東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

74 / 102
旧灼熱地獄を経由してバイド化したであろう「霊烏路空」との接触を試みるアズマ達。

しかし、旧灼熱地獄も既にバイドの手に落ちており、熱された流体金属のバイド「Xelf-16」が行く手を阻む。

アウトレンジからのビーム攻撃で艦隊も半壊状態に陥り、アズマも地獄の熱気で気を失ってしまうという窮地に立たされるも、ゲインズの捨て身の一撃とジェイド・ロス提督がトレジャーとして保管していた「地球の水」によって敵バイドを撃破し、熱で衰弱していたいアズマも復活させた。

さあ、いよいよ最深部だが……。


第13話 ~太陽に身を焦がす~

 灼熱地獄を抜けると、今までの明るさが嘘のように再び真っ暗になってしまう。はるか遠くに赤黒い光の点が見えるのを除けばまさに漆黒の闇である。それでも蒸し暑さは和らぐことはない。周囲をよく見ると空気が揺らいでいるように見えた。恐らくはここも灼熱地獄のように熱されているのだろう。

 

 そして漆黒の中で目を凝らすとそれがゆっくりと流れていることもわかる。それもみんな同じ方向へ、引き寄せられるように……。

 

「なんというバイド係数だ! この黒いのは全部バイド体だぞ。ひじりん、お燐、生身でこの空気に触れるのは危険だ。戦闘機用のスペースだが、格納しよう」

 

 開かれたハッチ。その中に避難しようとする生身の二人。だがその直前に異変が起きる。黒いバイド体がより激しく流れていったのだ。はじめはわずかに速くなった気がする程度であったが、瞬く間にその流れは速く、多く、激しく。

 

「ぐっ、バイドを引き寄せるあの流れが……。今までよりもずっと強烈だ。持っていかれないように踏ん張るので……うわぁぁ!」

 

 コンバイラの巨体が流されていく。バイドを引き寄せるこの流れはたとえA級バイドの強さ、大きさをもってしても逆らうことは出来なかったのだ。慌てて白蓮とお燐が押し返すように提督の体を支える。俺は反対側からリフレックスリングを飛ばし、提督を引っ張り上げようとするが、どちらもさして効果がないようだ。

 

 グンと遠方の光の点が大きくなっていく……否、俺達があそこに引き寄せられているのだ。そして更に接近して……不意に止まった。目の前で赤々と光っているのはまるで燃える星、太陽のようであった。こんな地底で太陽を拝めるとは不思議なものである。

 

 その光の中、揺らめきながら黒いバイド体が太陽……いや、その太陽とは微妙に違う方向へ引き寄せられていく。俺はその方面に視線を追いかけていく。

 

 クワっと見開かれた赤黒い目玉と目が合った。禍々しい光を放つその瞳孔はこちらの存在に気が付くと光を発しながらギロリと睨み付けてきた。あれだ、あの目玉にバイド体が集まっているんだ。赤黒い光が周囲を照らす。

 

 間違いない、バイドの種子を地上に落とし、バイドというバイドを引き寄せていた張本人……!

 

「霊烏路……空!」

 

 黒く大きな翼、右腕と右脚に装備された物々しい装備。そして宇宙を思わせるデザインをした漆黒のマント……。

 

「……だぁレ?」

 

 確かに鴉の妖怪なのだろう。だが、不気味に鼓動する胸の一つ目があまりに異様に見えた。そして彼女の顔についている本来の方の瞳はうつろになっており暗い琥珀色の光を携えている。こいつが……こいつが……!

 

「お空っ、私だよ。お燐! わかる?」

 

 たまらなくなって親友が俺の前に飛び出す。そう、たとえ相手がバイドだとしても対話を試みることは有効である。現に俺がそうしたからこそジェイド・ロス提督は俺達の味方になったのだ。さて、今回はどうなるか?

 

「おリ……ん? お燐っ! お燐だー、会イたかっタなー♪ サとり様も全然来ナいし、お燐も久しブりダよねー」

 

 にぱーっと笑みを浮かべる地獄鴉。嬉しさのあまりお燐に抱擁しようと両手を広げて近寄ってくる。その無邪気な笑みは周囲の心を和ませるが……。一連の様子を見ていた白蓮がおもむろに巻物を広げ、身体強化の魔法を詠唱し始めた。

 

 そのままお燐に抱き付こうとするお空だったが、白蓮はそれよりも先に素早くお燐を抱き留めるとその場を一気に離脱した。おかげでお空は何にも抱き付くことが出来ない。が、異変は既に起きていた。お空の腕が炎に包まれており、先程までお燐のいた場所に火柱が上がっていたのだ。

 

「これはっ……。あまりにバイド係数が高くなりすぎて自分でも制御できていない! これでは交渉は絶望的だ。残念だが……私のようにはなれない」

 

 それだけこの地底の最奥でバイドを集めていたという事か。最愛の親友に抱き付こうとしたのを邪魔されたお空は口をとがらせて不平を漏らしている。

 

「ナんで邪魔すルの? お燐は私の友達なのニ、コんなノ酷いヨ。もしカしテ、さトり様が来ナいのもオマエのせイ?」

 

 先程の人懐っこい様子は鳴りを潜め、その琥珀色の二つの光に冷徹さが宿る。胸の瞳孔も光を増した気がした。ゆっくりと右腕の制御棒をこちらに向けてくる。

 

「敵。オマエラ、敵。さとり様に仇なス憎き敵! ケシズミにシてやるっ!」

 

 決して沈まぬ人工太陽の元、決戦の火蓋が切って落とされる……!

 

 突き出された制御棒にどす黒いバイド体が収束していく。それと同時に赤く焼けるように制御棒が光を帯び、最後にはまばゆい白色となっていた。そして最初に襲ったのは一種の衝撃波。地震の前触れのほぼ感知できないP波のごとく、全方位に衝撃が走ったのだ。

 

「いかん! あの光はまずい。ひじりん、お燐、今度こそ避難するんだ!」

 

 そして本流が来る。それは暴力そのものであった。限界まで収束された光の弾幕は全方向に無秩序にそして放射状に放たれたのだ。決してこちらを狙ったものではないもののその衝撃はすさまじく、うまく光の弾幕の隙間に潜り込んだ俺も有り余るエネルギーに翻弄されて機体のバランスを何度も崩しかけた。

 

 圧倒的弾幕に晒される中、コンバイラの体内に逃げ込む白蓮とお燐。そしてその二人を庇った提督は光弾の直撃を何度も喰らっている。

 

「ぐあああ! 生身の人間がまともに喰らえば形すら残らないほどの力っ。だが、仲間を失う痛みに比べればこのくらいっ!」

 

 スコールのごとく降り注ぐ弾幕がようやく終わるも、お空は次の一撃に備えすぐさまエネルギーのチャージに入っていた。再び光とバイド体が収束していく。

 

「なんてデタラメなパワーなんだ! だが、あまり足は速くないようだな」

 

 あいつに攻撃をさせては駄目だ。俺は最大限にまで加速すると銀色の光の軌跡を残しつつ急接近を試みた。撃たせる前にレイディアントソードで斬り伏せるっ!

 

「そいつに接近戦を挑んじゃダメ!」

 

 間合いに入り剣を取り出したころに俺もようやく異変に気が付いた。空気が先程よりも激しく振動している。アールバイパーも何か絶大な危険を感じ取ったのか、ブザーを鳴らしながらこちらを警告してきた。

 

『Caution!! Caution!! Caution!!』

 

 これはスペルカード級の大技の前兆なのか? マズイと思いつつも、んなこと言われても今更止まれる筈もないし、俺は最善を尽くし本来の目的を遂行する他ない。ええいままよ、レイディアントソードの錆にしてくれるっ!

 

「核熱『ニュークリアフュージョン』!」

 

 お空の体が白色に光ると、太陽を思わせる超巨大な弾幕……そう、大玉と俺が呼んできたアールバイパーをすっぽり覆うほどの大きさを誇る弾なんかが小さく見えるほどのデカいのが放たれたのだ。それも大量に。

 

 その動き自体は非常にゆっくりではあったものの、アールバイパー自身が高速でそれに突っ込む形となってしまった。

 

「アズマさーん!」

 

 悲鳴とも取れる甲高い白蓮の声、チリチリと身を焦がす太陽の弾。そう、身を焦がすだけ。俺の左手で掲げていたのは豪華な紙質のスペルカード。咄嗟の回避といえばスペル発動しか思いつかなかったが、相手の攻撃手段もスペルカードで安心した。これで互いに使用カードは1枚、おあいこになるからだ。

 

「銀星『レイディアント・スターソード』!」

 

 銀翼には不釣り合いなほどの巨大な剣を2本、挟み込むようにお空を斬りつける。バイパー本体は青白いオーラ「フォースフィールド」で守られるため、弾幕に突っ込んだとしても無傷……。

 

 いや駄目だ。あの太陽みたいな弾幕は恐ろしい程のエネルギーを秘めているらしく、この無敵のオーラさえもかき消さん勢いでこちらの身を焼き尽くす。フォースフィールドが完全に無力化する前に離脱した方がいい。俺はこれ以上の追撃は諦めて一気に離脱。どうにか脱出には成功したものの、オーラが途切れた瞬間にアールバイパーは弾き飛ばされてしまった。

 

「アズマっ、大丈夫か!? バイド戦闘機に援護させる。アルファ、アーヴァンク、出撃せよ!」

 

 背後からハッチの開かれる音。俺一人では荷が重すぎると判断したのか、提督の号令の下、数少ない生き残りであるバイドシステムαとアーヴァンクが戦場に躍り出た。しかし、R戦闘機の象徴の1つであるフォースは既に失っている……。

 

「お前ら……。フォースもないのに無謀すぎる!」

 

 俺の制止を振り切る2機は前方に光を携えていた。先に動いたのは全身をバイドの鱗で覆った機体、つまりアーヴァンク。

 

「見てな、R戦闘機はフォースだけじゃねぇ。喰らえっ、スケイル波動砲!」

 

 アーヴァンクは恒星弾の隙間を埋めるように放っていた青色の弾目がけて波動砲を放ったのだ。

 

 白く光る球体をゆっくりと撃ち出すと、途中ではじけ飛んだ。そしてその周囲の空間に破片が漂い始める。よく目を凝らして見てみると、それらがアーヴァンクの鱗であることが分かった。

 

「別名『スケイルディフェンス弾』。実弾兵器ならこいつでみんなシャットアウトだ。レーザーの類もピカピカに磨いた鱗が乱反射させてしまうから威力が分散されてしまう……まあ守れてはいないがな。とにかくミサイルの類を防ぎたいならこいつの出番さ」

 

 スケイルディフェンス弾の効果が切れないうちに今度はバイドシステムαが攻勢に出る。場所を譲ったのか、アーヴァンクは必要以上に距離を取っており、俺にももっと離れるようにと促された。どういう意味かと訝しんでいると、アルファの後部から波動砲が撃ち出されたのだ。

 

「ありがとよアーヴァンク、心置きなく全力を出せたぞ。フルチャージのデビルウェーブ砲だぁっ!」

 

 そうだった、こいつの波動砲は尻から出るんだった。ワシャワシャと這い寄るバイドの姿をした波動エネルギーはそのまま弾幕を避けながらお空へ一直線に突っ込んでいく。

 

「敵を破壊する本能によって動かされた波動エネルギーだ。どこまで逃げても俺が敵と認識した相手を追いかけまわすぞ!」

 

 デビルウェーブ砲がお空の右腕にクリーンヒットすると流石にお空も怯んだようである。一時的に弾幕も止んだが、再びあの太陽弾を放つために周囲のバイドエネルギーを集め始める。アールバイパーのシステムボイスもまたけたたましく警告を促してくる。

 

「この瞬間を待っていた! スケイルディフェンス弾っ!」

 

 弾幕が止んだことでさらに接近の出来たアーヴァンクは近距離から鱗の波動を放ち、お空の周囲に無数の鱗を漂わせる。波動砲の直撃でもそれなりのダメージを与えられたようだが、デビルウェーブ砲に比べると威力も控えめのようで、怯む様子を見せない。

 

が、信じられないことが起こった。周囲を漂っていた鋭利な鱗が、一つ残らずお空に襲い掛かり、その身を切り裂いたのだ。

 

「!?」

 

「どうだいカラスのお嬢ちゃん、ピカピカに磨いた俺の鱗の味は? バイド体を吸い寄せているのなら、当然俺の鋭い鱗も吸い込むよな。でもそんなに一気に吸い込んだら……そうなるわなぁ」

「すげぇぞアーヴァンク。頭脳プレーってやつじゃん!」

 

 それぞれの傷は浅いものの、あちこちから小さく出血を起こしており痛々しい。

 

 よし、アーヴァンクのおかげでお空は無暗にバイドエネルギーを吸収できなくなった。こうなれば幾分かあのデタラメなパワーも抑えられるはず……。

 

 しかしお空はその右腕を変形させ、ミサイルランチャーらしき形に変えていた。そこに装填されていたミサイルはお空の右腕ほどの大きさを持つもの。より多くのミサイルを装填できる筈のランチャーだが、その大きさから1発しか装填できていない。

 

 だからこそ嫌な予感がする。あの形状は……まさか!

 

「あれは一体……?」

「恐らくは大型水爆ミサイル『バルムンク』だ……。あんなの隠し持ってたのか!」

 

 ミサイルを撃ち出すだけならバイドエネルギーなどチャージする必要もない。恐らくはこの邪魔な鱗を取り除いてまた先程の戦法を取るのが目当てだろう。つまり標的は……!

 

「俺だな。凌げるか……スケイルディフェンス弾っ!」

 

 いくらスケイルディフェンス弾といえど、相手はバイド相手にさんざん猛威を振るった水爆ミサイル。ある意味アレも核融合を引き起こす兵器と言えよう。アーヴァンク自身も完全に迎撃できるか不安を抱いていた。

 

「うむ、あれなら大丈夫だろう。奴の周囲にもまだ鱗が浮遊しているし、二段構えで威力を減衰させられるのだ。さあアルファ、隙だらけのところにもう一度波動砲を……」

 

 その提督の一言に安堵の息を漏らすアーヴァンクは再び鱗を大量展開し、見えない防壁とする。対するお空はわずかに空気の淀んだ場所一直線にお空はバルムンクを発射させた。

 

「むむ、何か様子がおかしいぞ? ……まずい、逃げるんだアーヴァンク!」

 

 バルムンクのブースター部分が異様に光っているのだ。なんと、お空自身の光る弾を何度も連ならせてミサイルの勢いを倍加させていたのである。しかし提督の声が届く頃にはミサイルが防壁を突き抜けた後であった。

 

 程なくして暴風と爆音が吹きすさび、俺は吹き飛ばされてしまった。

 

 今のはバルムンクの爆発だろう。お空の光弾によって推進力の強化されたミサイルがアーヴァンクの用意した鱗の防壁を貫通して着弾したのだ。防壁などいざ知らずと言わんばかりの火力の塊が、あらゆる鱗を貫き、そして爆発したと言えよう。

 

 俺と同じく吹き飛ばされたバイドシステムαが先に爆心地に駆け寄っていた。

 

「おいっ、しっかりしろ! 目を覚ますんだアーヴァンク!」

 

 あれでは即死だろう。わずかに残った鱗の欠片に声をかけても答える返事などある筈がない。キラキラと暗闇の中でわずかに光るは地獄の太陽に照らされたアーヴァンクの鱗。それらが風もないのにふわりと飛んでいく。その先には……。

 

「まズは1機……」

 

 無力化したバイド体としてお空と融合していったのだ。いや、食料として捕食されたという表現の方が適切か。

 

「ひぃ!?」

 

 彼の悲鳴は戦友の無残な姿、そしてその末路に戦慄したから。それだけではない、雄たけびを上げたお空が背部でジェット噴射のような炎を上げながら、今度はバイドシステムαに急接近、そして掴みかかってきたのだ。

 

「うフふ……。アなたも、フュージョンしマしょ♪」

「嫌だっ! やだやだ! 助けてくれー!」

 

 ジタバタと機体を揺らしもがいているが、脱出できるようには見えない。あのままではバイドシステムαまでやられてしまうだろう。助けてやりたいが俺は俺で遠くに飛ばされてしまっている。

 

 誰かを守るには「菊一文字」が一番だが、距離が足りない。オプションたちに運んでもらっても届かないだろう。残る兵装はハンターとニードルクラッカーだが、どちらも精密射撃には向かないし、火力もオーバーウェポンがなければ微々たるものであろう。

 

 さっきのバルムンクみたいに精密射撃が出来てなおかつ高火力の武器なんて……。

 

『You got a new weapon!』

 

 まさかバルムンクが? だとしたら都合がよすぎるが、もはや神頼みといった状態の俺。だが、ディスプレイに目を移すと確かにミサイル系兵装の部分がモザイク状に画像が乱れているのだ。もしかしなくても先ほどのお空の一撃がトリガーとなって兵装が目覚めるのだろう。これはもしかしてしまうのだろうか?

 

 程なくして光をまとい、直進するミサイルのアイコンが表示された。この兵装の名前は……。

 

『PHOTON TORPEDO』

 

 今確かに「フォトントーピード(※1)」と言っていたな。和訳すると「光子魚雷」といったところか。俺の知っているフォトントーピードはザコ敵を貫通する対地ミサイルであった筈であり、バルムンクとは似ても似つかない兵装の筈であるが……。

 

「ええい、ままよ!」

 

 お空の右腕に狙いを定め、ミサイル発射するべくトリガーを引く。「それ」はアールバイパーの真下に装填された。実に銀翼と同じくらいの全長を誇る巨大なミサイルだ。それがゆっくりと前進していく。お、遅すぎる……。

 

 だが次の瞬間、ブースターが点火する代わりにミサイル後部から無数の光の粒子が飛び散る。すると今までのノロさが嘘のように急加速し、標的めがけて一直線に飛んで行き、お空に直撃、爆発を起こした。

 

「アア……オオウ!」

 

 咆哮のような、悲鳴のような雄たけびをあげ、バイドシステムαを取り落した。解放されたバイド戦闘機は一目散に提督の元まで逃げていく。

 

「アーヴァンクの件は残念だが、よく生きて戻ってきた、アルファよ。一度補給と修理を済ませよう」

 

 再びバイド体の充満する空間でたった一人となった俺。明確な殺意が、この俺に突き刺さってくる。収束されるバイド体、そして右腕が輝き始める……。

 

 レーザーだ、それもおびただしい量の、驚愕するほどの太さの。こちら目がけて滅茶苦茶に撃ってきたのだ。これでは反撃どころの騒ぎではない。少しでも距離を取るべく俺は逃げ回ることにした。

 

 一方の提督はハッチを開き、手負いのバイド戦闘機を回収しているところであった。が、その隙間から少女が二人這い出てくる。

 

「なっ、バイド汚染のリスクが高すぎる! 戻るんだ」

 

 そんな制止を聞かずに白蓮とお燐もただバイドと成り果てた少女を睨みつける。

 

「アズマさんやジェイドさんの仲間達だけがあんな危険な思いをして私は指をくわえて見ているだけだなんて……耐えられません!」

「えーっと……あたいと同じ屋根の下で暮らして同じメシを食べてきた仲だし、やっぱり自分でも決着つけないと!」

 

 お燐は知らないが白蓮は、ああなった住職サマは提督が止めても向かうだろう。そんな決意抱く二人に気を取られているとお空のレーザーに被弾しそうになった。チリチリと身を焦がす音に焦燥しながら、宙返りをし、お空の背後を取った。

 

 ならば俺が取るべき選択は一つ。バイド体が二人を蝕む前に決着をつけるっ!

 

「いくぞ、フォトントーピード!」

 

 光を散らしながら光子魚雷が直進する。対するお空は白蓮に気を取られており、まるで気づいていない。無防備な背後でそのまま炸裂する。

 

「ネメシス、コンパク、追撃だ!」

 

 オプション達を呼び出し、同じくフォトントーピードを投げつけていく。すると注意の対象がこちらに向いたのか、俺に向かって制御棒を向けてくる。だがその背後には……

 

「南無三!」

 

 白蓮が金剛杵をビームサーベルのように扱い、斬りつける。今度はそちらを迎撃しようとすると、さらに別の方向からゾンビの格好をした妖精がわらわらとお空に群がってくるのだ。身動きがとれまいと必死にもがく。

 

 ゾンビゆえか、倒されても倒されてもたちどころに復活してお空の自由を奪おうとしがみついてくるのだ。そうしていると再びバイド体が収束しているような気がしてきた。

 

『CAUTION!! CAUTION!! CAUTION!!』

 

 まずい、また仕掛けてくるぞ!

 

「なギハらえ! 焔星『フィクストスター』!」

 

 この状況を打破するべく発動されたスペルは広範囲に効果の及ぶものであった。あの強烈な恒星弾を力任せにぶん回すという危険極まりない技のようだ。当然ゾンビフェアリーたちは全滅。あれでは復活したところでまた一瞬であの世行きだ。

 

「ち、近づけないっ!」

 

 バイドの影響抜きに考えても核融合の力を操るお空の持つ火力は並大抵のものではなかったのだ。ああやって長期戦に持ち込まれるのはまずい。バイド体が白蓮達を……。

 

「皆離れるんだ。こうなればアウトレンジからフラガラッハ砲を決める!」

 

 そうだ、俺達は一人で戦っているのではない。お空は確かに強大な火力を持っているが、あまり頭の回転が速くないようである。

 

「白蓮、ここは危険だ。離れよう!」

 

 そうして避難していると、コンバイラから赤い光をまとう二股の槍が突き出される。本人にとっては全くの想定外だったのか、フラガラッハ砲をもろに受けるとさすがのお空も怯む。

 

 攻撃の止んだその隙に俺と白蓮は再びお空に有効打を与えるべく接近する。俺が遠距離からミサイルを撃ち込むと、すぐに離脱。俺を追いかけようとするお空が白蓮さんに背を向けると今度は白蓮が弾幕を放つ。その繰り返しだ。果たして致命傷になっているのかどうかも疑わしいが、こうやって少しずつ削っていくしか手段が思い浮かばない。

 

 そうしたサイクルをさらに何度か繰り返して……お空が不意に攻撃の手を止めた。どうしたのかと様子をうかがってみると、彼女は目から大粒の涙を流していたのだ。

 

「ドぉして撃ツの? どウしテぶつノ? 痛い、痛イよ……心も体も痛イよぉ……」

 

 彼女の中で意識の混濁が見られる。それはバイドと化した者が必ず抱く疑問。そう、こんな状態になっていてもお空は自らがバイドになっていることに気が付けないのだ。

 

 だが、その本質は敵を本能的に破壊するバイドそのもの。現に、涙を流しながらもバイド体を収束させ、次の一手に出んとしているのが分かる。

 

「みんな、ミんなみンナミんなみンな、ミンナミンナミンナミンナミンナミンナミンナミンナ……大嫌イ! 全部消エチャエ!!」

 

 地底の太陽に一直線に突っ込んでいく。が、別に焼身自殺という訳ではないようだ。そう、あろうことか燃え盛る太陽に足を付けてドンと仁王立ちしたのだ。そして両手を大きく広げ、地底全体に響くであろうおぞましい咆哮をあげる。周囲のバイド体が光を帯びて周囲に浮かび上がる。

 

「こ、これは……! まさかあの地獄の太陽を使って何かを仕掛けてくるつもりかっ!?」

「め、滅茶苦茶な……」

 

 提督や白蓮だけではない、アールバイパーもただならぬ危険を感じたのか狂ったように同じ単語を叫び続ける。

 

『CAUTION!! CAUTION!! CAUTION!!』

 

 もはや注意を促すものではなく、ただただ危険なものであることをパイロットたる俺に知らせるために……。

 

 それは誰の言葉なのか、俺には分からなかった。普通に考えればお空なのだろうが、もはや今の霊烏路空は太陽と一体化しているようなもの。煌々と琥珀色にジリジリ照らす人工太陽の言葉にも聞こえたのだ。

 

地 底 の 太 陽 (サブタレイニアンサン)

 

 見たままのシンプルな名前であったが誰よりも震えていたのは彼女のことをよく知るお燐であった。

 

「そんなっ、そのスペルは……! だめっ、お空! 今すぐ止めて!!」

 

 未知の力が働いたのか、ドス黒かった筈のバイド体が発光して一直線に人工太陽へ突っ込んでいく。これが弾幕なのか。それともバイドを引き寄せるという今のお空の特性によるものなのか。

 

「ぐうう……引っ張られる! コンバイラのこの巨体が、強烈なまでに引っ張られているッ!」

 

 まずいぞ、何としても止めなくては……!




(※1)フォトントーピード
グラディウスIIに登場した対地ミサイル。ザコ敵を貫通する。一見便利だが弾切れを起こしやすいという意味でもあるので注意。
東方銀翼伝においては、空対空ミサイル……というか徹甲弾のような兵装になっている。
これは貫通するミサイルという特徴と、グラディウスアークでは空対空ミサイルとして登場していたことが由来。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。