東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

対バイオレントバイパー用の包囲網を完成させるべく、厄神の「鍵山雛」や河童の「河城にとり」と協力して妖怪の山や人里で秘密裏に根回しをしてきた「轟アズマ」と彼の相棒である銀翼「アールバイパー」。

そろそろ他の拠点で味方を作らなくてはならない。アズマは「霧の湖」を経由して妖怪の山と正反対の場所に位置する「太陽の畑」へと向かうことに。ここには雛の友人が住んでいるようだ。

霧の湖では妖精の「チルノ」と、再び復活して銀翼を追ってきたものの上手い具合にやり込められたバクテリアン軍残党の「ゴーレム」を味方につける。

その後チルノ達と別れ、アズマ達は太陽の畑に向かうが、そこにメディスンはいなく、代わりに一見清楚な乙女なのに、見るからに凶悪そうな真紅の眼光を宿す妖怪「風見幽香」がいるのみであった。果たして彼女は味方になってくれるのか……?

一方、道教勢にすっかり覇権を奪われてしまった人里ではかつての命蓮寺のメンバーが無理矢理に道教の布教活動をさせられていた。これも白蓮を救う為、反乱も起こさずに大人しくしている……と見せかけて夜な夜な仏教の再興を目指しているようである。

かつての信頼と平和な日常、そして白蓮を取り戻そうとするアズマ、バイオレントバイパーの存在に気付かずに「裏切り者」の始末と仏教の再興を目指す星、宗教戦争を制するもどこか表情の浮かない神子、そして、そんな彼女を補佐するは不気味な笑みを浮かべる青娥……。幻想郷では様々な思惑が交錯していた。


第10話 ~四季のフラワーマスター 前編~

 ニヤリと何か含ませたような笑みを浮かべて幽香が近づいてくる。

 

「降りなさい! 用事があるのに顔も見せないだなんて失礼ではなくて?」

 

 たった一言なのに威圧された俺は思わずアールバイパーのキャノピーを開いてしまう。ついでに両手を上げて無抵抗である旨も示す。銀翼から引きずり出された俺はじっくりと品定めをされるように至近距離でジロジロと見られる。

 

「なるほど、貴方があのアズマ君ね。あの鳥をかたどった乗り物は強そうでも、中身は随分と貧弱そうだわ」

「お、怯えているからもう少し優しくしてあげて」

 

 おずおずと申し出た雛の言葉に耳を傾けると、日傘を開き近くの小屋へと誘う。

 

「まあ、立ち話もアレだしあっちでいろいろお話しましょ?」

 

 気絶した河童を背負いながら俺は幽香の小屋にお邪魔する。拒否権はなかった。

 

 幽香は随分と乱暴で、人間とは決して分かり合えないような凶暴な妖怪であるという噂があったが、少なくとも問答無用で襲い掛かるようなヤツではないことは分かった。

 

 花の爽やかな香りを醸し出す紅茶を勧め、さらにクッキーまで用意してきた。ううむ、実は親切な人なのか? これでは噂と全然違う。なんだか何が本当なのか分からなくなってきたぞ。

 

「さて、悪の限りを尽くしてるアズマ君なんだけど、とてもそのようには見えないのよね。新聞もモノによって意見が真っ二つ」

 

 そう言って差し出してきたのはお馴染みの「文々。新聞」とそれよりも小さい「花果子念報」と題名付けられた紙面。えーっと「かかしねんぽう」? 新聞といえば鴉天狗のお家芸。そんでもって幻想郷の少女達にとってもっとも馴染み深いのが文の新聞である。が、文以外にも少女向けに新聞をばら撒いているのがいるらしい。この新聞は全然見たことないけど。

 

 まずは「文々。新聞」から見てみた。今日の分もバイオレントバイパーの記事が掲載されているようである。今度は永遠亭を襲撃し、保管されていた薬をいくつか破壊してしまったようだ。

 

 後で竹林の輝夜にも助けを求めようとしたが、これでは取り合えってもらえないだろう。それにしてもやる事がえげつない。この襲撃のせいで患者の治療が遅れて取り返しのつかないことになんて惨劇も起きかねないのだから。

 

 その他にも悪行の限りがアールバイパーの仕業として記事になっている。

 

 次に「花果子念報」に目を通してみる。縦ではなく横に書かれた文字が特徴的だ。そしてとてもスッキリとしており読みやすそうである。

 

「地味そうな天狗がいくら追い払っても散々痛い目に遭わせても必死に『どうしても!』って食い下がって押し付けてくるから、戯れにこっちも取ることにしたのよ」

 

 そして本格的に記事を読んでみるが……。

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

「ほとんどアールバイパー関連の記事じゃない!」

 

 題名だけ流し読みしただけでも「銀翼、厄神連れてパンクロックバンド『鳥獣伎楽』と一夜限りのコラボ」「アールバイパー人里を襲わず。道教組と関連?」「友の顔も忘れたか! 輝夜叫ぶも無言の銀翼。まさかの別人説?」「私は見た。2機の銀翼激突す」……。こんなのばかりでとても新聞と呼べるような体裁を保っていない。

 

 おおむね銀翼異変に対して懐疑的な記事が目立つ。

 

「こっちの新聞によるとこの銀翼って奴、実は2機いるらしいのよ。恐らくはどちらかが偽物ってところね」

 

 それにしてもこんな記事ばかりなのは何故だろうと読み進めていると、この新聞を作っている天狗の名前が出てきた。

 

「姫海棠はたて」

 

 ああ、そういうことか。姿こそ見せないが、彼女もまた俺の味方でいてくれている。いつの間にか息を吹き返していたにとりも記事に目を通していた。

 

「随分と惚れられていたらしいもんね。念写を使って真実にたどり着いたのだろう。だけど高度に組織化された妖怪の山では滅多な行動がとれない。そこで自分の新聞を使って必死に訴えかけてきたのだろうね。本当に何が起きているのか……を」

 

 あの携帯電話のような形をしたカメラに必死に俺や銀翼の名前を入力してそれらしい写真を探していた姿が想像できる。そして新聞紙に打たれた無機質な文字からも彼女の身を引き裂かれるような思いを感じることも出来た。何としても俺を救いたい、だけど大きな行動はとれない。せめて自分の声、そして自分の意見を聞いてほしいという悲痛な思いが。

 

「目頭が熱くなっているところ申し訳ないけれど、そっちの新聞もあまり信用できないのよね」

 

 俺だってこんな新聞の存在、今の今まで知らなかったくらいだから仕方ないものの、このタイミングで腰を折ってくるとは……。イジワルなのか、単に気づいていないだけか。ガックリとしていた俺であったが、幽香は直後に「ただ……」と付け加えてきた。

 

「銀色の翼を持った妖怪が度々花畑を荒らして嫌がらせをしてくるのは確かなの。その都度追い払っているんだけど、こんな記事を見たからこの前に銀の翼を持った妖怪が来た時にちょっと話しかけてみたの。そしたら無視されちゃったわ」

 

 彼女が視線を窓に移す。所々に荒らされた跡が残っており痛々しい。

 

「だけどアンタは私の言葉に応じてくれた。だから私はこちらに賭けようと思う」

 

 真っ直ぐに突き刺さる視線。だが、俺はもう震えない。また恐怖におののくのではないかと心配そうに見上げていたネメシス達と目が合った。

 

「そんな簡単に信じちゃっていいのか?」

「ええ、小っちゃい子達に慕われているようだし、あんな乱暴者の真似なんて出来なそうだし、そもそもあっちの銀翼は全然話に応じてくれないし。というわけで……」

 

 あれ、また眼光が恐ろしげに光ったような?

 

「なまっちょろくて、どこか頼りないアズマ君をこの私自らが鍛えたげるわ。光栄に思いなさい!」

 

 なんでそうなるー! 要は弾幕ごっこの腕を鍛えてくれるそうだが、この人見るからに加減とか知らなそうで不安である。俺は救いを求めるように無言で雛達に視線を送るが……。

 

「い、いい機会なんじゃない? 私達はメディちゃんを探してくるから。幽香さんもウッカリやりすぎないように気をつけてね」

「(特訓だって? シゴキという名のイジメじゃ……。でも、私に異を唱える勇気はない……)」

 

 必死に目を合わせないように顔を逸らしながら、ソソクサと立ち去っていく妖怪二人。この薄情者! が、幽香の興味対象は思いっきり俺に向いている。

 

「そんなんじゃもう1機の銀翼にも勝てっこないわ。みっちりシゴいたげる……」

 

 幽香は「表出ろ」と言わんばかりに俺を小屋の外に追い出すと、いきなり日傘を構える。そしてそこから細い形の弾で形成された弾幕を放ち始めた。わわっ、まだアールバイパーに乗っていないってば!

 

 特に何かの形になっているわけではないが、物量と拡散性に物を言わせ放射する弾の嵐をかいくぐり、どうにか銀翼に乗り込むと、さっそく弾幕殺しの刃を振り回し、周囲の安全を確保する。

 

「ぐっ、グラビティバレット!」

 

 まずは敵弾を吸い寄せようと試みるために疑似ブラックホールを展開するも、まるで反応がない。むなしく小さい球体の中で黒くスパークするだけであった。やっぱりナイフのように実体のあるものでないと引き寄せることが出来ないのか。

 

 それならばと銀翼の速度を上げて幽香の背後に回り込むように大きく旋回した。

 

 こちらに向けてくる日傘の速度が追いついていない。どうやら火力はとんでもないが、足の速さはそうでもないらしい。好戦的で高火力な上に足まで速かったらより危険な存在として霊夢や魔理沙も本気で退治しに来るだろうし。

 

 とにかく足が遅いという弱点はアールバイパーにとっては好都合。無防備な背後を取り、狙いを定めフォトントーピードを放つ。光を散らしつつ、グングンと加速しつつ直進する実弾兵器。よし、命中した。爆風が吹きすさぶ中、さらに接近して今度はレイディアントソードを叩き込む。

 

 が、相手も黙ってはいない。振るった剣はなんと閉じられた日傘で受け止められてしまったのだ。負けじと再びレイディアントソードを振り回すが、全て止められてしまう。こいつ、接近戦が強いのか。それでも負けじと押しやろうとするも、幽香は不敵な笑みを浮かべるのみ。

 

『Watch your back!!』

 

 急なシステムボイス。後ろ……しまった! 魔力レーダーがバイパーの後ろ側で異様に膨張する魔力を観測していた。接近戦に気を取られている隙に何者かに背後を取られたか。振り向くと何とも恐ろしい姿が……。

 

「幽香が二人いるっ!?」

 

 恐らくは分身でも用意したのだろう。二人の幽香に挟み撃ちされてしまったのだ。

 

「……踊りなさい!」

 

 向けられた日傘から小型の弾がこれでもかと発射される。これを回避するのは不可能だ。ここはスペルカードを用いて……。俺は懐をまさぐりカードを手にしようとするが、急な出来事に動揺して上手く取り出せない。

 

 そうしているうちに戦場に躍り出たのはゆっくり霊夢であった。

 

「ゆっくりもアズマの力になるもんっ!」

 

 震え声ながらも戦う意思を見せつける。が、幽香はそんな饅頭の妖怪を嘲笑し始める。

 

「あら、ナイトさんのおつもり? 怖くて痛~い弾幕花火を喰らいたくなかったら、すっこんでなさい!」

 

 俺と対峙している方の幽香がゆっくり霊夢に狙いを定め弾幕をばら撒く。今までのゆっくり霊夢なら「怖いよー」と泣き喚いて逃げてしまうところだろう。だが、彼女は変わったのだ。もうあの時の弱虫なゆっくり霊夢ではない。

 

「じゃあ喰らうもん! 全部、ぜーんぶ喰ってやる!」

 

 が、彼女の取った行動は俺の予想斜め上を行くものであった。ゆっくり霊夢は逆に弾幕に近寄ると、そのまま喰らい始めたのだ。そう、文字通りムシャムシャと。

 

「むーしゃむーしゃ。こんなんじゃ腹の足しにもならないもんね。い~っだ!」

 

 勇気を持ち、その暴力的な食欲のものを言わせ、縦横無尽に大きな口をパクパクさせながら幽香の弾幕を確実に喰らっていく。そしていよいよ弾幕がなくなると今度は幽香本体にガブガブと噛みつき始めた。

 

「いいぞゆっくり霊夢。お前の為にスペルカードを用意してやろう。白鈴『大食い勇者アレックス』(※1)なんてのはどうだ?」

 

 今も幽香に食らいつくゆっくり霊夢であったが、ついに振り落とされてしまう。更に日傘で突き刺そうとするので、俺は「操術『サイビット・サイファ』」を発動させて阻止する。オレンジ色のオーラが幽香に思い切りぶつかり吹き飛ばす。すると小さい爆発を起こし彼女は消えてしまった。

 

「なるほど、そうやって小っちゃい子を巧みに操って戦うのね。では、こういうパワフルなのはどうかしら?」

 

 反対側の幽香が日傘に真っ白い発光体を収束させる。しまった、さっきのは分身の方だったか。先程とは比べ物にならない程の火力を用いるようだ。

 

 直後、周囲は真っ白い光に包み込まれた。特徴的な光が散る音と共に。

 

「これはまさか……マスタースパーク!?」

 

 今のレーザーは幾度となく辛酸を舐めさせられ続けてきた魔理沙が放つそれに酷似していたのだ。

 

「くっ、回避! ゆっくり霊夢、それは食えないぞ!」

 

 攻撃範囲自体は分かりやすい、持ち前の機動力でアールバイパーは直撃を避けたのだが、ゆっくり霊夢はこれすらも食べようと口を大きく開けて……。

 

「きゃうんっ!」

 

 流石にレーザーの類は食べることが出来ない。すっかり尻込みしてしまったゆっくり霊夢は慌ててアールバイパーの背後に隠れてしまう。

 

「一度格納する。今は傷を癒せ」

 

 次の一撃に備え、俺は接近を試みる。マスタースパーク級の火力に真っ向から立ち向かうにはサンダーソードしかない。幸いなことにマスタースパークは連射するものではないので近づく予定が……。

 

「ほらっ、ほらっ! やられっぱなしなのかい? そっちも何か撃ってきなよ?」

 

 れ、連射してくるだと!? 魔理沙のものよりも若干太さが足りないとはいえ、ここまでバカスカ発射されてはどうしようもない。

 

 苦し紛れに取った行動はオプションを総動員してフォトントーピードを撃ちまくる事であった……が、それらが幽香に届くことはなく全てマスタースパークの光に撃ち落とされてしまった。火力の差は歴然だ。

 

 いよいよ打つ手なしの俺は乱射された1本の光の槍に貫かれて墜落してしまった。

 

「め、滅茶苦茶だ……」

 

 最強最悪の妖怪相手である。元より勝ち目のない戦闘であった……いや、一応は特訓という名目だったな。

 

「弾幕をぶつけあって何となく分かったわ。アズマ君、というよりかはその銀翼とそのオプション達かしら? とにかくパワーは十分よ。だけど、それをうまく使えていない傾向にあるわ」

 

 かつてのアールバイパーの弱点であった火力の低さは、幻想郷を飛び回り集めてきたオプション達の力もあり、随分と補えている筈だ。更にはいくつかの陣形を取ることで戦略的に立ち回れるという側面も持っている。一体どういうことなのだろう?

 

「何というかリズム感というものかしら? とにかく相手の魔力の動きを全く読めていないし、貴方の魔力の流れ方も滅茶苦茶で非効率的。今も私に敗れ、そしてパワーもスピードも拮抗しているのに魔理沙に負けてばかりなのは、その辺りに原因があるに違いないわ」

 

 な、なんで魔理沙のこと知ってるんだと声を荒げたら、長い付き合いだからと素っ気なく返してきた。唖然とする俺を無視して更に大破した銀翼の周囲を品定めするかのように回りながら続ける。

 

「それ抜きにしても高火力な技が剣や爆弾のような射程距離の短いものに偏っているのもいただけないわね」

 

 言われてみれば高火力でなおかつ射程距離の長い技なんてドラゴンレーザーくらいである。彼女は俺の戦い方を見て他にも色々と分析をしてくれた。荒々しいけれど知的、乱暴だけど親切。幽香さんってのは不思議な人だ。

 

「つまり遠くまで届く威力の高い技と、魔力の使い方を鍛えよってこと?」

 

 無言で、幽香はニコリと微笑んだ。それすらもどこか戦慄とさせる。俺はとんでもない妖怪に気に入られてしまったようだ。




(※1)白鈴『大食い勇者アレックス』
セクシーパロディウスの白いベルパワーで召喚される「アレックス」がモチーフ。パックマンのように口をパクパクさせながら敵を攻撃したりコイン集めを手伝ってくれたりする。
何故か女性型の敵を優先的に攻撃しようとしたりボス戦になるとビビって自機の後ろに隠れてしまったりとやたらと人間臭い。

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