バイオレントバイパーは道教の一味が命蓮寺を貶める為にアールバイパーの後継機であるイボルブバイパーを悪用したものであった。
その事実が天狗の手により明るみに出た今、神子を守るものは存在しない。
今こそ決戦の火蓋が切られようとしている……!
まずは俺が挨拶。遅れて早苗さんと雛、そして響子が降り立つ。
「一輪、ようやく気付いたようだな。こいつが俺の偽物をけしかけていたんだ!」
早苗の登場に真っ先に反応したのは神奈子さんである。
「早苗、遅かったじゃないか。そうか、偽物はもういないんだな?」
更に空中からばら撒かれるのは新聞。ヒラヒラと舞い落ちた記事を布都が手に取る。もちろんその内容はアールバイパーの偽物が倒されたというもの。そしてバイオレントバイパーを用いて不当に仏教勢力を引きずりおろしたという黒い噂まで……。
「あわわわ……。全部筒抜け! 太子様っ、太子様~!」
すがるように泣き叫び神子のスカートの裾を引っ張る布都。俺も新聞の記事を大きい声で読み上げる。
「既に真実は号外として幻想郷中にばらまかれている。天狗を敵に回したのが運の尽きってところだな。とにかく貴様の天下もこれまで。年貢の納め時だ、観念しろっ神子!」
うぐぐと悔しげな表情を浮かべているが、抵抗する様子はない。
「信仰の力を一気に失って力が出ない……」
神子は神霊としての側面もあり、信仰力がそのまま彼女の力に直結するようだ。ここまで道教勢の秘密が暴かれてしまっては誰も信仰などしない。ヨロとふらつくとフウフウと息を切らしながら膝をついてしまった。
慌てるのは布都。が、彼女一人にこれだけの相手を出来る筈もない。完全に追い詰めた。あれだけ用意周到に命蓮寺を失脚させた割にはその最後はあまりにあっけないものであった。
「くく、くふふふふふ……。ふひゃひゃひゃひゃ……」
……と思った矢先、顔を伏せていた神子はゆっくりと小刻みに肩を震わせる。そしてクククと不気味に笑い出した。
「何がおかしい? 追い詰められて気でも変になったか?」
不意打ちに備え、レイディアントソードを取り出してジリジリと警戒しながら近寄る。
「何を勘違いしているのかしら? 手詰まりなんかではないって事よ。かくなる上は『アレ』を使う他ないっ!」
「ええっ、でも『アレ』を人里で発動させたら……!」
「他に手立てがないんだ! 窮地を脱するには、何でもいいから信仰心が必要だ。たとえどんなものであっても……だ。決戦兵器を発動させる!」
直後、人里が大きく揺れる。何だ、何を仕掛けてくるつもりなんだ? 地震はさらに大きくなり、地面が大きく盛り上がる。
「違うっ。盛り上がっているのではなく、浮遊しているんです!」
「えっ、反対側からもっ? 反対側の地面も浮遊しています!」
そして多くの建物をくっつけたまま神子の周囲の地盤が浮遊し始める。一度浮遊するとかなりの速度で浮上した。大小さまざまな建物からそれこそハリネズミのように砲台がのぞく。そしてその奥には凶悪な顔をしたハリセンボンが顔をのぞかせているではないか。
「何だあれは。空飛ぶ都市だなんて……?」
「違います神奈子様、あれは……、あれは『ミラージュキャッスル(※1)』、そして同型艦の『ファントムキャッスル』です!」
ハリセンボン型のベルサー艦であり、無数の武装装甲を身にまとった超巨大戦艦、それも2隻である。
「フフ、フハハハハハ! 本来は仏教勢が完全沈黙してからこの2機の海洋生物型決戦兵器で二つの神社を黙らせる予定だったが、こうも追いつめられたのなら仕方ない。ここでお前らを蜂の巣にしてくれる!」
これが、これがコイツの本性か! こんな奴を絶対に人間を任せるわけにはいかない。が、神子は戦闘態勢をなかなか取らない。そういえば信仰の力がどうのこうのって先程言っていたよな。……ま、まさか!
予想しうる展開の中で最悪なものが現実に起きてしまった。ハリセンボンのようにあちこちに向いた銃口が無差別に火を噴き始めたのだ。地面や家屋に無数に穴が空き、中にいた人々がパニックを起こして逃げ惑っている。
「我に従え、我を崇めよ! 銃口はそちらを向いているぞ? 貴様らの命はこの私が握っていることを忘れないことだな!」
なるほど、普通に信仰心を得られないということで、祟り神のように恐怖心を信仰の力に変えているのだろう。だからといってこんな所業を黙って見ていられない! 考えるよりも先に俺は神子に突っ込んでいった。
「……野郎っ!」
振り下ろす剣は金色の太刀がガッチリと受け止める。つばぜり合いになる前に俺は弾き飛ばされてしまう。
「弱い、弱すぎるぞ人間よ!」
赤く光る瞳、神子に集まるドス黒い信仰心。さすがに配下二人も異変だと感じたか、神子から距離を取っている。
「太子様、こんなやり方はちょっと……」
「このような暴挙に出たのだ。今更引くに引けないのだろう。私達には見届けるしかできない……」
駄目だ、まがいなりにも信仰心を得た神霊、今の俺では太刀打ちできない。だがどうしたものか、このまま手をこまねいていてもミラージュキャッスルが更なる破壊活動に出るだけだろう。
ではミラージュキャッスルを攻撃するか。奴は数多くの武装した装甲に身を纏った戦艦。とにかくしぶとい。戦うのは神子に比べてある程度楽ではあろうが、時間がかかってしまう。
「このデカブツは私らに任せるんだ。里に人間に危害を加えさせずに気を付けながら戦うなど君には出来るまい」
そう、人里への被害も防がないといけないのだ。ここは神奈子さんと早苗に任せよう。
「じゃあ反対側の奴は私達がっ! アズマは親玉との戦いに集中して!」
憎きベルサー艦どもは守谷神社と命蓮寺の皆に任せよう。俺は神子を改めて睨みつける。
「堕ちたな神子。そんなに禍々しい感情ばかり身にまとっていたら聖人の名が泣くぞ?」
もはや人を導く賢者としての面影などどこにもない。赤黒く変色したマントは風もないのになびいており、さながら吸血鬼ドラキュラのような禍々しい姿になっていた。いや、大魔王と言ったところか。
「みなぎる。ミナギル! 敵対するものは全てこの光で無に帰するがよい!」
剣先をこちらに向けるように構えると、そこから黒い光線が発せられる。しかも微妙に放射状に広がっており、非常に危険だ。避けようと機体を傾けるも翼に微妙にかすってしまう。
「いくぞっ、フォトントーピード!」
早撃ちでは負けてしまったが、あちらもレーザーを放ち隙が出来ている。そこへこちらも弾速が売りの空対空ミサイルをお見舞いする。よし、あの反応速度では避けきれない。命中するぞ。
が、神子はマントを翻すとその場から姿を消してしまった。ど、どこに消えた!? どんなトリックを使ったんだ? いいや落ち着け、こういう時は魔力レーダーだ。次に姿を現す場所の魔力が増大する。よし、見えたぞ。卑劣にも俺の真後ろに現れて不意打ちを決めるつもりだ。
「バレバレなんだよぉー!」
よし、確かに出てきた。振り向きざまにレイディアントソードを振りかざした。が、神子も負けじと手にする
「うおぉぉぉ!」
今度はオーバーウェポンだ。確実に決めてやる。
「重銀符……」
バチバチとスパークの走る青い剣を突きだしつつ突進。
「『サンダーソード』!」
十分に引きつけてその魔力を一気に爆発させる。よし、決まった! 光の刃が確かに神子にまで達したぞ!
だが次の瞬間、俺は暗闇の中にいた。何故だ? どうしてなんだ!?
「さっきの君の発言。ソックリそのまま返させてもらおうか。貴方の欲がダダ漏れ。ここまで分かりやすい人も珍しい。というわけで先程まで私が退避していた仙界に閉じ込めておいた」
何処からか大魔王の声が響く。だが、姿が見えない。それにどんなにもがいても身動きが取れない。
「なーに、安心するといい。ちゃんと元の幻想郷に返してあげるよ。くくく、くはははは!」
高笑いがしたかと思うと急に周囲の景色が元に戻った。そして目の前には戦闘騎に跨った早苗が……! 接近している、俺の意思と関係なしに。ぶ、ぶつかる!
思い切り仲間と衝突。悲鳴を上げる早苗が一気に押し上げられる形となる。もちろん俺も吹き飛ばされている。そしてその先は……。
「まずい、ミラージュキャッスルの極太レーザーの軌道上だ!」
そう、この二人はベルサー艦とやり合っている真っ最中だ。神奈子さんが言い終わる前に極太レーザーが二人を襲う。それぞれ別々の方向へさらに吹き飛ぶ。そして待ち構えていたのは邪悪なしたり顔をした神子であった。再び剣をこちらに構えている。
「どうだったかねアズマ君、仙界への小旅行は? 我に従うと誓うなら命だけは助けてやろう」
ますます発言が魔王じみている。もちろん俺の答えはノーだ。
「いや、聞くだけ無駄だったよ。アズマ君の顔が、そしてあふれ出る欲が拒絶という答えを出している。ならば死ぬがよい。今一度、貴様ら仏教と我ら道教の力関係を見せつけてやる!」
剣がポウと光る。
「眼光『十七条のレーザー』」
まずい、吹き飛ばされている俺は格好の的だ。恐らくは17本あるであろう色とりどりのレーザーが全てこちらを貫かんとしている。レーザーではレイディアントソードで切り伏せることもゆっくり霊夢が食べることも出来ない。手詰まりだ、もろに喰らう……!
「……いかんっ! エクスパンデッド・オンバシラ!」
上空から助けが来た。レーザーの射線上に濃い灰色の柱がズドンと突き刺さり、防壁となったのだ。それでも御柱は度重なるレーザーによってへし折られてしまう。それだけ火力が凄まじいという事だろう。そのまま威力が減衰しているとはいえ俺は結局被弾してしまった。
きりきり舞いになって俺は地面に墜落。このままではまずい、オプション達を呼び出してアールバイパーが復帰するまで時間稼ぎを行おう。
こいつは地霊殿のサトリ妖怪と同じく相手の心を読む力があるようだ。そうでなければ合点がいかない動きを度々行ってきたし、事あるごとに俺の欲が読み取れるという旨の発言を繰り返していた。
「心を読む妖怪とは戦ったことがある。ならばこれはどうだ?」
俺はネメシス達を呼び出して別々の方向から攻撃させる。地霊殿の古明地さとりは心を読む能力を持っていたが、ジェイド・ロス提督率いるバイド艦隊や俺達という多人数の心をいっぺんに読もうとした結果、細かいミスが頻発していた。
確かあの時はアールバイパーをバイド艦隊の一員だと決めつけてバイド達と同じトラウマ攻撃を仕掛けていたんだったな。
いくら心を読めようとも一度にこれだけの心を正確に読み取るのは大きな負担となる筈だ。そうやって神子にプレッシャーをかけていき、疲弊したところに逆転の一手を仕掛ける。
だから今は時間稼ぎだ。ゆっくり霊夢の体当たりをかわし、コンパクの斬撃をいなす。ネメシスの槍が神子の耳当てをかすめた。よし、いいぞ。このまま奴を翻弄させ続ければ……。
「何か、勘違いしていないか? それでこの私を、豊郷耳神子をやり込めたつもりか!」
一閃、それだけであった。神子は剣をたった一振りしただけで3つのオプションを全て撃退してしまったのだ。あ、あり得ない……。オプションが直線状に並んだ瞬間を狙い、一網打尽にしてしまったのだ。慌てて俺はオプションを回収する。
「その勝ち誇った顔、とても滑稽だったぞアズマ君。大方『一気に多人数の心を読めるはずもない』と高をくくっていたのだろう。知らなかったようだな、私はかつて『聖徳太子』と呼ばれていたことを!」
聖徳太子だって? ま、まさか……!
「たった三人の配下をけしかけて多人数気取りとは片腹痛いわっ! 私の能力は『十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力』。この程度で取り乱すはずもない」
こ、今度こそ手詰まりだ……。頼みのオプションも人格を持たないポッドだけだし、そもそも何を仕掛けても心を読み取られてしまうので不意打ちも出来ない。
「いいぞ、その恐怖におののいた顔は。だが同じ顔ばかり見飽きたな。今度こそ引導を渡してくれる!」
再び剣を構えてレーザー発射の準備に入る神子。もはや、これまでか……!
(※1)ミラージュキャッスル
ダライアスバーストに登場したハリセンボン型のベルサー艦。
本体は小さいが無数の武装装甲を身に纏う。