東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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アールバイパー初飛行! ゲームの中ではエースパイロットのアズマ君ですが、それが実際の空になると……。


第6話 ~銀翼、幻想郷を舞う~

 聖さんと人里を出歩いてさらに数日が過ぎた……。

 

 俺は河城にとりに呼ばれて「あの部屋」へ向かっている。そう、にとりが俺の戦闘機でお寺に穴を開けてしまったあの部屋。そう、遂に銀翼「アールバイパー」が復活したようなのだ。意を決して、我が武器の格納されているフロアに入る。

 

 命蓮寺の穴は未だに開いたままであったが、戦闘機は見事に復活していた。白銀の翼に先端が二つに割れた特徴的過ぎるフォルム。紛れもない、ゲームに出てきたものと寸分違わないアールバイパーそのものだ。こうやって実物になっているところ(スクラップ及び、墜落しているところ除く)を見ると否応なしに胸が高まる。

 

「ふふーん。私にかかればこれ位、へのカッパ……なんちゃって」

 

 河童って気ままに泳いでキュウリかじりながら相撲取ってるだけじゃないんだな。まさかここまでやってしまうとは……。今もリュックサックを背負っている少女をまじまじと見つめる。

 

「お礼は……ちゃん飛んでからでいいぞ」

 

 悪戯っぽくペロっと舌を出しながらとんでもないことを言いだすにとり。うお、テスト飛行してないのかよ。まあ戦闘機を操作できる人なんて他にいなそうだし(俺も出来るのか怪しいが)、またにとりが操縦桿を握って命蓮寺に穴をあけられたらたまらない。それよりも早く乗り込みたい。俺は足早にコクピットへと近づいて、キャノピーを開いた。

 

 

 

 無数の計器類と操縦桿、カッコいい! 乗り込むや否や、まるで魂がこもったかのように機械がうなりを上げた。まるで主人がここに乗り込む時を待ち続けていたかのように。

 

 エンジン点火、そして爆ぜる後方の空気。よし、出撃だ! カタパルトでも仕込まれていたのか、グンと重力を感じる。この時点ですでにギャップを感じていた。とんでもない加速度に思わず吐きそうになる。さすが戦闘機、乗り心地なんてものには期待できないようだ。

 

 こちらも負けるものかと両目を見開き、そして離陸した。アールバイパーは陸を離れ、大空を舞っていた。丁度命蓮寺にあいた穴を使用したので建物は壊してない……はず。

 

 ゲームの中ではエースパイロットでも、俺は本物の飛行機など操縦したこともない。なので正直不安だったのだが、大方思った通りに動いてくれる。旋回、上昇、急降下、加速。若干雑な挙動なのだが、大体はこなしてくれる。あとは動く度に体にかかる重力をなんとかするだけだ。もっともこればかりは慣れるしかないようだが。

 

 初フライトが気になったのか、命蓮寺のみなさんも外に出てこちらの様子を見ているようである。狭いから手を触れないのが残念だ。というかそんな余裕はない。

 

 

 

 気づくと命蓮寺周辺に風船がプカプカと浮かんできた。幾重にも円が描かれており、まるで的のようである。気を利かせて武器系統のテストも行えるようにしたのだろうか。にとりが地上でサムズアップしている。

 

 撃ち落としてみろってことだな。計器類に目を通すと、使用可能な武装が表示されるディスプレイがあるのに気付く。どれどれ……何が使えるんだ?

 

 

MISSILE:NONE

DOUBLE :NONE

LASER :NONE

 

? :REDUCE

 

 

 愕然とした。ミサイルもダブル(※1)もレーザー(※2)も何もないではないか! オプション(※3)に関しては項目すらなくなっている。

辛うじて「?(バリア系の兵装)」に「リデュース」の文字があるだけである。ちゃんと自機が小さくなっている様子を示したアイコンもあった。まあ仮にも戦闘機だ。トリガーを引けば何か攻撃が出るだろう。

 

 急回転し、的の一つを正面に捕らえる。ターゲットサイトと的の中央が重なった。意を決して操縦桿のトリガーを引く。これは……粒子ビーム(通常ショット)のようだ。

 

 ショットは風船に当たり、派手に光りながら破裂した。やりっ!そのまま宙返りし、背後の的にもショットを浴びせる。……が、爆発しない。どうやら外したようだ。逆さまだったので元の向きに戻り、もう一発ショットを撃つ。今度は爆発した。

 

 残りのターゲットも苦労しながらも次々と落としていく。命中率は……そんなに高くなかった。これで全てを撃ち落としたか? いや、もっと低い所に的が集まっている。

 

「You got a new weapon!」

 

 先程絶望を示していた使用可能な武装を表示しているモニター。そこからシステムボイスが流れた。ゆーがっと……うぇぽん? 何か武装が解放されたというのか?

 

 見てみるとそこには粒子ビーム、つまり通常ショット以外にも別の武装の名前とアイコンが表示されていた。アイコンは一瞬「河童のポロロッカ」に見えたが、すぐに見覚えのある自機の真下斜め後ろにミサイルを落としているものに変わった。そして刻まれた名前は……。

 

「SMALL SPREAD」

 

 スモールスプレッド(※4)、小さな爆風を生み出すミサイルを真下にばら撒く兵装だ。「弾幕ごっこ」ではこんなあからさまな対地兵器を使用する機会はそうそうないだろう。どうしてよりにもよってこんなマニアックな装備が?

 

 そう頭を抱えていると的がふよふよと高度を上げていくではないか。せっかくミサイルも使えるのだからこちらも試してみたい。それならば、風船よりも早く更に高度を上げなくては。体が後ろへ押し付けられるが気にしない。

 

 十分に高い所まで行った。命蓮寺も少し小さく見える。が、しまったと舌打ちする。高く上がりすぎて狙いが定まらない。しばらく待てば狙えるようになるかもしれないが……。

 

 ええい、面倒だ。そこら辺にばら撒いてやれ。これだけ高ければ地上までは届かないだろう。

 

 高高度を横切りつつ、爆弾をポロポロと落としていく。はるか下の方の空で青い爆風が吹きすさんでいる。高度を落とし、結果を確認する。

 

 的はほとんど全滅。残った的はショットで確実に沈めていく。よし、これで全部だ。本当に的はなくなったようなので、着陸することにした。

 

 

 

 初めての空は刺激的で爽快であった。体が急に遠心力とかで押し付けられること以外は。一度降りてこんな素晴らしい体験を提供してくれたエンジニア様にお礼の一つでも言わなくてはバチが当たる。

 

 自機を地上に降ろすと(どういう原理か、垂直離陸及び着陸も可能なようだ)、彼女の手を握り何度も握手する。

 

「い、いやー。そこまで喜ばれるとは思ってもなかったよ。えへへ……」

 

「とんでもない! 飛べない人間にとっては空を飛ぶなんてこと程恋い焦がれるものはないんだ。……でだが、ちょっと気になることがあるんだけど」

 

 一瞬だけ表示された「河童のポロロッカ」のアイコンと、突然解放された武装「スモールスプレッド」について説明した。

 

「ううむ、その口ぶりからするとスペルカードを受けたことが引き金となって、眠っていた兵装が目覚めたと考えればいいのかなぁ? でも最初はそんなものなくて、飛行テスト中に突然解放されただって? もう私にはこれ以上分からないよ。本当に奇妙な飛行機だな……」

 

 敵のボスが持っていた武装を奪う機能がこんな形で再現された……とかだろうか? とにかくこれでショットだけで戦う羽目になることは免れた。まだ心細いが、無限の可能性を秘めている。

 

 とにかく新しい武装をもっと試したく、もう一回的を浮かべてくれとにとりに頼む俺。

 

「ええと、アズマ君。どうやらその必要はなさそうだよ」

 

 違う方向から少し低いトーンの声がする。少し離れてフライトを見ていた寅丸星が空を指差していた。

 

 目を凝らしてよく見てみると、鳥ではない何かがいるようだ。ひっきりなしにこちらに向かってギャアギャア騒いでいるようなのだが、何を言っているのかは聞こえない。

 

 どうやら青いワンピースに身を包んだ小さな女の子のようだ。背中には羽が生えているようなのだが、まるで水晶のように鋭角的であり、とてもこれで羽ばたいているようには見えない。

 

「本当だ。的……おっと失礼、氷の妖精が君の銀翼に興味津々なようだぞ」

 

 星の隣にいたナズーリンから彼女の正体が氷の妖精であることを知らされる。そんなやかましい青髪の女の子がこちらまで降りてきた。

 

 空中を飛びまわっていたアールバイパーにつられてやって来たのだろう。妖怪の次は妖精か。近づくとひんやりと涼しい。が、彼女の性格自体はかなり暑苦しかった。

 

「そこの変な鳥! 最強のあたいと勝負しなさいっ!」

 

 ニカッと笑うと、そのままビシッと指さして、勝負を申し込んでくる……戦闘機であるアールバイパーの方に。もちろん返事はない。「無視するなー!」と騒ぎ立てて我が愛機に喰いかからん勢いだったので、ちょいちょいと妖精の肩をつつき、こっちだよと俺自身を指差す。

 

「その変な鳥を動かしているのが俺だよ。あと変な鳥じゃなくて『アールバイパー』ね」

 

 彼女の手には何やら鮮やかなイラストの書かれたカードがある。おそらくあれがスペルカードなのだろう。つまり弾幕ごっこで勝負しろと言っているようだ。実戦に入るまでが急過ぎる。心配になり、弾幕ごっこの先輩達の方を振り向く。

 

「えぇと……あの子はチルノですね。確かに妖精の中では最強だけど、さすがに紫とはかなり強さの差がありますね。命を落とすことはないでしょうし、よい練習相手になるとは思いますが」

 

「練習相手とかいうなー!」

 

 聖さん曰く妖精という種族は基本的には人間よりも弱いが、チルノのレベルになると確かに人間にとっては脅威の存在となりえるらしい。もちろん生身ではの話だ。

 

「それに、貴方はとてもダイナミックなスペルまで披露してくれたじゃない。弾幕のことを『花火』に例える人がいますが、まさか花火を打ち上げるのではなくて下に落とすだなんて。まるで弾幕花火の滝ですね」

 

 ほへ? 俺はスペルカードなんて考案していない。聖の表現方法からスモールスプレッドの爆撃のことを言っているのは間違いないだろう。……なるほど、こうやって編み出した大技っぽいのがスペルカードになるんだな。全然意識してなかったけど。

 

 というか俺はそのスペルカードルールを把握していないぞ。その旨をこっそり聖さんに申し出る。あと、あの爆撃は今さっき思いついたものなのでスペルカードになる紙が欲しいとも。

 

 聖さんから白紙の紙をもらい、それらしいイラストを描き、カード名を記す。名前は……そのまんまでいいか。名付けて「爆撃『スモールスプレッド』」。

 

 聖さんからルールの説明も受けた。使用するスペルカードの枚数をあらかじめ宣言し、そのカードに記された技を使うときは使用前に宣言をする。一度宣言したらスペルブレイク(一定ダメージを受けるか、一定時間が過ぎることらしい)するまで他の行動は出来ない。全てのスペルカードをブレイクされる、または体力(俺の場合はアールバイパーの耐久力ってことになるな)や気力が尽きたら負けとのこと。

 

「そんなところですね。大丈夫だと思うけれど、万が一命に関わりそうになったら助け船を出します」

 

 まあ命にはかかわらないし、万一のバックアップの約束も交わした。ここまでしてもらったんだ。ここは勝負に応じた方がいいだろう。いずれ八雲紫とやり合うんだ、そう考えると実戦はむしろ早い方がいいのかも知れない。

 

 我が愛機に向かうと、にとりに呼び出される。弾幕ごっこに関わる操作の説明を行いたいらしい。

 

 20メートルほどある自機を2メートル程に収縮させる「リデュース」は実装されているようで、ボタン一つで縮んだり元に戻ったりできるらしい。ただし安全の為、リデュース発動中は機体から降りることは出来ないそうだ。

 

 あと戦闘機の姿を取っているが、その場でホバリングが可能なので、時には立ち止まって周りの様子を確認するのもいいだろうとアドバイスもくれた。

 

「俺が使うスペルカードは1枚だ。まだ初心者だからな」

 

 ルールに則りチルノに宣言しつつ、俺はコクピットに乗り込んだ。

 

「あれ? 鳥の中身は男だったのね。男の弾幕使いってのはなかなか珍しい。でも相手が誰だろうと、あたいはいつでも本気だよ!」

 

 あれ、普通に話が進んだぞ。珍しいとは言われたけれど、馬鹿にされたり、ドン引きされたり、気持ち悪がられてたりというのはなかった。命蓮寺の人たちは弾幕ごっこをやると言いだしただけで(ジェンダー的な意味で)怪訝な表情を浮かべていたが、彼女にはそのような偏見はない様だ。

 

 彼女はスペルカードを2枚手にしていた。若干こちらが不利か。




※1 ダブル系兵装とは、攻撃範囲に秀でている兵装群のこと。
名前の由来は初代グラディウスにおける「ダブル(前方と前方斜め上に通常ショットを放つ。連射能力が落ちてしまうのが難点)」。
そのままだと火力が分散してしまうので、オプションを十分に装備しないと真価を発揮できない。狭く入り組んだ地形で有利。
実弾兵器が該当することが多め。

※2 レーザー系兵装とは、火力や貫通力に秀でている兵装群のこと。
名前の由来は初代グラディウスにおける「レーザー(ザコ敵を貫通する青く細長い光線を放つ)」。
火力は高く扱いやすいが、狭く入り組んだ地形ではオプションをうまく使わないとその力を発揮できなくなってしまう。
「レーザー」の名の通り光学兵器が該当することが多いが、リップルレーザーのような例外も少なからず存在する。

※3 シューティングゲームの兵装でオプションといえば、自機の攻撃をサポートするポッドであることが多い。グラディウスシリーズでのオプションは自機と全く同じ動きや攻撃を行うので(しかもオプションは基本的に無敵)、一つ増えれば火力も倍増するまさに攻略の要となる存在。

※4 スモールスプレッドとは、グラディウスIIIに登場したミサイル系兵装である。
自機の真下及びやや後ろめがけて投下する爆弾である。着弾後、青色の爆風を残すが「スモール」の名の通り、一つ一つの爆風は小さい。しかし、大量にばら撒くことで死角を埋めることが出来る。
基本的に空対空戦闘が主である弾幕ごっこでは相手の真上に陣取って使用する必要がある。

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