東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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第6話 ~4人目の仲間 後編~

 銀翼のない俺はただの人間。雲の巨人を前に俺はあまりに無力であった。霞む視界、雲山は狙いを定め、その拳を思い切り……!

 

 いや、雲山の大きな拳は俺を突くことはなく、見当外れの方向を殴打した。

 

 見ると一輪が手首を怪我したらしく、いつも手にしていた輪っかを取り落しているのだ。何事かと注視してみると、浮遊する赤毛の生首が目からビームを発射して一輪の手に命中させていたのだ。

 

「こんな夜遅くにうるさい」

 

 次に俺の視界に入ってきたのは、ふよふよと浮かぶのは蒼いリボンを頭につけた赤毛の生首。それも7つくらい。そしてその背後では赤いマントを羽織った少女が泣き叫ぶレミリアの生首のような生き物「れみりゃ」を抱きかかえていたのだ。ああ、俺がずっと探していたろくろ首の少女「赤蛮奇」だ!

 

「うるさいし家を揺るがすしで、この子が泣いてしまったわ」

 

 しかも騒音の元凶という事で一輪に敵意をむき出しにしている。

 

「助かったよ赤蛮奇!」

「貴方は……轟アズマ?」

「ゆっくりもいるよー♪」

 

 ぴょこんと赤蛮奇の左肩に飛び乗るのは霊夢のゆっくり。

 

「一体何があった? 相手は同じ寺の……」

「説明は後だ! 俺がアールバイパーに乗り込むまで時間を稼いでほしい」

 

 真剣な目つきで彼女の目を見て頼み込む。

 

「……? 事情は読めないけれど貴方はこの子たちの恩人、ゆっくりを愛する者に悪人はいない。いいだろう、我が恩人の願い、しかと聞き入れよう!」

 

 最後にサンキューと合図を送ると俺は一目散にこの場を離れ、そして銀翼を隠していた場所まで到達、赤蛮奇をサポートするべく来た道を空から辿り戻る。

 

「待たせたな」

 

 銀翼に乗り込み、赤蛮奇の様子を見に行くと、いくつかのスペアの首が撃破された状態であることが分かる。劣勢だ。

 

 今まさに追い詰められた赤蛮奇の本体に雲山の拳が振り下ろされる。だが、俺はそれよりも早く手を打つことが出来た。

 

「グラビティバレット!」

 

 紫色の弾丸が赤蛮奇の目の前で炸裂、小型ブラックホールを発生させると、雲山の拳が引き寄せられていく。あれだけ巨大な入道とて、体が煙状ならその質量はたかが知れている。相当体を縮めて密度を高めない限り雲山は俺を攻撃することは出来ない。

 

「くっ、また厄介な武装を手に入れたようね。ならば雲山、レーザーで応戦しましょう!」

 

 カッと雲山の両目が赤く光るとゆっくりと赤い光線が伸びていく。はんっ、アールバイパーの機動力をもってすれば大した脅威ではない。俺は一度高度を下げて手負いの赤蛮奇とゆっくり達を回収すると宙返りしつつ急上昇。真上からフォトントーピードを撃ち込んでやった。

 

 光を散らしながら重力も手伝い速度を上げるミサイルは一輪の頭上で炸裂。彼女が大きく怯んだことで、一輪に制御されて動いていた雲山がピタリと動きを止めてしまう。

 

 そのまま俺は雲山をリフレックスリングでギュウギュウに小さくして捕まえるとジャイアントスイングの要領で振り回し、一輪目がけて投げ飛ばした。

 

「勝負ありだな。さて、白蓮が俺達の商売敵に封印されたと聞いたが、そいつをやっつければ丸く収まる筈だ。誰だか知らないが、そんな奴の言いなりになんてもうなる必要はない。奴はどこにいる?」

 

 ヨロヨロと起き上がる一輪であるが、ゼエゼエと呼吸を乱しながらも鋭い眼光でこちらを睨みつけている。あくまで黙秘を決め込むつもりのようだ。

 

「そんなことしたら、また貴方は我が物顔で幻想郷を荒らして回るに違いないわ。貴方には、貴方だけには……!」

 

 やれやれと首を振る俺。これ以上手荒な事をするのは得策ではないし、赤蛮奇とも合流できたので、もはやこの場所には用はない。増援が来る前に引き上げようとした矢先、魔力レーダーが強大なエネルギーが接近しているのを感知していた。

 

「おや、随分と手こずっているようですがどうかしましたか?」

 

 白蓮を彷彿させる穏やかな声。だが、一輪に話しかけた声は彼女のものではなかった。

 

 獣の耳のように左右に突き出た奇抜な髪形に、ヘッドホンのような巨大な耳当て、大きなマントは黒色ではなく紫色、手には剣を持った小柄な少女が現れたのだ。

 

「何だお前は? いや、なんとなく察しがついた。聖様を封じた『商売敵』ってのは……」

「いかにも。我が名は『豊郷耳神子(とよさとみみのみこ)』。妖怪まみれの腐敗しきった仏教に代わり道教をもってして幻想郷を平定する者!」

 

 そういう事か。合点がいった。こいつが全ての黒幕だ。あんなに煌びやかに光っているが、その本質は邪悪そのものだ。

 

 何らかの手段で俺がいない間にアールバイパーの偽物「バイオレントバイパー」をけしかけ命蓮寺の名声を貶め、俺が暴れていることを理由に白蓮を封印、その封印の解除をエサに白蓮を慕っていた一輪や星を自らの言いなりになるように仕向けた。こいつが、こいつが俺の信頼を、白蓮との絆を、俺の帰るべき場所である命蓮寺を……!

 

「……さねぇぞ」

「どうしました? 恐怖のあまり震えが止まりませんか? そこの変な鳥の妖怪さん」

 

 今のでプッツンとキレた。それはもう理性のタガを外すのには十分すぎるほどであった。

 

「だからアールバイパーは変な鳥の……いや、もはやそんなことはどうでもいい。貴様っ、絶対に許さねぇぞ! テメーがアールバイパーの偽物をけしかけて俺を、そして俺の大事な仲間を不幸のどん底に叩きこんだんだ! 白蓮の想いを踏みにじり、蹴落としたら空いた椅子にいそいそとってか? ふざけんじゃねぇ、そのひん曲がった根性ごとぶちのめしてやる! このドグサレミミズク野郎がっ!!」

 

 こんなゲスの極みに情けなど必要ない。そのすまし顔にレイディアントソードで風穴開けてやる!

 

「重銀符『サンダーソード』!」

 

 だが、俺は同時に恐怖も感じた。俺がこれだけ激昂しているというのに神子の方はまるで感情が動いていないように見えたのだ。よほど冷静なのか、それとも感情など元から彼女にはないのか……。ただ一言俺にこう告げるのみであった。

 

「確か、轟アズマといいましたか。ああ、なんと哀れな……」

 

 雷ほとばしる大剣を突き出しながら突進する俺。対して神子はスルリと回避すると飛び散る電撃すらもまるで寄せ付けない。

 

「妄想に囚われ、現実の見えなくなった者ほど哀れな存在はない。ええ哀れなのです。滑稽さを軽く通り越して」

 

 涼しげな面持ちのまま、神子はスペルカードを取り出していた。まずい、この至近距離でとんでもないものを仕掛けられたら……。

 

「光符『グセクラッシュ』」

 

 淡々と単純作業でもするかのように、スペル発動の宣言をする。彼女から無数の七色の光が球体となり拡散し、銀翼のどてっ腹を撃ち抜いていく。

 

「があぁっ!」

 

 その一撃一撃が異常に重い上にそれが大量にあるのだ。銀翼は大破して地面に叩きつけられた。その衝撃でリデュースも解除されてしまう。

 

「轟アズマ、この際だからハッキリとさせておきましょう。私は幻想郷を平定したいから魔住職を封印したわけではありません」

 

 ツカツカと剣を携えて近寄ってくる。

 

「そのなんとかバイパーとやらは勝手に暴れまわり、命蓮寺の名声に泥を塗ったのです。私が偽物をけしかけているだなんて馬鹿馬鹿しい。

そして仏教の権威が地に落ち、我々道教が人々を導くことになった。そんな状況に陥ってもあの生臭坊主は最後まであの変な鳥の妖怪を信じ続け、そして私はある日人間達から『幻想郷に仇なす妖怪を信仰するうさん臭い僧侶を退治してくれ』と依頼を受け、そして彼女を封印したのです」

 

 白蓮は最後まで俺を信じて、その結果封印されてしまった? 信じられない、信じたくない。

 

「嘘だ、適当な嘘をつくなっ!」

「いいえ嘘ではありません。全ては外界から来た銀翼が引き金となった。それは寺の妖怪達も認めています。そして同じく討伐の依頼が出ている貴方を命蓮寺の妖怪達に倒させれば命蓮寺は我々の傘下に入ることになる。もはや抵抗することは出来ない」

 

 この時だけは一輪も神子を鋭く睨み付けていた。なるほど、やり直すとはそういう事か。神子の言いなりになってしまえば白蓮が封印から解き放たれた後も、もはや彼女らと張り合えなくなる。一輪はそうなった後に裏から独立を図ろうという魂胆なのだろう。

 

 だが、そんな必要はない。俺の身は潔白なんだ。何が何でも元の日常を取り戻して見せる……!

 

「このままだと奴にトドメを刺すのは私になりますが、足止めをしたりして私に貢献してきたので、約束通り白蓮さんの封印を解きましょう。ふふ、お情けってやつです」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、チラリと一輪を視界の端に捉える神子。またも屈辱に耐える表情を見せる一輪。

 

 そしてこのいけ好かないミミズク野郎は俺の首をはねるべく、剣を振り上げる。一輪を、いや命蓮寺を救うにはまずこの状況を何とかしないといけないが、あいにくアールバイパーもこんな状態では何もできない。

 

 俺は何もできないまま……目を閉じた。もはやこれまでなのか……。ドサリと首の落ちる音が鈍く響いた。

 

 斬首され、もはや俺の命も……あれ? ちゃんと首が繋がったままだ。俺は自らの首を両手で抑えながら周囲を見ると……。

 

「せ、赤蛮奇!」

 

 ドサリと落ちたのは赤蛮奇の首であった、アールバイパーに一緒に乗っていた赤蛮奇の首がバッサリと斬り落とされ……って、こいつは元々首が繋がっていない。神子は何を思ったのか、俺ではなくて赤蛮奇に剣を振り下ろしていたのだ。

 

「なっ……」

 

 そしてそれは想定外であることが神子の表情から分かった。一体何が起きたんだ……?

 

「お兄さんをいじめるなー!」

 

 なんと、すんでの所でゆっくり霊夢が神子の脚に思い切り体当たりし、狙いをズレさせたようなのだ。バランスを崩した神子はそのまま転倒、そのままゆっくり霊夢は後頭部をガブガブと噛みつき続ける。とても致命傷に至るようには見えないが、足止めするには十分だ。

 

「とても太刀打ちできる相手ではない! どこかへ逃げよう」

 

 いくらか冷静さを取り戻した俺は赤蛮奇の号令に従い、この場を離脱することにした。全て神子が仕組んだこと、それがハッキリしただけでも大収穫なのだから。

 

 大破した銀翼をどうにか再起動させると神子にまとわりつくゆっくり霊夢を回収し、フラフラと人里を後にした。

 

 

 

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「いっつつつ!」

「ほら、男の子でしょ? そんなに動いたらちゃんと出来ないわ」

 

 途中で墜落することなく妖怪の山の薄暗い樹海のアジト……もとい雛の家まで逃げ帰ってきた俺達。あちこちを擦りむいていたので雛に治療してもらっているのだが、傷口にしみるしみる……。

 

 しみるけど、ここは我慢だ。なぜなら赤蛮奇は雲山との戦闘、そして神子の斬撃を喰らったことで俺よりも深刻な傷を負っているのだ。この程度で泣き言を言うべきではないだろう。

 

「私ともあろうものがここまで痛手を負うとは。つつつ……」

「大丈夫?」

 

 心配そうに群がるのは彼女のペットであるゆっくり達。外ではにとりがアールバイパーの修理をしている筈だ。俺は様子を見るべく、手当てが終わると外へと出た。

 

「なんだいアズマ? お礼の言葉なら今はいらないよ。生きて帰ってこれただけでも奇跡なんだ。でもしくじっちゃったみたいだね。君の考えだと、あのろくろ首にオプションになって貰うつもりだったんだろう? だけどあの怪我ではしばらく戦闘は無理だ」

 

 スペアの首もすべて撃破されてしまったそうだ。これでオプション探しはまた振出しに戻ってしまったことになる。だが正直俺にはこれ以上のアテがない。さて、どうしたものか……。

 

 俯いて考え込むと、服の裾を誰かが引っ張っているのに気が付いた。

 

「ゆっくりがやるよ! ゆっくりもお兄さんの力になりたい!」。

 

 どこかしらで赤蛮奇の首をオプションとして借りるという計画をこの子も聞いたのだろう。

 

「なっ、無謀すぎる! お前たちゆっくりは戦う為に育ててきたわけじゃない。やはり私が……うぐっ!」

 

 随分と派手にやられたらしく、首だけ浮遊していても本体が痛むのか、顔を歪めていた。

 

「やっぱりあのろくろ首はしばらく戦闘不能だ。だけどコイツで大丈夫かなぁ……?」

 

 それでも味方は多い方がいい。試さないうちに決めつけるのは良くない。そこでさっそく雛やにとりに手伝って貰う形で戦闘訓練を行うことになった。

 

 だが、にとりの不安は恐ろしいほどに的中することになるのであった。

 

「よし、あの的めがけてオプションシュートだ! ネメシス、お手本を見せてやれ」

 

 難なくオレンジ色のオーラを散らしながら、的に向かって突撃するネメシス。それに続くようにゆっくり霊夢も飛び出すのだが……

 

「こわーい!」

 

 的を前にして勝手に戻ってきてしまったのだ。ううむ、先が思いやられるぞ……。




4人目の仲間、それは古明地こいしのことなのか、それとも4つ目のオプションに志願するゆっくり霊夢のことなのか……?

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