東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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 旧地獄の市街地にて鬼の四天王「星熊勇儀」と接触した轟アズマ。早速バイドの事について聞き込みをしようとするものの、勇儀が言うには既にバイドは地底に住み着いてしまっているらしいのだ。

 これはどういうことなのか更に問い詰めることになるのだが……


第6話 ~「神」と呼ばれたバイド~

 何故か地底に住み着くバイドという存在を勇儀に教わり驚愕していた矢先、居酒屋の外側で誰かが騒いでいるようなので、勇儀と一緒に外に出ることにした。

 

 外でガヤつく喧噪の正体を見て俺は驚きを隠せなかった。確かに変な奴がいたのだから。股間に見事な真っ赤なバラを咲かせ、大きく「罪」と書かれた白い覆面で顔を覆う以外は何も身にまとっていないのだ。しかも同じような格好をした変態が7人もいる。

 

「彼奴等が……バイド? 某は斯様なバイドは知らぬ。何奴……?」

 

 いつでも抜刀できるようにジリジリと間合いを詰めるゲインズ。未知の相手に恐怖しているのがこちらからも分かる。

 

「ゆーぎちゅわーん! 今日こそ白黒つけようじゃないの!」

「そのはだけかけのセクスィーな着物の下はブルマなのかおパンティなのか!」

「ブルマなら青か赤か緑か!」

「おパンティなら白か黒か桃色か!」

「イッツチェーックターイム!」

 

 変態だ。こいつらは、まごうことなき変態だ! 言っていることは最悪なのに一々ポーズをキメるのが無性にムカつく。断言する、こんなのがバイドの筈ない。全然違う妖怪だ!

 

「かかれー!」

「性懲りもなくまた『罪袋』どもか。お前ら雑魚は……すっこんでろ!」

 

 一斉に飛びかかる「罪袋」と呼ばれた変態ども。なるほど、罪と描かれた覆面はすっぽりと頭部を覆うので袋とも言えるかもしれない。

 

 対する勇儀は片手を空に掲げ、同時に片足で思い切り地面を踏み鳴らす。グラグラと地面を揺るがしながら、一瞬のうちに大小さまざまな弾を呼び寄せた。

 

 弾は微動だにしないが、罪袋がそれらの弾幕に自分から突っ込む形になる。当然結果は……。

 

「ぐわああああ! やられたー!」

「我々の業界では、ひぎぃ! ご、御褒美ー!」

 

 ボトボトと地面に落ちた変態どもを関節技で絞め上げていく。

 

「黒だ、黒だった! 視界全体に広がる漆黒……ギブギブ!」

「それ見えてないだけじゃ……らめぇ!」

 

 勇儀はバイドとはよく力比べをする仲だと言っていたが、実力に差があり過ぎる。ということはこいつらの親玉がバイドなのだろうか?

 

「オーマイガー、オーマイガー……! こうなったら『我らが神』を呼ぶネー!」

「よしきた、『神様』なら勇儀ちゃんもイチコロ間違いなし。じゃあいくぞ、せーの……」

 

 ヨタヨタと立ち上がる7人の罪袋は無駄に体をのけぞらせながらジャンプ。そして大声でバイド……と思しき親玉を呼び出す。

 

「かみさまー! 出番ですよー!!」

 

 変態どもの呼び声に応えるがごとく、巨大な影がヌッと姿を現す。

 

「あー、ご立派様ー!」

「ああ、今日も雄々しくそそり立ってらっしゃる!」

 

 現れるや否や、罪袋どもは膝をついてひれ伏した。

 

 どういう経緯でこのこの天に向かってそそり立つイチモツがご立派な化け物が幻想郷にやって来たのか、どういう経緯で罪袋達に崇められているのか、それはサッパリわからない。

 

 だが一つだけ確実なことがある。こんな卑猥でグロテスクな存在はバイドに他ならない。こいつは確か……

 

「バラカス(※1)!?」

 

 そう、罪袋達によってまるで神様のように崇められているその怪物は「バラカス」と呼ばれるバイドであったのだ。先端を潤わせるために水場によく現れるというが、このバラカスはどういう訳かフワフワと空中を浮かんでいる。

 

「バラカス神様、あいつです、勇儀姐です。我々がこの世の真理に近づくためにはあの着物の中身を知る必要があるのです。どうかお力を!」

「ふむ、我がソウルフレンド達を随分と可愛がってくれたようだな。その中身が何色か、決着をつけようではないか。ゆくぞ!」

 

 なんだか動機がおかしいけれど、いくら鬼の四天王である勇儀とて、何の知識もなしにこんな強力なバイドと戦うのはあまりに危険である。そう思っているとゲインズが先に行動に出た。

 

「こんなところに『A級バイド(※2)』。幻想の世界に仇なす侵略者め! ここで成敗してくれる!」

 

 待ってましたとばかりにゲインズは腕に仕込んでいた光る剣「エクスカリバー」を展開しながらその赤黒くテカる先っぽ目指して飛翔。対するバラカスは空から雷を呼び寄せると何度も落雷させるが、ゲインズはスイスイとこれを回避。

 

「御命頂戴!」

 

 そのままバラカスの先っぽを一閃。弱点に強烈な一撃を食らうとバラカスは反撃……してくると思ったら逃げ出してしまった。

 

「痛い痛い! 刃物は駄目だってば! 何なのさ、いきなり乱入してきて……。これは勇儀ちゃんの下着の色というミステリーを解明する神聖なる決闘なんだぞ!」

 

 何故だかふてくされているように見える。というか決闘の理由が酷い。何が「神聖な」だよ……。むしろお前らが真正の変態だ。

 

「ゲインズ、血の気が多いのは結構だが、今は手出しするべきではなかった」

 

 あれー、こっちも怒られた。わ、訳が分からない。バラカスは確かにバイドであり、今もバイドの種子として幻想郷に降り注ぐ侵略者と同類の筈だというのに、彼からはそういう殺気をまるで感じない。

 

「しかし、バイドが目の前にいて……えっ、えっ? でも斯様なバイドはジェイド殿の艦隊にはいなかったはずだし……」

 

 すっかり混乱しているゲインズ。

 

「あ、分かったぞ! お前、ここ最近になって黒い隕石に乗って幻想郷各地で大暴れしている悪いバイドだな? こっちはそれでどれだけ迷惑しているか……」

 

 まずい、このままではバイド同士で戦闘が始まってしまう。今は各々の混乱を解くのが最優先だろう。俺はどうにか二人の間に入ってこの場を取り持つ。

 

「待って待って。お互いに何か勘違いをしているような気がする。我々も何が起きているのかさっぱり分からないんだ。とりあえずそちらの、そして我々の置かれた現状を整理しよう!」

 

 どうにか臨戦態勢の皆を落ち着かせて、それぞれの境遇、そしてこれからの目的を嘘偽りなく公表していく。

 

「俺達は地底に吸い寄せられる黒い隕石を追いかけている。黒い隕石は要は幻想郷を侵略しようとするバイドであり、地底のどこかにそいつらを呼び寄せている親玉がいると踏んで地底にやって来たんだ」

 

 ふむふむと頷く鬼とイチモツのバイド。ゲインズが続けようとしたが、俺が代弁したほうがよさそうだな。

 

「でも中には理性を残して俺たちに味方してくれるバイドもいるの。そいつらは『ジェイド・ロス提督』っていう元人間で今はバイドの……」

「待ってくれ! 黒い隕石は周囲をバイドっぽくする恐ろしい能力を持っているようなんだけれど、ひょっとしてそれで人間もバイドになっちまうのか? 俺そんなこと出来ないべ?」

 

 あれ……。バイド化を知らない? これは一体どういう事だ?

 

「帰る場所がないだとかヒッソリ生きているとか鬼の娘に聞いたのだが?」

 

 バイド化した人間は元いた地球で受け入れてもらえずに帰る場所を失う。普通はそういう運命をたどるのだ。ゆえにバイドはただ故郷に帰りたかっただけとも言われている。てっきり俺はこいつら元人間であり、紆余曲折を経て幻想入りしたものと思っていたが……。

 

「ああ、俺の母星はとっくにR戦闘機に壊されちまったからな」

 

 これはこれで随分と壮絶な過去なのであるが、バラカスはケロリと言いのけていた。それにしても母星だって? バイドといえば異層次元とかいう亜空間みたいな場所を本拠地にしている筈であり、故郷の星なんてのは聞いたことが……いや待て、もしかしたらそういうことかもしれないな。ちょっとこの質問をぶつけてみよう。

 

「その母星って、もしかして『バイド帝星』ってやつ?」

「っ!? どうしてそれを……?」

 

 そういうことか。今回のバイド異変が起きる前から幻想郷に住み着いていて、勇儀がよく力比べをしているというバイド達の正体が分かった。

 

 今回の異変で降り注ぐ侵略者もバイドだし、その異変が起きる前から地底に住み着いていたグロテスクな怪物達もバイドで間違いない。だが、この両者は同じようでいて全然性質の違う存在ということだ。

 

 R-TYPE、それは人類とバイドの戦いをテーマにしたシューティングゲームである。

 

 その中に出てくるバイドといえば、26世紀人が生み出した生体兵器のなれの果てであり、あらゆる物体に取り付くことで対象をバイド化させるという恐ろしい存在であった。

 

 しかしその設定は長く続いたシリーズの途中で後付のように組み込まれたもの。初期のうちはただのグロテスクな外宇宙からやって来た侵略帝国という設定しかなく、母星もちゃんと存在していた。

 

 なにより初代R-TYPEのタイトル画面には「BLAST OFF AND STRIKE THE EVIL BYDO EMPIRE!」、平たく言うと「悪のバイド帝国をやっつけろ!」と出てくるくらいだ。

 

 つまりこの目の前にいるバラカスは設定が再構築される前のバイドということになる。おそらくバイドが今の設定にリファインされた時に幻想入りしたのだろう。

 

 つまり区別をするなら、ジェイド提督やゲインズ、そして幻想郷を侵略するバイドどもが「現行バイド」で、バイド化という概念がなく、母星を失い地球を第二の故郷としたバラカスのような奴らは「原始バイド」といったところか。

 

「その顔は何か理解したな。某にも説明を」

「うん。ただ非常に複雑な事情があるようだ。分かりやすくザックリ言うと、偶然同じ名前と似たような容姿を持ったまったく別の種族ってこと。前々から幻想郷に住んでいたようだし、区別して名づけるなら『原始バイド』ってところかな」

 

 当のバラカスはイチモツをピョコピョコ跳ねさせて嬉しそうにしていた。

 

「原始バイドだって。なんかイカすね! バラカス、原始回帰……なんつって♪ 幻想郷ってところに来てからは毎日が楽しいよ。コソコソしないで済むし、罪袋や勇儀ちゃんみたいな遊び相手もいるし、今日はカッコいいニックネームまで貰っちゃった♪」

 

 何か知らないが打ち解けたみたいだ。

 

「今日はいろいろあり過ぎて疲れてしまったよ。バトルはまた今度にしてくれないか?」

 

 そりゃそうだろう。ゲインズともやり合っているし、さすがの鬼もクタクタの筈。

 

「ちぇー。じゃあまた今度遊ぼうね。よーし帰ろうぜ我がソウルフレンドよ!」

「ういーっす!」

 

 原始バイドか……。変態ではあるが悪い奴ではなさそうだ。原始バイド達も今回の異変でかなり風評被害を受けているようなので何かあったら手助けしてくれるだろう。

 

「ああそうそう。君は色々とイイコトしてくれたから俺もイイコト教えてあげよう。真っ黒い隕石だけどね『地霊殿』っていうお屋敷に向かって真横に飛んでいくのを俺見たことあるよ。でもあそこの妖怪はとんでもなく恐ろしい能力を持っているらしい。とにかく一つ目に睨まれたら大変なことになるらしいよ。もしかしたら悪いバイドの親玉かもしれないから行くなら気を付けてね」

 

 それだけ口早に告げると今度こそやかましい変態集団は消えていった。そして彼らと入れ替わるように……。

 

「ゲインズ、こんなところにいたのか。二人とも帰ってこないからひじりんが心配してたよ」

 

 頭を打ってヘロヘロになっていた提督だが、どうやら持ち直したらしい。そのまま俺らは格納される。

 

 機体の中ではゲインズが必死になって今回の探索で得た情報を伝えているようだ。

 

「バイド化の概念の無い原始バイドに、黒い隕石……もといバイドの種子を集める地霊殿か……。二人ともよくやってくれた。ひじりんの船もアールバイパーも修理が終わったようだ。しっかり休んだら地霊殿とかいう場所に行ってみよう」

 

 バイドの種子を集める地霊殿……か。つまり地霊殿にバイドの親玉がいるってことになるな。奴らとの決着をつけるときが刻一刻と近づいているということだ。ドクンと心臓が強く鼓動する。

 

 そうだ、俺たちは悪いバイドを倒して平和な幻想郷に帰る、その思いだけでここまでやって来たのだ。

 

 しかし地霊殿の主が持つ恐ろしい能力というのも気になる。もしも主がバイドを集める親玉だとしたら苦戦を強いられることになるだろう。

 

 だが、負けるわけにはいかない。銀翼は希望を繋ぐ程度の能力、こんなことで怖気づく暇はないのだ。

 

 俺は一人戦艦の中で自らを鼓舞していた……。




(※1)バラカス
R-TYPE IIに登場した2面ボス。男性器に酷似した器官を持つ見た目のバイド。
水面に浮かんでおり電撃を呼び寄せたり圧縮ドライアイスを撃ち出したりする能力を持つ。

(※2)A級バイド
メタ的なことを言うとボス級バイドのこと。R-TYPE TACTICSシリーズでこう呼ばれている。

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