トドメの一撃を放てるのはアールバイパーの他にいない!
ここで引き金を引いた場合のシナリオとなります。
※こちらは正史ではないエンディングになります。
俺はお空が完全に息を吹き返す前に、トリガーを引いてトドメを刺すことにした。
放ったのはフォトントーピード2発。お空の眉間から頭を貫通し、その体内で爆発を起こした。
もう1発は胸を狙った。あの禍々しい目玉を貫通し、やはり体内で大爆発。
あれではいくらバイドでも生きる事は出来まい。思わず振り向くお燐。だが、隣にいた白蓮は咄嗟に彼女の両目をその両手で覆って視界を塞いだ。
「見ては駄目! 見ては、いけませんっ……!」
その瞬間はとてもゆっくりに感じた。急所を撃ち抜かれもやは肉片と成り果てたお空は燃え滾る炎の海へと落ちていく。そしてその残った肉体に引火、瞬く間に肉体をバイドごと焼き尽くし、そして見えなくなった。周囲のバイド体も埃が散るかのように消え失せて視界がクリアになる。
「うっ、うぅ……うわぁーん! おくうーー!」
堰を切ったかのように大声で泣きわめくお燐。無理もない。親友の最期を看取ることすら許されず、死んでいったのだ。
俺だって、辛いよ……。誰もがお空の落ちていった炎の海を一点に見詰め、涙を浮かべた。ただ一人、ジェイド提督を除き。
「弔うのは地上に帰ってからにするんだ。奴の溜めた莫大なエネルギーが主を失い炎の海に落ちた。これが何を意味するか分かるか?」
その直後、地底を大きく揺るがした。これは地震だ。それだけではない。灼熱地獄のマグマがまるで意志を持ったかのように盛り上がり、こちらに迫って来たのだ。
「エネルギーが暴走する。マグマがこっちに来るぞ! 脱出しないと」
「だだだ、脱出と言いましてもいったい何処から……」
慌てふためく二人の前に涙で目をはらしたお燐がビシと直立する。
「こっちよ! あたいについてきて!」
ニャーンと大きく咆哮をあげると、ゾンビフェアリーにたいまつを持たせて俺達を誘導する。全速力で飛び抜けたいところではあるが、提督が俺達のスピードについていけない。彼のペースに合わせて脱出することにした。
お燐は細道に入り、複雑に分岐する中、正確に導いている。が、迫ってくるマグマも速度を上げてこちらを飲み込まんとしている。あまり猶予はないな。
それに加えて、地底を揺るがす大地震も悩みの種であった。
「落石で道が……! いざ……南無三っ!」
身体強化しての鉄拳で岩をどける。俺もレイディアントソードで援護する。よし、突破! それでも次々と瓦礫が降ってくる。モタモタしてられない。
すぐ後ろまで溶岩が迫る中、俺達は地上目指して飛行する。
「ここを抜ければ間欠泉地下センターの縦穴に繋がっているわ。ひぇっ!? ま、また地震!」
あと少しというところで再び落盤。先程の岩よりも頑丈であり、白蓮の拳もなかなか通らない。
「まずい、時間がない。このままでは俺達はマグマで全滅だ!」
「そうは言っても随分としっかりした岩のようで……」
岩盤にヒビが入ってきたが、開通までにはまだまだ時間がかかる。そんな白蓮を責める資格は俺には無い。だが、どうしたものか……。そう考えるうちに遂に溶岩が凄まじい勢いで流れ込んできた。もう時間がない! どうしよう、この状況を打破する兵装、何かなかったか?
フォトントーピード、マグマは破壊できないし、岩盤除去に使用したら白蓮も巻き込んでしまう。リフレックスリング、これもマグマは掴めないから使えない。駄目だ何も思い浮かばない。
アールバイパーも特に新しい兵装を手にする気配はないし、いよいよこれは詰んでしまったのでは。
「一つだけ手がある。ひじりんもアズマも地上に帰すとっておきの手が。ここは私に任せなさい」
この窮地の中、ずっと黙り込んでいたジェイド・ロス提督が振り向き、迫るマグマと対峙する。
「幸いにも通路は狭い。私自らを溶岩に対する防壁とする。『コンバイラリリル(※1)』の姿になればそれも可能だ」
それだけ告げると両サイドのスラスターに光を収束させる。そんな、そんなことをしたら……!
「それじゃあ提督が、誰よりも地上への帰還を心待ちにしていた貴方がっ……!」
俺の叫びは通じなかったのか、溶岩に向かい加速するコンバイラ。ボコボコとその機体を膨張させ、通路の狭い場所へひたすら向かう。
「これで、いい。ゲインズが死んでから、私はずっと考えていたのだ。この地底での戦い、そのどこで幕を引くのかを。地上に帰っても私は結局バイド、いつ破壊本能に負けて暴れ出すかもわからぬ存在。私は最期まで人間としての心を持ち続けたいのだ」
「コンバイラベーラ」と呼ばれる形態を挟み、更に自らの体を肥大化させていく提督。
「さあ、ひじりんと一緒に地上へ行くのだ。アズマとひじりんならきっと出来る。妖怪と人間が手を取り合う世界を作ること。誇るのだ、君はバイドとさえ仲良くなれたのだから……」
後ろでは拳骨が岩を砕く音が何度も響く。わずかに岩盤の向こう側が見えた気がした。
「ぐうあああ! 私が栓になっているうちに、行くのだ! 溶岩のエネルギーは凄まじい、このままでは私とて防ぎきれない! 行け、君達こそ幻想郷の希望だ!」
バラバラと岩の崩れる音、遂に縦穴への道が開かれたのだ。白蓮に銀翼ごと担がれながら、俺はコンバイラリリルと成り果てた提督から離れていく。
「提督、ていとーく!」
「これでいいんだ、これで。君のおかげで私は最期まで人間でいられた。私は誇りを持って『あっち』でゲインズ達にも顔を合わせられる。さらばだ轟アズマ、ありが……」
次の瞬間、空間が爆ぜた。コンバイラリリルの体が押し寄せるマグマの勢いに耐えられずに。俺と白蓮、そしてお燐は間欠泉地下センターの竪穴まで移動すると、そこから一気に上昇した。あそこを抜ければ光注ぐ地上だ。
あれだけの想いを胸に、提督は体を張って俺達を守ってくれたんだ。その犠牲、無駄にはしない!
「溶岩が迫っている。白蓮、お燐、速度を上げるぞ!」
その日、妖怪の山ふもとで噴火が起きた。間欠泉地下センターを通じて地底のマグマが押し寄せて、空高くにまで溶岩が噴き出たのだ。その影で地獄から脱出した影は3つ。
深淵で多大なる犠牲を支払い、迫りくるバイドの脅威を完全に退けたのだっ……!
あの暑すぎた夏の終わりから月日は過ぎて、再び太陽が幻想郷を熱く照らすようになった頃、俺は命蓮寺の墓地にいた。手にする花は金水引。
墓地には比較的新しく、そして大きな慰霊碑ができていた。
幻想郷文明圏は対バイドミッションの終了を宣言。
R戦闘機もフォースも揃わぬ中
勇敢にもバイドに立ち向かい、
地底の塵となっていった
妖怪、地底の住民、英雄の心を持ったバイドの冥福を祈る。
幻想郷はバイドを退けた。しかしその代償はあまりにも……多すぎたのだ。
「お空、ジェイド・ロス提督、ゲインズやアーヴァンクをはじめとするバイド達、逃げ遅れた地底の住民達……」
ここに立ち寄る度に俺は悔しさで涙を浮かべる。暴走したマグマエネルギーは地底という地底に牙をむき、逃げ遅れた住民も結構いたという。原始バイドと罪袋の知らせは特にショックであった。バイドを退けたとはいえこれでは地底の住民に会わせる顔もない。
「これ以上この碑に名前を刻みたくないものですが、それでも現状を知っておかねばなりません。さあ、向かいましょう」
廃墟となった地底、必死の捜索にもかかわらず、未だに行方の分からない人も多い。どれだけ時間が掛かるかは分からない、俺はこれからの人生を旧地獄市街地の復興に捧げなければならないだろう。白蓮もそんな俺をサポートすることを約束してくれた。
幸か不幸か、もう幻想郷にバイドはいない。ゆっくりでも復興を成し遂げることが出来る筈だ。さあ白蓮、行こう!
東方銀翼伝 ep.4 AXE
NORMAL END
(※1)コンバイラリリル
R-TYPE TACTICS IIに登場した超巨大ユニット。
コンバイラの進化系であるコンバイラベーラが周囲を取り込み限界まで膨張した姿。