東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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本エピソードは7話時点でゆっくり霊夢が何をしていたのかを記したものになっております。

(勝手に)ナレーション役をしている古明地こいしの語りと共にお楽しみください……。


東方銀翼伝 ep5 V.G.外伝 ~ゆっくり霊夢の小さな勇気~

 さてさて、夜の演習中にバイオレントバイパーに襲われちゃってアールバイパー操るアズマお兄さんと見事にはぐれてしまったゆっくり霊夢。

 

 もちろん必死に探すアズマお兄さんと雛お姉さんだけど、ゆっくり霊夢はその間何をしていたのかな?

 

 面白そうだからちょっと様子を見てみようと思うんだー♪

 

 

 

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「しく、しく……」

 

 アールバイパーのオプションとして頑張ろうとしたゆっくり霊夢だけれど臆病さのあまり、ちゃんと攻撃が出来なくて叩きつけられちゃったんだよね。

 

「しょうがないじゃん! 頑張ろうって思ったのにゆっくりの体から『ビクビクさん』が出てきてゆっくりの動きを止めるんだもん」

 

 バイオレントバイパーに襲われて怖くなって泣きながらこの場を離れるゆっくり霊夢。でも、こんな大雨の夜の中そんなに遠くに行っちゃって大丈夫?

 

「ここ、どこ……?」

 

 大雨の中、真っ暗な樹海を適当に進んでいたらそうなっちゃうよね。すっかりアズマお兄さんと雛お姉さんとはぐれちゃったみたい。周囲をキョロキョロ見回しても姿が見えません。

 

 疲れて動けなくなっちゃったのか、大きな葉っぱの下で雨宿りをしながら、ゆっくり霊夢は今もシクシクと泣いているよ。

 

 おや? どうやら雨宿りをしていたのはゆっくり霊夢だけじゃないみたい。

 

「わー、小人さんだー♪」

 

 紫色のショートヘアーの小さい女の子も雨宿りをしていたようだね。とっても小さくて彼女にはゆっくり霊夢も大きな岩に見えているんじゃないかな?

 

 でも小人さんは何だか困り顔。着物の裾も土砂降りの雨で濡れていてなんだか大変そうだね。ゆっくり霊夢は大きめの葉っぱをちぎると、小人さんに渡します。

 

「小人さん、一緒に雨宿り、しよ?」

 

 そうやって二人並ぶけど、小人さんはまだ何か困っているみたい。小人さんは自分を「少名針妙丸(すくなしんみょうまる)」って名乗ると、深々とお辞儀をしてきたの。

 

「大事なお椀をどこかで落としちゃった。そこの饅頭の妖怪よ、探すのを手伝ってほしい」

 

 それは大変! ゆっくり霊夢はすぐに手伝おうとやる気を出すんだけど、落とした場所はなんだか真っ暗で何も見えないところ。随分と深い草むらを前にすぐにしり込みしてしまいます。

 

「こ、怖いよ……。真っ暗なところにはブルブルさんがいっぱいいるから……」

「だけど、このままじゃ濡れちゃうよ。さあ一緒に手伝うのだ!」

 

 もみあげを引っ張って促す針名丸と嫌がりながら居座ろうとするゆっくり霊夢。引っ張る力は同じくらいで、業を煮やした針名丸は高くジャンプすると、ゆっくり霊夢の頭の上に着地! そのまま手にしていた針でチクチクと刺していくの。い、痛そう……。

 

「ええい、ゴチャゴチャ言わずに早く行かないか!」

「イタイ! 乱暴しないでよぉ! 真っ暗はブルブルさんが怖い怖いって言うから……」

 

 さっきから「ブルブルさん」ってのを怖がっているゆっくり霊夢。針名丸はさっきのやり取りから怖がっていることに気が付いたみたい。イイコト思いついたとポンと手を打つと、こんなことを言いだしたよ。

 

「分かった分かった。だからそんなに暴れないで! そうだ、いいこと教えてあげる。私が頭の上にいるとね、そのブルブルさんってのは来ないんだ」

「えっ、本当?」

 

 ヒュンヒュンと針の刀を振り回し、ビシっと答える針名丸。

 

「ふふん、この私がブルブルさんってのを追い払っちゃうからね。何にも怖がることなんてないわ。いつもはお椀だけど、今回はゆっくりに乗っているから『ゆっくりナイト』ってところ。では改めて、れっつごー!」

 

 そうは言うけれど、ちょっと信じられないゆっくり霊夢。おそるおそる暗闇の草むらに飛び込んだっ。

 

「えーい!」

 

 ガサガサと大きな音を立てながら、針名丸を頭に乗せて草むらに入ったけれど、ゆっくり霊夢はまるで怯えません。

 

「……本当だ! 凄いね針名丸、本当にブルブルさんを追い払っているんだ♪」

「ふふーん。そういうこと♪」

 

 もう大丈夫と思ってゆっくり霊夢は小さく鼻歌を歌いながら草むらをズンズンと進んでいくよ。

 

 そうしているうちに雨も止んできたみたい。空を見てみると……。

 

「わー、お星さまだ! お星さまがいっぱい!」

 

 沢山の光が空で瞬いているね。だけど、お星さまにしては随分と低くない?

 

「違うよ、あれは蛍。ほら、虫の妖怪が操っているわ。光のラインが綺麗な模様を描いている♪」

 

 カクカクと不規則に曲がる蛍に見とれていると、ようやくお椀を探している途中だって事に気が付いて、先に進むことに。

 

 更に進むと、何か大きな影がシュルシュルと這いよってくるのに気が付いた二人。

 

「何か近づいてくる! うう、怖いよぉ……」

 

 ヘビのような長い体で針名丸とゆっくり霊夢を逃げられないようにするとその大きな口を開けて飛びかかってきたのはなんと「バイター(※1)」! ゆっくり霊夢、あぶないっ!

 

「きゃー! に、逃げなくちゃ……あ、でも逃げ道を塞がれてる。ゆわぁ~ん!」

「落ち着くんだゆっくり霊夢。私が上に乗っかって『ゆっくりナイト』になっている間は……」

「ブルブルさんはへっちゃら! うん、勇気が出てきたよ。一緒におっきいヘビさんを追っ払おう!」

 

 よだれを垂らしながら一思いにガブリとかぶりつこうとするバイター。ゆっくり霊夢は逃げるのではなく、逆に口の中に飛び込んだ!

 

「ふふーん、鬼の胃袋で大暴れした一寸法師の末裔だって事を知らなかったたようね。後は任せて!」

 

 そのまま針をブンブン振り回してバイターの口の中で大暴れ。口の中を執拗にチクチクと針で刺されたバイターはこりゃたまらんと逃げて行っちゃったよ。

 

「やったぁ! ゆっくり達の勝ちだね♪」

 

 更にゆっくり霊夢たちは先へ進むけど、グーとお腹の鳴る音。誰のかな?

 

 あっ、ゆっくり霊夢のものみたい。針名丸に音を聞かれて照れているね。

 

「あそこに木の実がなっている。アレを取ろう。よーし、とつげきー!」

 

 頭の上で指示を出すとゆっくり霊夢は思いっきり木に体当たりするけど……びくともしません。

 

「無理なんじゃないかな?」

「そんな簡単に諦めちゃダメだ! そうだ、こういう時は深呼吸よ。はい、すってー」

 

 言われるがままに思い切り息を吸い込むゆっくり霊夢。

 

「はいてー」

 

 今度は思いっきり息を吐き出す。するとまた息を吸うように言われたので思いっきり吸い込むよ。

 

「はい、止めて」

 

 吐くのではなく、息を止めるように言われて、頬を膨らませながら口を思いっきりつぐむゆっくり霊夢。そのうえで針名丸は思いっきりジャンプ! まさか……

 

「即席のトランポリンの完成よ。よいしょー!」

 

 そのまま高く跳んだ針名丸は針を一閃! ボトボトと沢山の木の実が落ちてきたよ。ようやく自分が踏み台にされたことに気が付くゆっくり霊夢はまた頬を膨らませているよ。

 

「騙したね! ゆっくりはジャンプ台じゃないんだよ!」

「ははは、ごめんごめん……。木の実、たくさん食べていいから機嫌を直しておくれよ」

 

 まだ少しむくれながらも二人で仲良く木の実を分けるとお腹いっぱいになった二人はまたお椀探しを続けていくよ。

 

 そうやって針名丸を頭に乗せて進んでいくうちに……。

 

「あった! あの黒いのが私の大切なお椀なの!」

 

 回収するために急いでお椀に近づくけれど……。あと少しというところで大きな手がお椀を持って行っちゃった!

 

「誰!? そのお椀は針名丸の大事なものなんだよ。返してよ!」

 

 見上げたゆっくり霊夢はビックリ仰天! 立派な角を持った大きな鬼が酒臭い息を吐きながらジロリと二人を睨みつけてるよ。

 

「お、鬼だ……本物の。いたんだ、幻想郷にも……」

「鬼さん、そのお椀はこの小人さんの大切なものなの。お願いだから返してよ」

 

 うーんと緩慢に首を揺らす鬼は一言。「やーだね」だって。

 

「このお椀は私『伊吹萃香(いぶきすいか)』が先に見つけたものだもんね。だから私のもの♪ コイツは新しい盃にするんだ。それにそっちのちっこいの、よく見たら一寸法師にソックリじゃないか。いっちょまえに針の刀なんて持ってるし、ますます渡す気にならないわ」

 

 なんと、この鬼は針名丸の正体も見抜いていたみたい。さすが、ただの酔っ払いとは違うね。

 

「まあどうしてもっていうのなら……」

 

 萃香は棒切れを拾うと地面に円を描き始めたよ。えっ、これってもしかして……土俵?

 

「力比べといこうじゃないの。鬼といえば勝負事だからね。お椀を賭けてこの私と相撲で勝負だー! っとその前に……」

 

 自分の能力でゆっくり霊夢くらいの大きさに小さくなった萃香。

 

「このままのサイズでやり合っても勝負にならないし、そこの一寸法師にお腹の中で暴れられたらたまったものじゃないからね。さあ、勝負を始めよう!」

 

 ゴクリと固唾をのむゆっくり霊夢。

 

「大丈夫、勇気だ。勇気を出すんだ。君は強い、私がブルブルさんを何とかするからゆっくり霊夢はあの鬼を頼むよ」

 

 はっけよーい……のこった! 遂に鬼とゆっくり霊夢の相撲勝負が始まったよ!

 

 ゆっくり霊夢には手足がないから土俵の外に出なければ負けにならない……んだけど萃香は相撲に慣れているみたいだし、何よりパワーに圧倒的な差があり過ぎて押されっぱなし。

 

 容赦ない張り手を何度も受けるゆっくり霊夢。

 

「痛い……けど、針名丸の為にも負けられないもんっ!」

 

 負けじと体当たりすると萃香が一瞬だけよろめいた!

 

「うっ、やるじゃん……。ならばこれはどう?」

 

 再び張り手攻撃。だけど狙いはゆっくり霊夢の少し上。平手は針名丸を思い切り土俵の外に突き飛ばしちゃった!

 

「ああっ、針名丸!」

 

 大変、ブルブルさんをやっつけてくれる針名丸がいないとゆっくり霊夢は……!

 

「こ、怖いよぉ……しくしく」

 

 途端に逃げ腰になってしまったゆっくり霊夢。萃香は今がチャンスとさらに攻めてくる。

 

「ほらどうしたどうした? あの一寸法師がいないと何もできないのかな?」

 

 遂に土俵際まで追い詰められたゆっくり霊夢。もう駄目だと諦めかけているみたい。でも、ここで諦めちゃっていいの?

 

「だって、相手は鬼さんだよ? 勝てるわけないじゃん。それにゆっくりはブルブルさんのせいで体が動かない……」

 

 そんな饅頭の妖怪に檄を飛ばすのは土俵の外の針名丸。

 

「ゆっくり霊夢、ゴメン! 一つだけ嘘をついていたのよ。私が頭の上にいなくても、ブルブルさんはやっつけられる。私が居なくても勇気は出せるんだよ!」

 

 その一言で目が覚めたゆっくり霊夢。再びその眼に闘志が宿るよ。

 

「勇気だ、勇気を出すんだ!」

 

 萃香は最後にもう一度押し出そうとしている。ここで勝負を決めるみたい。だけど、ゆっくり霊夢は、萃香が大きく振りかぶる際に片足立ちになっているのを見つけたよ。

 

「えーい!」

 

 そこめがけて思いっきりタックル! 油断していた萃香はたまらずバランスを崩して尻もちをついちゃった。

 

「やったぁ! 土俵で手をついたからお前の負けだぁ! 素直に負けを認めるがよい!」

 

 やれやれとお尻をポンポンと叩くと、驚くほど素直に黒いお椀を渡す萃香。

 

「うーん、油断しちゃったなぁ。でも負けは負けだね。仕方ない、このお椀は君たちのものだ。さて、私は新しい盃でも探すかな……」

 

 特に後腐れもなくフラフラと立ち去っていく鬼。でも針名丸は大事なお椀を取り戻してご満悦の様子。

 

「危険なことにつき合わせちゃってごめんね。そうだな、この打ち出の小槌で何か願い事をかなえてあげよう。ちょっとくらいなら大丈夫だと思うから」

 

 うーんと考え込むゆっくり霊夢は……

 

「ゆっくりはね、アズマお兄さんの為に頑張って戦うって決めたの。でもゆっくりは足手まといにばっかりなっちゃってるの。だから、せめて人並みくらいでいいから役に立てるように……」

 

 それを聞いてカラカラと大笑いする針名丸。

 

「ふふっ、仲間思いだね。でも、小槌を使うまでもないわ。勇気ならもう持っているじゃない。相撲で鬼をやっつけたくらいなんだ。きっと、上手くいく。そうだな……、じゃあそのアズマお兄さんって人のところまで送ってあげよう」

 

 それだけ言うと針名丸はゆっくり霊夢を連れてどこかへと進んでいくよ。そしてその先にはこじんまりとした屋台が……。

 

「ねぇ、あそこにいるのってゆっくり霊夢じゃない?」

 

 最初に気が付いたのは一緒にいた雛。そうやってゆっくり霊夢を指さしていると……あっ、アズマお兄さんも気が付いたよ。

 

「ゆっくり霊夢! どこにいっていたんだ? すっごく心配したんだよ」

 

 針名丸は物陰に隠れてそんな3人の様子を見ているみたいだね。

 

「ゆっくり、もう逃げないよ。もう前のゆっくりとは違うんだから。なんだか勇気が湧き上がるんだ。今度こそお兄さんの為に頑張る!」

 

 もう怖いものなんてない。ゆっくり霊夢は針名丸と萃香に勇気を教わったのだから。

 

「そうか、それじゃあ来る戦いの日の為に栄養のつくものを食べよう。みすちー、ヤツメウナギとジュースを1人分!」

「わーい♪」

 

 これにてめでたしめでたしだね。さて、私もアズマお兄さんのところにもーどろっと♪

 

 

東方銀翼伝 ep5 V.G.外伝 ~ゆっくり霊夢の小さな勇気~ END




(※1)バイター
沙羅曼蛇2に登場したボス敵。
ゴーレムを捕食するほど巨大な蛇。
地霊殿にいたものとは別の個体?

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