東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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 バイド化したであろう霊烏路空を追い詰めたアズマ。

 トドメの一撃を放てるのはアールバイパーの他にいない!

 ここで引き金を引かなかった場合のシナリオとなります。


※本エピソードが正史となります。


第15話B ~SOLAR ASSAULT~

 俺はお空が完全に息を吹き返す前に、トリガーを引いてトドメを刺すことにした。

 

 だが、リリーホワイトの一件が脳裏に浮かぶ。俺の手で鮮血が飛び散ったあの光景が……。駄目だ、やっぱり俺には出来ない!

 

「何をしているんだ! 早く撃てっ! じきにバイドが目を覚ます。そうなっては今度こそおしまいなんだぞ!」

 

 分かっている、分かっているさ。でも、指が動かないんだよぉ……。

 

「最後の一撃を放てば一瞬。何もかも終わるのよ。あたいにこんな辛いを思い長くさせないでおくれ」

 

 苦しいのはお燐だけじゃないんだ。俺だって……。

 

「……」

 

 白蓮は両手を組んで何かに祈っている。見るとお空のボロボロだった制御棒がいつの間にか新品同様にピカピカしていた。

 

「ボディの再生が始まっている。もう時間がない! 撃てっ!」

 

 そうだ。提督の言う通り、ここで躊躇っては今までの苦労が水の泡だ。それは分かっているんだ。

 

 

 俺は、俺は……

 

 

 やっぱり無理だ、俺だけにこんな……残酷すぎる!

 

「まずい、動き始めたぞ。これが最後のチャンスになる。殺せっ! 殺せぇー!」

「お空があたいの親友だからって躊躇してるのかい? んなことで恨まないわ! むしろお空を心無い兵器のままにしているほうが苦しいもの!」

 

 そうだったな。恐らく次に戸惑ったら本格的にお空が目を覚ますだろう。そうしたらオシマイだ。

 

 俺はトリガーにかけた指に力を入れ始める。

 

「撃てっ……!」

「終わらせるんだ……!」

 

 そうだ、あと少し……。俺がもう少し勇気を振り絞れば……! 提督の、お燐の、白蓮の声が、俺の心の声と合わさる。

 

 撃てっ……!

 

 撃てっ……!

 

 

 撃てっ……!

 

 

 

 撃てっ……!

 

 

 

 

 撃てっ……!

 

 

 

 

「撃たないでっ!」

 

 

 

 皆に促されるようにトリガーを引こうとした俺は、突如響いた甲高い悲鳴のような声で集中が途切れた。いや、我に返ったと言うべきだろうか?

 

「だめっ! お空を、お空を殺さないでっ!」

 

 なんと声の主はお燐やお空の飼い主であるさとりのものであった。あれはパニックを起こして泣き叫んでいるのか、お空のもとに近づこうと浮遊して近寄ろうとする。そんな彼女を止めたのは白蓮であった。

 

「さとりさん、あの子はもうさとりさんの知るお空じゃないんです。あれはもう生体兵器『バイド』なんです。幻想郷の為にも、そして何よりお空の為にも、もうこの世に留めておいてはいけないのです」

 

 ガッチリと胴体を掴まれるも両手をジタバタさせて抜け出そうとするも、身体強化を施した白蓮から逃れられる筈もなかった。今も喚き散らすさとりに今度はお燐が近寄り、そしてその頬を思い切り平手で叩いた。

 

「さとり様! あたいも怒りますよ。ちゃんと見てください。お空はもうバイドに成り果ててしまったのです。アレを元に戻す手段なんてないから、どうにかするにはあの肉体を破壊する以外にない。あたいだって、辛いんですよぉ……ぐすぐす」

 

 余計な邪魔が入ってますます俺の決意が揺らいでしまう。だが、お空が完全に目を覚ましてしまった。まだ戦う程に肉体は回復していないとはいえ潰しておかないと大惨事になるっ!

 

「違うわっ。私はちゃんとお空を見たいのに()()()()()()()()()。だから()()貴方達を止めたの!」

 

 なんだと? どういうことだ? 再び力の入り始めた指が緩む。

 

「まったく、愛しのペットの命がかかっているからって、私の腕をすり抜けるなんてさ。もしや火事場の馬鹿力ってやつかねぇ?」

 

 誰だ、さとり以外にも誰かいるっ!

 

 炎に照らされながらこちらに近寄るのは2つの影。1つは特徴的過ぎる戦闘騎のシルエット、あれは早苗だ。そしてもう1つはやっぱり特徴的過ぎるしめ縄に御柱、そっちは神奈子で間違いないだろう。

 

「早苗っ、それに神奈子さんまで!」

 

 今も白蓮の腕に掴まれてもがいているさとりを今度は神奈子がヒョイと持ち上げる。

 

「それで、地霊殿の主さんよぉ、お前さんが覗いてみてさ、どうだったんだい?」

 

 なんだ、なんで神奈子さんとさとりが親しげなんだ?

 

「いいえ、あれはお空じゃなかったわ。私に見えたのはお空の心じゃなかった」

 

 何だと? お空の心を「第三の目」で見た筈なのに、見えたのはお空の心じゃないだって!? それはいったいどういうことなんだ? 訝しむ俺の顔を何だか楽しそうに覗き込むのは神奈子さん。

 

「なんだ、もう忘れちまったのかい? 私はあのサトリ妖怪の反応でピーンと来たんだけどね」

「ああなるほど、バイド化しても本人はそのことに気が付けない。それがバイド化した人類最大の特徴でしたね」

 

 なんだ、早苗も分かったようだな。バイド化の特徴……? はっ、そうか。やっと俺にもわかったぞ! なぜ神奈子さんがサトリ妖怪とこの場にやって来たのかを。神奈子さんは自らの仮説を裏付けるために心を読む能力を持つさとりが必要だったんだ。

 

「その顔、お前さんもピンと来たね? そう、バイドを地上から、宇宙から呼び寄せていたのは霊烏路空、その本体ではなくて胸の『八咫烏』のほう! つまりそのサトリ妖怪が読んでいたのは八咫烏の心であり、霊烏路空の心は表に出ていない。つまりお空はバイド化した八咫烏に操られている状態っってことよ!」

 

 なるほど、そうなるとさとりが必死になって止めるのも分かる。お空本人はこれっぽっちもバイド汚染していなかったのだ。もっともそれも時間の問題でありバイド体がお空を浸食しなければの話ではあるが。

 

「神奈子様も前にしめ縄だけがバイド化するという事件に遭っていましたね。今回もそうではないかと睨んでいたのです」

「八咫烏の力は私が与えたものだからね。地上が地震やらマグマやらで大騒ぎしていた時にもしやと思ったのさ」

 

 ならば標的を変更しよう。破壊するべきは霊烏路空本人ではなく、胸の八咫烏!

 

「私の『フリーレンジ』でピンポイントに八咫烏を焼き切りましょう。そーっと近づいて……」

 

 ジリジリとフリーレンジの射程範囲内に近寄る早苗。しかし、お空がカッと両目を見開く。それは琥珀色をしていた。

 

「ひっ!」

 

 お空は今のゴタゴタの間に完全に息を吹き返していたのだ。

 

 制御棒で戦闘騎を思い切り殴ると、早苗はバランスを崩して墜落していく。一方のお空はふわりと俺達よりも高い場所で滞空をすると雄たけびを上げ始めた。両手両足を思い切り広げて。

 

「こ、この黒い粒子は!」

「ひ、引っ張られる! あいつ、またバイド体を八咫烏とやらに溜め込んでいるんだ。何を仕掛けてくる……?」

 

 再び引き寄せられる提督の体を白蓮と神奈子が引き留める。そしてバイド体を限界まで溜め込んだお空は、背中の黒い翼を大きく展開し、急上昇を始めたのだ。地底に充満していたバイド体は完全に消え失せた。

 

「まずい、あの縦穴の先は地上に繋がっている! 地上に出る前に八咫烏をとっ捕まえないと地上も地下も核とバイドの炎に包まれるぞ!!」

 

 あの速度に追いつけるほどの機動力を持ち、なおかつ今動けるのは……俺だけか。

 

「お願い、お空を……お空を止めて!」

「ごめんなさい、さっきの攻撃で戦闘騎の調子が……」

「……分かった。バイド化した八咫烏だけを破壊して、お空を助けて見せる!」

 

 銀翼が暴走する地獄鴉を追いかける。

 

 幻想郷の明日の為、地霊殿の平穏の為。そして、バイドと最後の決着をつける為……!

 

 みるみる間にお空は上昇していきその姿が見えなくなってくる。

 

「今のお空……いえ、八咫烏は強大なエネルギーを放ってきます。アズマさん、幸運を!」

 

 前方を見据える俺。追ってくる影があると認識したお空は慌てて改めて逃走を図る。やるしかない。あの速度についていけるのは俺だけだ。いくぞ……八咫烏!

 

 逃げながらお空は制御棒を壁面に突き立てる。すると周囲のマグマが活性化されたのか、壁からいくつもの火柱が立ち昇ってきたのだ。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に俺は反対側に回避を試みる。重力の影響で冷えきってないマグマがある程度こちらにも降り注いでくる。それをレイディアントソードで切り裂きながらどうにか間合いを詰めようと試みる。

 

 火柱が直撃しないと見るや否や、今度は反対側の壁に制御棒を突き立てる。

 

「今度こそ……地熱『核ブレイズゲイザー』!」

 

 同じ手は喰らわぬと今度は反対側に回避するのだが、今度は両手を広げて唸り声をあげると、左右の壁から火柱を呼び寄せたのだ。時間が掛かってるとはいえ、このままでは押しつぶされてしまう。

 

「だが、相手が悪かったな。アールバイパーの機動力の舐めるなっ!」

 

 フルスロットル。銀翼の最大速度をもってして火柱が行く手を阻む前にお空に急接近した。

 

「そのまま逆回転リフレックスリングを喰らえ!」

 

 ギューンと先の割れた機首から回転するリングを撃ち出す。リングはお空を捉えると、引き寄せようとする。だが、お空のパワーは凄まじく逆にこちらが引っ張られる状態となった。

 

「よーし、捕まえたぞ。このまま八咫烏を撃ち抜いてやる!」

 

 当然お空も無抵抗というわけでなく、必死に左右に身を振ってこちらを振り落とそうとしたり壁に叩きつけようとしたりする。くそっ、これでは狙いを定めるどころではないな。お空本人は傷つけたくなかったが、多少は大人しくさせた方が得策だろう。

 

「やったな! 今度は貴様を叩きつけてやる!」

 

 もつれ合うようにお互いを壁に叩きつけようとする。ある時はお空を叩きつけ、そのまま引きずったり、ある時は逆に銀翼が引きずられ、火花を散らしたり。

 

 だが、俺にとってはこれはただの時間稼ぎ。実はオプションを3つ展開させ、オーバーウェポンを発動。そう、お空に悟られないように魔力をアールバイパーに集束させていたのだ。

 

 いよいよ充填されてきたのか、バチバチとコクピット内に魔力が充填され、スパークが走る。アールバイパーの周囲を回転していたオプションがわずかにその速度を上げた。

 

「いくぜっ……」

 

 そして前方に突き出したレイディアントソードに過剰に充填された魔力を流し込んでいく。

 

「重銀符……」

 

 青い刃がその輝きを増していく。魔力の電撃がバチバチと走り、この行き場のない魔力が一気に解放されるその時を今か今かと待っている……。

 

 あと少し、あと少し魔力を流して……今っ!

 

「『サンダーソード』!」

 

 そして解放。スパークを放ちながら魔力を纏い巨大化したレイディアントソードが突き出される。

 

 コレが八咫烏に当たればひとたまりもない筈。だが、時間を稼いでいたのはお空も同じだった。

 

「焔星『フィクストスター』!」

 

 御空は制御棒を掲げると恒星弾をいくつも纏わせて自らを中心に回転させた。まるで「この霊烏路空が太陽系の中心である」と誇示しているかのように。

 

 恒星弾に横殴りにされた俺はその狙いが大きくずれてしまう。怯んでいる間にお空はまたしても距離を取っていく。オーバーウェポンを使った都合で速度も落ちており魔力もかなりを無駄にしてしまった。ち、ちくしょう……!

 

 お空がみるみる小さくなっていく。このままでは幻想郷が核の炎に包まれて……!

 

 絶望するしかないのかと頭を抱えていると背後からヒューンと何かが飛んでくる音。振り向くと巨大な六角形の柱が凄まじい勢いでアールバイパーに突っ込んでいたのだ。

 

「ななな、なんだ!?」

 

 もしかしなくても神奈子さんの御柱だ。そしてよく見るとそこに白蓮さんも乗っている。

 

「私がアズマさんを受け止めますっ! ちゃんと受け止めますから私を信じて!」

 

 なるほど、勢いのなくなった銀翼を御柱の力で押し上げるつもりだな? よし、その作戦、乗った! 俺は受け止めやすい体勢を取る。程なくして全身に強烈な衝撃。白蓮が受け止めたのだ。そして遅れてやって来る。前方からのGの衝撃。急加速出来ていることが分かる。

 

「だが、お空には追い付きそうもないな。このままでは……」

「アズマさん、忘れてしまったのですか? 私には身体強化の魔法があるということを」

 

 何かしらの呪文を詠唱すると、勢いの衰えた御柱から白蓮が大きく跳躍する。蹴った足元に魔法人のようなものが見えた気がした。ともあれ、白蓮の尽力により銀翼は三度加速。なんだか多段ロケットのようである。

 

 逃げようとするお空を再び目視できるようになったが、それでもまだ有効打を与えるには距離が足りない。

 

「さて、私の次の役目ですね。アールバイパーを思いきり放り投げます。衝撃に備えて!」

 

 確か永遠亭の異変の時はバクテリアン戦艦を持ち上げたとかなんとか言ってし、アールバイパーで同じことが出来るのは何となく察していたが、それでも当事者となると驚きを隠せない。

 

「えっ待って、まだ心の準備が……」

「いざ南無三っ、えーいっ!!」

 

 うわああああ!? やり方がムチャクチャすぎる! だが、確かにこのロケット作戦は有効だったようで、再びお空を射程範囲内に捉えることが出来た。出来たが、少々勢いが強すぎてぶつかりそうである。

 

「ええいっ、ままよ! レイディアントソード!」

 

 こうなったらすれ違いざまに八咫烏を斬りつけるしかない。青い刃を振りかざし狙いをつける……が、外れる。代わりに黒い翼を斬りつけたらしく、黒い羽根が飛び散っている。痛覚はあるようで、苦悶の表情を浮かべながらのけぞっていた。

 

 よし、のけ反って八咫烏が無防備になったところをもう一度。次が最後のチャンスだ……!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!」

 

 バーニアをふかし、再度急接近する。青い刃を携えて。

 

「レイディアント……」

 

 息をゆっくりと口から吐き集中する。……そこだっ!

 

 真に狙うべき標的を一点に見つめ、その剣を振るう。赤い目玉もこちらを恐ろしげな眼付きで睨みつけていた。

 

「……ソード!」

 

 銀翼の放った斬撃が胸の八咫烏に突き刺さる。ガラスの球のようにピシと亀裂が走る。

 

「ギイエアアアアア!!」

 

 剣先が八咫烏だけに突き刺さり、そしてお空の身体から剥がれ落ちていく。

 

 エネルギーの源を失ったお空は、意識を失いそのまま自然落下していった。そんな彼女の体を受け止めたのは……。

 

「おくうっ、おくうっ! ……よかった、お空はちゃんとお空だったわ。ごめんね、ずっと一人でバイドと戦っていたのね。見えるわ、抗ったお空の心が。もっと早く気づいてあげたかった……」

 

 すぐさま駆けつけたさとりと少し遅れて抱き締めたお燐。そしてそのしばらく後に上昇してきたのは山の神様。抱き合うペット達と飼い主から少し離れフムと腕を組んでいる。

 

「この地獄鴉はバイド化を免れたらしい。凄い精神力だ、バイドの干渉を退けてきたようだ。これもひとえに飼い主を想う気持ちの賜物ってところだろう。さあ、この子は地霊殿の皆に任せよう。それよりも……」

 

 彼女は来た道に目をやる。そうだ、八咫烏。真っ二つにして突き落とした程度ではバイドは破壊し尽せないのは嫌というほど学んでいる。見失う前に徹底的に粉々にしなくては!

 

 来た道をまっ逆さまに落ちていく傷ついた紅蓮の瞳。あとはあの切り離した八咫烏にトドメを刺すだけだ!

 

 俺はグルンと機体を宙返りさせ、今度は急降下した。うおお、強烈なGがかかる。

 

 引っ張られそうになる感覚と重力に引っ張られる感覚が俺の体に襲い掛かる。しっかりと握った操縦桿を手放さないよう、両目を見開き標的を追う。

 

 お空とさとりが抱き合っている場所を抜け、再び深淵へひた進む……。その間にニードルクラッカーを放ち、これでもかと追撃をかます。よし、そろそろトドメを刺すぞ。俺はミサイルを発射する。

 

 光の粒子を纏い、フォトントーピードが一直線に落ち、そして八咫烏に命中。大爆発を起こした。やったぞ!

 

 気付くと白蓮や提督の待つ地底の太陽のある場所まで到達していた。

 

「バイド化した八咫烏を完全に破壊した。さあ、この道は地上に通じている。白蓮、提督、早苗と神奈子さんも……帰ろう地上へ、幻想郷へ!」

 

 いくらバイドといえ不死身の存在ではない。確かに俺はバイド異変の首謀者にトドメを自ら刺すのを目にしていた。

 

 そう、あそこまで粉々に砕け散ってしまえば復活などあり得ないのだ。だから異変は解決したと確信できる。

 

「なあ、その縦穴ってのはどこにあるのだい?」

 

 おずおずと提督が訪ねてくる。さっきまでお空を追いかけていた縦穴はコンバイラタイプの巨大バイドでも問題なく通過できる広さであったはず。分からない筈がないが、いいだろう。俺が案内して……あれ? そんな馬鹿な! 縦穴が消えているっ!

 

 そう、さっきまで俺が居た筈の縦穴が消えているのだ。塞がっているとかではない、きれいさっぱり無くなっているのだ。

 

「そんなっ、どうして……?」

 

 冷静になろう、今置かれている状況をよく観察するんだ。この状況を打破するヒントが隠れているかもしれない。

 

 周囲は相変わらず旧灼熱地獄の炎で熱されているのか、琥珀色に……いや待て、こんな色の炎じゃなかったぞ! というか炎なんて何処にも揺らめいていないではないか。あえて言うならあの地底の太陽がメラメラと燃え滾っているくらい……。

 

「この光景……まさか!」

「あの、これってやっぱり……」

 

 まずは提督が、次に早苗が何かしら察しがついたようだ。

 

 炎もなく、空間の中心には大きな太陽。その周囲では太陽系を彷彿させる物体がぐるぐる回っており、まるで琥珀色をした宇宙空間だ。そのことに気が付いた俺は愕然とした。そんな……。まだ奴は、バイドは生きているっ!

 

「ってことは、あの太陽は……」

 

 こちらをただただ覗き込むのは琥珀色の中から覗き込む邪悪な瞳孔。驚きの息を漏らすのはジェイド・ロス提督。

 

「あれは『琥珀色の瞳孔』……。みんな、最後まで油断するんじゃないぞ! 最後の最後まで……決してだ。決して気を抜くな!」

 

 本当にヤバい相手だ。提督はもちろん、早苗も俺も震えが止まらない。白蓮や神奈子さんもただならぬ気配を感じ取ったのか、表情を険しくし戦闘に備えている。

 

 今度こそ本当の、本当のラストダンスだ!


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