アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

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アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#10

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#10

 

 

KABOOM! KABOOM! 「ギリギリ合法」と書かれたPVCノボリが吹き飛び、粉塵と破片をまき散らす。イバラギ学園都市外周部、繁華街方面。アリサのシャーマンとウサギチームのM3Leeは、相手の黒シャーマン&黒Leeとの交戦を繰り広げていた。

 

戦況は実際不利。自我が弱められているとはいえケイの指揮力は確かなようだ。黒Leeをサブとして二門の砲撃で牽制を行い、装甲で勝るシャーマンが前面に出て一撃を仕掛ける。こちらの射程を把握しているのだろう。攻め過ぎず、かつ引き過ぎずの所での波状攻撃を仕掛け、こちらをミホの援護に回らせない事を目的とした攻撃だ。

 

「チッ、流石隊長。相手に回ると本っ当に面倒ね……! ラビッツ、そっちはどう!?」舌打ちしつつアリサは後方のLeeに通信を送った。『こちらウサギチーム、損傷は軽微!』KABOOM! 近い! 「ンアーッ! 隊長、後で覚えときなさいよー!」震動に耐えつつアリサは後退を指示する。一方、Lee車内のウサギチームも焦りを募らせていた。

 

「どうしよう。ミホ=サン、単独になったって言ってたし、このままじゃ……」額に汗を滲ませつつ、車長のアズサが呟く。何とか早く支援に向かわなくては。だがどうやって?「どうする? 前みたいに突っ込む!?」左右に振り照準を合わされないようにしつつ、操縦手のカリナが言う。その時、副砲座のアヤの肩を誰かが叩いた。「………」「?」

 

副砲装填手サキが、何か言おうとしていた。「アズサ=サン! サキ=サンが何か言おうとしてる!」「!?」アズサは咄嗟に耳を傾けた。マルヤマ・サキ、彼女は極端に寡黙であり自発的に発言する事は稀である。しかし時折、天啓めいた発想を生み出し今まで幾度がチームの窮地を救ってきた。無意味なものが混じるという問題点はあるが。「……フクスケ」

 

「フ、フクスケ?」思わぬ言葉に混乱するアズサ。今回のはハズレか? 否、サキは例えハズレの場合でも視野に無いものを口には出さない。ではフクスケとは……砲撃を恐れずハッチから顔を出したアズサは、彼女の言う「フクスケ」に気付き、アヤとアユミの両の砲手に指示を飛ばした。「俯角最大! 敵の頭の上の看板を狙って!」

 

「ええっと……あれか!」「サキ=サン、テンサイ!」KABOOM! KABOOM! Leeの75mm砲と37mm砲が同時に火を噴く! その二つの砲弾はシャーマンの遥か頭上、巨大フクスケのネオン看板の固定部を直撃する! ワザマエ! 慌てて回避するシャーマンの上に落下する幅数メートルのフクスケ! BDOOM!

 

「もう一回!」「ハイッ!」今度は右のビルのネオンコケシ! 巨大ネオンコケシが黒Leeの頭上に落下する! 「もう一回!」「ハイッ!」また左のビルに砲撃! 「おマミ」と書かれた幅数メートルの看板がシャーマンに落下する! 「もう一回!」「ハイッ!」また右のビルに砲撃! 巨大モチヤッコが黒Leeの頭上に落下する!

 

流石にこれはどのような戦術訓練にも想定なし! 「相変わらずオオアライの連中は無茶ばかりね! でもこれなら……fire!」KABOOM! 混乱を突くアリサの砲撃!「もう一発! 態勢立て直される前にここで仕留めて!」KABOOM! シュパ。シュパ。小銃の空砲音めいた音が二つ鳴った。白旗が上がる『デンエンチョーフ、M4シャーマン、M3Lee、走行不能』「「ヤッター!」」ウサギチーム一同が車内で快哉を上げた。

 

「ヌゥーッ! 不甲斐ない!」観客席のアハトアハトは8:6となった戦力表示を見て怒りに顔を歪ませた。方法は不明だが、オオアライの女生徒たちも相当な練度を積んでこの試合に挑んできたようだ。アマチュアと侮っていたアハトアハトはここに来て認識を改めねばならぬと理解した。(……まあ良い。俺が動けば、結局こちらの勝ちだ)

 

大きく息を吸い、反対側の客席のフジキドを睨む。(それまでせいぜい浮かれているが良い、ニンジャスレイヤー=サン!)。対するフジキドの目には一切の興奮も焦りも無い。イクサが最後の一撃で決まる事を無数のイクサの中で誰より知っているからだ。(ここからが勝負か……)BEEP、BEEP。フジキドの携帯IRC端末が鳴る。

 

『対象物入手。これより対策に入る』ナンシーからの端的なメッセージ。どうやら彼女は走行不能車両の搭乗員から上手くサイバーサングラスを奪う事ができたようだ。これは当然窃盗に当たるが、既に懲役数万年分のナンシーの電脳違法行為からすれば数日増える程度の事でしかない。(頼んだぞ、ナンシー=サン……ム?)

 

反対側の客席のアハトアハトが立ち上がった。遂に動くか? フジキドは警戒を怠らず敵の動きを追う。ヒナ段式の客席を降り、仮設トイレに向かい……数分後、何事もなく元の席に戻ってきた。只の用足しだろうか。フジキドは意識をアハトアハトに向けたまま視線はプロジェクターに戻し、試合の流れを追った。

 

学園都市、ショッピングセンター周辺。「キャプテン、どうですか!?」「流石に相手も速いね! こっちと同じ速度で飛ばしてる!」八九式と黒い八九式がビルの谷間を縫うような追撃戦を行っていた。八九式の任務は高層駐車場のアンチョビ達を守るための哨戒と、近づけさせないための陽動だ。

 

「エンジン周りも同じものを積んでるって事ね……」操縦席のシノブが言う。「多分ね、でも最後はどこまで行っても根性だ! 踏ん張るよ!」「「ハイッ!」」「ってーッ!」KABOOM! 八九式の予測射撃! 紙一重で回避する黒八九式! KABOOM! 今度は黒八九式からの砲撃! やはりこれを紙一重でビルの陰に隠れて八九式回避!

 

等間隔で建つビルを挟んで二両の八九式が走る。互いにビルの谷間での一撃を狙いつつ攻撃の機会を狙う。「いい場所に来た! 一人時間差、いくよ! アケビ=サン、勝負は一回、集中して!」「はい、キャプテン!」更に速度を上げる八九式。道は広くないし瓦礫なども多い。だがこの程度の障害ありでの走行は訓練済みだ!

 

ビルを抜ける! 八九式が撃つ! 黒八九式が避ける! 黒八九式が撃つ! 八九式が避ける! ビルの陰に入る! ビルを抜ける! 八九式が撃つ! 黒八九式が避ける!黒八九式が撃つ! 八九式が避ける! ビルの陰に入る! ビルを抜ける! 八九式が撃つ! 黒八九式が避ける! 黒八九式が撃つ! 八九式が避ける! ビルの陰に入る!

 

ビルを抜ける! 黒八九式が撃つ! 八九式は……いない! 黒八九式が停車する!一瞬遅れてビルの陰から出る八九式! KABOOM! 直撃! シュパ。黒八九式から白旗が上がる。ゴウランガ! 急停止、急発進による時間差攻撃だ!

 

『デンエンチョーフ、八九式中戦車、走行不能』「ヤッ……」KABOOM! 「アイエエ!?」勝鬨を上げようとしたアヒル・チームは突然の衝撃に悲鳴を上げた! 75mm砲の側面の直撃! シュパ。八九式は横転して白旗を上げた。『オオアライ、八九式中戦車走行不能』「キャ、キャプテン、今のは……!?」「そうか、相手も作戦で……!」

 

ノリコは相手の思惑を悟った。敵も無意味に動いていた訳ではない。確実にこちらを仕留める事の出来る狩場へ誘い込もうとしていた。そしてそれは、自身を犠牲にして成功していたのだ。「すみません隊長、アヒルチームやられました! 相手は……」黒いⅣ号戦車から体を出し、無感情に見下ろすニシズミ・マホの許まで。

 

「……お姉ちゃん」Ⅳ号戦車内、アヒルチームの報告にミホは目を伏せた。とはいえこれで戦況は7対5、開始当初に重戦車二両を撃破され初手では後れを取ったが、何とかオオアライ有利まで持ってくる事ができた。現在ミホ達は商店街方面を移動中のイルカ小隊と合流するために移動中だ。アンチョビのナビは的確で、射線の通らない裏道をナビゲートしてくれている。

 

「ミホ=サン、ここからはどうするの?」「こちらが有利になった事で、相手は戦力を集中させると予想されます。合流を防ぎ、フラッグ車の孤立を……?」サオリの質問に答えるミホはふと違和感を覚え、車両から体を出した。遠くから砲声。『こちらイルカチーム。こちらにチャーチルと三突が来ました。合流はお待ち頂いた方が良さそうです』冷静な口調でオレンジペコから通信が来る。

 

学園都市、商店街方面。「……来ましたわね。ダージリン=サン」砲手席のアッサムが呟く。本来ペコは装填手だが、今回は車長を務めている。その視線の数十メートル先、十字路の中央に重々しく一両の重戦車が立ちはだかっていた。黒いチャーチルだ。「……ノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)。やはりダージリン=サンは変わりませんね」

 

「そうですわね。決して背後に隠れず、自分が矢面に立つ……」ペコの感想にアッサムも同意する。高貴さと強さの兼備を貴ぶ聖グロリアーナの隊長に足りる優雅さと決断力、そして自ら危険な場に出る事を恐れない勇敢さを持ち合わせていた隊長だった。だが今は彼女を取り戻すために戦わなければならない。

 

「……ネコニャー=サン、エルウィン=サン、おそらくあのチャーチルは囮です「囮?」「多分、あの周辺の射線の通る位置に敵の三突がどこかに潜伏しています」「そこから近づいた戦車をドカンって事ですか……」「はい。ですからチャーチルを足止めして、その間に一両が迂回。潜んでいる三突の撃破を狙いましょう」

 

「だとすると、我々の出番だな」「カエサル=サン?」「三突に何ができて何ができないか、それを一番知っているのは我々だ。ここは任せてもらおう」「分かりました。気をつけて」「ヴァルハラで会おう!」「縁起でもないぜよ」通信が完了した。マチルダと三式が前進する陰で三突が静かに後退し、横道に入り込む。「……では行きます。ダージリン=サン」

 

KABOOM! KABOOM! 激しい砲撃が交差する。その轟音を背後に三突は低い車高を建物に隠しつつニンジャめいて静かに進む。高速では走らせられない。一度気付かれれば場所を変えられ逆狙撃は困難になる。四つほど道路の筋を超え、前面からの攻撃に集中しているチャーチルを横目に回り込む。「……居た! 9時方向!」カエサルが発見した。

 

建物の陰から黒い三突がチャーチルの方へ向いている。無防備な側面。絶好の好機だ。「一撃で決めろ!」「委細承知!」エルウィンの指示にサエモンザが応える。KABOOM!43口径が黒三突の側面を直撃! KABOOM! 砲煙が前面を覆う! 「よしっ!」「鉄十字勲章ものだ!」歓声を上げるカバチーム! KABOOM! 「アイエエッ!?」

 

だが、その直後にその前面から衝撃! 「何だ!?」砲煙が晴れる! 黒三突無傷!「バカな! 今のは直撃だった筈だ!」「幻術か!?」KABOOM! 再砲撃! 正面を向いた黒三突とはいえ無傷では……KABOOM! 「……暴発!?」エルウィンは確かに

見た。着弾直前、こちらの撃った砲弾が爆発するのを。KABOOM! 「ンアーッ!」

 

今度は薄い所に直撃! シュパ。三突から白旗が上がる。『オオアライ、三号突撃砲走行不能』「!?」観客席。フジキドは驚き立ち上がった。砲弾の暴発寸前、ニンジャ動体視力は確かに砲弾に向かうスリケンを捉えていたのだ。だがアハトアハトは観客席にまだいる。これは一体……「ヌウッ!?」

 

フジキドはそこで初めて違和感に気付いた。観客席のアハトアハトは先ほどまでかけていなかったサングラスをかけ、定期的に痰を吐いている。精巧な偽装を施されたクローンヤクザだったのだ! 「ウカツ! ……エーリアス=サン、後は頼むぞ!」「え?」状況を把握できていないエーリアスに一言残すと、フジキドは客席を駆け下りた。

 

そのまま全力で試合会場へ向けて走り出す。トレンチコートを脱ぎ捨てたかと思うと、その姿は赤黒のニンジャ装束に変わる! だが己を呪うのは後で良い。今はただ急ぎ、アハトアハトの妨害を一刻も早く排除すべし! 「イヤーッ!」一足でフェンスを越え、廃墟の中にニンジャスレイヤーは降り立った。急げ、ニンジャスレイヤー、急げ!

 

アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#10終わり #11へ続く


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