東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

太陽の畑の「風見幽香」は花畑を度々襲撃する銀翼に悩んでいたが、はたての新聞によってどうやら銀翼は本物と偽物の2機が存在するらしいことを知っていたのだ。問いかけに応じた「轟アズマ」が本物なのではと推測し、彼を鍛えると宣言するのであった。

サディストでありながらも親切であり、見た目は清楚。まさにドSなゆうかりんはそんなアズマを過酷な妖怪式特訓でいじめ……もとい鍛えていく。その修行のさなかに血液や生命エネルギーの流れをイメージするという事を教わり、より集中しての魔力集中を行うことが出来るようになった。

過酷な試練を耐え抜いて魔力の扱いが上手くなったアズマは新たな技「全無(オール・ナッシング)『αビーム』」を習得。
ところがこのαビームは弾幕という弾幕を吸収し、威力やサイズを強化していき、エネルギー尽きるまでは途中で止めることが出来ないという恐ろしい兵器であったのだ……。

それだけではなく、このビームを当てた相手の魔力も根こそぎ奪うという特性もあるらしく、実戦さながらの弾幕ごっこで幽香のマスタースパークを吸収したのちに幽香の魔力を全て吸収して一時的に瀕死の状態に陥らせてしまう。

なんとか事なきを得たが、アズマはこの技を使う時は十分に注意するべきであると心に刻んだのであった……


第12話 ~捕捉~

 あくる日、俺はまた雛とにとりを呼び、次に向かうべき場所について議論を交わす。

 

「永遠亭からの援助が絶望的となった今、他の場所で味方を探さないといけない」

 

 幻想郷全土が書かれた地図を広げ、ウヌヌと唸るが、決定的な答えは出てこない。3人でどうしたものかと首をかしげていると……

 

「4人だよ! 私を忘れないで!」

 

 いつの間にかこいしが戻っていた。本当に自由人というか神出鬼没というか……。猫かお前は。でも地底の猫といえばお燐……。

 

「そうだ、地底だよ。さしものバイオレントバイパーも地底までは手が回っていないと思う。どうして今まで気付かなかったんだろう?」

 

 まさかあの地獄のような地底に再び足を運ぶことになるとは。いや、こいしがそれ以上に大事な行先につながる情報を掴んでいた。

 

「さっきね、アズマの所に戻ろうとしたらアールバイパーの中にアズマがいなくてさ、そしたらビックリ。アズマがいないのに勝手に空を飛んだんだよ!」

 

 このサトリ妖怪がキャッキャとはしゃぎ、両手をブンブンと振り回しながら説明しているが、言っていることが本当なら彼女はとんでもないものと遭遇していたことになる。

 

「もしかしなくてもバイオレントバイパーね」

「襲われなかったのか? んで、奴はどこに行った!?」

 

 可愛らしく「うーん」と首を傾げた後に「あっち」と指さす。正直それだけでは俺にはわからない。

 

「あの方向は妖怪の山じゃないか。今更何の用事が……?」

 

 奴は今まで命蓮寺、人里、紅魔館、そして天狗の新聞によると永遠亭を襲撃してきた。俺達やバイオレントバイパーが到達していない勢力といえば白玉楼や天界、地霊殿に守矢神社、あとは博麗神社などなど……。

 

「はっ! あいつまさか……。奴の次のターゲットは守矢神社か天狗の里だ! 白玉楼や天界はここからあまりに遠すぎるし、博麗神社の霊夢に戦いを挑むのはあまりに危険すぎる。消去法で行くと守矢神社が一番狙われやすい」

 

 恐らくは俺の計画の最初の拠点であった妖怪の山を陥落させるのは後回しにしていたといったところだろう。にとりも同意している。

 

「確か神奈子は『間欠泉地下センター』の運営も行っており、地底との太いパイプを持っている。更に高い山だから天界にも近いと言えるよ」

 

 急ぐぞ、奴の次の計画は何としても止めなくてはいけない! 俺は銀翼に乗り込むと3人を連れて再び「妖怪の山」へと向かう……。

 

「赤蛮奇っ、赤蛮奇っ。応答してくれ!」

 

 高速で飛行する最中、雛の家で留守番をしている筈のろくろ首との通信を試みる。何度か呼び出した後にゆっくり魔理沙を抱えた彼女の姿がホログラムとなって空中に投影される。

 

「留守、ちゃんと守ってたよ」

「だぜ!」

 

 無事そうなのを確認すると、さっそく現状を説明する。

 

「つまりバイオレントバイパーがそっちに向かっている。戦うのは危険なので、首を飛ばして悟られないように監視をしてほしい」

「了解した。首はちゃんと元通り。しっかりやってみせ……銀色の翼が、さっそく来たかっ!?」

 

 なんてスピードだ。もう妖怪の山に到着したというのか。「幸運を」と最後に告げると俺は通信を切る。急がねば。

 

 全速力で飛ばしていると大きな山が見えて来る。ふもとの樹海に差し掛かると赤蛮奇の首の一つが浮遊しており、こちらに近寄ってきた。

 

「バイオレントバイパーを捕捉した。だが、天狗の里へと強襲していった。これ以上の追跡は危険と判断して戻ってきた」

 

 やっぱり……目的地はその上、守矢神社だ。間違いない! そこへ向かうには、俺も突き進まないといけない。天狗の里に……!

 

 あまりに凄惨な光景であった。激しく戦った形跡とその「結果」が地面にたくさん転がっていたのだ。恨めしそうにこちらを睨みつけているが、恐らく戦意を失っているのか、誰も追いかけてこない。

 

「そんな酷い……。バイオレントバイパーがここを通過するために過剰に痛めつけたに違いないわ」

 

 銀翼への恨みのこもった眼差しがそれを物語っていた。が、そうでない視線を浴びせる天狗もいた。ツインテールにした髪型の……。

 

「はたてっ、大丈夫か!?」

 

 酷く傷ついた彼女の名を叫ぶとアールバイパーを降下させて安否を確認するべく声をかけ続ける。

 

「うぅ……アズマぁ。私、間違ってなかったのね。えへへ、文に勝っちゃった……。善の銀翼と悪の銀翼が幻想郷を飛び交っている。この目で証拠を見ることが……」

 

 辛うじて意識を保っていた彼女は俺の顔とアールバイパーを交互に見比べて弱弱しく口にする。その様子から酷く衰弱しているのが分かる。

 

「『花果子念報』、俺も読んだぞ。あの記事には随分と助けられた。感謝しきってもしきれない」

 

 自分の新聞を読んだ良い感想を得られたからか、わずかにニコリと笑う鴉天狗。震える手で一枚の写真を手渡す。

 

「念写、したの。真犯人の……姿。あり得なかったわ、喰らうと魔力という魔力を吸い取られる上に、どんどん強くなって……」

 

 そこには極太の赤いビームで天狗たちを薙ぎ払うバイオレントバイパーの姿が写っていた。ま、まさか……!

 

「間違いない、これは『βビーム』だ……。俺の『αビーム』をラーニングして自分のものにしたのか!?」

 

 さすがのバイオレントバイパーも強大な力を誇る妖怪である天狗の大群を倒す手段は持ち合わせていなかったのだろう。だが、奴は「βビーム」を手に入れてしまった。強力な武器を得て本格的に妖怪の山を制圧するつもりなのだ。

 

 なんということだ、バイオレントバイパーもまた成長する戦闘機だ。早く倒さないと取り返しのつかないことになってしまう!

 

「雛、はたてを家に運んで介抱するんだ。恐らくあの時の幽香さんみたいに魔力欠乏状態に陥っている。早く何らかの方法で補充しないと命にかかわるぞ」

 

 恐らくはその先、つまり守矢神社に向かったであろうバイオレントバイパーを追いかけようとした矢先、別の鴉天狗が接近してきた。

 

 恐らくはβビームの餌食にならずにすんだのだろう。随分と素早く接近するのは射命丸文であった。

 

「アズマさん、ちょいとばかりオイタが過ぎるんじゃないですか? 命蓮寺、人里、紅魔館、永遠亭の次は私達と。大方気に食わない記事を書くってことで潰したかったのでしょうが、こうまでされては天狗のメンツにかかわ……」

「お前とやり合っている時間はない! さっさと守矢神社に向かわせてくれ!」

 

 こんな状況だというのにどこか飄々とする文。ベラベラと騒ぎ立てるので俺は一喝して先へ進もうとする。もちろん文はそれを許す筈もない。その機動力に物を言わせて反対側へとすぐに回り込んでしまうのだ。

 

「なるほど、次の標的は守矢神社……と。もっとも次の新聞の題目は『悪の銀翼、鴉天狗に敗れ墜落す』といったところ……」

「そんなことしている場合かっ! お前の同胞達が空も飛べない程に衰弱しているのが見えないのかっ!? 俺もそうだ、ここを襲った憎きアンチクショウをぶっ潰さないといけない」

 

 思うにコイツも真実から目を逸らそうとしている。天狗の社会については俺にもよく分からないが、ああいった認識であると思わないといけないのかもしれない。現に地面で横たわる多くの鴉天狗や白狼天狗にチラチラと視線が行っているのが分かる。動揺しているのは明白だ。

 

「思うに物理的ダメージ以上に、急に魔力を失ったことによるショック状態の方が深刻だ。俺は薬に詳しくないからそれ以上のアドバイスは出来ないが何か魔力の補充手段を知っているんじゃないか?」

 

 呆然とする文をスルーして先に進もうとするが……。

 

「ま、まあ確かにアテはありますが、しかしまたも縄張りを突破されたとあっては私にも天狗社会での立場がありまして……」

「その天狗がみんなくたばったら社会もクソもない。俺は天狗の社会どころか幻想郷の危機になりかねない脅威を叩きに行く。文は衰弱した自分の同胞を救え。

目の前の脅威が大きすぎるなら、皆で協力して退ける。聖様ならそう言う筈だ。どんな簡単なことでもいい、自分に出来ることを自分がやれるだけやるんだ」

 

 完全に文を通り越して、捨てるように最後にこう付け加えた。

 

「一つ一つの力は小さくても、たくさん集まればその力だってバカに出来るものじゃない。

念写の出来るはたては真実を新聞を通じて伝えようとした、たくさんの空飛ぶ首を持つ赤蛮奇は周囲の怪しい者に目を光らせた、心優しい厄神様は傷ついた俺の心に安らぎを与え更に厄を払った。

さあ、足が速く風を、風評を操る程度の能力を持つお前は何をする?」

 

 完全に動く気配のない分を尻目に俺は天狗のテリトリーを突き抜けていった。

 

「ま、待ちなさいっ……! 行っちゃった……。わ、私は何をするべき……か。私は……」

 

 文を振り切り、守矢神社に向かう俺。目的地に近づく度にレーザーの発する光が、弾幕の展開される音が、オンバシラが突き刺さったと思われる地響きが。ここまで伝わってくる。

 

「やはりこの先に、バイオレントバイパーが!」

 

 そして到着。案の定悪しき銀翼が無茶苦茶にショットを乱射していた。困惑しながらも退治しているのは早苗。

 

「ええっ、アールバイパーが2機!?」

 

 更にこんがらがってしまったようで、意識がそちらに向かってしまったのが災いしたか、バイオレントバイパーのショットが早苗目がけて飛んでくる。俺はその間に入り、レイディアントソードで切り伏せた。チラと後ろを見ながら俺が本物のアールバイパーであることをアピールする。

 

「よく見ろ、あっちは偽物だ。その証拠にオプションに半霊や人形がいないだろ!」

 

 間に合ってよかった。守矢神社、特に早苗さんは特に好意的だったので味方に引き寄せると大きな力になると確信していたからだ。

 

「本当ですね……。ではあの偽物は……そんなまさか!? 地底に大量発生したアールバイパーのコピーはあの時に全滅した筈。ではあれは一体……?」

 

 そういえば「デスウィン」に擬態したバイドがアールバイパーのコピーを大量に生み出すなんてことをしていた。あのバイドは完全に倒したはず。それに偽銀翼の真犯人には目星がついているんだ。

 

「バイドと関係あるのかは分からねぇが、コイツのせいで俺は名誉も大切な人も帰る場所も失ったんだ! おいニセモノ野郎、こういうのを多勢に無勢っていうんだよなぁ? 早苗、逃がすなよ? こいつは逃げ足が速いんだ」

 

 すぐに早苗に囲い込むように立ち回るよう目で合図を送ると、俺はバイオレントバイパーの背後に回り、ミサイルを放つ。負けじと旋回してやはり俺の背後につこうとするも早苗の邪魔が入り思うように立ち回れていない。

 

 が、ここで恐ろしいことが起きた。あの魔力殺しの赤い光がバイオレントバイパーを包んだのだ。慌てて俺はビームの射線上に躍り出ると同じく魔力を溜めて「αビーム」の準備に入る。

 

「気をつけろ、奴の『βビーム』は食らわせた相手の魔力を喰らってさらに大きくなる代物だ」

 

 そして双方共にビームを発射。紅い光と蒼い光がぶつかり合いせめぎ合っている。

 

「こ、これが生で見るビーム合戦……!」

 

 ここで打ち勝てば恐らくは奴の魔力を枯渇させることが出来るだろう。だが、状況は芳しくない。青いαビームの勢いが衰え始める。

 

「ぐっ、魔力もあちらの方が上手か……!」

「何やってんだい早苗っ! 惚けてないでアイツに助太刀してやりなっ」

 

 神奈子の怒声で我に返る早苗。すかさずクローからエネルギーを吸収し、やはり太いレーザーを発する。レーザーは細りかけたαビームに命中すると、みるみる勢いを取り戻していく。

 

「おおっ、ちょっと違うけど『バーストリンク(※1)』が出来るんですね。さあ、神奈子様も!」

 

 バーストリンクというのは「バースト」と呼ばれるビームを複数機で重なり合うように発射するというものである。こうすることでより強力なビーム攻撃を仕掛けることが出来るという仕組みだ。

 

 αビームはそのバーストというものとはちょっと違うが、それに似たような現象が起きている。続いて神奈子も加勢する。逆にエネルギーを吸い取られたバイオレントバイパーは極太のαビームを喰らいフラつく。

 

「よし、弱っているぞ。このままトドメを……!」

 

 が、バイオレントバイパーは限界まで高度を落とすと守矢神社から逃げるように立ち去っていくではないか。

 

「なんて逃げ足の速い……」

「ああ、だが今の俺なら勝てる。あとは逃げられないようにするだけだ」

 

 俺は懐から宝塔型通信機を取り出した。ここで一声号令をかければ俺に味方してくれた仲間全員に伝わる。俺は声高々と宣言した。

 

「バイオレントバイパーが守矢神社から逃走開始。各自の拠点から少しずつ幻想郷の中心へ向かえ!」

 

 それを端の方で見ていた神奈子であったが、少しも動かずに低い声で叫ぶ。

 

「いるんだろう鴉天狗? 隠れてないで出てきてはどうだ?」

「あやややや!? いやー、私は天狗たちの治療を椛に押し付けたところだし、私は真実を皆さんに伝えるためにちょいと取材とやらを……」

 

 慌てふためく文に俺は近づく。

 

「お前も見ただろう? 俺ではないもう一つの銀翼の姿を。奴を野放しにするわけにはいかない。鳥獣伎楽や幽香、チルノなんかに奴を逃げられないようにする包囲網を作るように依頼してある。彼女達が上手く動けるように微調整する指示を出して回ってほしい。幻想郷最速のお前だからこそ、こう頼むのだ」

 

 やるぞ、しくじるわけにはいかない。奴に、バイオレントバイパーに引導を渡し、真実を幻想郷全土に知らしめるのだ!

 

 文とにとりに包囲網役への通信は任せて、俺は早苗とこいしを連れてバイオレントバイパーを追いかける。

 

「しかしあのニセモノ、よくできていましたね。いったい誰が何のために……?」

 

 奴を見失わないように視線は逸らさぬまま、俺の知っている情報を提供する。

 

「道教の奴らだ。アールバイパーの偽物に悪さをさせて命蓮寺の評判を落としたんだ。白蓮は封印され命蓮寺も解散。俺は残った命蓮寺のメンバーに戦犯として追われる身になってしまったのだよ。だが、それに飽きたらずに今度は神社を襲い始めたってところだろう」

 

 絶対に許せない。偽物を暗躍させたこと、俺だけでなく大事な仲間や白蓮を貶めてバラバラにしてしまったこと。ギリと歯がきしむ。

 

「チッ、やはりスピードはあちらの方が上だ。どんどん距離を離されている」

 

 見失うのではないかと焦った矢先、宝塔型通信機が激しく光り出す。この声はにとりだ。

 

「聞こえるかい? バイオレントバイパーは太陽の畑方面へ逃走中! 幽香さんとメディは包囲網を突破されないように戦闘準備!」

 

 そう、俺は一人ではない。この日の為に多くの味方を引き寄せてきたのだ。見るとバイオレントバイパーの動きが鈍っている気がする。どうやら足止めを食らっているようだ。俺はさらに接近を試みる。

 

 そして無縁塚上空でついに奴を射程距離内に捉えることに成功したのだ!

 

 はるか遠くに幽香さんとメディスンが行く手を阻むように浮遊しており、チルノや赤蛮奇も他の方向から無縁塚を取り囲んでいく。

 

「早苗、こいつは俺一人でやる。俺にもしものことが起きたら皆を連れて逃げるんだ」

 

 さあ、もう逃げられないぞニセモノ野郎! そして俺もまた、ここで決着をつけてやるつもりだ。

 

「……」

「……」

 

 キョロキョロと周囲を見渡すもすっかり包囲されていることに気付く偽銀翼。いよいよ観念したかと思うと、なんと青い刃を取り出してきたのだ。あれはレイディアントソード。先程のβビームといい今回のレイディアントソードといい、奴も技をラーニングする能力を持っているというのは確実だろう。

 

『Destroy them all!!』

「ソックリそのまま返してやるぞ、このニセモノ野郎ぉぉぉぉ!!」

 

 雄たけびを上げながら二つの翼、二つの剣、二つの意思がぶつかり合う……!

 

 

 

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(その頃人里では……)

 

 周囲の偵察に向かっていた布都であったが、その最中にとんでもないものを見てしまい、慌てて人里の神子の元へすっ飛んで行くのであった。

 

 陰鬱な靄のかかる人里。だが、湿っぽさのかけらもない程に思い切り扉が開かれると、随分と小柄な少女……まあ布都なのだが、彼女が両手をバタつかせながら何かを伝えている。

 

「なんだって、本物のアールバイパーが無縁塚で偽物と交戦中!?」

「しかも守矢神社の巫女まで一緒に。もしやあの偽物が守矢神社で破壊活動を行ったのでは?」

 

 バイオレントバイパーの守矢神社襲撃は神子の想定を逸脱するものであった。まずは命蓮寺を完全に無力化したうえでゆくゆくは神道をも制する計画ではあったものの、そのための襲撃にしてはあまりに早すぎる。ガタガタと震えるは神子。

 

「ああ、なんということだ! さすがに2つの勢力を一気に相手するなんて無謀すぎる!」

「大丈夫。安心してくださいな、豊郷耳サマ♪」

 

 相変わらず屈託のない笑顔を浮かべながら、ふわりと神子の右肩に両肘をちょこんと置いて寄り掛かるのは青娥。

 

「わたくしの用意した銀翼が負ける筈ありませんわ。ええ、アールバイパーは絶対に負ける。勝てる筈ないんです。だから、豊郷耳様はそこで人々を導く存在であり続ければいいんですわ。むしろ我ら道教に物申せる宗教はもはや存在しえない、そのことを証明する良いチャンスになりますもの。うふふふ……♪」

 

 困惑しながらももはや自分の手を離れて大きくなりゆく事態には神子もただただ見ているほかないのであった。

 

 ふわふわと青娥が飛び去る。神子の迷いが晴れたことを象徴するかのように、周囲にかかっていた靄も取れ、晴れ晴れとした青空をマントをたなびかせながら見上げる。

 

 そして場所は変わって命蓮寺の元メンバーの詰所。本来は本尊であった星がこの中では一番偉いので(もちろん星はそれを理由に威張ったりはしない)、皆の中心にいることが多いのだが(意外とドジなので見張っていないと心配だからという理由もなくはない)、今回ばかりは一輪が中心になって何か会議をしているようである。

 

「それじゃあ確かにそう聴いたのね、雲山?」

「……(コクン)」

 

 薄暗い部屋、ろうそくの明かりだけが照明のカビ臭い粗末な小屋はいつも以上に熱気にあふれていた。

 

「実は銀翼は2機いて、片方はアズマで、もう片方は奴ら道教組が用意した偽物で、私達やアズマをハメていたって?」

 

 そう、偽銀翼のことを話しているのを雲山に聞かれてしまったのだ。神子とて間抜けではないので、この手の話題をする時は入念に命蓮寺勢が傍にいないのを確認してからにしている。それは徹底していて、情報の漏えいはあり得なかったのだ。

 

 だが、そこに油断が生まれた。長く自らのライバルを傘下に置くという事を続けていくうちに神子は忘れてしまったのだ。体を自在に大きくしたり小さくしたりできる入道がいるということを。雲山は限界まで薄くなり、神子の部屋でずっと耳をそばだてていたのである。

 

「つまり、こっちの鴉天狗の新聞の内容が正しいってことに?」

 

 彼女の手にはボロボロになって捨てられた「花果子念報」が握られている。はたての活躍によって今の銀翼異変に疑いを持つ人も少なからずいたということである。一輪はそのわずかな希望にかけて雲山にスパイをさせたのだ。結果は大成功であったのは言うまでもない。

 

「ど、どうしよう……。私ってばそんな事情も知らないで、多分本物の方のアールバイパーに随分酷いこと言っちゃった……」

「もはやあんな奴らの言いなりになってる理由なんてないわね。ブチのめして早く聖様を救出しましょう!」

「でも、どうするのですか?」

 

 そう、ムラサも一輪も息巻くのだが、その手段が分からない。ただ闇雲に動いても神子は欲を読み取るので下手な動きは出来ない。アールバイパーを助太刀しようにも戦闘で目まぐるしく動き回られてはどっちがどっちだか分からなくなる。

 

 ポンと一輪が手を打つ。こういう時にいつも頭が回るのは星でもムラサでもなく一輪なのだ。

 

「守矢神社よ。偽物があっちにも喧嘩を仕掛けたらしいわ。秘密裏にあちらと同盟を結びましょう。やるしかないわ、聖様を救出するために!」

 

 場所は違えど、アズマを手助けする少女は増加しつつあった。一つ一つは小さくても、いずれ繋がり合えば巨悪にも立ち向かえるはずである……!




(※1)バーストリンク
ダライアスバーストACに登場したテクニック。2つの設置バーストを交差するように発射することで、お互いが干渉し合い、より強力なビームを発射できるようになる。

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