東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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ここまでのあらすじ

 幻想郷に今も絶えず降り注ぐ「バイドの種子」。
バイドでありながらかつては人間であったためにアズマ達に協力的なバイド「ジェイド・ロス提督」によると、どうやら地底にバイドの種子を呼び寄せている親玉がいるらしいのだ。

 間欠泉地下センターから地底に向かおうとしたものの、バイド異変の為に閉鎖されていた。アズマは「白蓮」と「ジェイド・ロス提督」の艦隊と共に地底の別の入り口である「幻想風穴」を目指すが、その付近で遊んでいた妖精「リリーホワイト」がバイド化して暴走、チルノや大妖精相手に暴れていた。

 バイド汚染から解放するにはその汚染された肉体を滅ぼさなければならない。アズマは躊躇いながらもリリーに手をかけてしまう。

 自らが引き金となり人が死ぬ(リリーは妖精なので厳密には「一回休み」なのだが本人は知る由もない)ところを直視してしまったアズマはひどくショックを受けてしまう。

 が、それと同時にこれ以上の犠牲者を出さない為にもと、地底のバイドを倒す決意を固めるのであった。

 確固たる決意のもと「幻想風穴」へと飛び込む。

 今もまだリリーの断末魔が脳裏で何度も響く中……。


第2話 ~嫌われ者の楽園~

(その頃チルノ達は……)

 

 地底へとつながる洞窟「幻想風穴」へと飛び込んでいった1機の超時空戦闘機に1人の魔法使い、そして数隻のバイド艦隊……。

 

 その様子を放心しながら眺めていたのが大妖精である。

 

「リリーちゃん、リリーちゃんが……」

 

 ガタガタと震え、炎と消えた友達の名前をうわ言のように何度も口にしながら。その様子を見て彼女なりに神妙な面持ちをしているつもりなのがチルノである。

 

「ありゃ見事に『一回休み』ね。明日になるか一週間後か、まあ遅くても次の春にはまた元気な顔を見せてくれるに違いないわ!」

 

 そう、アズマは知る由もなかったが、妖精という種族はその肉体を滅ぼされても媒体となる自然が残っていれば一定時間後に復活するのである。

 

 そんな特性を持ち、更に基本的には人間より力の弱い妖精達を鬱憤晴らしに使う心無い人間も少なくない。大妖精にはアズマ達がそんな心無い人間の一人なのではないかと疑念の念を抱いていたのだ。

 

「そうだけど、あんな酷い事……彼らはおかしくなっていたとはいえ私達の友達を殺しちゃったのよ? ねえチルノちゃん、あの妖怪さん、ええと『愛弟子』だっけ? 彼は本当に救世主なの?」

 

 永遠亭をバクテリアンが侵略した時、チルノは湖の妖精達に『アールバイパーは救世主だ』と言いふらしていたようだ。もちろん、彼女が一番言いたかったのは銀翼の武勇伝のことではなくて、チルノ自身がそのアールバイパーを鍛えた師匠だという事であるが。『あたいは凄い奴の師匠だから、あたいはもっと凄い、つまり最強!』とのこと。

 

 当初はその凶行に戸惑っていた氷精ではあったが、すぐにニヤリと笑みを浮かべるとゆっくりと頷いた。

 

「そりゃあ、あたいも最初はビックリしたけどさ……。でもアズマは、あたいのマナデシかつえーえんのライバル! あたいの次に最強のアイツは無暗に弱い者いじめなんてしないわ。あれには深い訳があるとしか思えないな。『イヘン』だとか『オセン』だとか言ってたし」

 

 何処かで聞きかじったバイド汚染の話を自慢げに語る。もちろんチルノがその全容を理解している筈はないが、妖精にとって自然の汚染はもっとも忌むべきもの。とんでもない単語が飛び出したものだから大妖精は目を思い切り見開いた。

 

「お、汚染!? チルノちゃん、その話は本当? それって異変で幻想郷が汚染されているってことよね。そんな事されたらリリーちゃんはもちろん、私達も……」

「永遠に休み、消滅しちゃうよ。やっぱり、アイツは一本の木じゃなくて森全体を見る男だったってことよ。流石はあたいのマナデシ!」

 

 何者かが異変を起こして幻想郷を蝕んでいる。しかしその存在の正体についてはとても自らの手に負えないことも何となく理解していた。

 

「だから信じよう? あたい達も知らないことをやってのけてくれる、それがあたいのマナデシなんだから」

 

 そう言いつつ、今もリリーの横たわっていた地面をじっと見つめる大妖精の背中を優しく撫でるのであった。

 

 

__________________________________________

 

 

 

 幻想風穴……。

 

 そこは地上を追われた妖怪の暮らす地底へとつながる長い長い洞穴……。天井の所々に穴が空いており、陽光がその異世界への入り口を心もとない光で照らしていた。

 

 しかしこの洞窟の奥まで照らすにはあまりに弱々しい光であった。それもその筈、眼下に広がるくすんだ紫色の雲が視界を阻んでいるからである。雲が太陽の光に照らされており、洞窟の中だというのにまるで雲海広がる高空のような光景。まさに幻想的であった。

 

「この空気は……。アズマさん、あちこちに高濃度の瘴気が漂っています。決してアールバイパーから出ないように!」

 

 見た目の美しさとは相反するような言葉が飛び出る。この洞穴の雲海は瘴気によるもの。たとえ銀翼の中にいるとしても完全にシャットアウトできるものではないことを俺は知っている(かつて魔法の森で酷い目に遭ったからな……)。

 

「確かこの辺りに……あったあった」

 

 アリスから譲り受けた瘴気避けのマスクを着用し、一気に突き進もうとする……が、行く手は霧のように立ち込めており進路が分からない。闇雲に突き進んで壁に激突だなんてのは、あまりに笑えないオチである。

 

 瘴気は魔力を帯びているのか、魔力レーダーもまるで役に立たない。どうしたものかと頭を抱えていると、背後からまばゆい光が突き刺してきた。

 

「サーチライト照射。これで少しはマシになるだろう」

 

 光の正体はコンバイラに装着されていたライトのものであった。真っ直ぐな光が進むべき道を照らしていた。

 

「慎重に進みましょう。何が潜んでいるかわかったものではありません」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと穴の奥底へと潜っていく。

 

「むっ、進行方向に障害物を確認。これは岩が浮遊しているのか? まるで宇宙空間のアステロイドだ……」

 

 地下の雲海にふよふよと浮かぶ大岩。この程度の岩ならばアールバイパーの武装でも砕くことが出来そうである。狙いを定め、バーティカルマインを落とす。

 

 1発目……空振り。2発目……これもハズレ。3発目……惜しい! 4発目……命中!

 

 障害物に着弾すると光の槍を突き出す。浮遊する岩は粉々に砕け散った。ところで自由落下をする筈の爆弾だが、外した3発の爆風が見えない。まだまだ地底到達まで距離があると思うとゲンナリとしてきた。

 

 そんな中、素早い影が目の前を横切った気がした。暗がりの上にあまりの速さに何者であるのか認識できない。

 

「何かいるな……クソッ、捕捉できない!」

 

 サーチライトを振り回しあちこちを照らすが、岩肌が見えるのみである。そうしているうちに先行していたバイド戦闘機から通信が入る。

 

「なんだこの糸は? うっ、粘ついて動けない! 離れろっ、このっ!」

 

 どうやら粘着質の糸が竪穴に張り巡らされているようで、数機のバイドがそれに引っかかってしまったようである。ジェイド・ロスは声のした方向へ光を照らすと、確かに空中でもがくバイド達の姿があらわとなった。

 

 そしてその糸の発生源と思われる見慣れぬ少女も……。

 

「あ、貴女は……ヤマメさんっ!」

「こいつを知ってるのか?」

 

 どこかから垂れ下がった糸に逆さ吊りになっているように見えるが、どうやら自分の意思でぶら下がっているらしい。全身茶色いワンピースはスカートの部分が異様に膨らんでおり、粘着質の糸の存在もあってまるで蜘蛛のようである。

 

 その状態から体をよじらせてスイングを始めると、おもむろに腕から糸を撃ち出す。的確に岩肌に蜘蛛の糸をくっつけると、そこを支点にブランコのように大きく揺れ、バイドシステムαを捕えている蜘蛛の巣の上に乗っかった。

 

「おやおや、天下の尼僧様がこんな救いようもない妖怪どもの掃き溜めに何の用だい?」

 

 嫌味たっぷりに白蓮にねちっこく声を掛ける蜘蛛の妖怪。明らかに歓迎しているようには見えない。どうやら白蓮とは何か遺恨があるようだ。

 

「白蓮、こいつは……?」

「彼女は『黒谷ヤマメ』。土蜘蛛といって、感染症を操る能力と粘着質の糸を駆使して人間に絶望を与えながら貪り食う凶悪な妖怪です!」

 

 妖怪も分け隔てなく受け入れる筈の白蓮に凶悪と言わしめる妖怪。こいつはかなりヤバい奴だ。

 

「説明ご苦労さん。そゆことなの。こんな私もね、ちょっとは反省して命蓮寺に入門しようとしたらさ……断りやがったのよ、この魔住職」

「嘘ばっかり! 貴女の本当の目的は、お墓参りに来た人間を襲うことだったでしょう!」

 

 なるほど、全ての人間が命蓮寺をよく思っていないように、妖怪は妖怪で色々と確執があるようだ。そしてこんな奴をのさばらせることは白蓮さんの理想を妨げる要因でしかない。

 

 更に追い打ちをかけるようにコクピットの中に置いてあった宝塔型通信機が激しい光を発しながら震える。通信の相手はにとりであった。

 

「そこにいるのは土蜘蛛だね? あんな奴容赦しなくていいよ。川は汚すし仏の白蓮さんは怒らせるし……この際だからギッタンギッタンにやっちゃってくれ!」

 

 よし、決まりだ。こいつを倒さないことには地底でのバイド調査もままならない。特にバイドとは関係なさそうだが少し懲らしめてやるか。

 

 薄紫色の瘴気がゆらりとうごめくのがコンバイラのサーチライトで見えた気がした。相手もやる気満々のようだ……。

 

 しかしまあ瘴気が雲海のように漂うこの場所で土蜘蛛とやり合うことになるとは。雲と蜘蛛もダジャレなんじゃないかと思うとどうにも気が抜ける。もちろん気を抜いてはいけない相手だという事は重々承知しているが。

 

 なし崩し的に戦闘する羽目になってしまったが、改めて戦況を確認すると決して有利とはいえない状態であることが分かる。

 

 まずこの幻想風穴という縦穴という地形が足枷となっている。これではアールバイパーの強みである機動力を活かせない。更に狭いのか、コンバイラも窮屈そうにしており、援護を受けるのは無理だろう。小型バイド達の大半は蜘蛛の巣に引っかかっておりやはり支援不可能。ゲインズが救助に向かっているようなのであちらは彼に任せよう。

 

 すると残るは俺と白蓮。最初は白蓮さんが自らヤマメと戦おうとしたがそれは俺が止めた。彼女は感染症を操る能力があるという。万一白蓮さんがとんでもない病気を押し付けられたらと思うとゾッとしたのだ。

 

 一方の俺はアールバイパーという防壁の中にいるのでその影響をじかに受けることはないだろう。

 

 それに彼女は端から俺のことなど狙っていない筈である。毎度毎度のことだが、幻想郷の少女であるヤマメは俺のことについてこんなことを口にしていたのだ。

 

「それにしても命蓮寺もしばらく見ないうちに随分と賑やかになったもんだね。そこのやたら喧しい変な鳥の妖怪も新しい門徒なのかい?」

 

 毎度毎度、銀翼を「変な鳥の妖怪」として認識されるのは悲しいが、今回に限ってはこの誤解が役立ちそうなのだ。

 

 超時空戦闘機、つまり乗り物であるアールバイパーは感染症にかかりようがない(さすがのヤマメもコンピューターウイルスなんかは操らないだろうし)ので、良い囮になれるという算段だ。

 

 一瞬ウイルスがどこかの隙間から入り込んで……とも思ったが、ゴマンダーの内部で戦っても俺は全然バイド化しなかったくらいだし大丈夫だろう。

 

 しかし問題は狭さだけではない。薄暗くてよく見えないことも不安要素だし、この辺りを根城にしているであろうヤマメは縦穴での戦闘にもきっと慣れている筈。まだまだ心配な点は残っている気もするが、それでも俺がやらないといけないことは変わらない。

 

 対するヤマメは蜘蛛の糸を巧みに利用して縦横無尽に飛び回っている。こういう相手には……

 

「『ハンター』装備! こいつからは逃げられまい」

 

 対象を執拗に追いかける蒼い球体を大量に発射した。いくら相手が素早いとはいえ、ハンターの追撃を振り切ることなど……あ、あれ?

 

「どうしたのさ。もしかして攻撃おしまい?」

 

 蒼き狩人が土蜘蛛を仕留めることはなかった。ああしまった、そういうことか……。

 

 大回りしてしまうハンターはこのような狭い場所ではまともに機能しない。恐らくヤマメをホーミングする間に壁にぶつかってしまったのだろう。こうなると地道に狙い撃つしかないのだが、なかなか相手を捕捉できない。

 

「仕方あるまい。ネメシス、コンパク、ローリングフォーメーションだ!」

 

 オプションを3つ呼び出すとアールバイパーの周囲をくるくる回転させる。意識を集中させ、俺はスペルカードを取り出した。

 

「操術『オーバーウェポン』!」

 

 何度経験しても慣れるものではない。回転するオプションから銀翼に、そして俺の両腕に魔力が伝わってくる。襲ってくる吐き気に負けないように、俺は再びハンターを使用する。

 

「……!?」

 

 狙い通りだ。光の針となったハンターは一直線に飛んでいく。これらは少しも遠回りすることなく飛び回る土蜘蛛に突き刺さっていった。

 

 このまま倒そうと思ったがオプションたちの魔力が枯渇してしまう。やはり長時間の稼働は無理か……。急いで3つのオプションを格納するといまだに怯んでいるヤマメに接近戦を仕掛けることにした。

 

「喰らえっ、レイディアントソード!」

 

 追撃を逃れるためにヤマメは蜘蛛の糸を吐き出し、この場を脱しようとしていたが、そもそも俺はヤマメ本体なんか狙っていない。本当の狙いは蜘蛛の糸にぶら下がった瞬間の糸のほうである。

 

「かかったな? 奈落の底に落っこちろ!」

 

 蒼き刃が異様に細い蜘蛛の糸を斬りつけ……あれ? ビクともしないぞ。見るとレイディアントソードが蜘蛛の糸まみれになっておりその切れ味を完全に失っていたのだ。

 

「ふう、間に合った間に合った。これならただの棒と変わらないわね」

 

 そのまま体を揺らすと受け止めたレイディアントソードを軸にヤマメ自身が大回転をした。こうすることでアールバイパーと蜘蛛の糸でつながれたことになる。それをゆっくりと手繰り寄せると銀翼の上に乗っかった。

 

「くそっ、降りやがれ!」

 

 必死に機体を左右に揺らして振り落とそうとするが、びくともしない。糸まみれのレイディアントソードは使い物にならないし、サンダーソードを使用するほどのオプションの魔力も残っていないだろう。さっき盛大にオーバーウェポン使ったし。

 

 万事休すか。くそっ、こいつはどう出てくる?

 

「あんまりこういうのは好きじゃないけど、今回は能力使わせてもらうよ。アンタはあのいけ好かない住職サマのお気に入りっぽいし、何よりその銀色が気に食わないからねぇ」

 

 こいつ、何かしらの疫病をもたらすつもりのようだ。余裕たっぷりの邪悪な笑みで「さーて、どんな病気がいいかねぇ」とか怖いことを口にしている。そして不意に周囲の瘴気がわずかに揺らいだ気がした。

 

「よし決めた、鳥インフルエンザにしてやる!」

 

 嫌な気がヤマメの両手に収束し、銀翼を包み込んだ。ぐっ、何も見えない。しかし魔力を帯びた瘴気の雲がこちらに集中したことで魔力レーダーが正常に機能を始める。俺の周囲を除けば瘴気はなくなっているからだろう。土蜘蛛、破れたり! 俺はレーダーを頼りにもう一つの近接武器「リフレックスリング」を逆回転で射出する。

 

「な、なんだってんだい? 今頃高熱にうなされている筈なのに……」

 

 抵抗などされる筈もないと高を括っていたヤマメはあっさりとリングに拘束されて慌てふためく。俺はジタバタと暴れる土蜘蛛をリングでガッチリと捕まえると、高度を一気に上げて瘴気の塊から脱出。

 

「そういえば、お前にはまだ言っていなかったな」

 

 なおも抵抗を続けるヤマメをゴツゴツした岩の壁にぶつけガリガリと擦りつけて、大人しくさせる。風穴に火花が散る。これだけ叩きつけたのだから手足をぐったりとさせているようだ。

 

「いいか、覚えておけ。アールバイパーはやたら喧しい変な鳥の妖怪じゃなくて……」

 

 そのまま縦方向に銀翼を回転させる。最初はゆっくりと、しかし段々と勢いをつけて。

 

「超時空戦闘機だっての! 陰陽『アンカーシュート』!」

 

 最後にスペルカード宣言を行いつつ、ヤマメを思い切り上方向にブン投げた。花火のように爆発を起こし、懲らしめることが出来たことが分かる。糸のすっかりほどけたレイディアントソードで、残った瘴気と今もバイドを捕えている蜘蛛の糸を斬り払う。

 

「かーっこいい♪ お、他のバイドもゲインズが救出したようだな」

 

 今俺が救出したバイドシステムαで最後のようだ。今回はどうにか切り抜けたものの、地底の妖怪はこんな奴ばかりなのかと思うとゲンナリとする。だけど行かなくてはならない。バイドを倒して地上に帰るためにも。

 

 傷ついたコンバイラ隊の一員が旗艦に格納されるのを確認したのち、俺達はさらに深部へと進路を取った。

 

 更に深く深く……。もはや地上の光など届かないほどの暗黒が周囲を取り巻いていた。

 

「妙な瘴気が消えたと思ったら今度はバイド粒子が濃くなってきたな。この辺りはバイド汚染が結構進行していると見える」

 

 俺にはよく分からないのだが、バイドそのものであるジェイド・ロス提督がそう言うのだから間違いはないのだろう。

 

「ひじりん、生身でバイド粒子に触れるのは危険である。アズマ殿の機体に避難されよ」

 

 確かに、バイドを除けばこんな場所で生身でいるのは白蓮くらい。ゲインズに言われた通り、もしものことがあっては困るのでアールバイパーに乗せることにした。

 

 それにしてもいつになったら地の底までたどり着けるのだろうか?

 

 暗がりの中、そんなことを提督にボヤいていると突如、提督がいきなり高度を下げ始める。

 

「ぐっ、引っ張られる! 体が勝手に……」

 

 見ると提督だけでなく、他のバイドもまるで見えない力に引きずり込まれるように高度を下げているのが分かる。

 

「見てくださいっ! 漂っていたバイド粒子まで。バイドだけが引き寄せられているようですね。黒幕の仕業なんでしょうか?」

 

 提督を引っ張り上げようとリフレックスリングで捕えて引っ張り上げようとするが圧倒的に力が足りない。しかしそうしているうちにバイド達は静止した。

 

「と、止まった……。某を呼ぶ声がずっと響いて、それで勝手に動き出してしまう。この某が本能に屈してしまうとは、不覚!」

 

 前にもバイド達は地底に引き寄せられそうと口にしていたことを思い出す。恐らく隕石……もといバイドの種子も同じように地底の「何か」に引き寄せられているんだ。

 

 一体何に引き寄せられているのだ? そう思っていくら下を見ても真っ暗で真っ暗で答えなど出るはずがない。分かってはいたが俺は見ることを辞めることが出来なかった。

 

 もちろん漆黒は等しく前面にいきわたり……いや、一瞬緑色に何かが光った気がする。

 

「敵襲! 正体不明の生物が高速接近中!」

 

 先行していたバイド戦闘機から知らせを受ける。恐らく「緑色に光った何か」の正体であろう。魔力レーダーでも異常な値を示している。

 

 ほどなくして謎の生物が姿を現す。緑色に光る蛇のような怪物であり、バイド艦隊を見つけると食らいつくようにして突っ込む。

 

「ぐっ。回避、間に合えっ……!」

 

 緑色の人型兵器を狙った蛇だったが間一髪で回避する。その後大きくターンすると、今度はアールバイパーに狙いを定めたようだ。持ち前の機動力で余裕を持って回避するが、コイツはいったい何者なのか……?

 

「『アウトスルー(※1)』か? しかしどうにも形状が違うような……」

 

 敵の正体は分からぬが、こんな奴を野放しには出来ない。俺は蛇の頭部に執拗にレーザーを当てることでどうにかこれを撃退。その長い体を爆発させた。

 

「どうにか撃退したね。でもバイド粒子は全然減らない。あいつ、本当にバイドだったのかなぁ?」

「いいえ、今のはバイドではないようです」

 

 コクピットの後ろからの白蓮の凛とした声が前を見るようにと促す。薄暗がりの中、おそらく緑色の怪物をけしかけたであろう妖怪が不満げな表情で立ち塞がっていた。

 

「嫉妬妖怪『水橋パルスィ』ですっ。こちらの嫉妬心を煽る能力も持っており、長期戦は不利になります」

 

 感染症に嫉妬心……。確かに忌み嫌われそうな妖怪が地下にはワンサカいるようである。

 

 ここは通さないと言わんばかりに先ほどの緑色の化け物と共に立ちはだかっていた。

 

「この先は危険よ。悪いことは言わないから帰りなさい」

「その『危険』を排除しに来たんだ。地上で平和に暮らすには避けては通れない道、ここを通してくれ」

 

 出来るだけ相手を刺激しないように説得を試みる。しかしパルスィがさっきから睨み付けているのは俺達ではなくて、後ろに控えるバイド艦隊であった。

 

「そうね、確かにかつてない脅威が地底に押し寄せているわ。今のようにね。まさか妖怪寺の一味がこいつらをけしかけていたとは……」

 

 こいつ、何か盛大な勘違いをしているぞ! 確かに俺達はバイドを連れて地底に向かっているが、それは地底を荒らす為ではない。

 

「こいつらは他のバイド達とは違うっ。姿こそこんなになっているが、その心は人間そのもの……!」

「アズマ、熱くなっては上手くいく交渉もうまくいかないぞ。ここは私に任せるといい。コホン……お嬢さん、我が同胞が多大な迷惑をかけているようで申し訳ない。私は同じバイドとして彼らを連れ戻さなければならない。せめてもの罪滅ぼし、させてほしい」

 

 深々と頭を下げるようにその巨体を動かすジェイド・ロス提督。相変わらず不機嫌な表情を崩さない嫉妬妖怪。

 

「なんで侵略者のくせにそんなに紳士的なのよ。その器の大きさが妬ましい……。妖怪なら妖怪らしく襲い掛かりなさいよ!」

 

 なんか霊夢が言い出しそうな訳が分からない理論を並べてくる。まるで態度を軟化させない少女にたじろぐバイド艦隊。

 

「罪滅ぼしすら許されぬというのか? そこをどうか……(ペコリ)」

「うるさい! リア充もバイドもみんな爆ぜればいいのよ! 帰らないというなら、みんなまとめてやっつけてやる!」

 

 説得に応じるつもりはないようだ。あと誰がリア充だ。

 

「この少女……精神がバイドに汚染されかけているに違いない。卑屈すぎて対話もままならないぞ!」

「いえ、元々こういう性格なんですよ……」

 

 余計な戦闘は行いたくなかったがこいつを無視して万が一、その能力を使われてチームワークを乱されたら厄介である。致し方あるまい……。

 

「ならば進むか引くか、正々堂々と弾幕で決着をつけよう。アールバイパー……参る!」

 

 ゴチャゴチャ御託を並べても動かぬなら、幻想郷の絶対的ルールを行使するまで。俺は静かにオプションを展開し、戦闘態勢を取った……。




(※1)アウトスルー
R-TYPEシリーズに登場する数珠つなぎのようになった蛇のようなバイド。
TACTICSシリーズを覗いて、本体を破壊することは出来ないが、胴体からバイド体をまき散らすので、胴体を破壊しないと始末に負えない。
基本的にはゴマンダーに寄生しているのだが、時々単体でも登場する。

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