東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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旧灼熱地獄に巣食うバイド「Xelf-16」に翻弄されるアズマ達。
長期戦に持ち込まれ、灼熱地獄の熱でアズマの意識は遠のいてしまう……。

そう、いくら銀翼が強くなったとしてもアズマ自身はただの人間なのだから。


第12話 ~全ては尊き「宝」の為に~

 アズマが流体金属のバイドと交戦する遥か後方。ジェイド・ロス提督の艦隊も多大な被害を受けていた。

 

「ぐう、こちらの損害は軽微。またアウトレンジからのビーム砲が来る可能性が高い。皆は大丈夫か?」

 

 左側のスラスターを負傷させて黒煙を上げる提督。そう、先程の「Xelfハイビーム」は彼らを狙ったものであったのだ。

 

「お、俺は何とか……。だけど今のでフォースが消し飛んじまった!」

 

「バイドシステムα、お前もフォースをなくしたのか。それよりも巡洋艦『ボルド』が回避に失敗して直撃した。アレはもう落ちる。搭載されてた機体が今必死に避難している」

 

 大破炎上していた暴走巡洋艦からポロポロとバイド機体が脱出している。どうにか回避に成功したバイドシステムαとアーヴァンクが必死に状況の報告を続けていた。

 

「くっ、ボルドが逝ったか……。ノーザリーもタブロックもあのビーム砲の餌食になってしまったし、大損害だ。やはり、悲しいものだな……」

 

 時折その巨体が左に傾く中、緑色の人型起動兵器「ゲインズ」が割って入ってくる。

 

「ジェイド殿、御無事で!」

「おおよかった! 生きていたか」

「その代償に某の得物が犠牲になってしまった。盾として使用した故に。これでは波動砲が使用できぬ」

 

 バチバチとショートする「凝縮波動砲」を見せるゲインズ。

 

「いやいいんだ。命あっての武器だもの。君は正しい判断を下した。この戦闘が落ち着いたら修理……いやいっそのこと今後の敵に備えてパワーアップさせよう」

「恐悦至極に存じます」

 

 今も混乱が続く艦隊の少し先、同じく被弾を免れた白蓮がこのバイド地獄の袋小路を見つける。だが、それは決して喜ばしい事ではなかったのだ。

 

 それもその筈。白蓮がそこで見たものは、敵の猛攻と炎の龍から必死に逃げ惑うお燐、そして別の龍に捕えられ今まさに捕食されんとするリデュースの解除された銀翼の姿であったからだ。

 

「あああっ、アズマさんっ!」

 

 真っ先に白蓮が狙うはアズマを喰らわんとするドラゴンの頭部。手にする魔人経巻をバっと広げると、蓮の形をしたオプション4つを呼び出した。そのそれぞれから細いレーザーを撃ち出し、更に流体金属の海に落ちそうになったアズマを回収する。細切れになったドラゴンの胴体だったものを蹴り、白蓮は高く跳躍。

 

白蓮「アズマさんっ! アズマさぁんっ!! ……反応がない」

 

 キャノピーをバンバン叩いてパイロットの名を叫ぶ白蓮。しかし応える声はなく空しくその音が響くのみであった。

 

「この暑さの中で長期戦に持ち込まれたんだ。人間の体はあまりに脆い、熱にやられちゃったのさ……」

 

 同じく救助されたお燐は銀翼から目を逸らす様に悲し気に一言。

 

 陽炎揺らめく旧灼熱地獄、その揺らぐ空気の向こう側の突起を白蓮はただ睨み付ける。

 

「どの道あのバイドを倒さなければ一時の安堵も得られません。提督さん、弱点はあの突起部分ですね?」

「うむ、流体金属を扱う能力、そして先程のレーザー攻撃から、奴の正体はA級バイド『Xelf-16』で間違いないだろう。コアを露出した瞬間に強烈な一撃を叩き込むのが正攻法だ。隠れているうちはまず回避に集中して……」

 

 提督の説明を最後まで聞かずに白蓮は閉ざされたコアに近づく。

 

「ひじりん、今攻撃を加えても流体金属がその衝撃を吸収してしまう! アズマのことで焦っているのは分かるが無暗に攻めても無駄だぞ!」

 

 止めに入ろうとするジェイド・ロス提督の声で我に返った白蓮は再び引き下がる。流体金属の龍を大量に呼び出してきたために、白蓮達はこれの迎撃を行う。

 

 だが、Xelf-16はそれきりコアを長時間露出することはなかった。標的が皆すぐ目の前にいるのでわざわざ狙いを定めたり、遠距離を狙撃するレーザーを使う必要などなくなったからである。

 

「このままではアズマさんが……。やはり待っていられません!」

「まだ攻める時に非ず。ひじりん、退くのだ!」

 

 ネメシスとコンパクが辛うじて銀翼を支える姿を見た白蓮は、再び提督やゲインズの制止を無視してXelf-16の目の前に跳んだ。魔人経巻を広げながら。

 

 そのまま白蓮はコアの隠れている突起物を前にフウと一呼吸置くと、金剛杵を突き立て、圧倒的な速度でその中心に向かって拳を突き始めた。あまりの速さに拳が何個にも見えるほどである。

 

 しかしバイド達が言うように限界まで身体強化した白蓮の拳をもってしても流体金属に覆われたXelf-16のコアに有効打を与える事は出来なかった。ゲル状の金属が衝撃を和らげてしまうのだ。

 

「ひじりん、これ以上は……」

「いや待て、あれを見るんだ」

 

 よく見ると白蓮の突きは威力よりも速度を重視させたもの。そして的確に同じ場所を突くという精密さも併せ持っていたのだ。流体金属の装甲が薄まっていく。

 

「まさか流体金属を超高速の拳でどけたというのかい?」

 

 応える返事はない。ただひたすらに打ち込まれれる拳や蹴りの音が答えであった。

 

「天符『三千大千世界の主』っ!」

 

 トドメと言わんばかりに跳び蹴りを放つ。超人化した白蓮の猛攻をまともに受けたXelf-16はたまらずに外に出てきた。あとはこの露出したコアに一撃を叩き込めば倒せる。ゼエゼエと息をつく白蓮であったが、持てる力を振り絞り再び巻物を掲げてトドメの一撃を放とうとする。

 

「いざ、南無……」

 

 だが、白蓮は見てしまった。完全に無防備となったアールバイパー、つまりアズマに熱された杭が突き立てられんとするところを。

 

「いけないっ!? アズマさんっ!」

 

 慌てて白蓮は踵を返し串刺しにされそうな銀翼を救うべく踵を返す。1発目の杭を横から蹴飛ばすと更なる推進力を得て、銀翼を庇うように抱える。白蓮さんの力あってアズマが串刺しになることはなかった。しかし……。

 

「ひじりんっ!」

 

 その代わりに白蓮が左腕を突き刺されてしまったのだ。苦痛に顔を歪める僧侶。どうにか針からは抜け出したものの、出血がおびただしく、反対側の腕で押さえている。これではしばらく攻勢に出ることが出来ない。

 

「いかん、波動砲だ。奴が再び流体金属の中に逃げ込む前に波動砲で奴を吹き飛ばすんだ! 誰か使える者はいないか? 私はまだチャージが済んでいない!」

 

 提督の号令に名乗りを上げる声はない。みんな先程のビーム砲を喰らっており、波動砲のチャージどころではなかったのだ。

 

「フォースもやられちゃったし、俺の『デビルウェーブ砲』じゃ、あそこまで届かないぜ」

「やはり駄目か……」

「いや、致し方あるまい。皆も疲弊しているのだ」

 

 一度は引きずり出されたXelf-16のコアも静かに流体金属の奥へと沈み込んでいく。

 

「そんな、あと少しだったのに……」

ゲインズ「しかしアズマ殿を見殺しには出来ぬ……」

 

 あと一歩のところで打つ手なしという歯がゆい状態。白蓮も恨めしそうに逃げ行くコアを睨み付けていた。

 

「うう、もう少し早く気が付くことが出来れば……。うう、返事してくださいよアズマさん……」

「くっ、某も波動砲さえ無事ならば……」

 

 今も意識のない貴方に必死に語り掛ける白蓮。その呼吸も次第に弱まっているように見えた彼女は一層語調を強めて貴方の名前を叫ぶ。

 

 万事休すと思われたその時、今もあちこちでショートしている波動砲を手にしたゲインズが動き出す。

 

「ゲインズ、波動砲を失った君にも策はない筈だ。波動砲のパワーアップは後で必ずしてあげるから今は……」

 

 静かにゲインズが誰よりも前に飛び出た。

 

「ジェイド殿、策なら我が手中に! 奴は流体金属の中に逃げ込もうとしている。そこに某も飛び込んで破損した波動砲に波動エネルギーを限界まで溜めこんで爆破させる! あらゆる攻撃の防壁となった流体金属が逆に仇となり波動エネルギーはコアを集中して焼き尽くすだろう」

 

 それは帰り道などない特攻攻撃を意味している。提督が驚き語調を強める。

 

「いや、その作戦は許可出来ない! ゲインズ、君まで失ってしまったら……」

「されど、ジェイド殿やひじりん、そしてアズマ殿を救う為なら……」

 

 背中のバーニアにエネルギーを込めてゲインズは加速しつつ、Xelf-16のコアに接近していく。

 

「やめるんだゲインズ! 退けっ。命令だ、退けぇっ!」

「生まれて初めてかもしれない。ジェイド殿、某は貴方の命を拒否する。どんな懲罰を課してもいい、某は……」

 

 片手に担いだ凝縮波動砲が白い光を散らしながらそれを大きくさせる。得物を手にしたゲインズはXelf-16のコアについに追いつき、光るスパイク状の武器「ゲインズクロー」を突き立てた。

 

「某は幻想の地にて死に場所を見つけたり。ひじりん、アズマ殿、美しき幻想郷に希望の光を。そしてジェイド殿、その二人を癒し導く道にならんことを祈る!」

「よせっ、思い直すんだ。戻ってこい!」

 

 主を守るためにコアを飲み込む流体金属。しかしそこにはゲインズもへばりついていた。両者が飲み込まれた直後、波動砲の光が流体金属の中を照らし、ゲインズとコアのシルエットを浮かび上がらせた。

 

「ゲインズぅーーーーー!!!」

 

 しかしそれも一瞬であり、それを認知した頃には光が洩れ始め、数泊置かぬうちに激しい爆音が旧灼熱地獄にこだました。

 

 一方のコアを失った流体金属はバラバラと落ちていき本物の旧灼熱地獄の炎に包まれ、そして消えていった。

 

「バカヤロウ……」

 

 そう、ゲインズという犠牲をもってして。その提督の声は裏返っていた。

 

「ついに、倒したんだね……。当然死体は、残ってるはずもないか……」

 

 この場の空気に耐えられずに、どうにかしておどけようとするお燐の声にも力がなかった。

 

 ゴウゴウと燃え盛る地獄。その中でも比較的涼しい場所を知っていたお燐は意気消沈するバイド艦隊と白蓮をそこへ誘導する。

 

 今も意識のないアズマは蒸し風呂状態のコクピットから避難させられ、横たわらせていた。

 

「うっ……うぅ……ゲインズ、どうして……」

 

 提督は先程から声を漏らしながら涙を流し嗚咽し続けている。白蓮は今も意識のないアズマに手いっぱいであったので、お燐が提督に語り掛けた。

 

「あの、やっぱりさっきの緑色の人って……」

 

 答える気配のないジェイド・ロス提督に代わり、生き残りのバイド戦闘機の一つ「バイドシステムα」が返答する。

 

「ゲインズは提督との付き合いが長かったんだ。噂ではバイド化する前から相棒同士だったとか。一応は上官と部下って関係だけれど、誰がどう見ても親友同士にしか見えなかった。そんな特別な存在たるゲインズを失ったんだ。そのショックは計り知れない……」

 

 それを聞いて何とも言えない面持となったお燐。一方で白蓮はアズマをどうにか起こそうと必死に声をかける。

 

「アズマさんっ! お願いですから返事を……。ああ、こんなに汗をかいてしまって。でもこんなところに水なんてある筈ないですよね……」

 

 高温にやられて更に衰弱していた貴方。このままでは助からないことはうすうす白蓮も気が付いていた。そしてそれを上から見ていたのは泣き腫らしたジェイド・ロス提督。

 

「うぅ、ゲインズ……む、水? はっ、もしや!」

 

 かのA級バイドが波動の光に包まれた直前、ゲインズが何を言い残していたのか、提督はその脳内でプレイバックさせる。

 

 そう、ゲインズはジェイド・ロス提督を生かすことが希望に繋がるらしいことを口にしていたのだ。何故バイドの暴走戦艦が人間であるアズマを救うきっかけとなるのか。提督は察しがついたのだ。

 

「ひじりん、水ならあるぞ! かつての私がどこまでも渇望した上質な『地球の水(トレジャー)』が!」

 

 このような灼熱地獄で水。まさに地獄で仏と言わんばかりだ。

 

「私の体の中、かつての執務室の机の下だ。そこの小型冷蔵庫に私にとってかけがえのなかったお宝を保管している。バイド汚染の心配はない、汚染しないように厳重に管理してある。飲んでも問題ない綺麗な水だ、私が保証しよう。アルファ、案内してあげなさい」

 

 バイド戦闘機は白蓮をハッチの目の前まで誘導した。程なくして提督はその入り口であるハッチを開いたが、白蓮は歩みを進めない。

 

「でもいいのですか? 噂では綺麗な水はバイドにとっての究極のお宝だとお聞きしましたが?」

「今の私にはもう必要のないものだよ。アズマもひじりんもこんな私を優しく迎え入れてくれたのだから。今までの恩返しだと思ってくれ。水なら地上に戻ればまた飲み放題だしな。さあ、この激しい戦いを生き残った皆で地上に帰る為にも……」

 

 コクリと頷く白蓮はバイドシステムαに連れられて奥へと入っていく……。

 

 薄暗い艦内ではあったが、難なく執務室まで到達。白蓮はそれらしき小型タンクを発見し、持ち帰る。

 

「ゲインズが見出し、そして私が紡いだ活路への希望。この水でアズマを癒すのだ!」

 

 タンクの水がすくわれ、貴方の口元に垂らされる。その唇がわずかに動いた気がした。

 

「アズマさんっ……!」

 

 

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 忘れかけていた感覚が戻ってくる。俺の口元を流れるのは……

 

「みず……」

 

 極限まで渇ききったその体に瞬く間に染み込んだのは紛れもなく水。体が動く、俺は起き上がると水のなみなみと注がれたタンクを発見した。奥には巨大なコンバイラ。そうか、これはジェイド・ロス提督の……。

 

「飲み水だ。君は酷く水分を失っている。遠慮なく飲むといい」

 

 頼まれなくとも! 俺はゴクゴクと喉を鳴らし、渇きを癒した。ああ、染み渡っていく……。俺は完全に意識を取り戻した。

 

 だが戦況は一体どうなったのだ? 俺が気を失っている間に何が起きたのか……?

 

「奴は、Xelf-16はどうなった!?」

「どうにか撃破しました。その代償はあまりに重かったのですが……」

 

 俺は周囲を見渡すとバイドの艦隊がかなりの数を減らしていることに気が付いた。くっ、俺が倒れたばかりに……!

 

「ボルド、タブロック、ノーザリー、ゲインズ……他にもいる。私も悲しい。だが、停滞は許されない。散っていった仲間の為にもバイドの親玉を倒すぞ! あいつらの魂もそれで浮かばれるはずだ」

 

 そうだ、後ろ向いて悔やんでいても状況は何も変わらない。空から、そして地上からバイドを集めている異変の首謀者「霊烏路空」は目の前だ。

 

「お空……今も苦しんでいるのかな?」

「これでバイドの異変が……本当に終わるのでしょうか?」

「アズマが、そしてゲインズが私をここまで繋げてくれた。今度は私が力を振るう番だ……」

「いよいよだな。ラストダンスと洒落込もう!」

 

 様々な思いは交錯すれど目的は皆一緒。そう、「バイドを倒して、地上に還ろう」これのみである。

 

「BLAST OFF AND STRIKE THE EVIL BYDO EMPIRE!」

 

 ほぼ同時だったであろう、俺達は灼熱地獄のその更に先へと飛翔した……。

 

 

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(その頃旧地獄市街地郊外上空……)

 

 地上から緑色の長髪をなびかせながら落ちていく早苗。そして地底からそれを最初に発見したのは……。

 

「親方っ、空から女の子が!」

 

 よりにもよって罪袋どもと原始バイドのバラカスであった。

 

「誰が親方だっての。5秒で受け止めてやれ! 地面に叩きつけれたら大惨事だぞ! 布切れがあったはずだ。アレ使って上手くキャッチするんだ」

 

 4人の罪袋が布切れをピンと張り、落ちてきた早苗を受け止めた。しかし落ちてくるのは彼女だけでなかった。

 

「バラカス神様っ、こっちの空からも女の子……いや女の子のお母さん? とにかくもう一人が!」

「あん? ありゃお母さんどころじゃないな。もっと歳を食ってるとびきりのBBA……ひぎぃ!」

 

 失礼なことを口走る罪袋の真上に太い柱が落ちてくるとそのまま押しつぶされてしまった。

 

「あーあ、そんなこと言うから……」

 

 その御柱の上に乗っかっているのは、落ちていく早苗を追いかけていた神奈子である。

 

「神奈子様、私を追いかけてきたのですね。でもこんなところにバイドが! 地上に戻る前に退治してやりましょう」

 

 戦闘態勢を取る早苗に対して罪袋達が止めに入る。

 

「バラカス神様は悪くないの! むしろ異変の被害者」

「バイドはバイドでも異変が起きる前から住んでた原始バイドなの!」

 

 流石の早苗も原始バイドなんて言葉は聞いたことないので首をかしげる。

 

「アズマって人が付けてくれた名前でね、あの人曰く『今のバイドの設定にリファインされたころに幻想入りしたバイド』だとか言ってたよ。なんか俺にはよく分かんないけど分かる?」

 

 ここまで聞いて早苗さんもピンと来たようである。

 

「ああなるほど、そういうことでしたか。それでは確かに異変とは関係なさそうですね」

「おいおい、勝手に話を進めないでおくれ。私にはサッパリなのだが?」

「うーん……。ちょっと込み入った説明になっちゃいますが、あのアズマさんと接触したようですし悪人ではありませんよ」

 

 自信ありげに説明する風祝だが、神奈子は今も訝しげに睨み付けている。

 

「まあいいさ、敵意もないようだしここで争うこともないだろう。それに私は異変の首謀者に心当たりがある。そいつをぶっ潰してコイツが消えるのなら嘘をついていたことになるし、残っていればこいつらは正しかったという事。地霊殿だ、場所を案内してくれ」

 

 神奈子はこのままバイドの親玉に殴り込みに行くつもりのようである。早苗もそんな神様を放っておけるはずもなく付き添うことを決意した。

 

 バラカス達に地霊殿入口まで案内させる。7人いた罪袋達は美女二人を前にしても神奈子の眼光が恐ろしくて最後まで手出しが出来なかったようである。

 

 地霊殿の大きな扉を乱暴に開くと二人はヅカヅカと奥まで進みさとりと対峙する。

 

「また乱暴な訪問者ですね」

「実は地底に向かって無数の黒い隕石が……」

 

 事細かに事情を説明しようとする早苗を押しのけ、神奈子は一言だけこう口走る。

 

「霊烏路空、お前さんのペットだったね。ちょっと用事があるのでここに呼び出してほしいのだが」

 

 途端にさとりは両目を見開き、その表情を恐怖でこわばらせる。

 

「知らない……。そんな子知らないわ……! 分かったら出てって! 不愉快だわ!」

 

 対する神奈子は語調を変えずに彼女の心を揺さぶる。そんなさとりの反応を半ば楽しんでいるようにさえ見えた。

 

「そんな筈ないだろう? 私はしっかり覚えているぞ。お前さんのところの地獄鴉に『八咫烏』の力を与えたことを」

 

 ニヤリと口元だけに笑みを浮かべる神奈子。

 

「出てけェー!!」

 

 周りの本やらペンやらを滅茶苦茶に投げつけて激昂するサトリ妖怪。それを御柱1本で全て受けきる神奈子。

 

「ちょっと、そんなに怒らせては交渉どころでは……」

「いや、これでいい。どの道彼女との交戦は避けられないだろうし。ならば彼女の十八番を封じてやるのがいい。激昂のあまり、心を読むのを忘れたサトリ妖怪など無力に等しい!」

 

 それだけ言うと御柱を思い切り飛ばし、さとりを吹き飛ばす。壁に叩きつけられ気を失ってしまった。ぐったりする彼女を肩で担ぐ神様。

 

「さとりさんをどうするのですか?」

「見せてやるのさ、真実を。あの反応で確信した。バイドを集めていたのは霊烏路空で間違いないだろう。だからこそ、飼い主である古明地さとりが必要なのだ。誰も脅威から逃げてはいけない。私も、そしてこのサトリ妖怪もだ……」

 

 最後に「行くぞ」と早苗を誘導すると灼熱地獄への入り口へ入っていった……。


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