東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

「青娥」によって破壊されてしまった「ネメシス」を復活させることは「アリス」にも出来なかった。
 だが、アリス曰く「ママなら出来るかも」ということで、アリスの母親が住んでいるという「魔界」にアリスと共に向かうことになった「雛」、「早苗」、「にとり」、そして「轟アズマ」
 ところが魔界は幻想郷の管轄から外れる場所のようであり、「霊夢」が行く手を阻んでくる。
監視の対象たるアズマを幻想郷の外に向かわせるのを良しとしない為であった。

 普通に戦っても勝負は見えている。そこへなんと青娥が手助けしたいと申し出てきたのだ。

 胡散臭いと感じつつも、他に手立ての無いアズマ達は彼女に協力を要請。霊夢を罠にかけることで、そして青娥の「壁をすり抜ける程度の能力」を利用して、ついに魔界に繋がる門の向こう側へと到達したのだ。

 今もつかみどころのない笑みを浮かべ、青娥はアズマ達を見送った……。


第18話 ~白い嵐を越えて~

 真っ暗な洞窟をしばらく進む。何度も平衡感覚を失いそうになるほどに揺らいでいる気がした。ただ一人アリスのみが全く翻弄されずに進んでいる。

 

 そうして狭い穴倉を進んでいると点々と光の粒子が見えてくる。更に進むとそれが建物から発せられていたのが見えた。

 

「コンクリートのジャングル……いえ、まるでビル群といったところですね」

 

 確かにここは幻想郷ではないのだろう。俺の知っている外の世界でもよく見かける高層ビルが立ち並んでいたのだ。ゆえに早苗の反応が早かった。しかし空の色は青色ではなく赤色。ここが俺の知っている世界とは全く別の場所であることを知らしめている。

 

「ここから東へ向かうと『エソテリア』っていう片田舎の町、そして西側が『氷雪世界』と呼ばれる常に氷で閉ざされた過酷な地帯。その先に私のママは住んでいるのよ」

 

 マスク越しでも魔界の瘴気は生身の人間には耐えがたい(何故か早苗は平気そうであったが)。なるべく空気を吸わないように西側へと向かう……のだが、そんな俺達の行く手を阻む者が現れた。

 

「な、何コイツ……?」

 

 4本の触手をゆっくりと回転させ、進路を塞いでいる。こいつは永遠亭でも出くわしたアイツじゃないか。

 

「お前はバクテリアン軍の『テトラン』だな。レーザーを喰らいたくなければ、すぐに道を開けるんだ!」

「いいえ、喰らうのは貴方達の方よ!」

 

 こちらがオプションを呼び寄せて戦闘態勢を取ると、ビクンとテトランは震える。そして触手のうちの1本が地表に向かって伸びて、ツンツンと何かを指さしている。よく見ると触手には「開店祝い割引」とか書いてあるクーポン券がくっついているではないか。

 

 罠……じゃないよな? よく見るとお店に魔界人らしき客がちらほらと入っている。

 

「バクテリアンがお店でもやってるんでしょうか? ええっと、『食事処ばくてりあん』ですって?」

「聞いたことないお店ね。だけどこの先は過酷な道だから、ここで一度休憩した方がいいでしょう」

 

 確かに、どんな場所かもわからない魔界の中。そこの数少ないオアシスであると考えられるのだから。

 

 さっそく店内に入って、「おまかせランチ」と書かれたものを注文する。全体的に和の要素がふんだんに盛り込まれた空間。この辺りは幻想郷の影響が色濃いのだろうか? 間もなく運ばれたのはどうやらパスタのようだ。和風な味付けはされていたが、まさかスパゲッティが出てくるとは……。

 

「どうかな? どうかな?」

 

 食べているとズイとテトランがこちらの様子をうかがってくる。正直味は悪くない。だが、良くもないというか特徴が全くない。こんな味ではこの店も長くはもたないだろう。

 

 雛達もあまりリアクションを取らない。言葉こそないものの、あまり気に入っていないらしいことがテトランにも分かったのか、ションボリと触手を垂れ下げていた。

 

「こういう時はスイーツですよ。ほら、メニューです」

 

 その甘美な響きに誘われて瞳を輝かせる少女4人。言い出しっぺはまたしても早苗。順応性高すぎるよなぁ。で、俺もメニューに目をやるのだが、なるほど確かにデザートの類がやたらと多い。話し合った結果「火山の焼きケーキ」の特大サイズを5人で分けて食すことになった。

 

 そして待つこと十数分……。小型クラブ(確か「キャンサー」って名前だった)に運ばれた火山の形をしたケーキが飛び出してきた。中心からは火山弾を模した何かが飛び散っており、ドロリとチョコレートソースらしきものもあふれ出ている。

 

「あっ『アイアンメイデン(※1)』までついてる。分かっていますねぇ~♪」

 

 随分と気合の入った造形。一口えいっと口に運ぶとアツアツで柔らかな感触からふわりと感じるチョコレートの味。若干薄味かと思うと濃厚なソースが絶妙な味を引き立てている。

 

「うまい……!」

 

 ああ、同感だ。甘いものは別腹と言わんばかりに俺達はあっという間に火山を完食してしまった。

 

「よかったー、こっちは気に入って貰えたようね」

「ああ、だけどなんで食事処なんてやってるんだ?」

 

 とっても素朴な疑問。永遠亭でのバクテリアン異変では恐らく生き残りはいない。まあ相手があのバイド以上のしぶとさを誇ると言われているバクテリアンなのでゴーレムみたいに復活したと言われれば納得はしてしまうが、それにしたって復讐とかではなく、レストランを経営しているのである。

 

「実はね、幻想郷そのものを支配しようとゴーファー様の下で色々やってきたけれど、そのゴーファー様も復活しそうにないし、今度は私自らが幻想郷を支配しようって思ったのよ。そう、幻想郷の食を……ね。それで今は料理の勉強中」

 

 俺が真っ先に思い出したのは妖怪の山の麓で秋姉妹と一緒に農作業にいそしんでいた芋コアこと「ブラスターキャノンコア」。こうやって幻想郷(ここは厳密には違うけど)で受け入れられるようにと色々とがんばっているのだな。

 

「特にスイーツが美味しかったですよ。これからはスイーツに特化してみてはどうでしょう?」

 

 早苗の助言に、ぱぁっとテトランの表情が晴れる。異変が関わらなければあのバクテリアンもこんな調子である。一歩一歩、幻想郷の住民と分かり合おうと手探りで前に進んでいるのだ。

 

 きっと俺の知っている白蓮がこのことを知ったら応援するに違いない。自らの理想に近づけた……と。だからこそ、俺は白蓮を助け出したい。悲しい嘘に縛られて、動けなくなってしまった大切な人を……。

 

 お代を支払うと、決意を固めた俺達は今度こそ氷雪世界へと向かう。

 

 後にこのテトランは「甘味処『ばくてり庵』」の女将として幻想郷にやって来ることになるのだが、それはまた別の話だ……。

 

 都市部を抜けると急にのどかな感じになり、次第に肌寒くもなってくる。気が付くと吹雪が吹きすさんでおり、ここが氷雪世界であることが分かった。

 

「この格好だと流石に寒すぎます。ブルブル……」

 

 容赦なく吹き付けるブリザードは前に進むことすら困難にさせる。そうしていると雪原の一部が異様に盛り上がった気がした。

 

「何か来るかっ!」

 

 盛り上がる場所をロックオンサイトで捉える。程なくして足跡一つない処女雪を突き破らん勢いで飛び出したのは真っ白いダンゴムシ。口から雪玉を吐き出してきたので、これをショットで撃ち落とした。

 

「今度は何のルーラーなのぉー!?」

 

 幻想郷で2度もダイオウグソクムシ型のベルサー艦を目にして、ここでも似たようなものがでてくるのでパニックを起こしているようで、ヒステリーのあまり頭を抱えながら回転する雛。そんな彼女をなだめるべく抑えるのが早苗であった。

 

「違いますよ。奴はベルサー艦ではありません。あれは『ブリザードクロウラー(※2)』といって雪原地帯に生息する巨大な虫です」

 

 やはりそうか。そして早苗は相変わらず気付くのが早いな。寒冷地を地形を無視して飛び回るのだが、確か弱点は尻尾だった筈。

 

「attack from behind!! 後ろの球体っぽいところを狙え!」

 

 が、俺がそう叫ぶ前に早苗は戦闘騎で奴の後ろを追うと、ゼロ距離で電撃を浴びせていた。フリーレンジのオーバーウェポンだろう。強力無比な火力に晒され、ブリザードクロウラーの尻尾が赤黒くただれ落ちた。

 

「あら、もう終わり? 随分と呆気なかったわね」

 

 ウォォォーンと悲しげな声を上げながら、尻尾を失って細切れになっていくブリザードクロウラー。確かに呆気なさすぎる。俺は何か嫌な予感がしていた。

 

「また地面が盛り上がってる! しかも3つも!」

 

 恐るべきことに同じ個体が3匹同時に飛び出て来たのだ。それぞれが雪玉を吐き出したり、体からビームを放ったり、執拗に食らいつこうと体当たりを続けたりしている。

 

「数が多すぎる。相手していたらキリがないぞ。逃げよう!」

 

 3匹の白い甲虫に背を向けると俺は雛とにとりを、早苗さんはアリスを乗り物に乗せるとあらん限りの速度で飛翔した。

 

「よーし、寒冷地用『菊一文字コンプレッサー』!」

 

 水流を上下にまき散らすポッドを投げ込むにとり。水流で行く手を阻もうという作戦のようであり、普通なら凍り付いてしまい使い物にならない筈のところを凍らずにちゃんと機能させている。

 

「凍りにくい特別な水なのだ。さあ、今のうちにここから離れよう」

 

 水流に阻まれたブリザードクロウラーからどんどん距離を離していく。が、1匹の虫が口から雪玉を吐き出すと、水流が凍り付いてしまう。あとはその巨体で体当たりをすれば、細い氷の柱など彼らにとっては取るに足るものではない。

 

「突破したわ! はやくっ」

 

 全速力で雪原を飛ぶ2機の戦闘機。後ろでボコボコと雪を盛り上げながら迫ってくるブリザードクロウラーの姿が見えなくなった。

 

「どうにか逃げ切ったようね」

「みたいだな。こんな場所はさっさと抜けて……っ! アリスっ、早苗っ!!」

 

 追手の様子を見るべく後ろを振り向いていたわずか数秒の隙、そこを突いてひときわ大きなブリザードクロウラーが早苗の戦闘騎目がけて飛びかかってきたのだ。突如覆う大きな影に二人はヒッと体を縮こませていた。

 

「リフレックス……いや、間に合わない!」

 

 俺はアールバイパーの速度を限界まで上昇させ、ガントレットに体当たりをする。グラグラと揺れながら押し出される早苗とアリス。よし、狙いを定めてサンダーソードで返り討ちに……まずい、奴が速過ぎてエネルギーのチャージが間に合わないぞ!

 

 どうする……!

 

「今だっ、ブルドガング砲、発射!」

 

 そんな銀翼の真上まばゆい閃光が走る。閃光は飛びかかったブリザードクロウラーの頭にクリーンヒット。そのままのけぞりながら吹っ飛ばされ、仰向けに倒れ込んだ。当然弱点の尻尾をこちらに晒すことになる。

 

「よく分からないが、チャンス! 重銀符『サンダーソード』!」

 

 遅れて魔力のチャージが済んだ俺は起き上がろうともがいているブリザードクロウラーにトドメを刺す。一際大きく「オォォォーン!」と断末魔を上げると吹雪は止まり、そして迫っていた他のブリザードクロウラーも散り散りに逃げていったようである。どうやら今のが群れのボスだったのだろう。

 

 それよりも何者かが俺達に救いの手を差し伸べた。なんだか懐かしい声、見上げると漆黒の巨大戦艦が音もなく浮遊していた。恐らく先程の粒子兵器を撃ち出した艦主砲にゴテゴテと配置された無数の砲台。周囲には何機かのフォースを装備したR戦闘機に護衛をさせているようである。またしても反応を見せるのは早苗。

 

「あれは『ヘイムダル級宇宙戦艦』ですが……、どうして魔界に?」

 

 名前は分かれど、そこにいる理由は分からない。だが、俺にはあのヘイムダル級を操る者の存在を知っている。あの懐かしい声は間違いない。

 

「提督、ジェイド・ロス提督。また、助けられましたね」

「おお、君はアズマではないか……。無事で何よりだ。あの時の私の行動は無駄にならなかった。久しぶりに晴れやかな気分だ!」

 

 お互いに機体に搭乗しているが、もしも生身だったら再会と無事を喜び、思いっきり抱き合うところだった。

 

「ちょっと待ってください。ジェイド・ロス提督はあの時『漆黒の瞳孔』に飲み込まれて……」

「緑髪のお嬢さんが困惑するのも無理はない。話せば長くなる。あの後なんだが……」

 

 どうやらジェイド・ロス提督の話によると「漆黒の瞳孔」に取り込まれた後、アールバイパーがバイド化しないように青いバイド体から命がけで庇ったことにより一度死んでしまったのだという。

 

 その後、バイド化する前の姿に戻ったものの、そこは三途の川の向こう側……つまりあの世であり、その裁判所で緑色の髪をした少女(おそらく閻魔様だろうとのことだが)に「黒」と言われ、魔界に落とされてしまったのだとか。

 

「それでその閻魔の少女に『貴方に出来る善行は魔界に蔓延る悪しき怪物から魔界人や魔界に赴いた人類を守ること』と言われたので、散り散りになった仲間を集めてこうやって凶暴な怪物を狩る毎日ってわけだ」

 

 そうやって話し込んでいると白い人型の兵器が提督の元に戻ってきていた。

 

「ジェイド殿! 偵察の任務から無事に戻って参りました」

「おおゲインズ……じゃなかった、ナルキッソス。ご苦労様。ところで、この面々を覚えているかな?」

 

 ナルキッソスと呼ばれた人型兵器はアールバイパーを凝視し、そして目を見開かせていた。

 

「ななな、なんとアズマ殿! かの悪名高き『漆黒の瞳孔』に取り込まれたと聞いていたが、まるで無事な様子。これもジェイド殿が命を張って守ったからこそ! さすがです、ジェイド殿!」

 

 あ、こいつゲインズだった奴だ。口調で丸分かりである。確か提督の右腕だったな。

 

「だが、アズマはこんな危険な場所まで何をしに来たのだ?」

 

 俺は「漆黒の瞳孔」に飲み込まれた後の辛すぎた経緯を話した。

 

「そうか……。もう1機の銀翼騒動に白蓮さんがそんなことになっているとは……。私も力になりたいところだが、あいにく私は魔界から出ることが出来ない」

 

 苦い声を出して話し合う最中、割って入ってきたのは雛である。

 

「えっと彼らは……?」

 

 全くの初対面である雛とアリスは困惑している様子。俺はバイド異変を共に解決した戦友だと説明した。

 

「それで、いつまでこうやってるの?」

「私にも分からない。閻魔様曰く善行が溜まったら幻想郷に帰れるとのことなんだけどね。だが、アズマや白蓮さんと約束しているのだ。必ず幻想郷に帰ると……」

 

 改めて提督は俺に向き直る。

 

「いつになるかはわからない。だが私は幻想郷へ、光あふれる地上へ帰ることを決して諦めたりはしない。轟アズマ、今度は命蓮寺で会おう!」

「……ああ、約束だ!」

 

 俺達は思わぬ再開に心躍らせた。だが、決して気を緩めてはならない。魔界の更に奥へと進むまでは。

 

 ネメシスを、白蓮を、命蓮寺を取り戻し、そして今しがたジェイド提督と交わした約束を果たすためにも……。

 

 ジェイド・ロス提督達の護衛もあり、その後は危険な目に遭うこともなく氷雪世界を抜ける。提督達と別れ、更に先に進むと何やら物々しい建物が見えてきた。

 

「ここが『パンデモニウム』。私の生まれ故郷であり、そしてママが住まう場所よ」

 

 俺はアリスと目の前の巨大な建造物を見比べて驚きの声を上げる。パンデモニウムってのは要は「伏魔殿」のことであり、恐らくは魔界の中枢と呼べるような場所である筈だ。アリスの母親ってのはその伏魔殿のリーダー、つまり大魔王ってこと……?

 

「そういえばアリスさんの家族って会ったことないんですよね。どんな人なのでしょう?」

「あわわわ……。先程から殺気がハンパないんですけどどどど……」

 

 興味津々だったりする早苗に怯えたっきりのにとり。少女たちによって様々な反応を見せる中、重々しい大きな門がギギギと軋みながらゆっくりと開く。恐らくは使用人なのだろうか、真っ赤なメイド服に身を包んだ金髪の少女が出迎えてきた。

 

 だがその眼光は鋭く、咲夜のように刃物までちらつかせている。見慣れない俺達を警戒しているようだ。

 

 だが、その視線がアリスに向かうと警戒態勢が一気に解かれる。

 

「友達を連れて里帰りしただけよ」

「……」

 

 すると中に入るようにと無言でジェスチャーする。ついでに俺はアールバイパーから降りるようにとも言われた。よほど無音なのか、長い回廊を歩くと足音が響いて不気味である。

 

「く、来るぞ。大魔王が……! ぶるぶる」

「ママはそんなのじゃないわ。会えばわかるから」

 

 不愛想なメイドに連れられて、大きな部屋の前まで案内される。重々しく開かれる扉。いや、この先にいるのはアリスの母親であり、彼女が凄腕の人形職人であるってことは分かっているのだが、あの雰囲気では鬼が出るか蛇が出るか……そんな想像をしてしまう。

 

「だから出てくるのは私のママだからね」

 

 何やら扉の向こう側から妙に軽い足音が聞こえてくる。トテトテトテ……と。

 

 そして直後、真紅の影が俺のすぐ横をかすめてアリスに飛びかかってきた!

 

「アリスちゃ~ん! すりすりー」

 

 今もひっきりなしにアリスに頬ずりをしている赤い影はよく見ると真紅のドレスに身を包んだ女性であることが分かった。何よりも特徴的なのはあまりに大きくて逞しいサイドテール。

 

 横では「またか」とため息をつきながら首を振る赤いメイド。

 

「ちょっとママってば。これくらいにして頂戴。皆が見てるから……」

 

 しかし今度はアリスの胸の中でイヤイヤと首を振っている。駄々っ子かよ。

 

「いやよー! だって、あの内気なアリスちゃんが実家に男の子を連れてきたのよ。いまに『娘さんを僕に下さい』とか言い出すに違いないわ! そうしたらアリスちゃん、お嫁に行っちゃうじゃない!」

 

 どうやら盛大な勘違いをしてその上に暴走しているようだ。落ち着かせようと俺は赤いドレスの女性に近寄るが、それに反応して急にこちらに向き直るとペコリとお辞儀をし始めた。

 

「アリスちゃんをよろしくお願いします。私、母親の『神綺』と申します」

「だーかーらー、違うってば! よく見てっ、彼はアズマよ。命蓮寺の轟アズマ!」

 

 ハッと両目を見開く神綺。途端に顔を紅潮させる。アリスや白蓮を通じて俺のことを聞いていたらしい。

 

「あ、あらやだ~。よく見ると白蓮ちゃんのところのアズマちゃんだったのね。それで、最近は連絡取れてないけど白蓮ちゃんは元気?」

 

 白蓮は……。俺の表情は途端に暗くなる。そう、多くの危険を冒してまで魔界の深淵まで向かった理由、そのことを思い出してしまったからだ。

 

 神綺もその表情の変化を読み取ったのかポツリポツリと少しずつ話を続ける俺にしっかりと耳を傾けていた。

 

 俺は洗いざらいに話した。幻想郷で起きた異変のこと、そしてネメシスのこと……。ネメシスのことを話しているうちに俺は涙ぐんでおり、白蓮のことはとても話せるような状態ではなかったので、とりあえずは今は外に出られない状態であるとだけ告げた。ここ魔界で大切なことはネメシスを復活させられるかどうかである。俺は無理にその詳細を告げることはしなかった。

 

「そう、お人形さんを……ねぇ、そのお人形さんを見せて頂戴」

 

 いつの間にか真剣な面持ちになっていた神綺。彼女に真っ二つになってしまったネメシスを見せる。手に取ると切断面や頭を撫でて様子を見ているようである。

 

「とても大切にされていたようね。深い深い絆を感じる」

「ああ、ネメシスには何度も助けられたからな。で、治せそうか?」

 

 うーんと唸り考え込む神綺。やはり難しいのか。この沈黙が俺にはとても辛い。

 

「わかったわ、やってみましょう! 手がない訳ではないの。というわけでアリスちゃん」

 

 手招きして自分の娘を呼びつける。どうやら必要な道具を調達させているところらしい。

 

「ちょっと時間はかかるけれど出来るかもしれない。何せ私は魔界神なんだから、えっへん! さあ夢子ちゃん、大切な客人なのだから丁重にもてなしなさいな」

 

 それだけ言うと彼女はネメシスを手に手まねきしている。これからいろいろと準備にかかるのだろう。俺達は夢子と呼ばれた赤いメイドに連れられて今度はゲストルームへと通された。相変わらず無口である。幻想郷でメイドといえば咲夜だが、そんな彼女以上にクールなのではないだろうか?

 

 ジェイド・ロス提督と交わした約束を果たす為にも、今はあの魔界神サマを頼らなければいけない。俺はたった一人の部屋の中で眠れぬ夜を過ごす……。




(※1)アイアンメイデン
グラディウスシリーズに登場する傘のような見た目をした頑丈なザコ敵。
断じてバンドでもなければ拷問具でもない。
編隊を組んで周囲をぐるりと一周した後、こちらに突っ込んでくる。
何かと火山ステージと縁深い。

(※2)ブリザードクロウラー
グラディウス外伝に登場したボス。1面の雪原地帯を縄張りにする虫のような怪物。
ちなみに今回のタイトルの「白い嵐を越えて」はグラディウス外伝1面のタイトルでもある。

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