東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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東方銀翼伝 第4部始動……!


東方銀翼伝ep4 A.X.E.プロローグ
A.X.E.プロローグ ~這い寄る「悪夢」~


(人里の寺子屋……)

 

 カンカン照りの陽射しも若干遠慮がちになってきたとある晴れた日。この日も人里の子供達相手に教鞭を振るう女教師の姿があった。しかしその授業の状況は芳しいものとはとても言えないものであったのだが……。

 

 淡々と進められる歴史の授業は興味を抱かないものにとっては子守唄に過ぎない。ワーハクタクの教師である慧音は必死に教鞭を振るうも真剣に耳を傾けるものが1割、とりあえず板書だけは取ろうとするものが2割、話半分に聞き流すのが3割。残る4割のうち半数は舟をこぎながらもなんとか意識を保とうとしており、もう半数は完全に夢の世界に旅立っていた。

 

「寝てるなっ!」

 

 要所要所で怒声やチョークが飛び交うのもいつもの光景。これで飛び起きることもあるが、頑として動かない子も当然いる。慧音先生がやれやれと額に手を当ててため息をついていると……。

 

「地震っ!?」

 

 突如、寺子屋が揺れた。否、揺れているのは大地。地震だ、それも結構大きい。

 

「机の下に潜って脚を掴め!」

 

 流石に居眠り組もこの衝撃を受けたら飛び起きる。日々の避難訓練の賜物か、寝ぼけ眼ながら的確に避難行動を取ることが出来ていた。

 

 ひとしきりガタガタと教室を揺らすと、再び平穏が戻ってきた。ガヤガヤと騒ぎ立てる子供たちに落ち着くように促すが、彼女の意識はそこにあらず。別のことに思索を巡らせていた。

 

「(ここ最近で妙に地震が増えたな。異変の前触れでなければいいのだが……)」

 

 

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(妖怪の山山頂、守矢神社……)

 

 暦の上では秋になっても、いまだ終わらぬ夏の陽気。日が傾きかけてもその蒸し暑さは鳴りを潜めることはない。うるさいセミの声がまた暑さに拍車をかけるような気もする。そんな神社に1機の青い乗り物が降り立った。

 

「ただいま戻りました、神奈子様」

 

 ガントレットの戦闘騎から颯爽と降りる風祝。今しがた幻想郷の主要な場所を見て回っていたのだ。

 

「おかえり、さすがに遠くの様子は分からないからね。早苗の足の遅さもその戦闘飛行バイクさえあれば全然問題にならないだろう? これも技術を提供してくれたアズマのアールバイパーのおかげだな。わっはっは……」

「それで本題に移りたいのですがっ!」

 

 何のために高速で空を飛び回っていたのか、それはここ最近頻発する地震とバイドの種子異変との関連性を調べるためだ。

 

「ジェイドさんによるとバイドは地底に向かって一心不乱に近づいているとのことで、今後地底に入ったバイドの種子が何か悪さをしないかという事で見て回ったのですが……」

 

 そこまで語ると早苗は口ごもる。柱を背負う神様に促されてその続きを重々しく口にした。

 

「地震と一緒に間欠泉が発生しているようです。そして時々バイドを伴って……」

 

 間欠泉にバイドが混じる。これは紛れもなくバイドが関わっている異変であることを意味していた。だが、守矢神社の神々にとってはそれ以上の意味も孕んでいる。神奈子は技術革新の為にとある地獄鴉に八咫烏の力を与えたことがあったのだ。

 

「まさか……な。元々灼熱地獄のあった場所だ。バイドが地獄のマグマ活動を活発化させているだけかもわからない」

 

 しかし無情にも守矢神社からけたたましいブザーが鳴り響く。ふもとの間欠泉地下センターでの異常を示すものであった。

 

 二人は真っ青になりながら妖怪の山を駆け下りた。

 

 

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(間欠泉地下センター入口……)

 

 急ぎ麓まで駆け寄ると縦穴からおびただしい量の熱湯とバイドが湧き上がっていた。

 

「そんなっ、バイドがこんなに……!」

 

 ビシャビシャと湯気立つ液体が足元にかかる中、風祝は反射的に戦闘騎に飛び乗ると一気に飛翔。オーバーウェポン状態のハンターで飛び交う肉塊どもを駆逐していく。

 

「仕方ない。封鎖するぞ!」

 

 空中での奮闘を案じながらも、制御パネルの場所まで神奈子は御柱に乗りながら進む。もちろん邪魔するバイドを弾幕で追い払ったり柱でぶん殴りながら。首尾よくパネルを操作するが、バイドの数は一向に減らない。

 

「な、なんじゃこりゃ!? でっかい奴が挟まっていて封鎖できない!」

 

 苦戦しているようである神奈子の声のする方向に目をやる早苗さんだが、その「でっかい奴」を目の当たりにして心臓が口から飛び出そうになった。

 

早苗「ド、『ドブケラドプス(※1)』!?」

 

 そう、地下センターのゲートにちょうどその巨体が挟まっていたのだ。異様に長くて大きい頭部に、胸部から時折覗き込むもう一つの頭、そしてそれを微妙に丸めた体には長い尻尾が生えており、ムチのようにしならせて外敵を排除している。

 

 彼は空を見て何を思っているのだろうか? いや、何も思っていない。ただただ攻撃するだけなのがバイドなのだから。早苗はそう思った。

 

「早苗、こいつをどう倒すんだか知っているんだろう? やっぱり頭をブン殴るのか?」

「頭は頭でも、もう一つの頭が弱点です!」

「もう一つの頭? こいつは映画のゼノモーフ(映画のエイリアンに登場する怪物)みたいに口の中に口でもあるのか?」

 

 混乱する最中、ドブケラドプスの胸部から弱点である頭が飛び出る。

 

「なるほど、こいつね。御柱を喰らうがよいっ!」

 

 全てを理解した神様は高く飛翔すると御柱を突き立ててドブケラドプスの胸部を思い切り踏みつける。御柱と共に巨大バイドを叩き落とすと、すぐさまゲートを閉じる。

 

 空中のバイドも早苗さんが仕留めたか、どこかへ散って行ってしまったかでここにはもう残っていない。

 

「それにしても今回の異変、随分と大がかりですね。私が地底に向かって……」

 

 バイドの蠢く真っ暗な洞穴を早苗がたった一人でほぼ生身で向かう様子を想像した神奈子はブンブンと激しく首を振って止めに入る。

 

「いいや、ダメだ! 異変の元凶を叩くのも大事だが、力なき人々を地上に飛び出たバイドの脅威から守るのも立派な務めだ。早苗にはそれを命じる」

「……はい!」

 

 一宗教の神様として、脅威を叩くのも重要ではあるが、それ以上に自らを信仰する民の安全も重要である。神奈子は自分にそう言い聞かせた。と、ここで何か忘れ物でもあったのか、飛行バイクと共に飛翔しようとする早苗を呼び止めた。

 

「あっ、バイドに襲われた人間や妖怪を助けたらこのお守りを渡して神社の宣伝してこい」

 

 早苗は盛大にずっこけた。

 

 気を取り直して、再び神社を飛び立った巫女を尻目に神奈子は地下の様子を案ずる。

 

「(バイドとかいうやつ、あの地獄鴉に目を付けなければいいのだが……。そうなる前にバイドを集める黒幕を叩きたいのは山々だが、私のいない間にここを制圧されては厄介だ。くっ、動けない……)」

 

 

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(幻想郷どこかの岩場……)

 

 あちこちに切り立った洞穴がぽっかりと口を開けているような岩場。ゴツゴツと隆起の激しいこの場所は刺激的ではあるものの、地面の底まで続いているのではないかと思われる穴も所々口を開けており、真っ当な人間の親であればこんな危険な場所で子供たちを遊ばせることはないだろう。

 

 しかし、自由に空を飛ぶことが出来て、なおかつ好奇心旺盛な妖精たちにとっては、こんな場所も遊び場となる。キャイキャイと甲高い声で騒ぎながら飛び交っているのはチルノとリリーホワイト、その少し後ろで二人を心配しながらも一緒にいるのが大ちゃんこと大妖精である。

 

「ふふん、あたいが一番だったね。力だけじゃなくてスピードでも最強!」

「はやーい……。頑張り過ぎて脚が張るんですよー」

 

 どうやらかけっこでもしていたらしく二人は息を切らしていた。今も不安げな面持ちで二人に声かける大妖精。

 

「ねぇ、こんなデコボコした場所で危ないよ? 怪我をしたり穴に落っこちたりしたら……」

「へーきへーき! よし、今度はあのとんがった岩まで競争だよ!」

 

 少し前までへばっていたリリーも元気を取り戻すと、再びチルノとこの岩場を駆け回る。

 

「よーし、準備はいいね? よーいドン!」

「今度は負けないわ! 今度こそ……」

 

 妖精同士のどこか微笑ましい勝負……だが悲劇は起きる。

 

「リリーちゃん!」

 

 岩場の窪みに躓いてバランスを崩したリリーホワイトが転倒するのだが、その先にはぽっかりと大穴が口を開けていたのだ……。

 

 走るのに夢中のチルノは気が付かないし、大妖精も二人から距離を取り過ぎていたせいで間に合わない。リリーホワイトは穴に落ちてしまったようだ。穴は真っ暗であり、既に彼女の姿は見えなくなっていた。

 

「どどど、どーしよー……」

 

 一人オロオロする大妖精であったが、ゴールまで着いた後に戻ってきたチルノはあっけらかんとしていた。

 

「穴に落っこちたの? 大丈夫大丈夫。あたい達妖精には羽があるでしょ? フワーって飛んで戻ってくるよ」

「でも落ちた時に羽に怪我とかして飛べなくなったら……」

 

 リリーの身を案じる大妖精であったが、どうやらそれは杞憂に終わるようである。というのもその穴から1人の妖精がふわりふわりと出てきたからである。

 

「ほら、大丈夫だったでしょ?」

「ねぇ、リリーちゃんは本当に大丈夫だったの? なんだか目がうつろだけど……」

 

 穴に落ちたもののすぐに戻ってきたリリーホワイト。しかし大妖精が言うようにその様子は明らかにおかしいものであった。その両目は虚ろであっただけでなく、どこか黄色がかった目の色、そして猫や爬虫類を思わせるような細長い瞳をしていたのだ。

 

「はルですヨー!」

 

 両手で掴んでいたのは黒ずんだ桜の花びら。それをチルノと大妖精に投げつける。

 

「なんだい、今度は弾幕で勝負? 春でもないのにいい度胸ね。その勝負、受けて立つわ!」

 

 宣戦布告と捉えたのか、チルノはやる気満々であるが、明らかに様子のおかしいリリーの身を一人案じるのは大妖精。

 

「ねぇ、リリーちゃん。穴に落ちた時に頭とか打ったんじゃないかなぁ? だってなんか変だもの。そういうときはやっぱり病院に行った方が……」

 

 勝負が始まる直前に大妖精はリリーの片腕を掴み大人しくするように促すが、軽く払われてしまった。

 

「痛っ、リリーちゃんやっぱり何かがおかしいよ!」

 

 戦闘の邪魔をするなと大妖精を突き飛ばしたのだろうが、こんな腕力があるはずもない。そんな何かがおかしいリリーといまだに異変に気が付かぬチルノが一騎打ちを始める……。

 

 勝負は瞬く間に決着してしまった。圧倒的物量でこの勝負を制したのはリリーホワイト。敗れたチルノは岩肌に膝をついていた。

 

「た、確かにおかしいわ。春でもないのにこの威力……」

「そうでしょう? やっぱりおかしくなっているのよ。何とかして診てもらわないと」

 

 だが、チルノを倒したリリーは次に大妖精を標的に弾幕を繰り出し始めた。

 

「いやっ、やめて! 私は別に弾幕したいわけじゃ……」

 

 必死に逃げ惑う大妖精。一方のチルノもただ見ているだけではない。

 

「一人だとキツいわね。ここはあたいの『マナデシ』にも手伝ってもらわないと。大ちゃん、うまくリリーホワイトを引きつけておいて。あたいの強力な助っ人『マナデシ』を呼んでくるから!」

 

 それだけ告げると氷精は岩場を後にした。残された大妖精は琥珀色の瞳をしたリリーの猛撃から逃れようと逃げ惑うが、被弾するのも時間の問題である。

 

 そんな危機的状況を打破したのはチルノがいう「マナデシ」、つまりアールバイパーを操る轟アズマではなくて紅白色の眩しい博麗の巫女であった。おそらく妖精が騒いでいるという苦情を誰かから受けてやって来たのだろう。

 

「さっきからうるさいっ! 春でもないのに騒ぐのなら退治するわよ!」

 

 そう言いながら無数の針をリリーに向ける。典型的な口より先に手が出てしまうというやつである。

 

 妙な力で強化されているとはいえただの妖精と妖怪退治のスペシャリスト。これまた勝負になるはずなく、リリーホワイトは地面に突っ伏した。

 

「まったく面倒なこと頼むわね、里の人間も。とりあえずそこの頭が春の妖精、次何かやらかしたら、今度は『一回休み』にしてやるからね。で、そっちの妖精はこいつを家まで運んでやりなさい」

 

 やれやれとため息をつきつつ、霊夢は嵐のように去っていった。再び取り残された妖精二人。大妖精はぺたりと座り込んで動けないでいた。腰が抜けてしまっているようだ。

 

 一方のリリーホワイトも倒れたまま動かない……と思ったら、わずかに指が動いた気がした。

 

 そしてムクリと起き上がる。琥珀色の瞳で座り込む大妖精を凝視しながら。

 

「ハるデすよー!」

 

ヒッ、と短い悲鳴を上げながら大妖精は座りながら後ずさりを行う。霊夢の、そしてチルノの名前を叫びながら。しかしその声が誰かに届くことはなかった……。

 

 再びピンチに陥る大妖精なのであった。

 

 幻想郷各地を風のように飛び交うは氷の妖精。探すは銀翼を操り弾幕を展開するあの人間。

 

「どこいっちゃったのよ、あたいの『マナデシ』は? 大ちゃん、すぐ戻るから無事でいてよね……」

 

 命蓮寺にそれらしき銀色の翼がないのを確認すると、再びあちこちを探し回る。

 

 大妖精、そしてリリーホワイトの無事を祈りつつ……。




(※1)ドブケラドプス
R-TYPEシリーズに登場する大型バイドでありシリーズの顔。
ド「ブ」ケラドプスなのかド「プ」ケラドプスなのか、公式でも表記が揺れていたが、R-TYPE TACTICSシリーズ及びR-TYPE FINAL2ではド「プ」ケラドプスのようだ。
東方銀翼伝では一貫してド「ブ」ケラドプスと呼称する。

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