東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ
いくばくの時を経て地上に帰還したアズマと「アールバイパー」。
しばし、たたずんだ後に命蓮寺に帰ろうとするも
ちゅうを舞うアンカーの不意打ちを食らう。ムラサに敵意を持たれていたのだ。
やんごとなき事態が起きているようで、アズマはほと
んどの住民から敵視される始末。バイド化こそしていなかったようだが、
うっそうとした妖怪の山の樹海に身を潜める羽目に。
ふるわせるは己の肩。絶望感と孤独感にさいなまされ一人涙する。
ふと見ると自らを受け入れる少女がいるではないか。


……そう、こんな状況でもアズマは一人ではないのだ。やるべきことは色々あれど、今はひとまずの安堵の時を緑髪の女神様の胸の中で過ごすのであった。


第3話 ~幸運の女神様~

「もう落ち着いたかな?」

 

 ……はっ、そうだった。こうやって孤独感を埋め合わせるのも大切だが、お互いに名乗っていない上に俺は見ず知らずの女性に突然抱きついていたことになる。そのことに気が付いた俺は慌てて緑髪の女神様から離れ直立した。

 

「んもぅ、大きい胸に引き寄せられ過ぎ! あんなにデレデレしちゃってブツブツ……」

 

 いやはや面目ない。むくれっ面を向けられた俺はそう言うと帽子ごしに頭を撫でてやった。さて、冷静さを取り戻すことが出来たようだが、いきなりの無礼をまずは詫びないと。俺は女神さまの方に向き直る。

 

「俺は轟アズマ。命蓮寺のアズマ……いや、今はフリーランスだな。気が動転していたとはいえ急に抱きついてしまいすまない」

 

 抱きついたことについては特に気にしていないようだ。彼女は「鍵山雛」という厄を集めて回るという厄神様なのだという(本当に女神様だった!)。彼女の周囲のモヤモヤは厄そのものであり、触れたものを不幸にさせる恐ろしいものだというが……。

 

「貴方、既に厄まみれだわ。一体何があったのアズマ? これ以上不幸になりようがないところまで不幸になっているんだもの」

 

 なるほど、ムラサや咲夜がこちらを見ようとすることも近づくこともなかったのは厄がまるで瘴気のように充満していたからなのだろう。俺だって知っていれば突っ込んだりしなかった筈だ。

 

 改めて周囲を見渡すと小屋の中にいるらしいことが分かる。他の人に厄が伝搬しないようにこんな辺鄙な場所で暮らしているのだろう。もう遅いからと食事までいただいてしまった。

 

「ええと雛……様?」

「呼び捨てでいいわ。そんな偉い神でもないし」

 

 神奈子さんにしろ彼女にしろ幻想郷の神様ってのはあまり偉そうにしないものらしいな。それが余計にカリスマに繋がるのだから世の中分からない。そうだ、俺はどうしても雛に聞いておかないといけないことがある。

 

「どうして俺を助けたんだ? いや、もちろん嬉しいのだけれど俺がもしバイド化していたらこの後雛を襲っていたかもしれないんだぞ」

 

 ふむと彼女は一点を見つめ考え込む。

 

「簡単よ。あの乗り物で私の領域に入り込んだ時のアズマの行動を見ればすぐに分かるわ。私に危害を加えるつもりなら途中で乗り物から降りることも、あんなに大泣きすることもあり得ないわ」

 

 た、確かにそうだな。雛の場所が分からないにしても周囲を破壊して回ればいいだけだし、仮にピンポイントで雛だけを狙う場合もアールバイパーから降りる必要性は全く感じられない。

 

「それでさっきの抱き付きの件と貴方にまとわりつくおびただしい量の厄。これで全て合点がいったわ。君は何か事情を抱えているって」

 

 そうしているうちに食事を済ませてしまうと彼女はさも当たり前のように布団を敷き始めた。

 

「泊まっていくのでしょう? 夜の樹海は危険だもの。それに私も君から厄を吸い出すの、まだ終わっていないし」

 

 ふむ、それは合理的だ。銀翼がなければ夜の幻想郷は非常に危険。今回はアールバイパーこそあれどパイロット、つまり俺の精神状態がとても戦闘できるような状態ではない。一晩かけて厄とやらを吸い出しきってもらうのはとても有益なことである。しかし……。

 

「なぜ布団が1人分しかない?」

「仕方ないじゃない。いつもは私一人だしこんなところにお客さんなんて滅多に来ないし」

 

 これはつまりつまるところ……この中に二人で入る、平たく言うと添い寝という事だ。

 

「それに……こうやってくっついた方が効率もいいのよ」

 

 女の子との添い寝、それも余儀なき添い寝にいい思い出がない。前は妖夢の半霊と寝たことがあったが、あの後で酷い目に遭った。あの時はまだいい、霊魂の姿をしていたから変に意識することもなかった。

 

 だが今度どうだ? 今回は正真正銘の女の子、それも女神様である。緊張しない方がおかしいのだが、雛はそんな俺の心情を知ってか知らずかさも当たり前のように同じ布団に入ってきたのだ。

 

「あれれ、アズマってば赤くなってる? かーわいいなー♪」

 

 そうやって耳元で囁いてからかってくる。ますます顔が熱くなる気がした。

 

「もう一度確認する、傍から見ると添い寝にしか見えないが俺から厄を払う治療なんだよな?」

「そうよ? こうやってぴとーってくっついて君の中でドロドロ渦巻く厄を体全体で受け止めるの。一晩もかければ完全に厄払いが出来るわ♪」

 

 そう言うと雛は俺の体にギュッと抱き付いてきた。柔らかな体が押し付けられ、俺はさらに緊張してしまう。そういえば彼女は白蓮さんとも結構共通点がある。服装がゴスロリ風で、献身的で、それでいてグラマラスな体型……。

 

「あらあら、そんなに硬くなっちゃって……。うーん、さっきの仕返しってことにしておくわ。それじゃあ本格的に始めていくね? まずは緊張でガチガチになった体をほぐしていかないとね」

 

 その後は雛に言われるがまま深呼吸を続けたり耳元でどこか心地よい呪文のような、何を言っているのかはよく分からなかったが心安らぐ声を聴かされたりした。見よう見まねで呪文を復誦させられたり、雛の手をぎゅっと握ったり……。

 

 一種の催眠術のようなものだったのだろうか? とにかく一連の準備で俺の心は癒され、すっかり肩の力が抜けた。

 

 横目で雛の姿を見てみると驚くほど真剣な表情をしているのが見えた。あんなにからかっていたけれど、俺を何とか救いたいという気持ちは本物なのだなということが分かる。

 

「さあ、いい子だから目を閉じて。私に身を預けて、そして私の声でおやすみなさい……」

 

 不思議な呪文が脳内に響く中、全身を優しく、そしてくまなく撫で回されるような感覚を覚えつつ、俺はそのまま深い深い、だけれどとても暖かな闇の中へと落ちていった……。

 

 

 

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 そしてあくる日……。

 

「おはよう。もう起きて、朝だよ」

 

 窓から漏れ出る光を、そして目覚めるように促す少女の声を受けて俺は目を覚ます。余程寝相が悪かったのか、服が少し乱れていた。起き上がり服装を直していると俺の傍に居た筈の雛はいなくなっていることに気が付く。

 

 それにしても変な夢を見た。雛の声が響く中、何やらヌメヌメしたものに全身をまさぐられるような……。おそらくアレで俺の体にまとわりついた厄とやらを拭っていったのだろう。確かにくすぐったかった気もするがスーっと悪いものが出ていった感覚を覚えた。

 

 さすがは神様と言ったところか、ご利益は本物なのだろう。俺の体は確かに軽くなったような気がする。

 

 それにしても彼女は何処へ行ったのだろう? そう疑問に思っていると扉が開いた。雛はどうやら俺よりも早く起きてどこかへ出かけていたようだ。

 

「おはようアズマ、貴方があまりにも多くの厄を溜めこんでいたので一度処分してきたわ」

 

 彼女が日々そうやって集めてきたた厄はある程度溜まると他の神様に渡すらしい。処理するのはそちらの神様の役目なのだろう。

 

 とにかく、日も昇ったしいつまでもここで厄介になるわけにもいかない。俺はここを飛び立つ準備を始めた。

 

「匿うだけでなく厄まで落としてくれて感謝してもしきれない。世話になったな」

 

 小屋を出て銀翼を乗り捨てた場所へ向かおうとする俺を雛は呼び止めた。

 

「行ってしまうのね? じゃあ最後に私の話を聞いて頂戴。実はね、君が今の異変の犯人ではないって証拠はないの。私の推理で違うんじゃないかとは思ったけれど、それが間違っている可能性も否定できないわ」

 

 直立したままの姿勢でふわりふわりと、そしてくるりくるりとゆっくり回転しながら浮遊している。

 

「でも『因果応報』といって善い行いも悪い行いもいずれ自分に返ってくるのよ。くるりくるりと回り巡ってね。アズマが本当に幻想郷各地で暴れ回っていないのなら、貴方に悪いことは起きないわ」

 

 最後に俺の手を取るとニコリとほほ笑んだ。

 

「だからもっと胸を張りなさい。自分を信じなさい。貴方は2度も幻想郷の危機を救ったヒーローよ? 私の他にもきっと味方はいるわ。しばらく厄が溜まり過ぎないようにするから困ったことがあったらいつでも戻ってきなさいな」

 

 俺はようやくカリソメの居場所を手に入れた。そして心強い味方も。しばらくはここを拠点に今回の異変を調査することになるだろう。白蓮、貴女がどこにいようとこの俺が、轟アズマが絶対に迎えに行きます……!

 

「その、厄を吸う時の貴方、寝顔とか寝言とか色々な反応とか可愛かったし……」

 

 ちょっと待て、俺は厄払いの儀式の時にいったい何をされて……。それを問い詰めようとした矢先、上空で激しい爆発音が響いた。反射的に俺は雛の肩を押し、伏せる等に促した。

 

「まさかここにも俺を狙う刺客がっ!?」

 

 空中で響く爆発音の後、茂みの向こう側から飛び出したのはリュックサックからプロペラを出して慌てふためいている河城にとりであった。

 

「げげっ、アズマ! どうしてここに……?」

 

 この河童の少女までもが俺の姿を見てあんなリアクションを取っている。それは悲しいが、そうは言っていられない。にとりの頭に向けられたキラリと光るもの。あれは銃口とかそういう類のものだ。

 

「いいから高度を下げろ! 狙われているぞ!」

 

 驚く河童に怒鳴りつける俺。その怒声の直後、にとりのいた空間で再び爆発が起きた。

 

「に、逃げるぞ! 何者か知らないがアールバイパーで応戦しよう」

 

 俺は雛の手を引いて銀翼に向かって走り出す。対するにとりは俺とにとり自らが突っ込んできた穴を交互に見比べている。相当パニックに陥っているようだ。

 

「そんな、あり得ない。あんなに悪魔のような所業を積み重ねた……」

「にとり、説明は後だ! 今は逃げるぞ。このままじゃ3人まとめて撃ち殺される!」

 

 周囲の霧だか厄だかで視界の悪い中、逃げ惑う3人めがけて何かが撃ち込まれていく。視界が悪いせいで攻撃の精度も甘いようだが、こちらも相手の姿が見えない。地面に着弾するたびに小さく爆発するので近寄るのは危険だ。

 

「えっ、えぇっ!? でも君は間違いなくアズマだよねぇ? だけどそんな筈……」

「盟友の顔も忘れたか? 俺は紛れもない正真正銘の轟アズマだ。能力は銀翼を操る程度の能力っ!」

 

 寝ボケている河童は無視して、俺は雛を後部座席に座らせるとキャノピーを閉じてアールバイパーを発進させた。

 

「せ、狭い……」

「悪いな、居住性はあまり良くないんだ。とりあえず襲ってくるクソ野郎を撃退したら降ろしてやる」

 

 そのまま俺は急上昇し、樹海から抜け出る……が、誰もいない。遅れてにとりもふよふよホバリングしつつ俺に追いついてきた。こういう時は魔力レーダーを見て……見つけた、後ろだ!

 

 俺は反撃を仕掛けるべく機体を大きくターンさせ敵と対峙した。その敵の姿はにとりの混乱っぷりが納得できるほどの姿をしていた。

 

「な、なんだと!? ありえない……何かの間違いではないのかっ!?」

 

 いや、正確にはお互いに直進していたので一瞬だけすれ違った程度。だが、それでも俺が驚愕するには十分な、そしてにとりが困惑する理由もしっかりつく、そんな姿をしていたのだ。




何やら不自然な描写がチョイチョイ挟まってる?
うーん、どういうことですかねぇ?

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