと……あと二分程でそちらに到着します」狭い車内で地図を何とか見ながらカルパッチョが言う。「分かりました。何とか学校内まで引き付けて下さい」「あと二分避け続けるんスか！？」

ペパロニが悲鳴を上げる！　「ガンバロ！　後で肉ジャガ作ってあげるから！」通信手のサオリがエールを送る！　「マジっスか！？」CV33が機敏さを増す！　「肉ジャガの肉はちゃんとビーフでお願いするっスよ！」「ちょっと待てペパロニ=サン！？　肉ジャガにはポークと決まってるだろ！　ビーフは高いし、何より味に主張が強すぎ……」KABOOM！　「「ンアーッ！」」「……とりあえず、逃げ切ってから考えましょう」「「アッハイ」」

その一方で、もう一つのイクサも決着が着こうとしていた。「イヤーッ！」「グワーッ！」中庭を見下ろす校舎の屋上にアハトアハトは叩き付けられた。「アバッ……バ、バカな……」「狙うのは得意でも狙われるのは不慣れなようだな。アハトアハト=サン」それに続いてニンジャスレイヤーが降り立つ。

フジキドの宣言通り、既にアハトアハトの両腕は歪な方向にねじ曲がり、腕のスリケン・カノンは粉々になっていた。無論フジキド本人も無傷ではない。戦車の砲弾に匹敵する威力の大型スリケンは何発も彼の体を掠め、肩口や脚に幾つかの傷を作っている。「……どうやら彼女らもここで決着を付けるようだ。それまでハイクでも考えるがいい」

「ハァーッ……ハァーッ……！　ク、クク……」ニンジャスレイヤーの言葉に、アハトアハトは立ち上がり苦しげに笑みを浮かべた。「ま、まだ分かっていないようだな……ニンジャスレイヤー=サン」「何だと？」「ニシズミ・ミホが1号……いやニシズミ・マホに勝てると、本当にそう思っているのか？」

そう言うアハトアハトの目には確信が宿っていた。「彼女はテンサイだ……モータルである事が惜しまれる程にな。それを俺は更に磨き上げた！　今の彼女には誰も勝てん。例え過去に勝利した事があるミホ=サンでもだ！　そうなればニンジャスレイヤー=サン、セプクするのは貴様の方だ！ そちらこそハイクを考えておけ……！」

「自信があるようだな」「無論だ……ゴホッ、セ、センシャドーで彼女に勝てるものか」「……ならば、ここでそれを見届けるとしよう。オヌシの言うテンサイと、私を演習で倒した少女のどちらが勝つかをな」「……何？」アハトアハトがその言葉の意味を探る前に、校舎に複数の車両の音が近づいてきていた。

校舎正門。「そのまま突っ込めー！」「了解っスー！」CV33は速度を落とさないまま校門を通過し、学園内に逃げ込んだ。黒いⅣ号戦車は停車し、周囲の状況を伺いつつ後続のチャーチルと三突を待った。『……追ってこないようだな』ミホのⅣ号戦車にアンチョビからの通信が入る。「以前は単独で来ていたのに、やはり戦法が違いますね」

ユカリの言葉にミホは頷いた。「これなら作戦通りに行けそうです。アンチョビ=サン、ペコ=サン、そのままそのままグルグル作戦を行って下さい」『ヨロコンデー！』『了解しました』それぞれから応答が返ってくる。ミホは息を潜め、校内に身を隠していた。

校門前では、遅れていたチャーチルがようやく到着しようとしていた。それを確認したマホは操縦手に指示を飛ばし、まず自分が校門を越えた。予測された迎撃無し。「残りの三両は校内にいると思われる。油断するな」指示を飛ばす。続いてチャーチルが校門に差し掛かった時、その側面からエンジン音と共にCV33が出現した。「……何？」

「馬鹿め、CV33の速度を甘く見たな！　裏門から回り込んでいたんだ！」アンチョビが車内で自慢げに言う。「……あの豆戦車の9mm機銃でチャーチルは抜けない。無視して突入しろ」対してマホはあくまで静かに指示を出した。「姐さん、無視されてるっスよ！？」「計算通り！　行くぞ！」そのままCV33は銃撃したまま接近する！　BTATATATATA！

弾かれる9mm弾、チャーチル無傷！　「と思ってるんだろうが……」BTATATATATATA！更に接近！　やはりチャーチル無傷！　BTATATATATATA！　「9mm徹甲弾でも……」更に接近！　やはりチャーチル無傷！　「……履帯は抜けるっ！」　BDOOM！　チャーチルの右の履帯破壊！　「まだまだッ！」BTATATATATATA！　BDOOM！　更に左履帯破壊！

校門の半ばで停止するチャーチル！　搭乗員が下りて直せば復旧は可能のため白旗こそ上がらないが、接敵している現状での降車は不能！　「……蓋をされたか」マホが呟く。KABOOM！　その直後に校舎奥からの砲撃！　マホがそちらの方向を向くと、そこにはⅣ号戦車と、そこから身を乗り出してマホを見るミホがいた。

「………」「………」二人の少女は互いを見合い、すぐにⅣ号は後退して奥に隠れた。それを追う黒Ⅳ号。「私が仕留める。お前たちは残り二両の相手をして撃破ののち合流しろ」足止めされているチャーチルと、その後方の三突に通信を送る。三突は裏門に回り込めるかもしれないが、三突単独では側面からの急襲などに弱い。動かすには不適だ。

「……よし、何とか分断完了だな」「あとはダージリン=サンたちの足止めですね」CV33の後方から現れたマチルダⅡのペコが言う。実際、オオアライ側の二両でチャーチルの厚い装甲を貫通するのは困難だ。彼女らに履帯の復旧をさせず、あとはミホがマホを倒すのを信じて限界まで足止めを図るのみ。「行くぞ！　アーヴァンティ（前進）！」

KABOOM！　KABOOM！　校内、第一校舎と第二校舎の間を二両のⅣ号戦車が走る。「どこへ行く？」「ニンニン作戦はここでは使えません。十分機動できる場所へ、何とか誘導してください」「分かった。揺れるぞ」KABOOM！　黒Ⅳ号の正確な射撃を紙一重で回避しつつ、マコは中庭に向けて操縦桿を切った。

枯れたマツの木をなぎ倒し、大きくカーブ。後続の黒Ⅳ号にマツの木が倒れこんでくるが、車上のマホは車内に入りすらせずそれを躱す。KABOOM！　牽制の砲撃。マコは操縦桿を小刻みに動かす。右、少しだけ左、一度止めて、更に左。KABOOM！　至近距離に着弾。かつての全国大会決勝の時以上にマコの操作は精密になっていた。

そのままⅣ号は中庭に抜けた。素早く旋回して迎撃の一撃。しかしこれをマホは寸前で停止して回避。ミホの脳裏に、コトダマ空間演習初日のフジキドとの演習の光景が蘇る。今のマホがフジキドと同等の反応と練度を持っているのは間違いない。「………」マホは無言のままミホを見る。「……お姉ちゃん、今、助けるから」ミホはそう言って、車内に通信を送った。「ニンニン作戦、行きます」

ミホはハッチ側面に即席で取り付けられた棒状のスイッチを握っていた。先端にはボタン、反対側には二本のコードがそれぞれⅣ号の側面に伸びている。「ニンニン作戦、了解！」ユカリが装填を完了させる。「ニンニン作戦、了解！」ハナが体を固定して照準を合わせる。「ニンニン作戦、了解！」この後起こる事を知るサオリが通信機に手を置き、体を支える。

「……二度目は無い、行くぞ！」マコが言うと同時にエンジンを最大まで回転させ、正面から黒Ⅳ号に接近する、直後に左に揺れる！　KABOOM！　黒Ⅳ号砲撃回避！　「次弾装填。後ろから来るぞ」過去の記憶の戦法を引き出し、マホが指示を出す。そこに伴うべき感傷は強制的に抑え込まれている。このまま回り込んで背面からの砲撃。

だが、その直後のⅣ号の動きはその予測と異なっていた。回り込む事無く直進してくる。特攻？　測りかねるマホの前でⅣ号は突然右に急激に曲がった。「ひとつ！」ミホはボタンを一段階目まで押し込んだ。BDOOM！　Ⅳ号左側面に爆発が発生！　暴発？　否！　シュルツェン内部に仕込んだ火薬を爆発させたのだ！　爆発を受け四散したシュルツェンの破片が黒Ⅳ号に降り注ぐ！　「………！」咄嗟にマホは車内に回避！

実際シュルツェンは対戦車榴弾のジェット噴射を回避するための薄い鉄板である。しかしこの『薄い』というのはあくまで戦車の規格外の装甲に対しての薄さであり、交換に数時間を要する重さ数十kgの鉄板である。その数十kgの鉄板が砕け、スリケンの如く降り注ぐのだ！　「発射！」その隙を逃さずハナが撃つ！　KABOOM！　しかしその砲弾は黒Ⅳ号とはかけ離れた方向へ発射された！　砲撃失敗！

「マコ=サン！」「分かってる！」まだ右へ曲がろうとするⅣ号を強引に戻し、今度は全力で左に振る！　急激な転換に耐えかねた履帯がはじけ飛び、転輪が直接地面を擦る！「ふたつ！」ボタンを更に押し込む！　BDOOM！　「このまま止まるまで回る！　そこで仕留めろ！」操縦席のマコが叫ぶ！　

「うわわっ！？」バランスを崩したユカリが砲弾を落としかける！　落とせば次弾装填のチャンスは無くなる！　「イ、イヤーッ！」バランス維持！　砲塔に徹甲弾を叩き込む！　爆砕された右側シュルツェンがスリケンと化して黒Ⅳ号に降り注ぐ！　反撃不可！　火花を散らしていた転輪が遂に割れる！　車内の傾き！　「ンアーッ！」ハナの体が揺れる！

二撃目のタイミング失敗！　「うおお！」それでもマコは操縦桿を緩めない！　止まれば白旗が上がる！　エンジンが煙を上げる！　最後の一回転に入る！　（皆は間違いなく、このイクサに勝てるだけのカラテを積んだ）「……教官」ハナは揺れる車内の中、再び照準に顔を合わせ、トリガーを握った。

（外す事が許されぬ場面になった時……）そう、それが今この時だ。（……それだけは、己を信じてほしい）「……イヤーッ！」ハナはカラテめいた叫びと共にトリガーを引いた！　KABOOM！　Ⅳ号が止まる！

―――シュパ。シュパ。

小銃の空砲音めいた音が二つ続けて鳴った。Ⅳ号、黒いⅣ号、両方に白旗が上がる。「………」「………」「………」「………」「………」ミホ達はぐったりとⅣ号に体を預けていた。『……デンエンチョーフ、フラッグ車走行不能。よって、オオアライ学園の勝利！』パワリオワー！　黙示録のファンファーレめいた音が鳴る！

「……えっと」「……や」「……やった、ん、ですよね？」「……だな」「……や、や……！」「「「「「ヤッター！」」」」」五人は喝采の声を上げた。『やれやれ、上手くやってくれたな』通信機からノイズ混じりのアンチョビの声。「アンチョビ=サン！　無事でしたか！」「まあ、ギリギリではありましたけど……」続いてペコの声。

煙を吹く、かろうじて白旗が立ってない状況のマチルダの上でペコは言った。「皆さんお疲れ様でした。後で熱いお茶をご用意しますね」「いえ、それより、転校させられていた隊長さん達を……」『それについては問題ないわ』「アイエッ？　ナンシー=サン？」突然の割り込み通信でナンシーの声が入る。

『彼女たちの自我を弱めていたプログラムの治療法は確立させたわ。ケミカルも後遺症を残さないタイプだったのが幸いだったわね』「ありがとうございます！」『ちょっとしたアフターサービスよ……戻ってきなさい。アンズ=サンが祝勝会の準備を始めてるわ』「はい！」ミホは答え、空を見た。そして校舎の上の影に気付き、もう一度オジギした。

その影、ニンジャスレイヤーは振り向き、腰を落としたアハトアハトを見た。「ば、バカな！　こんな事が！」「……どうやらニュースの記事は『敗北のケジメを逃れようとした教官が失踪を遂げた』という事になりそうだな。アハトアハト=サン」「俺の、俺の兵器が……！」「彼女らはオヌシの兵器などではない。オヌシはただ、自分の欲望のために利用していただけに過ぎぬ！　ハイクを読め、アハトアハト=サン！」

「嫌だ！　まだ、まだ俺は……！」「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーは容赦なくアハトアハトの脳天を踏み抜いた！　脊髄まで足は達し、脳漿が飛び散る！　「アバーッ！　サヨナラ！」アハトアハト爆発四散！　ザンシンしたニンジャスレイヤーは無言で中庭のⅣ号戦車の少女たちを見下ろすと、シャウトと共に姿を消した。「wasshoi！」

……………声が聞こえる。ニシズミ・マホはおぼろげな意識の中で感じていた。「よお」ふと気づくと、目の前に包帯だらけのクマのヌイグルミが立っていた。それをマホはどこか懐かしく感じた。「大変だったな。悪いニンジャは、ミホ=サンの教官だったオッサンがボコボコにしてくれたぜ」「……そうか」マホはそれだけ言って微笑んだ。

「さ、そろそろ帰ってやんな。みんな待ってるぜ！」ヌイグルミはそう言うと手を振り、0と1に拡散して消えて行った。マホは光を感じた。それに手を伸ばす。次第に明るく、次第に周辺の音が鮮明になってゆく。「……長、隊長！　大丈夫ですか！？」眼を開けると、泣きそうな顔の少女の顔があった。「……エリ、カ、サン？」マホは小さく呟いた。

「隊長ーっ！」マホが覚醒し、自分を認識できている事に気付いたエリカは泣きながらマホを抱きしめた。「どうした、エリカ=サン。ここは……私は、一体……？」「あらあら、随分遅いお目覚めのようね」その横から幼い、しかしどこか高飛車な声。見るとベッドに横になった金髪の少女。ブラウダ高校隊長・カチューシャがこちらを見ていた。

見ればマホ自身も清潔感ある病人服で、消毒されたベッドに横になっている事に気付いた。「カチューシャ=サン？」「ま、アンタが一番深い所まで影響されていたってドクターも言っていたし、仕方ないわね」「カチューシャ=サン、冷たい内に……」横の椅子に座るノンナが、皿に乗ったウサギ型に切られたオーガニックアップルを差し出す。

「ノンナ=サン、食べさせてくれる？　アーン」「……ハイ、アーン」「………ノンナ=サン、どうしたの？　何か目薬差したみたいな目になってるわよ？」「……何でもありません、何でも……」「どうやら私達、転校させられてから大変な事になってたみたいね」反対側のベッドのケイが呑気に言う。「こっちの身にもなって下さい」そう言いつつオートミールを食べさせるアリサ。

「……やはり、ポットのお湯では駄目ね。ちゃんと沸かさないと」更にその横のベッドでダージリンが紅茶を飲みつつ言った。「ちょっとの検査で出られるそうですから、もうすぐですよ」ペコがスコーンを割りつつ答える。その光景を見ながら、マホはようやく事態を把握した。「そうか……ミホ=サン達は？」「彼女なら……」「お姉……ちゃん？」

エリカが答えようとした時、病室のドアから声が聞こえた。花瓶の水を取り替えに行っていたミホが、呆然とマホを見る。「……ミホ=サン、ただいま」「……お帰り。お姉ちゃん」微笑むマホに、ミホは涙を流しながらアイサツした。

「……最後の一人も無事戻ってきたわね。これでアフターケアも完了かしら」病室の外、ナース姿のナンシーはそう呟くとその場を離れた。素早く何時ものライダースーツ姿へと変わり、病院を出る。そこで待つトレンチコートの男と、ダイハチ・カートに幾つもの段ボールを乗せたボブカットの少女。

「見てくれよコレ、全部干し芋だぜ。こりゃあ一か月は食物繊維には困らないな」エーリアスが皮肉めいて言う。「……全員意識が戻ったか」フジキドの言葉にナンシーが頷く。これで全て解決した。今後、彼女らが自ら社会の闇に踏み込まない限りニンジャの脅威に晒される事は無いだろう。

「……最後のアイサツに行ってあげないの、教官殿？」病院に背を向けるフジキドに、ナンシーが声をかける。「必要ない」フジキドは短く答えた。少女達は少女達の陽の当たる道を行く。血塗られた自分が踏み込むべきでない道を。「……私は教官に向かないからな」フジキドは口元に僅かな笑みを残し、トレンチコートの襟を立てた。

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク　終わり

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◆忍◆　
ニンジャ名鑑＃＃＃
【アハトアハト】
ネオサイタマ国防軍の軍人からニンジャになり、狙撃組織シャーテックを経てアマクダリ・セクトに所属したニンジャ。部下を感情の無い殺人兵器に育て上げるニンジャ育成力もさる事ながら、戦車の75mm砲すら上回る大型スナイパースリケン「スリケン・カノン」が最大の武器。狙撃系ニンジャの例に漏れず、カラテは弱い。
◆殺◆



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにてアングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク完結となります。
ニンジャスレイヤー×ガルパンという、自分自身でも初挑戦でどこまで書けるのか分からないまま始めた作品でしたが、何とか終わらせる事ができました。
ご意見、ご感想をいただければと思います。

次回作はまた忍殺かガルパンか、そのクロスかで考えています。
それでは最後に、言い忘れていた言葉と共にお別れとさせていただきます。

ガルパン・ハ・イイゾ！　オタッシャデー！