東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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シューティングゲームにおける「画面に収まりきらないほどの超巨大ボス」のパイオニア的存在であるグリーン・インフェルノ戦のノベライズ!


第4話 ~地底を進む緑の業火 後編~

 今も地底に向けて進撃を続けるグリーン・インフェルノを撃破して、突き落とされた提督を救出、ひいては旧地獄市街地への被害を最小限に食い止めなければならない。

 

 その為にはどうするべきか、答えは考えるまでもなく俺の目の前で爆音を上げている奴を破壊する……で間違いないだろう。

 

 あれだけの巨体を持ちながらも高速で航行する機動力、その原動力の1つであるブースターである。あのブースターを破壊すればある程度は動きも鈍くなるだろう。

 

 今もバックファイアを噴出させるブースター。十分に安全な距離を取ったうえでニードルクラッカーを発射する。炎の吹き出ないタイミングを合わせたのだが、予想外の反撃に銀翼が大きく傾く。

 

 ブースターからエネルギー弾を3方向に放ってきたのだ。恐らく余剰エネルギーか何かを攻撃に転用しているのだろう。とっさに回避行動によって直撃こそ避けたものの、その弾道は大きくそれてしまった。

 

 普通ならこちらの攻撃も外れるところだが、そこはニードルクラッカー。細長い青き針は的確にブースターへと突き刺さっていく。しかしブースターはビクともしない。

 

 そうしているうちに二度目のバックファイア。今度はその炎に焼かれないギリギリを飛行、急接近しレイディアントソードで切り払った。再びの3way弾を警戒し宙返りしつつ大きく距離を取る。

 

 振り向くとブースターは本体から剥がれ落ち、爆散した。これで機動力が落ちたはずだが、安心したのもつかの間、ゴッテリと配備された砲台がその奥に控えており、執拗に銀翼を狙って砲撃してきたのだ。

 

 この場所にいるのは危険だし、いつまでもここを攻撃していても決定打は与えられないだろう。

 

 このデカブツの艦橋、その先にある動力部を破壊すれば爆散するであろう。直接そこへ向かうことが出来れば手早くコイツを倒せるだろう。

 

 だが、あんな対空砲がゴテゴテと配備された機体上部は危険だ。確かこいつは下からもブースターでその巨体を持ち上げていた筈である。

 

 更に安全策をという事で、俺はそちらのブースターを叩いてさらに機動力を削ぐ作戦に出た。それに元のゲームでも確か下側から攻めてたからな。

 

 さすがに上の対空砲ほどではないが、数多くの砲台がこちらを撃ち落とさんと砲撃を開始してくる。しかし弾幕ごっこでの物量には遠く及ばない。更にこちらの主武装はある程度のホーミング能力を持ったニードルクラッカー。回避に集中してもちゃんと標的を叩いてくれる。

 

「ニードルクラッカーを喰らいやがれ!」

 

 トリガーを引き無数の砲台めがけて青い針を撃ち出す……が、どういうわけかあらぬ方向に分散してしまい、まともな火力が叩き出せない。ちっ、ターゲットが多すぎる上に硬いからな。

 

 ハンターもまともに使えないとなると通常ショットで一つずつ潰していくほかない。装備を変更させると砲台に照準を合わせるが、あちらの方が早くこちらを捕捉し砲撃してくるのでまともに攻撃に入れない。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 無数の砲撃に晒され回避もままならない中、この状況を打破する機械音が響く。

 

『You got a new weapon!』

 

 ニードルクラッカーに続き新武装を得たらしい。ディスプレイを見るとダブル系兵装の部分にモザイクがかかり、エルフ耳の金髪少女が一瞬映し出される。間もなくしてアールバイパーのものに切り替わり、前方と別の方向にショットを発射しているアイコンに切り替わった。

 

 これはもしかしてもしかすると……。

 

『FREE WAY』

 

 コイツは「フリーウェイ(※1)」だ。前方だけでなくてアールバイパーを操作している方向にも別にショットを放てるという玄人向けの兵装。

 

 ニードルクラッカーのように全方位を攻撃可能であるが、その違いは自分で狙いを定めないといけないこと。手間はかかるがそれは逆を言うと……。

 

「自分で狙いを絞ることが出来る。そういうことだな?」

 

 キャノピー越しの視界に電子のノイズが走り始めたかと思うと、一瞬だけ真っ暗になった。その直後、再び視界が開けた。

 

 さっそく奴のブースターに狙いを定める。ちょうどアールバイパーから見ると真上に当たる場所でこちらを焼き尽くさんとしている。

 

 俺はロックオンサイトを上に動かすと視界もそれを追いかけるように切り替わっていった。驚きのあまりそのまま狙いを定めることなくカーソルを上へ上へと動かすと、視界もまたグルンと一回転した。

 

 どうやら合成映像へと切り替わったようであり、あらゆる角度を視認できるようになっているみたいである。なるほど、360度好きな場所を目視しつつ攻撃出来るというわけだ。

 

「ネメシス、コンパク、反撃開始だ!」

 

 オプション達を呼び出して「スペーシング」のフォーメーションを取ると、改めて照準を覗き込む。グルンと視界を回転させ、同じくこちらを狙う補助ブースターにカーソルを合わせる。お互いに激しく移動している身、照準が頻繁にブレてしまうので、確実に当てるようにアールバイパーを標的に向けてわずかに接近させた。

 

「今だっ!」

 

 グリーン・インフェルノが噴射を始める前にこちらから狙いすました一撃をお見舞いする。もちろんオプション達も一緒に。見事にクリーンヒット。ブースターは音を立てて崩れ落ちていった。

 

 すぐにバランスを崩したのか、緑色のゴツい巨体がまるで落ちるようにこちらに迫ってきた。このままだと押しつぶされてしまう。

 

「ど、どうするのよ!?」

 

 後ろで喚くは嫉妬妖怪。だが、俺は冷静さを失わない。再び他の補助ブースターに狙いを定め、これを破壊。これによってアールバイパーが潜り込むほどの隙間を確保した。すかさずそこに逃げ込むことで圧死を回避した。

 

 ガリガリと岩肌を削り取る鈍い音が響きわたる。しばらく騒音を掻き鳴らしたのちに、不意に音が途切れ、目の前に空間が開けた。よし、脱出しよう。

 

 お互いに落下しながらの戦闘。後ろの嫉妬妖怪によれば、この縦穴の向こう側に都市があるのだという。到達する前にこいつを仕留めなければいけないのだが……。

 

「でかい……」

 

 アールバイパーから見て真上にゴツい黄色い装甲とこれまた強烈な主砲がズラリと並んでいた。時折火の玉を放っており、砲撃の度に空気が震える。喰らわなくてもわかる、半端ない威力のようである。

 

 あの主砲の目の前に何の対策もなしに飛び出すのは自殺行為だ。まずは無力化しなければいけない。ロックオンサイトを忌々しい主砲に合わせ、フリーウェイを放つ……が、びくともしない。圧倒的に火力が足りていないようだ。

 

 続いてレイディアントソードを取り出し斬りつけようと試みる。青い刃が砲台を1つ打ち壊した。崩れ落ちる残骸を回避し、再び斬撃を加えようとするも、他の主砲に狙われていることに気が付き、一度離脱する。

 

「狙われている!」

 

 容赦なく火の玉がこちらに襲い掛かってきた。やむを得ない。レイディアントソードで斬り落として……、いや駄目だ。炎を刀で斬ることが出来ないように、この弾も斬り落とすことが出来ないようである。刃をすり抜けた火の玉が銀翼を焼き始めた。

 

「ぐわぁっ!」

 

 グラグラと揺れる機体。弱まるジェットエンジンの音。どうやら噴射口を損傷したようであり、機動力を大幅に失っていることが分かる。追撃をかけんと言わんばかりに頭上(アールバイパーから見ると背後)から巨体が近寄ってくる。

 

 先ほど破壊した主砲も復活してこちらを撃ち落とさんとその砲口を容赦なく銀翼に向けてくる。反撃も回避もままならないだろう。だが……

 

「ただ指をくわえて死に行くのは御免だ。せめてもの抵抗、させてもらうぞ!」

 

 しかし逃げながら狙った場所にフリーウェイを当てるのは至難の技。あらぬ方向へショットが飛んで行ってしまう。どうにか逃げながら攻撃する手段はないものか……。

 

「賭けになるが……。操術『オーバーウェポン』!」

 

 フォーメーションを「ローリング」に変更後、俺の周りをぐるぐる回転するオプションから魔力を集め、フリーウェイを喰らわせる。凄まじい勢いでショットが連射されていく。……進行方向、つまりグリーン・インフェルノとは真逆の方向に。

 

 駄目だったか。オーバーウェポン状態で使うことでショットの射出方向が反転するのではという淡い希望を持って試みたものの、結局ショットが目当ての場所へ飛んでいくことはなかった……。

 

「ちょっと、後ろで何が起きているのよ!?」

 

 起死回生を狙い試みたオーバーウェポンも無意味と悟り、オプションを格納しようとした矢先のことであった。背後からキンキン声でまくしたてるのはパルスィ。何事かと背後に目をやると……。

 

「こ、これは……!」

 

 信じられないものを見てしまった。進行方向とは真逆の方向にショット「は」放たれなかった。kロエは扇のように拡散するのはミサイルだろうか。いままでのアールバイパーでは考えられない程の物量で小型ミサイルが進行方向とは真逆の方向に連射されているのだ。

 

 5方向に拡散した実弾兵器がグリーン・インフェルノの主砲に一直線に突っ込み損傷を与えていく。着弾するたびに爆破されるわけだからうるさいことこの上ない。

 

「そうか、フリーウェイといえば……」

 

 俺はアールバイパーの祖であるビックバイパー以外に同じ名前の武装を使用する機体があったことを思い出した(同じ名前なだけで、別物であるのだが)。そう、「ライネックス(※2)」である。進行方向に通常ショットを、その反対方向に5方向に拡散するミサイルを放つ全方位武器。

 

 この前の「重銀符『サンダーソード』」といい今回といい、オーバーウェポン状態になると妙にライネックスが関わってくるな……。ライネックス自体はオーバーウェポン使わないのに。

 

 とにかくあとは対空砲を蹴散らしてあのピストンする機関部を破壊すればこいつは無力化するだろう。さあ、もう一息だ!

 

 フラフラと機体を微調整させ、前方から機関部に接近しようとするが、対空砲に阻まれてうかつに近寄れない。フリーウェイで狙い撃とうにもグリーン・インフェルノの装甲が邪魔で有効打が与えられないのだ。

 

 そうしているうちに真っ暗だった前方にぽつりぽつりと光がともっているのが見えてきた。

 

「あれは旧地獄市街地。もう時間がないわ!」

 

 このままだと地底の都市がメチャクチャになってしまう。あ、焦るな俺……。焦ってもいい結果は得られない。ここで不用意に接近しても蜂の巣にされるだけ。じっくりと隙を見計らい……。

 

「聞こえるかアズマ殿? またバイドを引きつける不可視の力が流れている!」

 

 はるか上方でゲインズの無駄に畏まった声が響いたと思った矢先、グリーン・インフェルノは加速、いや、正しくはより速く落下しだす。まずい、機関部に近寄ったはいいが、これではいい的でしかない。

 

 どうすればいい? 悠長にフリーウェイで狙いを定めるのは自殺行為だし、自動で敵を狙うニードルクラッカーなら気軽に使えるが、これでは火力が足りないだろう。サイビットでは遠くの砲台まで届かないしそもそも全部を倒しきれないだろう。レイディアント・スターソードなら火力はあるが、攻撃範囲の狭さは変わらない。いったいどうすれば……。

 

 考えろ、考えるんだ俺……。いや、こんなことしている場合ではない。こちらを狙った砲台が一気に砲撃を開始してきた。なんでもいい、とりあえずスペルを発動しないと……。

 

 何かないのか、まるで意志を持ったかのように敵という敵を薙ぎ払うような、それでいてもっとも重要な場所を狙ってくれる都合のいい武器が……。

 

……あった。あったぞ! パルスィがこちらに不意打ちする際に放った緑色の長い怪物。アレを再現すれば……。

 

 再び俺はオーバーウェポンを発動させる。そして使用するスペルは……操術「オプションシュート」。これを可能な限り同時に発動する!

 

 アールバイパーの周囲を回転するオプションが一際オレンジ色に輝く。そのまま回転速度も上昇し、光の点が繋がり線となった。有り余る魔力の塊がブンブンと唸りをあげる。その音もだんだんと甲高くなり、まるで龍の咆哮のように大きく地底で響き渡った。オレンジ色をした光の線はいつしか胴の長いドラゴンの姿と化していた。

 

「これは……。そうだ、間違いないぞ。これこそ俺の新スペル!」

 

 銀翼を中心にとぐろを巻くようにグルングルン回転する光の龍は襲い来るグリーン・インフェルノの砲撃を俺に代わって受けている。もちろん龍はこの程度では止まることなどない。

 

 一通り相手の攻撃がやんだ瞬間を見計らい、俺はこの新しい必殺技の名前を声高らかに宣言した。

 

「重光龍『ドラゴンレーザー(※3)』!」

 

 掛け声に応じるがごとく、漆黒の闇を光の龍が俺のもとを離れ飛翔する。砲撃などものともせず、貪欲に緑色の巨体に食らいついていった。

 

 ごってりと配備された脅威はドラゴンレーザーで全て焼き払われ、無防備に弱点である機関部を晒す形となっている。

 

 機関部がせり出した瞬間を狙いとどめの一撃を浴びせんと、俺は慎重に幅寄せをした。今や目と鼻の先。お互いに落下している身、少しでも操縦を誤れば大惨事は免れないだろう。

 

 ジリジリと更に接近するが、あと少しで間合いに入るというところでどうしてもまごついてしまう。やはり精密な操作は難しいか。

 

 そうしているうちに、狭くて長かった縦穴は終わり、ぽっかりと開けた空間に出てきてしまった。眼下に広がる無数の光は町のもの。

 

「駄目だ、間に合わない……!」

 

 このままでは地下都市が巨大バイドの手によって蹂躙されてしまう……!

 

 巨体の影がアールバイパーの頭上に落ちる。もはや惨劇は避けられないのか?

 

 いや、違う。広々とした空間に出たグリーン・インフェルノは俺と同じくらいの高度で飛行している。ではいったい何が真上にいるというのだ……?

 

「いけませんねぇ。聖もアズマも、幻想郷中を巻き込む大異変だってのに自分達だけで解決しようだなんて水臭いではありませんか」

 

 見上げると巨大な木の船がまるで踏みつけるようにグリーン・インフェルノに体当たりを仕掛けたではないか。さすがの巨大戦艦もこの鈍重な一撃を食らうとフラつく。あれは……聖輦船だ。ムラサ達が俺達を追いかけて幻想風穴に突入したのだろう。

 

「さすがだぜ、キャプテン!」

 

 新たな標的を認知した緑色の地獄火は残った砲台を聖輦船に向け、砲撃。うなりをあげて聖輦船の胴体を貫かんとするが、ムラサが取り出したアンカーがこれを防いでしまった。彼女は不敵な笑みを浮かべながら、アンカーを向ける。

 

「船幽霊に会ってしまったのが運の尽き。どんな屈強な戦艦も沈めてしまうのさ。相手が悪かったわね、バイドの戦艦さん」

 

 親指で喉を掻き切るようなジェスチャーを見せた後、躊躇することなくアンカーを一直線に飛ばす。ジャラジャラと鎖がやかましい音を立てながら、確実にバイドの弱点である機関部に向かっていた。

 

 そしてグリーン・インフェルノの機関部に深々と突き刺さるアンカー。あまりの威力に機関部を破壊するだけに至らず、その船体を真っ二つにへし折ってしまった。

 

「ヒュー! 今のムラサ、めっちゃカッコいいぜ!」

 

 さすがのバイドも機関部を失って真っ二つになったらひとたまりもない筈だ。今もそれぞれのパーツが爆発を起こしながら空中を漂っている。これが海の上ならそのまま轟沈といったところだろう。さて、こいつは放っておいて、地底に叩き落されたジェイド・ロス提督を探さなくては。

 

「おお、助けが来た。私はここだ」

 

 程なくして頭が地面にめり込んでいるコンバイラを発見。ムラサが先程のアンカーで引っ張り上げようと狙いをつける。

 

 ブンブンと振り回される錨はそのまま提督めがけて……いや、大幅に右側に逸れた。

 

「なっ……コイツまだ生きていたのか!」

 

 見ると聖輦船がグリーン・インフェルノのバックファイアを喰らい、そのどてっ腹に大穴を開けていたのだ。

 

 なんということだ、俺は何度も目の当たりにしていて知っていたはずだというのに! この程度で黙るほどバイドどもはヤワではないのだ。

 

 真っ二つになった緑色の巨体がまるで何かに操られるかのようにフラフラと浮遊すると、こちらを取り囲むようにゆっくりと回転を始めたのだ。破壊したはずの砲台もいつの間にか復活しており、こちらを撃ち落とさんと砲撃してくる。

 

 聖輦船は聖輦船で揚力を失ったらしく、どんどんと高度を下げている。

 

「ゴメン、離脱するわ。どこか安全な場所に不時着を!」

 

 我らがキャプテン自らが舵を取り、おぼつかない挙動で旧地獄へと降りていく。俺は追撃させまいと割れたグリーン・インフェルノの相手をすることにした。

 

「これは……何と面妖な! ジェイド殿、ジェイドどのー!」

「ムラサぁっ、大丈夫ですか!? 私も今そっちへ向かいます!」

 

 巨体に阻まれて後れを取っていたゲインズと白蓮も合流。聖輦船は少女達に任せよう。俺達は奴を仕留めることに集中するべきだ。

 

 とはいってもまたあの機関部を機能停止に追いやればいいだけなのだが。指揮系統も混乱しているらしく、狂ったように見当違いの方向に砲撃を繰り返している。さっさと倒してしまおう。

 

「ニードルクラッカー装備!」

 

 一度ボロボロになった体はさほど耐久性も高くないのか、砲台はこの程度の火力でも次々と潰れていく。そのままふよふよと回転するグリーン・インフェルノの片割れは機関部をアールバイパーに晒した。

 

「ここで決める。レイディアントソード!」

 

 一気に接近して青い刃で一閃……するも、さすがに一撃では破壊できない。何度も斬りつけていればいずれ沈むだろう。グリーン・インフェルノの機関部自体も必死に抵抗するために青いボール型の弾を噴射させるが、すべてレイディアントソードの錆にしてやった。俺は気にせずに斬撃を放ち続ける。

 

「しぶとい奴め。だが、これで終わりだっ!」

 

 一際気合を入れて刃を振り下ろす。棒状の機関部が一瞬真っ二つになり、直後爆炎に包まれた。俺も巻き込まれないように宙返りし、離脱。背後では炎上しつつ墜落する緑色の戦艦が一瞬見えた気がしたが、間もなく跡形もなく爆発してしまった。

 

 振り返るとムラサのアンカーと白蓮さんの腕力(!)によって地面にめり込んでいたジェイド・ロス提督を救い出そうとしている姿を目にした。

 

 アンカーが地面に突き刺さり、その巨体を持ち上げようとする。白蓮さんは身体強化の魔法でも使っているのだろうか、やはり引っ張り上げようとしていた。そんな中、ゲインズはたどり着いたはいいものの、まごついているようである。いや、気持ちは分かる。

 

 そしてここで異変が起きる。背後で大きな爆発が起きると、アールバイパーも墜落していったのだ。くっ、やはり受けたダメージが大きかったか。

 

 どうにかバランスを取ると、同じく大破した聖輦船の傍に不時着。その様子に気が付いたのか炎上するバイパーに思い切り水を噴射したのがにとり。どうやら聖輦船に一緒に乗っていたようである。

 

「お疲れ様。アズマがバイド倒しに地底に行くっていうんで、いてもたってもいられなくなってね。キャプテンと相談して支援することになったんだけれど、どうやら正解だったようだ」

 

 火の気の失せた銀翼から這い出ると今まで自分が搭乗していたアールバイパーを見る。確かに後ろの方が黒く焦げてしまっており、非常に痛々しい。聖輦船と同じく修理する必要もあるだろう。

 

「ほらね。修理は水回り系妖怪二人に任せて、あの赤い提督のところに行ってやりなよ。まだひっくり返っているみたいだし」

 

 ムラサが聖輦船を、にとりがアールバイパーの修理に専念するようだ。さて、俺はもう一つの戦艦の安否を確認しないといけないが。見るとようやく救出できたようであり、今も頭に土がくっついたままのジェイド・ロス提督がすまなそうにしていた。

 

「いやはや酷い目に遭った……。そうか、アズマとその仲間達があのグリーン・インフェルノを撃破したのか。我々は軍隊だというのに大して役に立てず、すまない……」

 

 コンバイラタイプのバイドの頭をゲインズが払いのけている。提督は特に気にするそぶりもなく状況を確認しつつ続ける。

 

聖輦船(友軍)も銀翼もかなりのダメージを負ってしまったようだな。私も叩き落とされた衝撃でまだ頭がくらくらする。ちょうど町もあるようだし、しばらくここで体勢を立て直すべきだ」

 

 確かに、生身でも戦闘の出来る白蓮さんやバイド達はいいのだろうが、こんなでっかい船を放置するわけにもいかないし、特に俺なんかはアールバイパーがなければただのお荷物だ。そういえば俺は地底のことをよく知らないし、今は進軍を中断すべきという案には賛成であった。

 

 特に反対するものも他におらず、俺達は旧地獄市街地にてしばしの休息をとることとなった。

 

 

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(その頃地底某所……)

 

 無数のマグマの河川が縦横無尽に広がる地殻の下。そのマグマの流れの隙間があった。よほど溶岩の動きが活発なのか、上から下から火山弾が噴き出るまさに地獄と呼ぶにふさわしい場所。

 

 そのマグマの噴出口を見事に避けながら猫車を引いていく赤毛の少女の姿があった。おそらく地上での仕事を終えて住処である地底へと向かう途中なのだろう。

 

「やっぱりこの近道はあたいくらいしか知らないようだね」

 

 時折揺れる地面にも動じず、飛んでくる大岩をスルリと避けて、ひた走る。そして開けた場所までたどり着いた。

 

「また……だね」

 

 真っ黒い隕石もといバイドの種子が今も地底へと降り注ぐ。そのまま地面と衝突すると思った瞬間、急に方向転換をはじめ、一つの火山の火口へと潜り込んでしまった。

 

「地上の奴らは隕石だって騒いでいるけれど、あれは違う。あれは……」

 

 ポツポツと一人で口にしていると、ひときわ大きく地面が揺れ、火山が噴火した。

 

「前よりも激しくなっているね。いったいあたいはどうすれば……?」




(※1)フリーウェイ
グラディウスIIIに登場した兵装。前方と最後に移動した方向に1発ずつショットを放つ。
使いこなせればあらゆる方向を攻撃できるが、自機を固定して発射角度だけ変えるということが出来ないので扱いづらい。

(※2)ライネックス
サンダーフォースIVの主人公機。この機体も「フリーウェイ」という名前の武器を装備しており、アールバイパーの使うオーバーウェポン版フリーウェイの元ネタはこちらが使うものである。

(※3)ドラゴンレーザー
トライゴンに登場する兵装。いわゆるボムアイテムの一つであり、発動すると金色の龍がしばらく自機周囲でとぐろを巻いた後、敵目がけて一定時間、体当たりを仕掛ける。
ザコ敵に囲まれたときはもちろん、ボス戦でも活躍できるが、一部のボスには全く通用しないので注意。
ちなみに遊戯王カードにもなっている。

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