東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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 にとりを追い掛け回す謎の敵の正体は……?


第4話 ~偽りの銀翼~

 俺は変な鳥の妖怪とすれ違った。いや、変な鳥の妖怪ではない。先の割れた独特のフォルム、輝く銀色の翼、ヘビのように従えているのは4つのオプション。そう、まぎれもなく超時空戦闘機だったのだ。

 

「こいつ、アールバイパー……?」

 

 再び機体をターンさせて今横切った影を確認する。にとりがその両者を見比べて素っ頓狂な悲鳴を上げていた。

 

「なんてこった、アールバイパーが2機いる。あり得ない……こんなの何かの間違いだ!」

 

 俺だって信じられない。「ありえない、何かの間違いではないのか?」そう思いたかった。だが、見れば見るほど超時空戦闘機の姿をしているのだ。

 

 ビックバイパーをはじめ、ロードブリティッシュ、ジェイドナイト、ファルシオンβ、ビクトリーバイパー、フォースバイパー、アルピニア、メタリオン、スラッシャーにサーベルタイガー、スーパーコブラにそしてヴィクセン……。超時空戦闘機を名乗る機体は数あれど、その姿はそのいずれのものでもなかった。

 

 少し黒色がかった白金色に黄色のアクセントを持つ機体。細かい部分は色々と違うようだが、アールバイパーにしか見えなかった。

 

 落ち着け、落ち着くんだ。本当に相手は未来の俺自身なのかもしれない。だとしたら何かしら会話が出来るはずだ。

 

「こちら命蓮寺のアールバイパー、我々に攻撃の意思なし。繰り返す、我々に攻撃の意思なし」

 

 が、話に応じないばかりでなく、そうやって対話を試みた俺を隙が出来たとみなし、ミサイルを撃ち込んできたのだ。

 

「こいつ全然対話に応じる気がないわ!」

 

 未来の俺という事でもなさそうだ。だとしたらこいつは一体何者……? ちっ、考えている暇はないようだな。

 

 だが、これでこの一連の異変の原因はハッキリとわかった気がする。咲夜が時間を止めている間に悠々と飛行していた機影の正体はこの偽アールバイパーだし、今まで俺に成りすまして各地で悪事を行っていたのも……!

 

 ヤツが原因だ。奴が俺に成りすましてあちこちで暴れ回っていたんだ。本物のアールバイパーの、そしてそのパイロットであるこの俺の、更に俺が所属する勢力である命蓮寺の地位を貶めたのだ。

 

 なぜ? それは分からない。だが、今は分からなくてもいい。こいつをブチのめさなくてはいけないという事はハッキリしているのだから。

 

「ニセモノめ、ここでハチの巣にしてくれる!」

 

 武装をダブル系兵装、つまりハンターに換装すると、距離を取りながら青い球体を放っていく。これなら距離を取る限り少しずつとはいえダメージを与えられる。偽バイパーの後部中心に攻撃がヒットしていくが、まるで勢いが衰えない。恐らくハンター程度の火力では決定打にはなりえないのだろう。

 

 少しでもダメージを与えて動きを鈍らせる作戦だったが、やはりもっと高火力の武装を用いなくてはいけないのだろう。

 

 今もハンターで牽制しつつ偽バイパーの背後に回り込もうとするが、機動力や運動性はあちらの方に分があるのか、逆にこちらが背後を取られてしまった。そして煙を吐きながら進むミサイルを撃ち込んでくる。回避しようと俺は機体を激しくターンさせるが、あのミサイルはこちらを追尾するらしく、全然振り切れない。

 

「くっ、レイディアントソード!」

 

 回避できないのなら迎撃するしかない。俺は一か八か、青い剣でミサイルを斬り落とそうと試みた。

 

 ……どうにか直撃は避けたようだが、爆風にあおられてバランスを崩してしまう。

 

「ひゃ~! め、目が回るわ」

 

 キリキリと回転しながら高度を下げていく銀翼。中で悲鳴を上げてる雛。このままでは樹海に、地面に突っ込んでしまう。雛まで巻き込むわけにはいかない。俺は思い切り操縦桿を引っ張り上げる。どうにかバランスを取り直すと急上昇し、再びニセモノと対峙しようとするが……。

 

「そこに出てきちゃ駄目だ!」

 

 にとりの悲鳴にゾクリとした。灰色の球体のオーラを纏ったポッド4つが俺を取り囲むように配置されていたのだ。

 

「あのニセモノが放ったオプションだよ。何かスペルカードを使えっ!」

 

 そ、そんなこと言われても……。俺が無意識下に取り出していたのは「銀星『レイディアント・スターソード』」。くっ、今は使えないんだ。別のスペルを……。

 

 俺がカードを取り違える隙はあまりにも大きかった。四方からダダダとショットが乱射される。

 

 これだけの火力、それも複数の範囲。速過ぎるっ! かわしきれない、防ぎきれない。万策尽きたか……。

 

「ローリングではじくんだ!」

 

 なにっ、ローリングだって? 直後、脳みそを鷲掴みにされるような突き刺すような頭痛が俺を襲う。俺と銀翼とそして雛が一つに直結するヴィジョンが浮かび上がる。雛と言えばなんかよくくるくる回ってるイメージがあるし、何かこの状況を打破する技でも間借りしたのだろうか。

 

「ええい、ままよ!」

 

 俺はヤケクソ気味に機体を高速で錐もみ回転させた。すると、なんとアールバイパーを透明な縦長の八面体の形をしたクリスタル状のバリアが包み込むではないか。恐らく機体の回転に合わせて同じようにくるくる回っている。

 

「は、弾き飛ばした! うわぁっ、こっちにまで飛ばすなよーぅ」

 

 クリスタル型の回転バリアはこちらが錐もみ回転を止めると同時に消え失せてしまったが、今の乱反射で灰色のオプションは損傷したらしく、黒煙を上げて主である偽バイパーの元へ戻っていく。

 

「くそっ、逃がすかっ!」

 

 旗色が悪いと判断したのか、偽バイパーはオプションを格納すると全速力でこの場を離れて行ってしまった。追いかけるべくこちらも全速力で後を追うがなかなか距離が縮まらない。よし、もっと速度を上げて……。

 

「これ以上は危険だわ。貴方、追われている身なんでしょ?」

 

 くっ、忘れていたがあまり大胆な行動には出られない。スピード自慢のアールバイパーで撒かれるのは癪ではあるが、今俺が襲われたら雛にまで被害が及んでしまう。それは避けなくてはならない。

 

 くるりと機体をターンさせ、妖怪の山の樹海へと再び潜り込んだ。

 

 

 

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 ひとまずは雛の居住スペースである小屋ににとりと一緒に舞い戻り、今後の計画を立てることにした。ちゃぶ台を囲って会議を開くはずだったのだが……。

 

「でもまさかアズマが雛とも打ち解けられちゃうとはねぇ。普段の話し相手なんて私くらいしかいないし、家に上がったのも随分と久しぶりだ」

 

 完全にくつろいでる河童とお盆を手にお茶と茶菓子をちゃぶ台に置いていく雛。

 

「ワケあって今はあまり厄が溜まっていないからね。それよりにとちゃん、前に来た時に置いていった乾燥尻子玉、まだあるわよ」

 

 湯呑にわき目も振らず「乾燥尻子玉」に手を伸ばす河童の少女。

 

「気が利くじゃん♪ コレ本当に大好きなのさ。キュウリの次くらいに」

 

 湯呑に手を伸ばすとそこに「乾燥尻子玉」を入れて戻すと、モグモグとかぶりつくにとり。尻子玉ってのは河童達の好物であるお菓子のことであり決して臓器の類ではないらしいが、やっぱり手を出すのは気が引ける。

 

「あー、やっぱりそうなっちゃうよね。私もアレに手を出す気にはならないわ。普通の茶菓子も用意しているから安心なさいな」

 

 コトと置かれた小皿に色とりどりの煎餅が並んでいる。そのうちのひとつを手に取り食す。うむ、うまい。そうやって少女二人と野郎一人で優雅におやつタイムを……。

 

「って違うっ! これからのことを話し合うんだろう。落ち着いたんだしそろそろ始めようよ」

 

 幻想郷の住民ほとんどの敵になってしまったらしい俺、そんな俺に加担するのだから言うなればこの二人はレジスタンスなのである。お茶を飲むのはいいが、こんなに呑気にお茶をしている場合ではない。

 

「俺は地底に蠢くバイドという妖怪を退治してすべてを終えて地上へ戻ったら、命蓮寺はなくなっており、そのメンバーだったムラサ船長には物凄い殺意を抱かれていた。最初は俺がバイドとの戦いでバイド汚染してしまったと思ったが、後にそれは違うという事が判明した」

 

 俺の話す声の他にお茶をすする微かな音と煎餅をかみ砕くこもった音以外に聞こえぬ静寂の中、事態の確認をする。ああ、俺はバイド化していない。ジェイド・ロス提督が命を懸けて守ってくれたから……。

 

「そうね。今回の異変はノッペリとした変な鳥の妖怪の……」

「だから変な鳥の妖怪じゃなくて、超時空戦闘機『アールバイパー』!」

 

 俺とにとりが同時にツッコむ。同時だ、本当に寸分の差もなく。

 

「どうしてそんなに息ぴったりなのよ……。違うわ、私はあの乗り物によく似た変な鳥の妖怪って言おうとしたのよ」

「なんだ、偽アールバイパーのことか。しかしいちいち言いにくい名前だ」

「それにしても本当にそっくりだったね。だけれど似ているのは見た目だけ。内面はまるで深淵の底のように真黒で、とても暴力的だった。ここでは仮に『バイオレントバイパー』と呼ぶことにしよう」

 

 とにかくそのバイオレントバイパーとやらが本物のアールバイパーを貶めるためにあちこちで暴れまわっていたらしい。

 

「幻想郷を2度も救った英雄だったんだ。『文々。新聞』でもその豹変ぶりは記事になっている。そして今しがた霧の湖で捨てられた新聞なんだけれど……」

 

 驚愕した。そこに写っていたのは霧の湖でリフレックスリングを用いて咲夜さん捕えて水責めにしている銀翼の姿が記事になっていたのだ。

 

「酷い……。ただ乱暴するだけでなく、散々苦しみを与えようとこんな手を!」

「いや、これは俺が、本物のアールバイパーがやったものだ」

 

 非難されるかもしれないが、ここは正直に告げておくべきと判断した。

 

「咲夜さんにバイオレントバイパーだと思われて襲われてさ、返り討ちにしたんだ。その後紅魔館を襲った真犯人を吐かせようと焦った結果、俺は彼女に拷問じみたことをしてしまった」

 

 えっ、と口を指先で押さえながら顔を引きつらせる雛。にとりも苦い表情をしていた。そうだ、あの時の俺は随分と酷い事をしていた。サクサクと煎餅を食べる音が聞こえる中、俺は俯きながら続ける。

 

「レミリア達を襲った真犯人はバイオレントバイパーで間違いないだろう。咲夜さんには見分けがつかなかったから、答えることが出来なかった。追われている身だったし早く情報を得たかった俺はあんな酷い事を……」

 

 自らの銀翼と瓜二つの存在を知っていたらこんな手段には出なかったのにと俺は腕を振るわせながら拳を強く握る。

 

「まあ、してしまったことは仕方がない。全てが終わった後で詫びを入れに行くんだね。それよりも奴は、バイオレントバイパーは知ってしまった。本物が幻想郷に舞い戻ってきたことを。これがどういう意味かわかるかい?」

 

 まくし立てるにとりであったが、俺にはその意図がイマイチ読めないでいた。

 

「次のバイオレントバイパーの行動はズバリ、今までの悪行に加えて、打って変わって良い行いも行うはずだ」

 

 バンとちゃぶ台を叩き、にとりが力説する。

 

「えっ、どうして? どうしてなのにとちゃん?」

 

 いや、そういうことか。俺にも合点がいった。あいつ、どこまでも卑劣な……!

 

「本物のアールバイパーに成りすまそうって魂胆だ。俺達がバイオレントバイパーの存在を嗅ぎ回れば当然銀翼を2機同時に目撃されるなんてことも発生しうるだろう。先程戦って感じた、バイオレントバイパーはアールバイパーよりもスペックが軒並み高い。俺の行動を読んだらそれよりも早く、華麗にミッションを遂行するだろう」

 

 そこまで口にして雛もようやく理解した様子である。目を見開き驚きながら。

 

「じゃあバイオレントバイパーが打って変わって人助けを始めて、そのせいでアールバイパーが上手く立ち回れなかったら……。バイオレントバイパーが本物の銀翼だと世間が答えを下してしまうわ!」

「ああ。もしもそうなってしまったらアールバイパーはニセモノとして今までの悪行も擦り付けられいよいよ幻想郷そのものに抹殺される……!」

 

 動機は分からないが姑息なことをしてくれる。そしてにとりの推理を裏付けるように新聞の記事には続きがあった。ずぶ濡れになった咲夜を紅魔館に送り込むバイオレントバイパーの姿が……。

 

「なんということだ、既に始まってしまっている。奴は、バイオレントバイパーは本物が現れることまで予見して行動しているんだ!」

 

 そうは言っても何をすればいい……?

 

「アズマ、時間がない。それでも君を信じてくれている人は少なからずいる筈だ。だけど大々的に探すわけにはいかない。これ以上奴に本物っぽい行動をさせないためにもね。奴に感づかれないように目立たないようにコッソリ根回しをするんだ」

「なるほど、中身の姿を見せれば否応なしにどちらが本物かが分かるわけね」

 

 かくして俺達の真実を、栄光を取り戻す戦いが始まるのであった。幻想郷各地に味方を作り、銀翼を更に強化し、そしてバイオレントバイパーと同じく4つのオプションを使いこなすようにする。それらを全て目立たないようにやらなければならない。

 

「よーし、がんばろー!」

 

 非常に困難な計画だが、やらなくてはいけない。今から俺達はチームだ。銀翼の真実を幻想郷に知らしめるレジスタンスだ。結束を高めるべく俺達は円陣を組み始めるのであった。

 

 4本の腕が円陣の中心へ延びる……!

 

 

 

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(その頃幻想郷某所……)

 

 無数の鎖でがんじがらめになっているのは白黒の法衣に身を包み、紫色から金色にグラデーションする美しい髪を持った少女である。そしてその前にいるのは……。

 

「神子さん、こんなの間違っています。アールバイパーが、アズマさんがあんなことする筈……」

 

 哀願する尼僧の視線の先には3人の少女の姿。一人はヘッドホンのような大きな耳当てを当てた金髪の少女。その後ろに二人のお供を従えている。片方は小柄な銀髪の少女、もう片方は大柄な両脚が半分消えている少女。

 

「まだ言いますか。本当に貴女はお人好しなのですね。命蓮寺だって散々やられたのでしょう?」

 

 金髪の少女が凛とした声で反論する。それに対して白蓮の声は弱弱しい。

 

「ですが……きっと何か事情があったのです。だって、こんなことあり得ないですもの」

「ええいまだ言うか銀色の悪魔を囲った魔住職め! これが人間たちの下した答えであろうに。あの変な鳥の妖怪を野放しにした仏教勢には任せておけぬということじゃ。それでお主らは信仰の力を失い、人々は我ら道教に救いを求めるようになった」

 

 ジャラと鎖を引っ張りながら古めかしい言葉遣いでまくし立てる小柄な銀髪、亡霊の少女はふよふよ浮きながらその後ろで無言でその様子を目にしている。

 

「そう、そうして最初に聞こえた声が『銀色の悪魔を庇った魔住職を無力化せよ』というものだったわけです」

「そしてあの悪魔を仕留めた証と引き換えにお主を解放するとお主の弟子達には言ってある。今頃血眼になって探しておろう」

 

 ゆっくりと白蓮の体が地中へと消えていく。苦い表情を浮かべながら。自分の弟子達がよりにもよってライバルたる道教組の言いなりになってしまっているという事実を噛みしめて。

 

「気に病むことはありませんよ。あの悪魔を仕留めれば再び封印を解いてやれるし、仮に仕留められなくとも我々が責任を持って人々を導いていきましょう! 魔住職サマは少しそこで眠っててくださいな」

 

 そして完全に白蓮は封印されてしまった。仙人の3人組に。


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