東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

98 / 102
ここまでのあらすじ

銀翼「アールバイパー」を侵略者扱いして敵意むき出しで襲ってくる「白蓮」から逃げた「轟アズマ」。

ひとまずは白蓮のいる洞窟ごと「神子」に封印させると、封印中の白蓮と度々コンタクトを取っていたという「青娥」がやって来る。

青娥が嘘の情報を白蓮に吹き込んだことが原因と考えたアズマは青娥に勝負を挑むのだが、あろうことか彼女の配下であるキョンシー「宮古芳香」に押さえつけられたネメシスは青娥本人の手で真っ二つにされてしまう。

自分の娘のようにかわいがっていたネメシスを失ったことで泣き崩れるアズマを「鍵山雛」はどうにかアールバイパーに乗せ、一緒にネメシスを創ったという魔法の森の「アリス」を訪ねることになったのだが……。

アリス自らの手では修理できないという残酷な通告を受けてしまったのだ……。


第17話 ~「母」をたずねて魔界入り~

 一番聞きたくなかった台詞、それではネメシスはもう……。彼女の表情は晴れない。真っ二つのネメシスを手にするアリスに俺は泣き崩れながらも再度問いかける。

 

「ネメシスを修理できないって? どうやってもか!?」

「さっきも言った通りよ。私には修理できないわ。本当に……ごめん……」

 

 申し訳なさそうにアリスが縮こまる。どういうことかと詳しく聞いてみたところ、いろいろと専門用語が多くてよく分からなかったが、何度も聞き直したり質問したりを繰り返し俺にも何となく事情が分かってきた。

 

 アリスが言った事を要約すると、胴体に埋め込んだ俺の新鮮な髪の毛によってネメシスは俺を自らのマスターとして認識し、さらにこれが自分で行動する為に必要だった鍵になっていたのだが、その部分がズタズタに引き裂かれているためにアリスには修理できないということらしい。

 

「人形の体を修理することは出来るし、アズマの新鮮な髪の毛をまた貰えばもしかしたら自律人形になるかも分からない。でも、自律人形になったのは私にとっても予想外の事態だったし、またそうなってくれるかはわからない。それに……」

 

 その後に口にすること、それはとても残酷な真実であろう事が俺には予想がついていた。

 

「『仮に自律人形として目覚めたとしても、記憶をすべて失っている。それはもはやネメシスではない』ってところだろ?」

 

 俯きながらコクンと頷いたアリス。

 

「私だって辛いし、何とかしてあげたかったわ。最初にアズマに人形を用意した時はまさかこんなに大切にするだなんて思っていなかったんだもの。それに、ネメシスを自分の娘のように感じているのは私も同じだし……」

 

 ネメシスは本当に死んでしまったんだ。ネメシスは……。力なく俺は地面に崩れ落ちた。

 

 もはや絶望しか残っていない。手詰まりだ。ありとあらゆる手段を尽くしてもネメシスはもはやこちらに笑顔を向けてくることはない。

 

「うっ、うあぁ……神様ぁ……」

 

 お寺に居候している身でありながら仏様ではなく神頼み。すがるように嘆いていると神様を名乗る別の存在が答える。

 

「無理言わないでよ……。そんな命を取り扱えるような全知全能の神様なんて存在しえないわ。仮に存在するとしたら今頃幻想郷そのものを統治しているわ?」

 

 冷酷ながら的確な指摘をするのは雛であった。が、その発言に何かピクリと反応したのはアリス。

 

「……あったわ、一つだけ方法が! どうして思いつかなかったのかしら」

 

 俺の心に風穴を開けた虚無が真っ黒く立ち込める中、一筋の光が差し込んできた感覚。ガタリと起き上がると俺はアリスの両肩を掴む。

 

「教えてくれ! ネメシスが戻ってくる手段があるのなら力を尽くそう! さあ、俺は何をすればいい!?」

 

 恐らくは相当力が入っていたのだろう。痛そうにしながら俺の腕を払いのけるアリス。

 

「お、落ち着きなさいって! 確かに私にはネメシスを修理できないわ。だけど、私の『ママ』ならもしかしたら……!」

 

 ママだって? アリスの母親ってことか。彼女は優秀な人形遣いであると同時に、人形職人としても非常に腕が立つ。この俺が断言しよう。そんなアリスの母親ならきっと更に高度な技術を持っているに違いない。だからこそアリスは自らの母親に希望を見出したのだ。

 

「行こう、アリスの『ママ』とやらのいる場所へ! どこにいるんだ? 俺はどこへだって行くからな!」

「だから落ち着きなさいってば。というかそんなに強く腕を掴まれたら痛いわよ。私のママは『魔界』に住んでいるわ」

 

 魔界だって? 魔界といえば白蓮がかつて封印されていたところじゃないか。そして星達が封印されていた白蓮を最初に目覚めさせたときに聖輦船を用いていたらしいことを俺は知っている。

 

「人里だ。ムラサ達は人里にいる。聖輦船で魔界まで連れて行ってもらおう」

 

 アリスの家を飛び出し、魔法の森を上昇すると東の空がわずかに白んでいるのが見える。俺達の旅立ちを祝福するかのように。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 人里……。神子の暴走で崩壊した一画はあらゆる宗教勢が力を合わせて復興に尽力しているところであった。かなりの急ピッチで進められているのか、寝る間も惜しんでいるようだ。流石は人間を凌駕した体力を持つ妖怪達といったところか。

 

 そんな中でムラサを見つけると聖輦船で魔界に向かいたいという旨を伝える。が、ムラサの表情は晴れない。

 

「それがね、アールバイパーの偽物に襲撃されたときに魔界へジャンプするための装置が故障しちゃってね。人里もこんな調子だし修理は当分は無理そうよ」

 

 なんてこった。聖輦船を頼っていたのでこの人里の復興を待たなければネメシスは……。

 

「修理だな? それなら河童の技術力で……」

「ダメよ。そもそもその装置は法力が関係してくるから聖がいないと修理は出来ないの。ところで聖はどうしたの? もう封印は解かれたんじゃないのかい?」

 

 俺は重々しい口調でここまでの経緯を話した。俺に敵意むき出しの白蓮の事、真っ二つにされたネメシスの事……。

 

「ぬぬぬぅ、あの腹黒仙人めっ! 聖のお人好しで騙されやすい性格を利用して事もあろうに我らがアールバイパーを侵略者扱いだって!?」

 

 ムラサはムラサでブツブツと悪態をつく。憤っているのは分かるが、全然フォローになってないぞ。しかしまあイボルブバイパーが暗躍していた頃は誰よりも俺のことを憎悪していたのに、真実が暴かれるとまた親身になってくれている。ムラサってのは随分とまっすぐな性格のようだ。

 

 しかしこれは困ったぞ。白蓮の封印を解くには白蓮と戦いながら説得しなければいけないし、その白蓮と戦うにはネメシスを復活させなければ困難である。で、ネメシスを復活させるには魔界に行かないといけないワケで、魔界に入るには白蓮がここにいる必要があって……。

 

 堂々巡りの状況に頭を悩ませてた俺に控えめな声がかけられる。早苗のものだ。

 

「あの、アズマさん。守矢神社のある妖怪の山に間欠泉地下センターがあるように、博麗神社の近くの山にも魔界に通じる門があるって噂を聞いたことがあります」

 

 なんだって、それは初耳だ。だけど博麗神社ってことは霊夢との接触は避けられないだろう。俺はあの子苦手なんだよなぁ……。

 

「とりあえず、行くだけ行ってみるか。ありがとうな、早苗」

 

 ムラサと早苗にお礼と労いの言葉をかけると、俺達は博麗神社へと向かう。だいぶ周囲も明るくなってきた。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 太陽もすっかり姿を現した頃、俺は人里を抜けて博麗神社へと到達した。やる気なさげに境内を掃き掃除をしていた巫女はアールバイパーの姿を見るや否や急に浮遊してゆく手を阻む。どう見ても気だるそうである。

 

「こんな場所まで何か用?」

「単刀直入に聞こう。博麗神社の傍に魔界に通じる門があるそうじゃないか。俺は魔界に行きたい」

 

 その瞬間、やる気のなさそうだった表情が引き締まる。

 

「それは駄目。紫にきつく言われているの。『解析不能の超技術であるアールバイパーとそれを操れる轟アズマを幻想郷から出してはいけない』……ってね」

 

 しまった、俺は紫の監視の元で生かされているんだった。その魔界とやらは幻想郷の外側なのかもしれない。

 

「大体人間である貴方が魔界なんかに何の用事?」

「そ、それは……。アリスの里帰りに付き添うんだ」

 

 ネメシスのことは伏せておこう。じーっと見透かされる人間二人に魔法使いと神様と河童一人ずつ。

 

「なーんか怪しいわね。そんなに大所帯で?」

「(本当のことを話したほうがいいわ。彼女の直感力はサトリ妖怪レベルよ)」

 

 仕方がない、ただでさえあらぬ疑いをかけられそうなのだ。雛が小声で進言する通り、本当のことを話すことにした。

 

「本当は散っていった戦友を蘇らせるためだ。魔界にはネメシスを修理できる優秀な人形職人がいるらしい」

 

 俺は地上で留守番をして……という手も使えない。ネメシスの復活には俺の新鮮な髪の毛が必須である。それに魔界という場所は俺にとっても魅力的な場所である。かつて白蓮が封印されてきた場所、今の状況を打破するヒントが魔界にはあるかもしれない。そう感じたのだ。

 

 それを聞いて呆気にとられる霊夢。俺に、次はアリスに、最後にネメシスに目をやると、あろうことかプッと吹き出したではないか!

 

「あっはははは……! だって男の子がお人形さん片手に涙目になりながら『俺の友達』だって……お、おかしくって笑いが……」

 

 俺はこんなにも真剣だというのに、この不良巫女は……。俺以外にも雛が眉をひそめているのが見えた。

 

「ネメシスはただの人形じゃない! 幾多もの戦場で生死に共にした立派な仲間だ!」

 

 が、反応は素っ気ない。彼女にとっては心底どうでもいいことらしい。これでは怒る気も失せる。

 

「ふーん、そうなのね。でも、どんな理由があったとしても、貴方を魔界に向かわせるわけにはいかない。そうね、ないと思うけれどこの私を倒したらここを通してあげるわ。もしもその気ならお仲間さんもご一緒にどうぞ?」

 

 どこまでも余裕そうな口ぶりをしやがって。そうやって「我関せず」を貫くと見せかけて俺の妨害だけはしっかりやってのける。

 

「舐めやがって! 早苗、雛、にとり、んでもってアリス! やってやろうぜ! 5人がかりなら流石に倒せるはずだ。あのしたり顔を恐怖一色に染めてやる!」

 

 うおぉぉ! 俺は霊夢と一戦交える……。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 そ、そんな馬鹿な……。なんでこの巫女はこんなに強いんだ!?

 

「5人がかりでその程度? 悪いけどコイツを魔界に向かわせるのはマジで避けないといけないの。今回ばかりは諦めなさい」

 

 おかしい、こちら側に圧倒的有利な状況で戦いを挑んだというのに、いとも簡単に俺達は霊夢一人に屈してしまった。しかも鬼のように強い巫女はもう縁側に腰掛けてお茶をズズズっとすすっている。

 

 こりゃ敵わん! 一度博麗神社から離れて体勢を立て直す。博麗神社へ向かうのはあまりに無謀であった。

 

「他に魔界に向かう方法はないのか?」

「他は知らないわ。魔界人が勝手にワープして幻想郷ツアーを組んでるとかいう話は昔は聞いたけれど、最近はめっきり聞かなくなったしそもそも私にワープなんてできないし……」

 

 魔界に詳しいアリスに代案を求めるが、やはり博麗神社の裏山に向かう他に手段はなさそうだ。だが、そのためには霊夢に見つからないようにしないといけない。そう、何もあの凶悪な強さを誇る巫女を倒す必要などこれっぽっちもないのだ。戦闘を回避できればまだチャンスはあるぞ。

 

 その方向性で俺達は作戦を練っていると、いきなり地面にポッカリと穴が空き、その中から青髪の邪仙が姿を現した。

 

「青娥っ! 貴様、どの面下げてそんなノコノコと……」

 

 ネメシスの仇っ! よっこらしょと穴から這い出た青娥に掴みかからん勢いで俺は迫る。

 

「ちょ、ちょっと! 乱暴はおよしなさいな。わたくしは貴方達を手助けしようとしたのですよ?」

 

 今もそう言いながら薄ら笑いを浮かべていた。手助けだと? こいつ、絶対何かを企んでいるに違いない。

 

「お人形さんにあんな酷い事する貴女が? 私は流し雛、アリスは人形遣い、アズマはネメシスのマスター。どれだけ自分がアウェーな空間にいるか分かっているの?」

 

 静かな怒りをこみ上げさせた口調の厄神様。ネメシスの件で本当に憤っていたのが分かる。

 

「さすがにちょっとやりすぎたって思ったのですわ。まさかあんなに大泣きしてしまうだなんて……。魔界に行きたいってのも人形と何か関係があるのでしょう? せめてもの罪滅ぼし、わたくしにも何か手伝わせて頂戴な」

 

 しゅんとしょげ返った青娥は今も上目づかいでこちらを見ている。さて、どうしたものか……?

 

「分かった。青娥がここまで反省しているのなら、行動で示してほしい」

 

 確かに魔界への旅は前途多難である。というか魔界に入る前から既に大きな関門が立ちはだかっている状態。味方は一人でも多いほうがいい。

 

「ええっ、だって他でもないネメシスの仇ですよ? 信じちゃっていいのですか?」

「早苗、本音を言うと俺もこいつを信じたくないし、許したくもない。だけど、誰だって道を踏み外す時はある。そして青娥は自分でそのことに気が付いて、償いたいと申し出たんだ。聖様ならこんな時、きっと両手を広げて受け入れると思う」

 

 正直許せないことも多すぎるが、ネメシスの救出が白蓮の復活に結果的に繋がるのなら、ここは我慢だ。

 

「青娥、一時休戦だ。だが、これでお前を許したわけではないぞ。魔界から帰ったら……分かっているな?」

 

 かくして邪仙を含めて作戦を練っていくことに。

 

「今からわたくしが神社周辺に色々と罠を仕掛けるので、キッチリ10分後に貴方達は神社に向かいなさい。挟み撃ちにしてあの巫女がパニックになったところを様々な罠が襲い掛かる……。早く罠が作動するところを見てみたいものですわぁ……♪」

 

 一人で悦に浸っている。どこまでも性格の悪い奴だ。さっそく青娥が博麗神社に向かい始める。俺は彼女を見送ると言われた通りに10分間待った後に出発だ。

 

 博麗神社に向かうも青娥の姿は見えない。再戦するべく俺は霊夢に接近する。が、気配を察知したか、逆にこちらが間合いを詰められてしまう。

 

「また性懲りもなく……」

 

 その時だった、地面からブラックホール型の追尾弾が発生し、霊夢を襲った。おそらく青娥が仕掛けた罠が作動したのだろう。すぐに迎撃するべく地上に注意が向いた霊夢。しかしここで別方向からレーザーが飛び交う。

 

「い、いつの間に……?」

 

 そこへ追い打ちをかけんという勢いでベトベトしたスライム状の液体が噴出。霊夢にベッタリとかかり動きを鈍らせる。

 

「今がチャンスだな……。悪いが今までの雪辱を晴らさせてもらう!」

 

恐らくは霊夢を戦闘不能にさせる数少ないチャンス。使わない手はない。俺はオプションを3つ回転させて魔力を収束させると、リフレックスリングを突き出す。

 

「さ、させるかぁー!」

 

 が、取り付いていたスライム状の液体を振り払うと、彼女の体が紫色に溶け込んでいく。あれはたしか「空を飛ぶ程度の能力」と呼ばれるもので、あらゆるものの干渉を受け付けない一種の亜空間へと避難する技である。

 

 しかし多数の罠による邪魔が入り、随分と手間取っているようだ。……奴が亜空間に入りきる前に引きずり出してやるぞ。

 

「重銀符『ブラックホールボンバー・バースト』! 引きずり出してやるぞ!」

 

 オーバーウェポン状態で放つグラビティバレット、つまり「ブラックホールボンバー」は周囲の敵弾幕だけを吸い込んでいくどちらかというと防御に特化したスペル。肝心の火力は広範囲に分散してしまい、オーバーウェポンであるにもかかわらず、むしろ落ちてしまっている。

 

 だが、もしも分散せずにその火力を維持することが出来たらどうなるか。たとえば逆回転リフレックスリングの中でブラックホールボンバーを炸裂させた場合……とか。

 

 その答えこそ今発動した「重銀符『ブラックホールボンバー・バースト』」である。

 

 思った通りだ。亜空間へ逃げようとする霊夢を思い切り引き寄せて、地球上とは比べ物にならない重力で押し潰し攻撃できた。そして攻撃が終了する頃には力なく地面にドサリと落ちる霊夢であった。

 

「罠を張るだなんて卑怯な……」

「悪いが手段を選んでいる場合ではなかったのでね。勝ちは勝ちだから、魔界に向かわせてもらうぞ」

 

 青娥の手助けもあり、どうにか博麗神社の裏山に到達する。どうやらコイツは裏山に先回りしていたらしく、大木の一部がパカっと開いたかと思うと、青娥が姿を現した。

 

「ぱちぱちぱち……。やはりお強いだけでなく、とっさの機転もきく。とっても素敵ですわぁ♪」

 

 本心なのか違うのか、まるで読めない青娥の祝福を聞き流すと裏山の探索を続ける。いまだに一人で拍手をしているようだ。

 

 程なくして裏山の洞穴の奥に、いかにもな門があるのを発見する。無数のお札が貼られていたり、荒れ放題だったりと長く使われていないのは見てすぐに分かった。

 

「アリス、これが魔界に繋がる門なのかな?」

「……さぁ? でもこの周囲に漂う気は魔界のそれに近いような……」

 

 瘴気避けのマスクを着用すると、門を思い切り押す……がびくともしない。もちろん引いても結果は同じであった。

 

「封印されているのでしょうね。力でどうこう出来るものではないわ」

 

 参ったな……。危険を冒してまでここまで来たというのに。

 

「あらあら、わたくしのことを忘れないでほしいわ」

 

 何故か後ろを向きながら(かんざし)を取る青娥。それを用いて門に円を描くと、嘘のように扉にぽっかりと大穴が開く。

 

「さ、さすが『壁をすり抜ける程度の能力』! この先が魔界なのですね」

 

 早苗は見ての通りはしゃいでいるが、そもそも魔界に向かわなくてはならない元凶に手助けしてもらったのは癪だが、今はネメシスを取り戻すことが先決。文句は言っていられない。いの一番に俺は門をすり抜けた。続いて早苗、にとり、アリス……。

 

 最後に残った雛は無言で青娥を睨み付けていた。その表情は険しい。

 

「……」

「わ、分かっていますわ。色々と罪滅ぼしをしたけれど、これで全ておしまいだなんてこれっぽっちも思っていません。随分と悲しい思いをさせてしまいました。貴女もお人形さんでしたものね。ささっ、そろそろ門が閉じてしまいますわ? その前に彼とご一緒に……」

 

 しきりに「さぁさぁ」と促す青娥を最後まで睨み付けながら雛も門をくぐった。間もなく青娥の開いた穴が閉じようとしている。

 

「それでは皆さんの無事を祈って……良い旅を。ばいばーい♪」

 

 真剣なのか、ふざけているのか最後まで読めない中、俺達は幻想郷への道を絶たれた。さあ、この先は魔界だ。気を引き締めていこう!

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃博麗神社では……)

 

 霊夢は激しい戦闘によって服がボロボロになり、満身創痍と言わんばかりにぐったりとうつぶせに倒れ込んでいた。泣きべそをかいているのか、何度かグスグスと声が漏れている。

 

 その異変にいち早く気付いたのか、霊夢の目の前の空間が裂けて、大妖怪が降り立った。

 

「霊夢っ、大丈夫? 随分と酷い……。誰にやられたの?」

 

 倒れる霊夢を抱き起し、意識があることに安堵した妖怪賢者。対する霊夢は弱弱しく起きたことを話す。

 

「……アズマよ。轟アズマ。アイツが急に魔界に行くと言い出してね。だけど油断した……わ。奴と戦っていたら……あちこちで罠が……。正々堂々の弾幕勝負と見せかけて卑怯な手を使って……」

 

 悔しさに涙を流す霊夢を抱き寄せる紫。

 

「アズマが?」

「ええ、アイツよ! アイツは異変の元凶、そうに違いないわ! 奴の来るところは決まって外の世界から侵略者がやって来る。スパイなのよ! 幻想郷に侵略者をおびき寄せるスパイに違いないわ!」

 

 喚きながら立ち上がるとダッと地面を蹴って飛翔する巫女。紫はそれをピシャリと止めた。

 

「待ちなさい霊夢! 確かにアールバイパーの幻想入りを皮切りに、バクテリアンやバイドのような外界からの侵略者がやって来るようになった。だけどその度にアールバイパーは立ち向かっていったでしょう?」

 

 むくれながら黙り込む霊夢にさらに続ける。

 

「何もしないならともかく、戦った。それも最前線で。だから他に呼び寄せている存在がいる。私はなんとなく目星をつけたのだけれど……」

「分かるの紫? 勿体ぶってないで教え……」

「まだ作動していない罠があるわよ! そこに立っちゃダメ!」

 

 霊夢が一歩踏み出した直後、ピョインとキョンシーが飛び出して、霊夢に飛びかかってくる。が、これをあっさりと撃退する紫。

 

「人里に現れたハリセンボン型の戦艦の話があるでしょう? 道教の一味の誰か、特に統治の仕事を積極的に行わずに度々席を外していた『霍青娥』が怪しいと思ったのだけれど……、今のキョンシーを見たでしょう? 罠を用意していたのはアズマじゃなくて青娥よ」

「ではあの邪仙は、紫がシロだというアールバイパーの手助けをしたことになるから、青娥が犯人である可能性も低い……ってこと?」

「そこが分からないのよねぇ。ただ、外の世界の技術に明るいのはあの二人の筈。それにどうして魔界に用事があるのやら……」

 

 それではいったい誰が何の為にこのような事を? いくら考えども答えは出ない。そして己の直感を頼り、そうやって思考を巡らすことに慣れていない霊夢はもう我慢の限界のようである。

 

「んぁ~もうっ、イライラするわね! 怪しい奴を片っ端から退治して口を割らせてやるわ! まずは邪仙から!」

「待ちなさい霊夢っ……なぁんて言って止まる子でもないのは重々承知してるけど」

 

 飛び出していった霊夢を見送ると、紫はスキマに腰掛けて思考を巡らす。

 

「外界の超技術についても分からないことばかりだし、魔界との因果関係もサッパリ。ちょっと今度の異変は手こずるかも……」!

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(その頃幻想郷某所……)

 

 くすくす……くすくす……。ネメシスちゃん、元気になるといいですわね。わたくしからも祈らせて頂戴な。

 

 これでいいのですわ、これで……ね。「あの子」にはもっと頑張って貰わないといけないのだから。こんな所で潰れてしまっては困っちゃうし。そうでしょう?

 

 あらまあ、相変わらず仏頂面なのね。ま、貴方のそんなところも魅・力・的♪

 

 わたくし達の計画が成就すれば、とっても素敵なことになるのですわ! くすくす……くすくす……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。