アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク   作:ターキーX

1 / 12
初投稿となります。よろしくお願いします。
本作はガルパン×ニンジャスレイヤーのクロスSSとなります。
世界観はネオサイタマ基準。学園艦などの一部設定は変更していますのでご了承ください。
基本的にニンジャ以外は死なず、また猥褻は一切ない作品にする予定です。


アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク#1

ネオサイタマ郊外、フジサン演習場跡地。電子戦争の傷跡が未だ残る、野生のバッファローすら寄り付かぬ荒地である。そこに今、激しい砲声が幾重にも鳴り響いていた。

 

「アイエエエ! 隊長、スミマセン! 5番車走行不能です!」通信手からの悲鳴めいた報告に、隊長のニシズミ・マホは無言で眉を寄せた。外見こそパンツァージャケット身を包んだハイスクールの少女だが、その眼光は歴戦の戦士のそれであり、そのバストは豊満である。

 

彼女だけでなく、よく見れば戦車を動かす乗員は全て同年代の少女たちである。学徒兵?否、彼女達が行っているのは「センシャドー」という戦車による模擬戦闘スポーツである。そしてマホが率いるクロモリミネ女学院はそのセンシャドーにおいて9連覇を成し遂げ、その後も二連続準優勝に輝いた、正真正銘の名門校であった。

 

(だが……この敵は、試合は異常だ)マホはそう考えつつ、操縦手に右の雑木林を抜けるよう指示を飛ばした。数でこそ相手が上だが、フラッグ戦では敵フラッグ車を撃破すれば勝利となる。既に敵フラッグ車の位置は特定し、副隊長のエリカが懸命な足止めを仕掛けている。それを奇襲する格好だ。

 

どんな訓練を受けた兵士だろうと、100%の回避や命中は有り得ない。ましてや彼女らセンシャドーの選手は本分はあくまで学生であり、その練度は本業の軍人と比べれば見劣りは避けられない。しかし、今回の相手の練度は完全に専業軍人のそれであった。

 

「勝負は……」林を抜ける。眼前にはエリカの乗る満身創痍のティーガーⅡと、それに砲身を向ける、まるでマホの乗るティーガーのメタファーかのように黒塗りされたティーガーの姿があった

 

「最後の……」砲手にハンドサインで指示。既に徹甲弾の装填は完了している。「……一撃で決まる」発射。完璧な角度。敵の背面。回避は不能。

 

KABOOM! 「!?」突如の爆発! 「アイエエエ! 隊長! 着弾前に爆発しました!」「何……!?」暴発? このタイミングで? ICチップを搭載した演習弾には確かに人間への直接の着弾を避けるための自壊機能は付いているが、対戦車戦で万に一つも……KABOOM! 「ンアーッ!?」

 

激しい衝撃がマホのティーガーを襲った。シュパ。銃の空砲音めいた音が鳴り、ミニチュアめいた白旗が車体から吹き上がる。戦闘不能を示すサインだ。一瞬の動揺の隙に、既に敵は砲塔の旋回を終えていたのだ。

 

『クロモリミネ女学園、フラッグ車大破!』無常に響く審判の放送を聞きつつ、マホは表情を変えず、ただ拳を握りしめた。これでサンダース、プラウダ、聖グロリアーナ、クロモリミネが得体の知れぬ新設校に敗れた。次に奴らが狙うのは間違いなく……オオアライ。

 

「ミホ……すまない。止められなかった」そう呟き、マホは僅かに涙を滲ませた。

 

【アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク #1】

 

「本物の豆」という古びた看板を重金属酸性雨に濡らす喫茶店に、その二人の姿はあった。一人はトレンチコートにハンチング帽の男。もう一人はシンプルな白の制服に身を包んだ小柄な女子学生である。些か奇妙な組み合わせだが、誰もが何かしらの複雑な事情を持つネオサイタマにおいて、その程度の事に目を止めて耳を傾ける市民はいない。

 

「センシャドー?」「そう、センシャドー」「聞いたことはある。電子戦争以前の老朽化して兵器としての有用性を失った戦車を再利用した、模擬戦闘スポーツ……」「まあ、そんなところ。うちが優勝した時のコレワスポーツの特集号を見てない? 見てないか」

 

カドタニ・アンズと名乗った少女は、壁に貼られた「持ち込み禁止」の札を気にせず鞄から取り出した干し芋を齧りつつ言った。ハンチング帽の男……イチロー・モリタは無言でバイオ豆使用の不味いコーヒーを啜る。実際、センシャドーが有名になった要因はアンズが生徒会長を務めるというオオアライ女子学園の優勝による所が大きい。

 

「廃校寸前だった女子高校が、かつて同校で盛んだったセンシャドーを復活させて、全国大会で優勝して廃校を免れた」という物語めいた一件は美談に飢えるネオサイタマのメディアに少なからず取り上げられ、センシャドー自体の知名度を上げる事にも貢献した。その隊長がセンシャドーの名家の次女だった事も話題となったようだ。

 

「そのセンシャドーが?」「うん、そのセンシャドー名門校と言われている学校は複数あるんだけど、そこが次々とセンシャドーの試合を挑まれて倒されてる。敗けた選手は強制で相手校に転校。ドージョー破りと同じ。そこから遂にウチへ試合の申し入れが来た」

 

賢明なる読者諸兄は、この話に奇異を覚えるかもしれない。何故申し出をわざわざ受けなければならないのか、何故転校を無理矢理させられねばならないのかと。

 

ネオサイタマの社会がそうであるように、学生間の間でも名誉や契約は絶対である。もし名門校が新設校の挑戦を退ければ「初心者から試合を逃げた」と称され、名門校としての名声は地に落ちるだろう。試合前の宣誓を反故にしたとなれば、そのチームに属する学生全員がムラハチ(社会的制裁)に会うのは確実である。

 

「……私はスポーツの教官ではないが」「分かってる。ここからが大事」干し芋を更に一枚取り出す「デンエンチョーフ女学園、知ってる?」「カチグミの令嬢が通う名門校だ。メディア展開も派手に行っている」「そこがその相手。センシャドーの実績なし。それどころか、良妻賢母の教育に不適切とかで運動系自体に積極的でなかった。それが突然センシャドーが有名になってきた途端旗揚げして、全戦全勝」

 

ぬるくなってきたコーヒーを啜る「……何かあると?」「『何か』じゃないんだよね……」干し芋を齧りつつ、アンズは鞄から数枚の写真を取り出し、テーブルに広げた。車載カメラめいた画質の荒い写真である。「前の試合、クロモリミネのフラッグ車が撃破される直前のもの。敵フラッグ車を狙った砲弾が突然爆発した」

 

「暴発?」「当然そう判定された。けど、実際は違う。写真の三枚目を見てみて」そう言われ、モリタは写真を手に取った。発射される砲弾、飛んでゆく砲弾、爆発、そしてデンエンチョーフ側の発射。特に変わった点は……「これは」「そう」

 

三枚目、砲弾が爆発した直後の写真に、僅かだが黒い影のようなものが写っている。よく見れば二枚目にも。この影が飛来する砲弾に当たり、爆発させたというのだろうか。仮にそうだとして、そんな芸当ができる存在などいるはずがない……ニンジャ以外は。

 

「もう一つの証拠がこれ。実際の演習場に下見の名目で行ってきて、必死に探したもの」更に鞄から小さな金属片を取り出した。重金属酸性雨に晒されボロボロの鉄片にも見えるそれは……十字型のスリケンだった。

 

「審判への報告は?」「『ニンジャがスリケンを投げて試合妨害しました。だから試合は反則勝ちにしてください』そんな事言ったら私、その場で自我科に連れていかれちゃうよ……だから貴方に頼みたいんだ。暗黒非合法探偵、イチロー・モリタ=サン。ニンジャを殺せる探偵……正直、貴方の噂を聞くまで諦めてたよ」

 

口調こそ軽いがアンズの目には静かな怒りが宿っていた。ニンジャという理不尽への怒り、その理不尽に自身の大事なものを蹂躙されようとしている事への怒りが。「……よかろう。次の試合は何時?」「返事をギリギリまで伸ばして、更にセンシャドー連盟の審判決めとかを引き延ばしてもらって二週間」「……分かった」

 

モリタは写真とスリケンを懐に収めると、冷め切ったコーヒーを飲み干して立ち上がった。「報酬の三割を前払い。残りは依頼達成後に。現物支給もおまけに付けるよ……あと一つ、モリタ=サンにお願いしたい事があるんだよね」「何を?」

 

「オオアライの子に接触するのはいいけれど、この依頼自体は内緒にしておいて。殺人の依頼とか、私一人が勝手にやったって事にしておいてほしいからさ」「気に病む事はない。奴らは、ニンジャは……人ではない」モリタは静かに、しかし決断的にそう言うと、喫茶店を後にした。「……頼んだよ」アンズはそう言葉を送ると、鞄の最後の干し芋を口に入れた。

 

(アングリー・ニンジャ・アンド・アングラー・タンク #1終わり #2に続く)

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。