一体命蓮寺に何が起きてしまったのか……?
波乱を呼ぶ第5部スタート!
V.G.プロローグ ~帰還? 見覚えのある小集落~
魔法の森を抜けて、人里の上空を飛行する。ああ、活気に満ちている。これぞ生きているということだ。
さあ、これを抜ければ命蓮寺はすぐそこだ。
そうしていると俺は水兵の服に身を包んだ少女を発見した。ムラサ、ムラサじゃないか。聖輦船もあの後無事に地底から脱出できたことが分かる。こんな場所までどうしたのだろう? もしかして、俺を出迎えてくれるのではないかな?
「おーいムラサー! 戻ってきたぞー!」
コクピットの中からブンブンと大きく手を振って呼びかける。彼女はすぐにその声に気がつくとこちらに近寄って来た。
「いやね、最後はちょっとヤバいなって思ったけれど、この通りピンピンして戻って……」
直後、アールバイパーの機体がグワングワンと大きく揺れた。何事かと思ったら、なんとムラサが巨大なアンカーで銀翼を薙ぎ払っていたのだ。
「えっ、なんで……?」
「どの面下げて戻ってきた轟アズマっ!」
明らかな敵意を向けられていた。しかし身に覚えはない。何かムラサを怒らせるようなこと、しただろうか?
「何か気に障ることでもしたかい? それなら謝るけど……」
答える声はなかった。鎖で繋がれたアンカーが一直線にアールバイパーに突き出される。俺は咄嗟に機体をひねって回避したが、今も俺は混乱したままである。
「今更そんなことされて許す奴がどこにいるっ! アンタのせいでね、聖は、聖は……」
白蓮に何があった!? 反射的に俺はそう口にしていた。
「うるさい黙れ! 仏門に入って久しくてこんな事あんまり言いたくないんだけどさ……。でもいいよね、アンタも一線越えちまったんだし。ぶっ殺してやるっ!!」
親指で首をかき切るジェスチャーを見せ憎悪の表情のまま柄杓から弾幕をばら撒いていた。
あの日ほど、私は自らの行動を後悔したことはありませんでした。
黄昏時も夏が終わればすぐに過ぎ行き、夜の帳が降りるもの。でもここ命蓮寺は今も赤々とした光に包まれていました。
燃えている……。そう、寺を燃やす大きな炎がこの夕闇を、そして私の姿を不気味なまでに明々と照らしていたのです。
倒れているのは一輪と星ちゃん……。雲山が怪我の応急処置をしていますが、彼が居なかったら二人とも無事ではなかったでしょう。
ムラサは一人で柄杓を手に燃える命蓮寺へ突っ込み消火活動を行っている。そんな中私はただ立ち尽くす事しかできなかったのです。
何が起きたのか分かることは出来てもまるで理解出来なかった。それだけショックなことが起きてしまったのです。
あの日は幸せな一日に、安堵できる光あふれる日常が再び幕を開ける筈でした。地底のバイドを滅ぼし、地下と幻想郷をバイドの魔の手から救い出してそして地上に帰る筈でした。
そう、実際にはそうはならなかったのです。
「アズマさん……」
地底のバイドが最期の力を振り絞り、銀翼を異次元へ引きずり込んでいったのです。
だからもう会えないと思った。でも、帰ってきたのです。夕陽が照らされる中、少女のものとはまるで違うシルエットが命蓮寺の前に浮かび上がったのです。私は幸せの絶頂を迎える筈でした。
しかし……私達は希望から絶望へ叩き落とされてしまったのです。
「アズマさん……。どうしてこんなことを……」
それが今日の夕方の出来事。そして今に至るのです。私の目の前で起きた惨劇、何が起きているのか分かりこそしたものの、理解することが出来ませんでした。
ジェイドさんは、瞳孔の向こう側はバイドが蠢く異層次元だと口にしていました。私の必死の呼びかけにも答えずに動きを止めない。もしや既にバイドに……?
あの日ほど、私は自らの行動を後悔したことはありませんでした。あの時、もっと強くアズマさんを引っ張っていたら一緒に幻想郷に帰れたのではないか……と。
この衝撃の展開に「ああやっぱり」と納得出来た方は果たして何人いたでしょうか?
驚いた、絶望に打ちひしがれた、鬱展開過ぎる、ムラサ船長はこんな汚い言葉を口にしないよ……などの感想を抱くことが予想されます。
そう、アールバイパーが漆黒の瞳孔に取り込まれてから明らかに様子がおかしいのです。
一体何が起きたのか? まさかアールバイパーは既にバイド化してしまったのか? そもそも時系列がよくわからない? それも続きを見れば明らかになります。
ここから東方銀翼伝シリーズは急展開を迎えるのです。
四字熟語に「起承転結」というものがありますが、幻想入りと幻想郷での居場所を勝ち取るまでのep1「F.I.」が「起」にあたり、幻想入りした中での日常やSTG世界の住民とのコンタクトを描写したep2「S.S.」が「承」にあたるのです。
そしていつものようにSTG世界の侵略者との戦いを繰り広げるep3「T.F.V.」とep4「A.X.E.」はやはり「承」なのですが、「A.X.E.」の終盤でその「いつも通り」から転じて物語は新たな局面を迎える……つまりここで「転」となるようにしてあるのです。
ここから物語の核心へどのように迫っていくのか、それはまだ明かせませんが、とにかくここからクライマックスに向かってさらに加速していくことになります。
今作のタイトルは「東方銀翼伝 ep5 V.G.(G.G.G.G.G.)」。Gで始まる単語が5つ並びます。
相変わらず重苦しい展開が続きますが、今回は「取り戻す」話。最後までお付き合いいただければ幸いです。