東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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核融合の力を操る上にバイドの力まで手にしてしまった霊烏路空。
さすがのジェイド・ロス艦隊やアズマ達も太刀打ちできず、アーヴァンクが犠牲になってしまう。

アーヴァンクを葬った一撃からアールバイパーは「フォトントーピード」を取得するが、それでも決定打は与えられず。

ついにお空は大技「地底の太陽(サブタレイニアンサン)」を発動。何もかもを人工太陽に引き寄せ始めたのだ。


第14話 ~地底の太陽(サブタレイニアンサン)

 お空が放った常識外れのスペルカード「地底の太陽(サブタレイニアンサン)」。周囲に充満するバイド体をただ取り込むだけでなく、それすらも弾丸として攻撃に転用してしまうという攻防一体の恐ろしい技。

 

 改めて確信した。地底や地上どころか遥か彼方の宇宙からバイド体を呼び寄せていたのはこのお空だ。そしてバイドを引き寄せるということは……。

 

「ひゃ~! 助けてくれー!!」

「せ、制御がきかない! このままではあの太陽に取り込まれてしまうぞ。あの太陽に、あの太陽……ひぃっ、嫌だー! それだけは、それだけはー!!」

 

 バイドであるジェイド・ロス提督やバイドシステムαも一気に引き込まれることを意味する。あの冷静沈着な提督がパニックを起こすほど恐れているのは余程のことである。

 

「無理もありません。いくら屈強なバイドの体といえ、太陽になんて突っ込んだら瞬く間にその命を燃やし尽くしてしまうでしょう」

 

 それもあるが、提督のあの怯え方には別の意味も孕んでいるように俺には見えた。太陽に身を焦がすのは誰だってゴメンではあるがな。それよりも弾幕と化したバイド体が厄介だ。背後から迫ってくるのを回避するのは至難の業であるし、お空も吸引力をさらに強めている。

 

「こ……これはぁっ! バカな、こんなはず!」

 

 人工太陽はさらに輝きを増し、銀翼をも揺るがし始めた。もはやバイドも人類もお構いなしってことか。

 

「うおぉぉ、回る! 回っている!」

 

 一度踏ん張りのきかなくなった機体は渦に巻かれるように少しずつお空に近づいていく。俺の意思など関係なしに。ということは……やっぱり! 白蓮とお燐もこの強烈な流れに囚われて翻弄されていたのだ。

 

 踏ん張る地面などない宇宙空間のような地底。さしもの白蓮とて、これを止める術はない。いくら身体強化をしたところで、空中で宙ぶらりという事は無意味になってしまうからだ。

 

「アズマさんっ、何か攻撃して彼女を止めないと、このままでは……」

 

 よし、こうなれば遠距離まで届き高い火力を叩き出せるフォトントーピードを使うしかない。俺は流れに翻弄されながらロックオンサイトにお空を捉えようとするが、駄目だ。ここまで流されてしまってはまともに狙いなど付けられるはずもない。

 

「早く撃つんだ! 狙いが付かない? 問題ないよ、今のお空は何でも吸い込むから」

 

 そうか、そもそも狙いをつける必要なんてない。逆にこのミサイルをたらふく食わせ放題ってことじゃないか。ならば躊躇することない。何度もトリガーを引き、1発1発撃ちこんでいく。

 

 光を散らすミサイルはこのお空の流れに吸い寄せられるように進んでいき、そして着弾した。よしっ! 全弾命中した……が、全然効いている気配がない!

 

「なんてことだ、あれでも火力が全然足りないというのか……。フォトントーピードを越える威力を誇る兵装だなんてレイディアントソードしかない。だが、間合いに入るには……」

 

 俺は青い刃を取り出し、お空を睨む。だが無謀すぎる作戦だ。あのアールバイパーよりもはるかに巨大な太陽の上で仁王立ちするお空だけをレイディアントソードで斬りつけるなど。

 

 チャンスは一瞬、それもこうやってブン回されながら吸い寄せられている都合上、来るか来ないかすら分からないチャンス。そんなものに賭けるのはあまりに危険だ。

 

「お兄さんっ、あれっ!」

 

 火車の指さす方向を見ると俺は驚愕した。一足先に吸い込まれ始めていたバイドが今まさにお空に取り込まれようとしていたのだ。

 

「ああああっ……! 近接武器は駄目だ! 触れた途端に飲み込まれちまう!」

「あ……アルファ!」

 

 バリバリとその肉塊を貪り食うは人工太陽から盛り上がった火柱。ここは地獄、地獄の鴉の力を得た太陽は亡者の肉をついばむが如くバイド戦闘機を焼き尽くしていく。

 

 一体化しつつありながらも彼は助けを求め続けるが、手段が思い浮かばない。後ろ半身を太陽に取り込まれたバイドシステムαはいよいよ助からないと覚悟を決めたのか、泣き叫ぶのをやめた。

 

「もう、助からないな。でもな、俺はバイドだ。敵を破壊して破壊して……そういう生体兵器なんだ。最期の最期くらいは抗わせてもらう!」

 

 くすんだ紫色の光がバイド戦闘機を覆う。これは、エネルギーを貯めているんだ。

 

「ウォォォォッ! デビルウェーブ砲っ!!」

 

 這いよるバイドの形をした波動が迸ったのだろうか、一瞬だけお空が紫色に染まり、そして怯んだ気がした。対するバイド戦闘機は自らの波動エネルギーに耐えうるだけの体力が残っていなかったのか、バラバラと砕け散ってしまった。

 

「提督、アズマ、ひじりん……。思い出すんだ……基本に立ち返るんだ。『対バイド戦における最も有効な攻撃、それ……は……』」

 

 全てを言い切る前にその肉体は完全に喰らい尽くされ、炎に包まれていった。バイドシステムαの、ジェイド・ロス少将の最後の部下の最期である。だが、俺達には分かった。彼が何を言わんとしていたのかを。

 

「この続き、分かるぞ。『バイドをもって』……」

「『バイドを制することである』。そうか、フォースだ!」

 

 ウムと頷いてギンと敵を睨む提督。だが、既にジェイド艦隊にフォースは残されていない。

 

「しかし、もはやフォースなどどこにも……」

 

 そうだった。この艦隊は激戦に次ぐ激戦でバイド体を用いた攻防一体のオプションたるフォースをすべて失っていたのだ。

 

「そんな、せっかく糸口が見えてきたというのに……」

 

 白蓮も声を失っていた。太陽がかなり大きく、いや、俺達が近付いたからだけではない。周囲のバイド体を吸収して人工太陽が更に大きさを増しているのだ。このままでは俺達もあのバイド体に用に吸収されて……。

 

「いや、まだ手があった。提督、フォースならあるぞ!」

 

 そう、この状況を打破する希望は我が手中にあるっ!

 

「アズマ、気休めの嘘はよすんだ。アールバイパーはフォースなど装備しないではないか」

「そうですよ、そもそもどこにフォースがあるのです?」

 

 ああ、提督や白蓮が言うように確かにフォースはどこにもない。だが、材料ならそこら中にいっぱいあるじゃないか。俺は静かにオプション達を呼び出しローリングフォーメーションを取る。そして撃ち出したのはレイディアントソードではなく、リフレックスリング。コイツを逆回転させて射出したのだ。

 

「ま、まさか……」

「その『まさか』だ。白蓮、魔力をまた分けてくれっ! アールバイパーにしがみつくんだ!」

 

 オプションから、そして上に乗った白蓮から魔力が流れ込んでくる。ぐぐぅ、やはり人間の体にこれだけ強烈な魔力は危険だ。だが、ここで俺が挫けてどうする。収束させた魔力を撃ち出したリングに集中させる。

 

「禁術『アンカーフォース』!!」

 

 オーバーウェポン状態のリフレックスリングに光るバイド粒子が収束していく。リングに禍々しい光が集まっていく……。

 

「魔力だね。あたいも手伝う!」

 

 更に別方向から魔力が流れていく。額から脂汗が落ちる、俺の両腕に白蓮さんの巻物のような模様が浮かび上がる。これ程までに強烈な魔力が俺の体を伝っているのだ。

 

「出来た! すごい、オリジナルのフォースよりも数段デカいぞ。さあ、撃ち込めっ!」

 

 ギチギチと爪を鳴らすアンカーフォースが今か今かと鎖を外される時を待っている。様々な想いの詰まったフォースだ。散っていったジェイド艦隊の、白蓮の、お燐のっ! そして俺自らの……。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!」

 

 射線上に一瞬だけお空を捉えた。その瞬間を狙い、俺はフォースをシュートしたのだ。希望を象徴するかのような光を携え、鎖を解かれた猛犬が一直線に太陽へと喰らい付いていく。

 

 そして太陽に吸い込まれて数秒後……

 

「グギエエエエ!!!」

 

 恐ろしい雄たけびと共に人工太陽が異常に膨張を始める。

 

「いかん、爆発する。少しでも離れるんだ!」

 

 それは異様な光景であった。提督が叫んだ直後、確かに人工太陽は爆発を引き起こしたのだ。だが、爆風は拡散することなく、内側へと向かっていった気がした。最期まで、バイドエネルギーを貪欲に喰らおうとした結果なのだろうか。

 

 太陽は元の大きさに戻り、お空は人工太陽から分離された。

 

 頭からダラダラと血を流し、手にする制御棒は激しく損傷し、バチバチとスパークが走っている。胸の禍々しい八咫烏の瞳孔もヒビが入っているようであった。

 

 ゼエゼエと息を上げて彼女は満身創痍なのであろう。だが、お空は生きている。生きているのだ。

 

「こいつ、まだ息がある。私は先程のスペルカードとやらで武装を壊されてしまったし、少女達は魔力をフォースに注ぎ込んでしまい、回復に時間がかかるそうだ。そう、今戦えるのは君だけなんだ。アズマ、分かっているな?」

 

 バイドである以上、驚異的な速度でその肉体を回復させ、再びこちらに牙をむく。生きている以上は終わらない悪夢。それは何も俺達に限ったことではない。お空とて辛い筈だ。ある日突然友人たちが敵となったという事実を受け入れられずに。

 

「ああ提督、分かっている。分かっている……さ。ここでお空……霊烏路空を、バイド異変の首謀者を殺害する。これで、全てが終わるのだから……!」

 

 トリガーに指をかけるその手が震えている。俺は反対側の手でしっかりと押さえこんだ。提督と、今まさにトドメを刺そうとする俺を除いて誰も視線を向けないようにしていた。

 

「さっさと終わらせておくれよ。えぐっ、えぐっ……」

「……」

 

 必死に目を背けていてもお燐が涙を流していることは容易に推測できる。肩を震わすお燐の背中を優しく抱く白蓮。複雑な心境は察するが、こうする他に手がないのだ。それはお燐にも分かっていること、分かった上で俺達をここまで誘った。とはいえこの状況での涙も理解できることだ。

 

「……」

 

 銃口を向ける俺にお空はギンとこちらを睨みつけている。息を弾ませ、もはや弾幕など張れないのだ。それでも生き抜いてやるという強烈な意思がその眼光から感じ取れた。だが、もはや力はない。時間をおいてその肉体を回復されないうちは……の話であるが。

 

「さあ、撃て。奴が息を吹き返す前に!」

 

 ああ、バイドを倒して地上に帰ろう。この引金を引けば、これ以上幻想郷にバイドが降り注ぐことはなくなる。どうするかなんて分かりきっているじゃないか。

 

 

 

 俺は……!




次回はトリガーを引いたか引かなかったかで、シナリオがまた分岐します。

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