東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

4つ目のオプションとなったゆっくり霊夢はとても臆病者であった。演習中に襲ってきたバイオレントバイパー相手に尻込みしてしまったことがきっかけとなり、アズマとはぐれてしまう。

アズマと雛は迷子になったゆっくり霊夢を探す為に夜の樹海をさまよっていると思わぬ形で「幽谷響子」と再会する。

響子は命蓮寺がなくなった噂を自分の家で聞いて、居場所を失い友人のミスティアと共に「鳥獣伎楽」というパンクロックバンドを結成していたのだ。

最初にバイオレントバイパーが命蓮寺を襲撃した時にその場にいなかったからか、アズマに対して敵対視することなく、久々の再会に涙してくれた。

ステージに乱入してライブを中断させてしまったお詫びにアズマと雛もライブに参加して観客を盛り上げた。

その後の打ち上げで、迷子になっていたゆっくり霊夢が戻ってくる。何やらあちらはあちらで色々あったらしく、あちこちに傷を作ったその顔からは、もはや今までの臆病さは完全に消えていた……。


第8話 ~あたいのマナデシかつえーえんのライバル~

「そう、そんなことがあったのね」

 

 その後、鳥獣伎楽の二人と別れた俺達が雛の家に戻るころには空も白みかけていた。扉の前ではいつからいたのか、赤蛮奇とゆっくり魔理沙達が2人と1匹を案じてずっと立っていたようだ。

 

「私もいるぞー」

 

 おっと、こいしちゃんも忘れちゃ駄目だね。

 

 布団で疲労した体を休めるも、俺達には猶予がないので仮眠を取るに留めておいた。体がマトモに動くようになり次第次の行動に出ないといけないのだから。最初は雛が、次に俺が体を起こすと、さっそく次の作戦を練るべく動き始めた。

 

 にとりと赤蛮奇を呼び出すと、ちゃぶ台の上に幻想郷全土の地図を広げ、今までの行動を確認することにした。こいしは……あれ、また姿が見えない。待っていてもいつ出てくるかわからないし仕方ない、先に会議を始めよう。

 

「妖怪の山周辺はこれくらいでいいわね。私達の目的は逃げ足の速いバイオレントバイパーを包囲すること。そこで、次に目指す場所はこの『太陽の畑』でどう? ここには私のちょっとした知り合いもいるし交渉も上手くいく筈」

 

 地図を指さしながら、妖怪の山から太陽の畑へ一直線になぞっていく雛。そう、太陽の畑は俺達が今いる妖怪の山の真逆に位置しているのだ。

 

「思いっきり幻想郷を横断することになるな。ちょっと危険じゃないか?」

 

 今や銀翼は幻想郷の敵。最終的な目的地はここでいいだろうが、途中でどこかを経由したい。すると今度はにとりが地図の一点を指さす。

 

「比較的安全なのがこの『霧の湖』を経由するルートかな? ここなら歌ってばかりの大人しい人魚や妖精くらいしかいないし、万一戦闘になっても切り抜けることが比較的簡単だ」

 

 霧の湖といえばチルノの住処。彼女は今でも俺のことを「あたいのマナデシかつえーえんのライバル」とか言ってくれるのだろうか?

 

「よし、そのルートで太陽の畑とやらに向かってみよう!」

 

 霧の湖自体は攻略が容易でも近くには紅魔館がある。再び咲夜に出くわしたら面倒なことになるだろう。ここは足早に抜けなくてはいけない。

 

「不安要素を挙げていてはキリがない。まずは行動に出よう。アールバイパー、発進!」

 

 留守は赤蛮奇に任せて俺達は次の行動に打って出る。

 

 銀翼をしばらく飛ばし最初の経由地に差し掛かる。日が昇って久しい。ここ霧の湖は何故か昼になると濃霧が発生しやすくなるので、どうにか太陽が高く昇る前に抜け出したいところではあるが……。

 

「やっぱり妖精たちの抵抗が強いな。このっ、そこをどけっ!」

「興奮状態にあるわね。ここの妖精達もバイオレントバイパーに何かされたのかしら?」

 

 どうにか群がる妖精を雛とにとりの協力を得て退けていくも、時間をかけ過ぎたのか、太陽が高く昇り、周囲に霧が立ち込めてくる。これでは遠くが見えない。

 

「アズマ、お互いにあまり離れない方がいい。はぐれたら厄介だぞ」

 

 自分も魔力レーダーに目をやるが、残念ながら正しい道は示されない。これはあくまで魔力の大きさを測るもの。だが、異様に大きい魔力の接近を察知していた。なんだコレは? 妖精にしては随分と大きいぞ。

 

「……」

 

 緑髪を黄色いリボンでサイドテールにした青いワンピースの少女が飛んでくる。その虫のような羽から推測するに、ここらの妖精の親玉ってところだろう。言うなれば「大妖精」ってところか。

 

「リリーちゃん、よくもリリーちゃんを……」

 

 ぐっ、恐れていたことが起きたぞ。恐らくはバイド化していたリリーホワイトの友達か何かだろう。明らかに憎しみを原動力に動いている。だが、あそこでリリーホワイトを放置していたら……。

 

「ああする他なかった。あの子はバイド化していたんだ。放っておいたらさらに被害が……」

「リリーちゃんの仇!」

 

 ちっ、聞く耳なしか。ボス格とはいえ相手は妖精。見たところチルノよりも力が劣るようだし少し脅かせば戦意を喪失して立ち去るだろう。

 

「そいやっ、レイディアントソード!」

 

 あちらに何かをさせる前に急接近し、剣の間合いに入る。そして一閃。しかしすぐに消えてしまう。が、俺はうろたえない。

 

「逃げ方までリリーホワイトと一緒か。残念だったな、アールバイパーは魔力の流れに敏感なんだ」

 

 冷静に魔力レーダーに目をやる。姿を隠していても再び姿を現す前に大きな魔力の流れが周囲に発生する。つまり出てくるタイミングを見計らい再び剣を振るった。わざと狙いを少しずらして。

 

 ブワっと舞い上がるは大妖精の髪の毛。わずか数ミリをブンと大妖精の耳元で唸りをあげたレイディアントソードが斬りつけたのだ。喉元に剣先を当ててさらに威嚇する。

 

「貴様の負けだ、命が惜しければここは退け。でないと、この剣は次に喉を貫くことになる」

 

 これだけビビらせておけば尻尾を巻いて逃げるだろう。だが、大妖精はピクリとも動かない。さらに威嚇が必要と判断した俺は反対側の耳元狙い、再び剣を振るった。もちろん大妖精本体には当てない。

 

「さあ今すぐに立ち去れっ! 俺はこれ以上の危害を加えたくない!」

 

 語気を強めてさらに脅しにかかる。

 

「リリーチャンリリーチャンリリーチャチャチャチャチャ……」

 

 が、次の瞬間、大妖精は白目をむいたかと思うと壊れたレコードのように友人の名前を淡々と口にしながら、そのまま湖へ落ちていった。恐怖のあまり気絶してしまったのだろうか?

 

「いや、まだ何かいるぞ!」

 

 その声につられて再び前を見る。ああっ、濃霧をよく見ると何か別の影が浮かんでいるのが見えるぞ。

 

 団子状の2本の太い触手はシルエットだけでも特徴的だ。こいつ、まさか……!

 

「キッヒヒヒヒィ! まぁた会ったなぁぁ、銀翼の末裔っ!」

 

 切断された触手をボコボコと再生させると、片方の触手をこちらに向けてくる。

 

「地底でバイターに食われたと思ったら生きていたのか、ゴーレム!」

 

 永遠亭で、地霊殿でこちらの行く手を阻んできたバクテリアンの残党、奴が三度俺の前に現れたのだ。

 

 腕を組むと触手の先をポキポキと鳴らす、いや触手がポキポキ言うはずない。よく見ると自分で効果音を口にしているだけであった。

 

「この俺様をあーんな周囲を同化したり子作りに励んでばかりのバイドの野郎どもと一緒にするなよ? 再び地獄の底から這いあがってやったぜ! テメーを、本物のアールバイパーとやらに引導を渡す為にな!」

 

 触手をビシッとこちらに向けて宣戦布告する脳みそ。

 

 ヤツはそれであの大妖精に取り付いていたのだろう。いくら妖精の中では強そうとはいえ戦った感じではチルノの足元にも及ばない感じであった。ゴーレムがあの妖精を操って俺を仕留めようという魂胆だとしたら大誤算もいいところである。

 

「君に構っている暇はない。アズマ、こんな奴さっさとやっつけてやろう!」

 

 にとりが前に出るとゴーレムと対峙する。こんな所で無駄な時間を消費したくはない。だが、今のゴーレムの発言、何か引っかかるぞ……?

 

「待つんだ、ゴーレム。さっき俺を見て『本物のアールバイパー』と言っていたな。つまりお前はアールバイパーの偽物がいることを知っていて、でもこの俺を本物だと認識した。違うか?」

 

 にとりの弾幕とゴーレムの触手がぶつかり合わんという、まさにその時に水を差した俺。戦闘はすんでのところで中断された。

 

「ったりめーだろ。二度も俺様の顔に泥を塗ったアンチクショウの顔を間違えるなんてありえねぇぜ。手の込んだ偽物まで用意しやがって……。しかも偽物の方がなんか容赦ないっぽいし」

 

 ふむ、これは使えるかもしれないぞ。何かきっかけがあればこいつを味方に引きずり込むことが出来る。

 

「その偽物ってのを俺は追いかけているんだ。だから……」

「アホ言ってんじゃねー! なんでよりにもよって一番憎たらしいテメーの手助けなんざしないといけねーんだ」

 

 うーん、直球で交渉してもダメそうだな。そうしていると騒ぎを聞きつけたのか、別の妖精が近づいてきた。

 

「さっきからっ、あたいのシマでっ、うるさくしているのはっ、どこのどいつだーっ!」

 

 あの元気のいい声はチルノのもので間違いない。声が響いてコンマ数秒、ゴーレムの目が一瞬笑みを浮かべる。

 

「力の強そうな、んでもって頭の弱そうなカモ発見! 今度はコイツを操ってやる!」

 

 あくまで俺を倒すことに固執するゴーレムは今度はチルノを洗脳して戦わせようとしているのだ。耳にあの太い触手を突き刺されてはその肉体はゴーレムのおもうがままに操られてしまう。

 

「チルノっ! 離れろ!」

 

 思わず彼女の名を叫ぶが、それもむなしく、ゴーレムはチルノの両耳に触れた。

 

「イタダキだ。ほほぅ、さっきの小娘よりもずーっと強いようじゃないか。ちょいとその体、借りるぜ……」

 

 今まさに触手が突き刺される! が、次の瞬間、ゴーレムの表情が固まった。いや、固まっているのは表情だけではない。触手も固まっていたのだ。カチコチに凍らされて。

 

「イギャァァァァ! 手がぁ、手がぁぁぁ~~~~!!」

 

 チルノは触手が本格的に突き刺される寸前にゴーレムの触手を凍らせていたのだろう。実際に体に触れていたので冷気もより速く伝わっていったと考えられる。

 

「ふふん、脳味噌の化け物の割にはあんまり頭が良くないのね。冷たいものに触ったら手も冷たいに決まっているじゃない」

 

 今も悲鳴を上げるゴーレム相手にドヤ顔で決める氷の妖精。そのまま快活な笑顔を今度はこちらに向けてきた。

 

「やっぱりアズマにはあたいがついていないとね! 何たってアンタは、あたいのマナデシかつえーえんのライバルなんだから!」

 

 彼女の口から出た言葉、それがあまりに嬉しく俺は思わず涙した。

 

「まだ、あんたの弟子にしてくれているんだな? 前にあんたの友達に手をかけてしまったというのに、今だってあんなに銀翼はあちこちで暴れ回っているというのに」

 

 涙ぐみながらそう言われ、キョトンとするチルノ。間もなく「友達」がリリーホワイトのことと分かると少しも明るさに陰りを見せることなく続けてくれた。

 

「リリーホワイトの件は仕方ないわね。巫女に散々ボコボコにされてもゾンビみたいにすぐ立ち上がるし暴れ回るし、完全に『一回休み』にしないと止まらなかったわ。それに今あちこちで悪さしてるのはニセモノのほうでしょう?」

 

 恐ろしい程に真実に近づいている。これもバカ……失礼、思考回路が単純なだけ既存の常識にとらわれにくいということなのだろうか?

 

「偽物って分かるの?」

「前々からおかしいなとは思っていたけど今ので確信したわ。今まで見てきたのはニセモノ。頭の弱そうな脳味噌お化けにすら見分けることが出来るのよ。あたいに出来ない筈がないわ。そもそもあたいのマナデシはあんなことするわけないもん!」

 

 その理屈が通ってしまうと幻想郷のほとんどの住民の知能がチルノ以下ということになってしまうのだが……。

 

 なんとも無茶苦茶な理屈であるが、少なくともチルノはこちらに好意的である。それが分かっただけで十分だ。

 

「ありがとうな、チルノ。あんたは技だけじゃなく、心の師匠でもあったようだ」

 

 互いの友情を確かめ合うべく、再びガッチリとアツい握手を交わしていると、申し訳なさそうにか細い声が割り込んできた。

 

「おーい、腕を凍らされたままなんだけど……」

「戻さないわよ。また悪さするでしょ?」

「くっ、ならばいっそここで殺せ」

 

 どこぞの女騎士みたいなことを言いだすゴーレム。だが、ヤツの口車に乗ってはいけない。俺はすぐさま反論した。

 

「コイツを殺すなよ? 死んだらまた時間をおいて復活するんだ」

「ひーん! 助けてゴーファー様~!」

 

 結局腕が凍ったままでは可哀想だし、チルノに行動を監視させることを条件に触手は戻してやった。

 

 その間に俺達が幻想郷全土にバイオレントバイパーを縛る包囲網を作ろうとしている旨を話す。

 

「えーっとどういうことかしら?」

「つまり、ニセモノ野郎を取り囲む大きな網になってくれってことみたい。

いいか銀翼の末裔、今回は手助けしてやるが、ニセモノ野郎を仕留めたら次はテメーだからな。くれぐれも勘違いしないように!」

 

 強引に味方にしたゴーレムと我が心の師匠に別れを告げ、俺達はさらに妖怪の山から離れ、太陽の畑を目指す……。

 

 間もなく人里が見えてくる。ここを抜けてその更に向こうが太陽の畑。しかし、日が落ちてきてしまっていた。

 

「厄神にお尋ね者。とても人里に入れる状況じゃないわね」

 

 自虐的に首を振る雛。うっかり俺達が入ったら一悶着どころでは済まないだろう。とはいえ、幻想郷の夜に無暗に動いても危険なだけである。不本意だがどこか適当な場所で野宿する他ない。

 

「こんなこともあろうかとっ! テントを用意してあるのだ」

 

 つくづく河童を味方につけてよかったと思う俺達なのであった。


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