東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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10話と11話は修業回といったところですが……


第11話 ~四季のフラワーマスター 後編~

 それからというもの……

 

「ほら、また隙を晒している!」

「ぎゃあっ!」

 

 特訓という大義名分を掲げた……

 

「そんなんじゃ背後を取られるわよ? こんな感じに」

「がはっ!」

 

 銀翼いびりが始まった……

 

「パワーが分散しているわ。もっと集中なさい!」

「ピチューン!」

 

 俺から、いや幽香さんから逃げるようにメディスンを探しに行った雛たちが戻ってきても誰も何も言えるような状況ではなかった。

 

 これで何度目だろうか、度重なる被弾でアールバイパーがついに大破してしまった。

 

「ストップストップ! これ以上は本当にヤバい」

 

 日傘を向けて追撃しようとする幽香さんであったが、俺はリデュースを解除してキャノピーを開いた。次いで幽香さんは外で傍観していた河童を睨み付ける。彼女はガクガクと激しく首を縦に振っていた。

 

「ドクターストップってことね。仕方ない」

 

 満足いく成果が得られずに幽香さんはさぞ不機嫌であろうと思ったが、意外なことにわずかに笑みを浮かべているようだ。

 

「あー、スカッとし……じゃなかった。人間にしては及第点ってところね。流石は異変解決の実績を持っているだけのことはあるってのが分かったわ」

 

 今彼女の本音が聞こえたような……? それよりもあれだけボコボコにされたというのに戦闘面では特に問題なしと言っているようにすら感じる。

 

「えっ、一度も勝てなかったって? 当り前よ、弾幕ごっこ覚えたてのペーペーの人間ごときに私を傷つけることなんて出来ないわ!」

 

 そんなハッキリ言われても……。じゃあ本当に今のはただ無意味に俺を傷つけただけじゃ……。そう脳裏によぎって矢先に彼女は先程の特訓の意味を教えてくれた。

 

「圧倒的な絶望感を前にどれだけ抗うガッツがあるかを測っていたのよ。これは完璧ね。さすがは『希望の銀翼』と名乗るだけのことはあるわ」

 

 つまり俺が更に強くなる為には魔力のコントロールを上手く出来るようにならないといけないってことになる。「次は心の特訓よ」と一言言い出すと俺の腕を強引に掴み、向日葵畑の中へと入っていった。

 

 青臭い草の香りが鼻孔をくすぐる。向日葵は俺なんかよりも背が高く周囲を緑色と黄色に染め上げているものの、カンカン照りの太陽を遮ったりはしてくれない。その奥へ奥へと幽香さんに引っ張られながら汗をかきかき必死についていく。

 

「この辺りでいいわね。アズマ君、絶対に右手の指を動かしちゃ駄目よ?」

 

 それだけ言うと掴んでいた俺の腕を……なんと自分の左胸に押し付けるではないか!

 

「なっ、何の真似だっ!?」

 

 そういえば幽香さんも豊かな胸を持っていた。一度意識してしまうと発汗がさらに激しくなる。その豊かな胸の片側に手を押し付けられてドギマギしてしまってだ。だけど幽香さんはどうして急にこんなことを? 意図が、全くもって意図が分からない!

 

「まだ分からないの? 少し見ないうちに外界の人間ってのは随分と平和ボケしちゃってるのね。ならば、これでどう?」

 

 それだけ言うと、幽香さんは俺の手を胸に当てさせたまま近づいてきた。吐息がすぐそこに迫るほどに。そ、そんなに近寄られたら心臓が早鐘のように……。

 

「わわわわ……」

 

 いや、心拍数が上がったのは俺だけではない。幽香さんも、その鼓動を激しくさせていたのだ。俺の手を伝ってドクン、ドクンと感じ取れる。そしてある時にそのタイミングが完璧に合わさった。

 

「ようやく気が付いたわねアズマ君。私が言いたかったのは心臓の鼓動。妖怪だろうが人間だろうが、生きとし生ける動物はみんな心臓を鼓動させて全身に血を巡らせているわ。そうやって体に必要な栄養素が全身に行き渡るってことね」

 

 思いの外真面目な話であった。豊かな乳房に一瞬でも意識が向いてしまった俺が恥ずかしい。

 

「ちゃんと感じられたわね。それじゃあわざわざ貴方をここに誘った理由を教えるわ」

 

 視線が横へ向かう。大きな向日葵の中でも一際太く背の高い向日葵が咲いている。その茎を握れと言われ、俺はそっと太い茎に触れる。

 

「こ、これは……!」

 

 なんと向日葵の茎が脈動しているのだ。よく意識しないと分からないが、微かにドクンドクンと脈打っているように感じる。

 

「その顔は分かった顔ね。そう、植物には心臓はないけれど地面からグングンと栄養を吸って体中に巡らせている。これで納得できたでしょう? 生きとし生けるものは生きる為のエネルギーを外から取り入れて、それを体中に巡らせて生きてきたって」

 

 根っこから茎へと視点を上に向けていき、大きな葉っぱを経て最後には太陽のように咲き誇る黄色い花に向かう。

 

「そう考えるとこの大地、もとい地球も一種の生き物なのかもしれないわね。マグマという名前の血液が全身に廻っている」

 

 俺からスッと離れると幽香は何故か顔を背けてこう続ける。

 

「魔力も同じようなものよ。空気中にはわずかながら魔力の(もと)が漂っている。それをうまく取り入れ、そしてなるべくロスのないように放つ。そのイメージを持って明日も特訓に挑みなさい」

 

 その言葉を最後に今日の鍛錬は終わった。その過程はどれもこれも滅茶苦茶であるが、いちいち理に適っている。にとりが今も大破した銀翼の修理を行う中、俺は明日に備えて体を休めることにした。

 

 だが、なかなか寝付けない。

 

「生きる為のエネルギーの流れ……か」

 

 静寂の中、俺は自らの鼓動の音に集中しながらそのことについて思考を巡らせ、そうしているうちに眠りに落ちていった。

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 あくる日……はまだアールバイパーの修理が終わっておらず、精神的な鍛練を行う日々が続く。そして近接戦闘に頼らない新たな技を編み出すという行程も。

 

「編み出すと言っても小細工なんかは無意味。体内に溜めた高純度の魔力を直接ビームにして飛ばす。単純だけれど十分に魔力のチャージが出来れば破壊力は圧倒的の筈よ」

 

 そして数日経ったある日、ようやく修理が終わりいよいよ久方ぶりの実戦に移ることになった。

 

「だいぶイメージが固まってきた」

 

 再び対峙する両者。先に仕掛けたのは幽香であった。日傘から放たれる閃光はマスタースパークのもの。

 

 避けるだけなら簡単だし、連射できることも学習済み。俺はヒョイヒョイとこれらをかわしながら、オプションとアールバイパー本体に流れる魔力に集中する。

 

「よし、オーバーウェポン発動」

 

 オプションの魔力をゆっくりと俺の体へ移動させるイメージを持つ。チリチリと腕を焦がすような針でチクチク刺すような細かな痛みが広がるが、集中力を途切れさせない。

 

「いいぞっ、いい感じだ。その調子!」

 

 俺が今やろうとしているのはオーバーウェポンで収束させた魔力を直接ぶつけるというもの。今まではレイディアントソード等の何かしらの武器を触媒として用いていたが、間にその手のものを挟まないでエネルギーの減退を起こすことなく純粋な破壊力をぶつけるというものだ。

 

「はぁっ!」

 

 アールバイパーの先端から青白い電撃がスパークする……が、方向が全く定まらずすぐ近くの空気中であっけなく消えてしまった。

 

「魔力も集中力も足りない。やり直しよ!」

 

 負けじと再びオーバーウェポンを発動させる。よし、今度は上手くいったんじゃないかな。

 

「こ、こんなに溜めることが出来るんだ……」

 

 今なら最高のコンディションでサンダーソードも放てそうだ。一部始終を見ている雛も驚き言葉を失っている。再び俺は魔力の塊を発射した。

 

「でぇぃやぁっ!」

 

 結果はまたハズレ。だが、前のよりもエネルギーが収束しており、射程距離も伸びた。よし、今度こそ……!

 

「そんなところで満足してるんじゃないわよ! そろそろ特大のマスタースパーク、食らわせるわよ?」

 

 ひっ、コレもダメなのか。厳しいなぁ幽香さん。気を取り直し、三度俺は魔力の集中させる。やるぞ……やってやるぞ……。だが、あまりに焦ってしまい思ったように集中できない。くっ、さすがに連発はキツいか……。

 

 脳裏によぎるはあの真っ白い極太レーザーの中で何度も敗北してきた苦い思い出……。そうだ、こんなことでへこたれている場合ではない! 俺はバイオレントバイパーを倒し、白蓮を救いだし、そして取り戻すんだ。信用を、日常を、最愛の女性を……!

 

「何だあの青いのは? フォースフィールドとも違うようだし……」

 

 直後、アールバイパーが青色のオーラに包まれた。ニトリも驚いている。先端は今にも爆発しそうな青く光る球体。なんだろう。俺の、そして幽香さんの期待していたものが完成したような、そんな気がする。

 

 今なら確信が持てる。今度こそ成功すると。だが、この瞬間に幽香さんはマスタースパークを放ってきた。

 

 真っ白い閃光がアールバイパーを飲み込んでいく。しかし、俺は慌てずに溜めこんだ魔力を一気に放った。

 

「いくぞっ。これが俺の精神、俺の意地、俺の全力だー!」

 

 アールバイパーの幅ほどある青いビームがゆっくりと照射され、マスタースパークとぶつかり合う。俺の放ったビームは見るからに貧弱であり押し負けてしまうのも時間の問題に見えた。だが……。

 

「なっ!?」

「アールバイパーのビームが……マスタースパークを吸収して成長してる!」

「逆にマスタースパークは細くなって消えていくよ!」

 

 予想だにしない光景が広がっていた。幽香さんの攻撃を全て無効化するのみでなく、エネルギーを吸収し、更に自らの火力としてそれを取り入れるという何とも恐ろしいビームを俺は放っていたのだ。雛もにとりも驚いていた。

 

「ああああっ!!」

 

 そして何もかもを飲み込んだ蒼いビームはそのまま幽香さんに命中。勝負あった! これだけダメージを与えれば勝敗は明確だろう。俺はビームを止めようとする……が。

 

「こっ、これは……。駄目だ、ビームが止まらないっ!」

 

 放出される蒼いエネルギーはトリガーから手を放してもまっすぐに照射されるだけであったのだ。

 

「ちょっと、もう勝負はついているわ。ビームを止めて!」

「止め方が分からないんだよ! もしかしたらエネルギーを全部放出するまで止まらないのかも……」

 

 こちらの意思で止める事は出来ない。ま、まさかこのビームは「αビーム(※1)」では? 今までの特性を鑑みた結果そんな気がしてくるのだ。

 

 この「αビーム」は一度照射されるとエネルギーが尽きるまでは発射されっぱなし。この兵装が出てきた元の作品でもそういうものであった。そして今もサイズが増大していくビーム。ま、まさか……!

 

「あの妖怪の魔力を吸って成長しているのか!?」

 

 そんな馬鹿な! 俺の知っている「αビーム」に魔力を吸収する機能なんてない。もしや、魔力を収束させて放ったものだから本来の効果と別のものになっているのでは……?

 

 あまりの出来事に俺は何も出来ないまま、逆にマスタースパーク以上の太さになった蒼いビームは容赦なく幽香さんを焼き尽くしていく。そして彼女は力なく地面にドサリと落ちてしまった。

 

「幽香さんっ!!」

 

 まさか、まさかこんなことになるなんて……! ビームが止まったのを確認すると、幽香さんの安否を確かめるべく駆け寄る。

 

 彼女はぐったりと衰弱していたものの、まだ息はあるようであった。3人で小屋の中のベッドに寝かせ、しばらく様子を見てみると……。

 

「うう……。まさか三途の川のほとりを見るとはね。随分と久しぶり。私はもう大丈夫。妖怪の治癒力を舐めないことね」

 

 それでも見るからに弱っている。雛がキッチンを借りて簡単な食べ物を用意しており、スプーンで食べさせようとしていたが、思い切りそれをひったくると自分で食べ始めた。

 

「天下のフラワーマスターが誰かに病人食を食べさせられてるなんて噂が広まったらたまったもんじゃないわ。でも……ありがとう」

 

 自分でそんなことを言うだけあって、かなりのペースで幽香は食事を終えてしまう。言動は既に元の勢いを取り戻したようで今日一日休めばもう通常通りになるだろうと告げる。そうなると気になるのは自分を瀕死に追い込んだあの蒼いビームの事。

 

「すまない。本当に申し訳ないと思っている。まさかアールバイパーの放ったビームにあんな能力があるなんて予想も出来なかったよ」

「ええ、どういうわけかあのビームを喰らったら魔力という魔力をほとんど吸い取られたわ。人間で言うと出血多量でショック状態になっていたところかしら?」

 

 ふむ、随分とおかしな特性を持っているようだ。ビームとビームがぶつかり合って競り勝った方のビームが相手のエネルギーを吸収して自らの火力にしてしまう……。や、やっぱり!

 

「分かった、いや分かってしまったと言うべきか。幽香さんの証言で俺は確信を得られた。俺はとんでもない技を覚えてしまったようだ。そんなバケモノじみた特性、他に思い当たらい。あれは『αビーム』だ、間違いない」

 

 その昔、とある惑星が衛星の所有権をめぐって他の星との戦争で用いた結果、戦争相手の星そのものを消滅させてしまったという悪魔の兵器「ALL NOTHING(オール・ナッシング)」、その技術を用いたビーム兵器こそかの「αビーム」なのだ。

 

「私はただの妖怪でそこまで魔力に依存していなかったから良かったものの、魔力に依存しているようなのがこんなの喰らったらまず命はないわね」

 

 幽香さんの協力もあってアールバイパーはまた一つ強くなれた。だが、不思議と今回は嬉しい気持ちにならないのであった……。

 

「とにかく今の私に出来るのはここまで。それにしてもアズマ君に負けっぱなしなのは癪だわ。元気になったら、私も負けないようにまた鍛錬ね。そしてまたいつか一緒に弾幕で遊びましょう? それまでは絶対に死ぬんじゃないわよ!」

 

 手を伸ばす幽香さんの手をがっちりと掴む。少し前まで大怪我していたとは思えない程にしっかりとした感触。

 

「ああ、約束だ!」

 

 アツい握手を交わし寝間着姿の幽香と別れる。陽が落ちてから別室で今後の作戦を3人で練ることにした。

 

 αビームか……。強すぎる力を持つという事はそれだけ苦悩も増えるのだろうか? 次々と兵装を習得するアールバイパー、これからもみんなの希望でいられるのだろうか……?

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

(皆が寝静まった頃……)

 

 

 夕闇に紛れ、1機の銀翼が音もなく飛行する。アズマ達が「バイオレントバイパー」と呼ぶ方の銀翼である。星空のほのかな光が無数の向日葵をうっすらと照らすが、銀翼が近寄るのはこの花畑の持ち主がいるであろう小屋のすぐそばのもう1機の銀翼、つまりアールバイパー。

 

『……』

 

 しかし破壊しようとはせず、ただジッとその姿を観察するのみであった。緑色の光を当てて外部だけでなくその内部すらも透視しているようである。

 

 虫も眠る丑三つ時、機械の発するノイズの音だけが響き渡る。小さいながらもその耳障りな音をまき散らしたのちに機械的なボイスが鳴り響く。

 

『You got a new weapon!』

 

 誰が見ているのか、そのディスプレイも砂嵐が巻き起こると、銀翼が極太のビームを発射するアイコンが浮かび上がる。

 

『β-beam』

 

 誰も見ても聞いてもいないボイスやディスプレイ。これだけ告げると謎の銀翼は闇夜に消えていった。




(※1)αビーム
Gダライアスに登場するビーム兵器。キャプチャーボールで捕えた敵のエネルギーを吸収して発射する超強力なビーム。
敵の放つ赤いβビームと干渉し、ボタン連打に打ち勝つとβビームを吸収捨て更に太いビームになり敵を襲うぞ!
エネルギーが切れるまで止められないのが弱点。

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