幻想風穴から地底を目指すアズマと白蓮、そしてジェイド・ロスの艦隊。
リリーホワイトの一件もあり、これ以上の被害を出すまいと決意するアズマは早くバイドの親玉を倒したいところだが、地底の妖怪は曲者だらけで思うように先に進めないでいた。
命蓮寺への入門を断られたことでこちらを逆恨みする黒谷ヤマメをどうにか撃破するも、間髪入れずに嫉妬妖怪の水谷パルスィが行く手を阻むのだ。
彼女から、地底を侵略するバイドの話を聞くもアズマ達がバイド(ジェイド・ロス提督)を連れていることを理由に、バイドをけしかけている犯人と誤解されて襲われてしまう。
いくら弁解しても聞き入れてくれない為に、やむなく弾幕勝負で白黒つけることになるが……。
戦闘が始まるや否や、バッと後方に跳躍しつつ円状に広がる弾幕を放つのはパルスィ。その一つ一つが独特な軌跡をたどっているようで、隙間が広がったり狭まったりする場所が出来る。
俺はその隙間を縫うように接近し、ツインレーザーを浴びせる……が、上手く当てることが出来ない。コンバイラのサーチライトだけでは明るさが足りないのだ。ヤマメもそうであったが、地底の妖怪は暗所でも目がきくらしい。
ならば目視でもわかる程度に接近して近接攻撃を浴びせようとさらに接近するが、再び放射状に弾幕を張り、それを阻止してくる。慌てて俺は宙返りして距離を取った。
「こうなれば……ネメシス、コンパク。出てこい!」
ヤマメにも有効だったオーバーウェポン状態のハンターを使っておこう。周囲で3つのオプションを回転させて、武装をハンターに換装。よし、心の準備は出来た。一思いにオーバーウェポンの号令を行う。
「操術『オーバーウェポン』!」
光の槍となり嫉妬妖怪を貫け狩人よっ! しかし魔力の回復が不十分だったか、細長く弱弱しい針がちょろちょろと出てくるのみであった。
「しょぼっ! バカにしているのね。私なんて本気出すまでもないと。ああ妬ましや……」
なんかあっちはあっちで面倒くさい解釈しているし……。こうなってはハンターもダメだ。どう攻めればいい……?
「これ以上は時間の無駄。その妬ましい程に綺麗な翼を穴だらけにしてやる。恨符『丑の刻参り』」
暗所で唐突に光を放った紙切れ。スペルカードを用いて確実にトドメを刺そうとしているらしい。未だにこちらの狙いが定まらないうちに小型の弾が連なってこちらに迫ってきた。
『You got a new weapon!!』
なんだって、このタイミングで新武装だと。よし、何が来るかわからないが地底の洞穴ではまるで役に立たないハンターに代わって新たなるダブル系兵装を……と胸を躍らせたが、どうやら俺が得たのはレーザー系の兵装のようだ。ツインレーザーのアイコンが書き換わっていく。
「今のは……?」
「アールバイパーのシステムボイスだ。どうやら何か兵装を手に入れたらしい。しかし何がトリガーになったんだ……?」
いつもなら元となった少女のスペルカードが一瞬表示されるはずのディスプレイだが、今回は直に書き換わっていく。
アールバイパーからツインレーザーのような細くて青いレーザーが6方向に放射しているアイコンが表示される。ついで機械的な声が兵装の名前を告げた。
『NEEDLE CRACKER』
ふむ、「ニードルクラッカー(※1)」が来たか。ツインレーザー状の細いレーザーにホーミング機能を付加させたものだが、不発に終わったオーバーウェポン状態のハンターが引き金になったというのだろうか? まさか自分の攻撃が鍵になっていたとは……。
「反撃開始だ!」
詰んでいたところの救いの一手。活用しない手はない。持ち前の機動力で連なる弾幕を避けると、再び同じような攻撃を仕掛けてくる。
縦穴狭しと銀翼を飛行させてパルスィをかく乱させると、覚えたてのニードルクラッカーをばら撒いていく。ハンターとは違い素直な弾道で標的を狙ってくれる青い光の針。
ふわりとした挙動で6本の光がアールバイパーの周囲に配置されると嫉妬妖怪を貫いていく。効いているようだが、次の瞬間機体が大きく揺れた。くそっ、被弾したか。どこから?
「ちっ! そういうことか」
よく見ると壁に着弾した弾幕が乱反射して空中を漂っているようであり、その1つに突っ込んでしまったらしい。どうにかバランスを取り直すと再び逃げ回りながらニードルクラッカーを撃ち込む。
ホーミング性能はそこまで高いわけではないが、パルスィはこちらを狙い撃つのに手いっぱいなのか、微動だにしていないようで、確実にダメージを与え続けている。
「その機動力が妬ましいわね。どうにかしてとっ捕まえたいわ。花咲爺『シロの灰』」
再び行われたスペル宣言。微動だにしなかった彼女はゆらりゆらりと左右に揺れながら、相も変わらずこちらを狙ってくる。今度はアールバイパーがすっぽりと入ってしまうほどの大玉であった。
「やっていることは同じじゃないか。その程度の動きならニードルクラッカーでも捕捉できるぞ!」
狙いをつけられないように縦穴狭しとぐるぐる飛び回る。どうやらあの大きい玉が通り過ぎた場所は桜の花をモチーフにした弾の壁が形成されるようであるが、そんなものではこちらの動きは止まらない。
「アズマさんっ、前を見て!」
不意に迫る桜の壁。どうやらしばらくは残るようであり、気が付くと壁だらけになっていた。これでは思うように動けない。
「捕まえたわ。いくら素早くてもこれでは動きようがないわね。彼女と2ケツだなんて妬ましい……」
狙いすましたかのように大玉をぶつけてくる。あのサイズではレイディアントソードで斬り払うこともままならないだろう。こうなったらイチかバチか……。
「リフレックスリング!」
壁に逆回転のリングを突き刺してこの桜の監獄を抜けようと試みる。……が、壁まで届かない! 虚空を空しく左回転するリングは再び持ち主である俺の元に戻ろうとしていた。
まずいっ。リングを戻すまでに大きな隙が出来る。このままではあの大玉の餌食になるのは明白。焦った俺はスペルカードを発動する余裕もなく……そうだ、今は白蓮が機体にいるではないか。意識を集中させればあの時のように紫雲のオーメンのような弾幕が……。
ドクンと胸を打つ心の臓、俺の脳味噌だけが白蓮と、そしてアールバイパーと一体化する感覚。来たっ! 俺は白蓮の力を引き出したんだ。常人が膨大な魔力にさらされた時のあの吐き気のするような感覚、間違いない。白蓮、また力を貸してくれるのですね。ならば、俺はそれを放つまでだ。
「魔法『紫雲のオーメン』!」
息苦しい程に増大した魔力を飛ばしたリングに流し込むイメージを何度も脳内に描く。これであのリングから多量の弾幕が発生して今の状況に対抗できる……。
いや、結論から言うとそれはあり得ないことであった。今射出しているリフレックスリングは逆回転、つまり物体を引き寄せる方向に魔力のベクトルが働いているという事だ。これでは弾幕を放つことは出来ない。むしろ敵弾を集めてしまう……。
「しまった……」
だが、一度勢いのついた魔力は急には止まらない。恐ろしい程にギュインギュインと唸りをあげて回転するリングにパルスィの弾幕が、余計な瓦礫が、そして漂っていたバイド粒子が集まっていく……。
冷静に考えれば回転方向を逆にしてやればいい。だが、いくら念じても白蓮さんの膨大な魔力を流し込んで暴走したリングはもはや制御がかなわない。あらゆる塵や弾幕を吸い寄せて黒ずんでいた塊はエネルギーが過剰に放出されているのか、オレンジ色の光を放ち始めた。
「まずいぞ、あれだけのバイド体が一気にぶつかってきたら……」
オレンジ色に発光するバイド体が一気に銀翼に引き寄せられて……ん? どこかで聞いたような響き。これってもしかして……。
「こ、これは……!」
あれだけゴミの集まった塊はエネルギーを発し始め、それに伴いオレンジ色に発光し始めた。そしてその球体は今まさにアールバイパーの目の前で浮遊している。その禍々しい3本の爪を勝手にギチギチと蠢かせながら。
「あれは『アンカーフォース(※2)』。バイド粒子を集め、それを限界まで圧縮することでフォースを即席で生成したというのか!?」
あまりのバイド係数の高さから光学チェーンで繋ぎながら運用するフォース、そのアンカーフォースが俺の目の前にあるのだ。
弾幕や敵に貪欲なまでに喰らいつき、己の力にするまさに人類が制御するバイド。それがフォースである。特にこのアンカーフォースは見ての通り、標的にその爪が深々と突き刺さって、一度喰らいついたらなかなか離れない凶悪なフォースである。
「アズマ殿、そのフォースの使い方は分かっているのか?」
「ああ、俺も今すぐ試してみたい」
普通の弾幕ごっこではこんなの禁じ手だろう。だが、今は一刻の猶予も残されていないのだ。何もかもが手遅れにならないようにするためにも、俺はこんなところで時間を潰している暇はないっ! 悪いが今はこいつを使わせてもらうぞ。
「禁術『アンカーフォース』!」
本能的感覚で危機感でも覚えたのか、嫉妬妖怪はデタラメに弾幕を展開する。自らを中心に花火のように拡散するそれは特に趣向も凝らしていないもの。俺はその真っ只中でリフレックスリングを射出した。
解き放たれると共に狂えるケダモノは唸りをあげて標的めがけて飛び掛かる。無数に放射状に広がった弾の壁を打ち破りながら。
「ひぃっ!?」
その正体を知らないものにとっては悪夢以外の何物でもないだろう。いくら弾幕を浴びせてもそれを吸収し、ただただこちらに食らいつく無慈悲なケダモノなのだから。今も3本の爪をまるで猛獣の牙のようにガチガチと鳴らしながら、嫉妬妖怪に食らいついていく。
「これくらいでいいだろう。フォースを呼び戻す……くそっ、こいつ命令を受け付けないぞ!」
「暴走しているのか? まるで『カロン(※3)』のフォースだな」
まずい、このままではバイドの犠牲者がまた……と思った矢先、暴走したアンカーフォースは急にドロリと溶けて、そして消えてしまった。
「やはり急ごしらえのバイド体では長時間の維持は無理か。生成した直後から激しく劣化を起こしていた」
つまりあのアンカーフォースは一度射出しただけで暴走する上に、生成直後から激しく劣化しているので短時間しか運用できないという色々な意味で欠陥品という事らしい。
「今のもバイドの力? これ以上ならず者を地底に向かわせるわけには……」
再び攻勢に出ようとするパルスィが懐からスペルカードを取り出そうとした。だが、それよりも早く周囲に異変が生じ始めていたのだ……。
「ぐっ、まただ。また見えない力に引き寄せられる……!」
この地底で働くバイドだけを本能的に引き寄せる力。ジェイド・ロス提督が言うにはそれが今まさに発生しているのだという。確かにバイド艦隊も周囲を漂うバイド粒子も地底へと落ちていくように見えた。
「我々よりも頭上に注意するんだ。またバイドの種子が降り注ぐかもわからない!」
見上げると薄暗い中で漆黒の隕石がすさまじい勢いで落ちているのが分かる。被弾しそうなものはあらかじめニードルクラッカーで迎撃するが、なにぶん数が多すぎる上に……
「アズマさんっ! 一際大きな隕石が……。まるで天井が落ちてくるようです!」
一際周囲が暗くなったかと思うと俺のすぐ脇に特大の隕石が、それこそ縦穴ギリギリの大きさの巨大なバイドの種子が降り注いできたのだ。大きいだけではない、非常に長いのだ。
「くっ、回避できない!」
縦穴の隙間に身を隠す俺達であったが、手負いのパルスィと元々巨大な体を持つコンバイラは回避のしようがない。このままでは巨大隕石の直撃を受けて二人とも叩き落とされてしまう。
「パルスィ、こいつにつかまれ!」
手負いの彼女を逆回転リフレックスリングで確保。すんでのところで隕石の直撃は免れたものの、当の本人はこちらを鋭い目つきで睨み付けている。
「敵だというのにアッサリ助けちゃうその優しさが妬ましい……」
リングにとらわれながらブツブツと悪態をつく妖怪はどうでもいい。コンバイラタイプのバイドはそのまま直撃して地底に叩き落されてしまったのだ。
「ジェイドさーーーーん!」
まずい、早く助けに行かないと。しかしそれはかなわないようだ。というのも、この隕石はただのバイド体を凝縮させた物体というわけではなさそうだからだ。
「緑色。こんなにでっかい緑色……。次から次へと何なのよもう……ぐすん」
妬むことすら疲れたか、シクシクと泣きながら現状を嘆いているパルスィ。そう、こいつは超巨大バイドであったのだ。
常識を逸脱した超巨大戦艦、噂ではどことも知れない文明の築き上げた兵器のなれの果てとも聞く緑色をした地獄の業火。間違いない、こいつの正体は……。
「グリーン・インフェルノ(※4)……」
頑丈な上にバイドならではの再生能力を付加した艦首の主砲、不気味にゆっくりピストンする棒状の動力炉、無暗に近寄るのは自殺行為なゴテゴテと配備された対空砲、そしてその巨体を支えるためのブースターさえも己の武器としてしまう超巨大戦艦、もちろんその巨体による体当たりも脅威的なのは言うまでもない。
このグリーン・インフェルノもバイドの本能のまま、まるで落っこちるように地底に向かっているんだ。
「この先は旧地獄市街地なのよ! あんなのが落ちてきたらそこに住む鬼たち、そして勇儀が……」
友人が住んでいる町でもあるのだろう。リングにとらわれながらもギャアギャアと泣きわめく橋姫。落ち着かせるために白蓮さんと入れ替わりでアールバイパーに格納する。
ゴテゴテと配備された砲台に狙われぬように、その巨体をかすめるように背後(といってもグリーン・インフェルノは落ちるように進軍しているようなので、厳密には上部)を取る。ブースターから発せられるバックファイアが爆音とともに周囲を焼くチリチリという微かな音を立てる。それだけ肉薄しているのだ。
「こんな規格外のサイズのバイドまで……。このままでは地下都市が……」
「分かっている。動力炉を叩いて何としても撃墜させよう」
操縦桿を握り直すと緑の怪物と対峙する。
(※1)ニードルクラッカー
アクスレイに登場する兵装の一つ。若干のホーミング性能を持った細いレーザーを放つ。
威力は弱弱しいが連射がきく。
(※2)アンカーフォース
R-TYPE⊿に登場するケルベロスの装備するフォース。3本の爪が付いているのが特徴で、一度喰らい付くと倒すまで離さない。
バイド係数が高すぎて光学チェーンで繋いでいないと暴走してしまう。
(※3)カロン
R-TYPE FINALに登場するケルベロスの後継機。更にバイド係数を高めたアンカーフォース改を装備しているが、チェーンがあっても時々暴走してしまう。
(※4)グリーン・インフェルノ
R-TYPEに登場する超巨大戦艦。画面全体に収まりきらないボスのパイオニア的存在。