アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

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アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#11

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#11

 

『こちらカバチーム、走行不能! 仕損じた!』「ええっ!? ペ、ペコ=サン、どうするニャ!?」「……仕方ありません、一度後退しましょう」エルウィンからの通信に焦るネコニャーに、ペコは動揺を抑えつつ答えた。KABOOM! チャーチルの後方からの支援砲撃! 「帰してもらえれば、ですけれど」

 

「……ペコ=サン。ボクが盾になるから、ペコ=サンはニシズミ=サンの所まで行って。この場で一両生き残るなら、ペコ=サンのマチルダを優先するべきぞな」「………」「行って」「分かりました。ネコニャー=サンも隙を見て撤退を」「……別に、あれを倒しても構わないんだよね?」「何で自分から死亡フラグ立てるっちゃ……」

 

全速後退するマチルダを守るように三式が前進を始める。エンジンが唸り、次第に速度を上げてゆく。「こっちだって、前の私達とは」「……違うナリよ!」モモガーの素早い操縦によって、チャーチルの砲撃を危うい所で回避する三式、更に停止位置を予測してきた黒三突の支援射撃を咄嗟で右方向に回避! 

 

チャーチルの側面に回り込むが、まだ撃たずそのままチャーチルの横を抜け黒三突を目指す。チャーチルの砲門をマチルダから遠ざける狙いだ。前後から挟まれる格好だが、敵の両車両とも発砲直後で装填は完了していない。先手を打てるのは三式だ。「せめて一撃、三突だけでも連れて行きます!」KABOOM! 黒三突に向けて砲弾が放たれる!

 

KABOOM! 「アイエエッ!?」やはり突如の暴発! 「な、何でこんな時に……!」KABOOM! 「ンアーッ!」直撃! シュパ。三式から白旗が上がる。『オオアライ、三式中戦車走行不能』「イタタタ。ペコ=サンは?」「何とか逃げ切れたみたいっちゃ……」「良かった……でも、今のは一体……まさか、コレが……!?」

 

(ククク……何が起きたか分からぬだろうな……)1㎞離れたビルの上で、アハトアハトは迷彩色メンポの下で酷薄な笑みを浮かべた。その姿は軍服から暗灰色のニンジャ装束へと変わり、腕には巨大なレールガンめいた兵器が装着されている。外見はスナイパー系のニンジャが主に使うスリケン射出装置・スナイパースリケンに近いが、その砲身は通常の二倍近い長さだ。

 

これこそがアハトアハトの武器、スリケン・カノンである。如何なニンジャのスリケンとはいえ、高速で飛来する砲弾を破壊するには相応の初速と威力が必要となる。それを可能にする威力と速度を、装填速度と使用者への負担を代償にして実現したのがこのスリケン・カノンなのだ。(これで再び5対5……このまま終わらせるとしよう)

 

「ヌゥーッ……!」一方、ニンジャスレイヤーはビル街を疾走しつつ携帯IRCからのエーリアスの戦況報告に苦渋の表情を浮かべていた。急がねばならぬ。(ナンシー=サン、そちらの状況はどうだ?)数秒もかからずノーティスが返る。(NP。単純な防壁、アンタイ自我弱体プログラム間もなく出来)

 

(了解した。頼みたい事がある。イバラギ学園都市の高さ30m以上の建造物のピックアップ、そのデータを……)メッセージを送り切る前にデータが送られてきた。ワイヤーフレームの市街地に、特定の高層建造物のみが赤色で表示される。(ミホ=サン、もう少し堪えてくれ!)「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはシャウトと共に高く飛んだ。

 

『ゴメン、ニシズミ=サン。ボク達もここまでみたい……多分だけど、モリタ=サンの予測通り妨害が介入してる。気をつけて』「ありがとう、ネコニャー=サン」「駄目でしたか……」学園都市、商店街を抜けた学校付近。ミホとオレンジペコは合流して移動していた。

 

(これがニンジャの妨害……)事前に知らされていたとはいえ、実際にその事態に直面しミホは自身の体温が下がるのを感じた。飛来する砲弾を相手への着弾前に破壊する。そんな事は常識では考えられず、仮に発生したとしても演習弾の不良による暴発以外の結論は出ないだろう―――それを可能にするのが、ニンジャなのだ。

 

三式は足止めしてくれたが、黒三突とチャーチルはすぐに追ってくるだろう。それまでにこちらもラッコチームと合流しなければ、態勢の立て直しは難しくなる。『……まずいな。前方からT-34/85とティーガーⅡが接近中』偵察のアンチョビから通信が来る。「回避して繁華街方面のラッコ部隊との合流は可能ですか?」『できるが……大回りになるな』

 

「分かりました。正面突破で突っ切り、そのまま合流を目指しましょう」「了解しました」強攻策ではあるが、ペコはそれに同意した。『……それなんだけど、ちょっと怪しくなってきたわ』割り込むようにアリサからの通信。「アリサ=サン?」『……黒いⅣ号が来た』『バカな! 私達の偵察をすり抜けたのか!?』『アーケードを利用されたのかも……』

 

驚くアンチョビにカルパッチョが推測を挟む。『そういう訳だから、今から戦闘に入るわ。上手くいけばキンボシ・オオキイでMVPね』『それ死亡フラグッスよ』『うるさいわね! 通信終わり! 行ってくるわ!』『ウサギ・チームも行きます!』「……分かりました」既にⅣ号はアリサ達を捕捉している。後退による撤退は困難とミホは判断した。

 

「予定を変えます。追撃が来る前に、ここでT-34/85とティーガーⅡを撃破します」廃校舎前、かつては様々な学生が行き来したであろうターミナルに出る。前方左右から姿を見せるT-34/85とティーガーⅡ。「……撃て!」KABOOM! ミホの号令に合わせⅣ号が砲撃を行ったのを皮切りに、戦闘は始まった。

 

学園都市、繁華街方面。「……教官」ニシズミ・マホは黒いⅣ号戦車の中でサイバーサングラスの通信機能を特定のダイヤルに調整していた。デジタル化された視界は常に黄昏のように薄暗く、継続的に流れ続ける電子音は感情の波を上から叩くように乱暴にフラットにしてゆく。やがて、アハトアハトの応答が返ってきた。「……どうした、1号」

 

「先程から敵砲弾の暴発が相次いでいます」「安物を使っているのだろうよ「………」

「どうした?」「……これから戦闘に入ります。介入をされているのであれば不要です」「反抗か?」「ランダムな介入は戦術予測が困難になります」「……フン、良かろう。お前に関しては俺も心配はしとらん」一方的に通信は切られた。「……戦車前進」

 

ハッチを開け、車体から体を乗り出して前方のシャーマンとLeeを見る。シャーマンの背後、Leeの砲塔が不自然に上を向いている。こちらを狙っていないのは明らかだ。「俯角最大。相手の発砲後0.5後に撃て。操縦手は1時方向に回避」淡々とした指示。その指示を出した直後にシャーマンの砲撃。KABOOM! 

 

だがこれをマホは無表情のまま回避する。牽制なのは予測済みだ。本命はこの後のLee。KABOOM! Leeの砲撃がマホの直上、オイランのネオン看板の固定部を直撃する。飛来する巨大オイラン。KABOOM! それに対して黒Ⅳ号の砲撃が加えられる。落下方向を強引に変えられたオイラン看板は逆に敵側へ。回避しようとしたシャーマンに直撃。

 

KABOOM! 看板越しの砲撃。シュパ。シャーマンから白旗が上がる。混乱したLeeは下がりながら撤退を図ろうとしているようだ。KABOOM! シュパ。Leeから白旗が上がる。『オオアライ、M4シャーマン、M3Lee、走行不能』「これで戦力比は逆転した。このまま敵フラッグ車を包囲……」次の指示を飛ばそうとしたマホは、暫しの沈黙の後に言い換えた「訂正する。戦力比は均衡したままだ」

 

その数分前、学園都市校舎前ターミナル。「……何だ、あの動きは!」1㎞離れたビルの上から、通信を終えたアハトアハトはⅣ号戦車の動きをスコープ越しに見て驚愕した。Ⅳ号戦車の性能や彼女らアンコウ・チームの能力はアハトアハトも事前に把握している。だがそのデータや動きと現在のそれはまるで別物だ。

 

ターミナル中央の噴水跡の周辺を、まるで舞うように周回しつつT-34/85とティーガーⅡの射線が同士討ちになりかねない位置に付け、それでいて後方のマチルダの支援の邪魔にならぬように装填や発砲のタイミングの際にはちゃんと射線を開ける。KABOOM!ティーガーの履帯が破壊された。このままでは時間の問題だ。「チィーッ!」

 

アハトアハトは舌打ちするとスリケン・カノンに大型スリケンをセットし、回転を加えた。「モータルの小娘が調子に乗りおって!」照準を合わせる。スリケン・カノンには実際戦車を破壊する威力もあるが、流石に戦車にスリケンが残っていては後で問題となる。狙うのはあくまで発射された砲弾だ。自然な妨害が重要なのだ。

 

Ⅳ号が、ティーガーの援護に入ろうとしたT-34/85に砲身を向ける。狙うならば今だ。KABOOM! 瞬間、大型スリケンが砲弾へ向けて放たれた! 「終わりだ。イヤーッ!」BDOOM! T-34/85に砲撃が命中! 白旗は上がらないが、無視できぬ損傷を与える!「……何だと?」外れた? アハトアハトは再びスリケンを装填した。

 

今度はティーガーの背面を狙うマチルダの砲弾を狙う! KABOOM! 「イヤーッ!」BDOOOM! 砲弾命中! 対戦車榴弾が直撃したティーガーⅡから白旗が上がる! 「何だ!? 何が起こっている!?」二度も外す? 否! そんな筈は無い! 狙撃ニンジャ組織・シャーテックで訓練を受けたアハトアハトは、それこそ1km先から銃弾を狙撃できる程のワザマエを持っている自分に確信を持っていた。

 

では何故? 何かが起こっている、良くない何かが! そうしている間にも、Ⅳ号は残ったT-34/85に一撃を加えんと再び砲身を向けた。「そう何度も上手くゆくと思うな!」KABOOM! 「イヤーッ!」 BDOOM! T-34/85から白旗が上がる! 『デンエンチョーフ、ティーガーⅡ、T-34/85、走行不能』「な……!?」

 

その時アハトアハトは確かに見た。自分のスリケンが、別の場所から飛来したスリケンに撃墜される光景を。スリケンが飛来した方角にスコープを向ける。「アイエ!?」突然、アハトアハトは至近距離から強烈な殺意を感じ、周囲を見回した。だが誰もいない。再びスコープを覗く。「ア……!」

 

アハトアハトは先ほどの殺意が近くでなく、数km先から放たれていた事を悟った。スコープの先、ビル上に赤黒のニンジャ装束の影が一つ。その影、ニンジャスレイヤーは数km先のアハトアハトに決断的な殺意の眼光を向けていた。(い、いかん! 場所を把握された!)咄嗟にビルの屋上からジャンプし、逃亡しながら次の狙撃位置へ向かう。

 

IRC通信から流れてくるマホの撃墜報告も何の救いにもなりはしない。既に3対3、今までの圧勝からはかけ離れた戦果であり、ここまで順風満帆であった学生兵士育成プログラム計画自体に疑問を抱かれても反論できぬ惨状だ。ならばせめて手段を選ばず敵フラッグ車を破壊し、最低限の勝利をもぎ取るべし!

 

Ⅳ号はシャーマン達が走行不能になったのを知ってか、そのまま学園内に入り防衛戦に入るようだ。偵察のCV33も高層駐車場を下りて向かおうとしている。校舎の遮蔽に隠れているⅣ号戦車を発見したアハトアハトは、直接スリケン・カノンを向けた。装甲を貫通したスリケンは中の女生徒を殺傷するだろう。「イヤーッ!」

 

だが、そのスリケンはやはり別方向から飛来したスリケンによって撃墜された。「な……」慌てて飛来した方向を見る。すると、先程とは別のビルの上に立つニンジャスレイヤーがスコープ越しに殺意に満ちた眼光を向けていた。「バカナー!」アハトアハトは叫んだ。

 

(こちらの複数ある狙撃位置を把握し、その逆狙撃位置に先回りをして更にこちらの狙撃タイミングを把握してそれに合わせて迎撃のスリケンを投げたというのか!? そんな事、出来る筈が……!)更に別の狙撃地点へ逃げながら、アハトアハトは必死に考えていた。(何故だ、何故そんな芸当が可能ならば直接妨害せず俺を狙う!?)

 

「知りたいか?」「アイエッ!?」突然聞こえてきた声にアハトアハトは悲鳴を上げた。背後を振り向く。1㎞以上離れていた筈の死神は、既に数十メートルの距離にいた。「バカな、この短時間で……!」「オヌシがニンジャだからだ! ニンジャ殺すべし!イヤーッ!」校舎の壁を蹴りニンジャスレイヤーは跳ぶ。更に距離が近づく! 

 

「バ、バカめニンジャスレイヤー=サン! 忘れたか! 俺を殺せばオオアライの……」「彼女らは勝つ! 故に試合終了まで両手足を折る程度は出来よう! 死ななければ良いのだからな!」「きょ、狂人め!」僅かな虚勢も決断的な殺意の前では無力! もはや撤退も許されぬと悟ったアハトアハトはスリケン・カノンを構えた!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」シャウトを交差させつつ、二つの影が学園の間を跳躍する。ミホはⅣ号戦車から身を乗り出し、その声を聴いた。見上げた空に、暗灰色の風と赤黒の風が舞う。「……モリタ=サン?」呟く。その瞬間、上空のニンジャスレイヤーとミホは確かに視線を合わせた。

 

ミホはニンジャスレイヤーの瞳に強い怒りと殺意、そしてその奥にある悲しみを見た。ニンジャスレイヤーはミホの瞳に優しさと寂しさ、そしてその奥にある強さを見た。(ミホ=サン、これは私のイクサだ。オヌシはオヌシのイクサを果たせ)(……ありがとうございました。教官)ミホは無言で頭を下げ、暫くそうしていた。

 

再びニンジャスレイヤーは赤黒の風となった。「どうしたの、ミホ=サン?」車内からサオリが聞く。「……ううん、何でもない」「アンチョビ=サン、もうちょっとで合流できるって。敵の誘導も上手く行ってるみたい」「了解です」車内に戻り、改めて皆の顔を見る。ユカリ、サオリ、ハナ、マコ。初戦から共にしてきた仲間たちを。

 

「それじゃ、行きましょう。これが最後の戦闘です……パンツァー・フォー!」

 

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#11終わり #12(最終回)に続く




エー、スミマセン。#11で終わりませんでした。
とはいえ、ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回で最終回となります。あと一回、宜しければお付き合い下さい。

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