東方銀翼伝 ~超時空戦闘機が幻想入り~   作:命人

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神奈子を襲った黒い隕石の正体はなんと「バイドの種子」であった。
あらゆる物体に取りついて侵食する恐るべきバイドの侵略に戦慄するアズマと早苗。

更に悪いことに人里目指してバイドの軍団が一直線に進んでいるというのだ。

最悪の事態を回避するべく、アールバイパーを飛ばす……


第10話 ~狂機と提督と~

(幻想郷よりはるか上空。大気圏外……)

 

 私は今青く澄みとおった美しい星を眼前に捉えている。他でもない、あれは地球。そう、私の故郷だ。

 

 しかし、忌まわしき緑色の要塞が行く手を阻んでいた。

 

 クソッ! どいつもこいつも何故私の帰還を阻むのだ?

 

 苛立ちを覚え打ち震える中、私は少しでも落ち着こうとビターチョコレートをかじりつつ冷めかけた紅茶で喉を潤した。束の間の安堵を得ると、私は艦隊に出撃の命を下した。

 

 誰であろうと邪魔するものは撃破する。なんとしても地球に帰るんだ!

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 正体不明の要塞と戦艦群に我が艦隊は敗北を喫した。触手のようなものを持った戦艦に不気味な青い瞳……いや、あれはコアなのか? とにかく機械のような体を持っていながらその容貌や挙動は奇怪そのものであった。

 

 あれはバイドではない。かといって私の知る地球の兵器でもなかった。いったい地球で何が起きたというのか?

 

 あと少しで地球に、私の故郷に降り立てるというのに! こんなところで足踏みをしている場合ではない。

 

 一度後退し、再度突破を試みる。これで何度目なのだろうか……。

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 信じられないことが起きた。我々がいくら攻撃を加えてもびくともしなかったあの要塞が突然爆発四散したのだ。

 

そして私は見た。1機の銀色の戦闘機が爆発する要塞から脱出するところを。あいつがやったんだ。信じがたいがそうとしか考えられない。

 

あれも地球の兵器なのだろうか? 少なくとも私が見慣れている戦闘機とはまるで違う形状を取っていたような気がする。

 

あの機体も私を見たら襲ってくるのだろうか? 不安は残るが、私は待望の地球に降り立つ用意を進めた。

 

さあ、行こうか……。

 

 

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(その頃、幻想郷地上では……)

 

 命蓮寺の一角を踏み荒した妖怪の軍団だ。人里に近づけるのは危険すぎる。早苗さんの戦闘騎がついていける程度の速度でただただ前進する。魔力レーダーにそれらしき姿はまだ見えない。

 

 夕陽が銀翼を照らす中、わずかにレーダーが魔力を察知した気がした。次の瞬間にはそれがわらわらと数を増やし始める。バイドとは生体物理学、遺伝子工学、魔道力学までも応用して合成した人工の生ける悪魔。それゆえ魔力の類も持っているのだろう。

 

 近いぞ、この速度で進むのなら会敵まであと3……2……1……

 

「見つけたぞ、バイドの軍勢だ。心してかかるぞ、早苗っ!」

 

 地面を砂埃を撒き散らしながら多数のバイドが跋扈する。まさに地獄絵図であった。

 

 地面を這い寄る「ガウパー」に低空飛行を行う「ストロバルト」、さらには幻想郷の道具達がバイド化して暴走しているらしきものまで。その寄せ集めのような軍勢が一直線に進軍しているのだ。彼らの目指す先には……。

 

 奴らに人里の土を踏ませるわけにはいかない。俺はオプションを3つ展開するとローリングの陣形を取る。

 

 そのまま銀翼を危険がない程度に高度を下げて飛行させると、低出力菊一文字、つまり「バーティカルマイン」をばら撒く。

 

 自由落下するポッドは着弾後に縦長の爆風を発生させる。スプレッドボムよりも範囲は狭いものの威力は折り紙付き。ガウパーどもが甲高い悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく。

 

 標的を見つけたバイド達も黙ってはいない。地面からは銀翼をひっ捕らえようとガウパーがノミのように高く跳躍してくるし、空中のストロバルトもどこからかき集めたのか、大量のゴミをまき散らしてきた。

 

「さすがに数が多すぎる……」

 

 爆弾をばら撒きながらハンターで追撃を行っていく。大回りしながらも素早い球体は主にストロバルトのばら撒くゴミを砕いていた。やはりバイドを叩くほどの火力は持たないか……。

 

「このっ、このっ……!」

 

 目の前で大切な人を酷い目に遭わされたのだ。早苗さんの攻撃は容赦ない。細長いレーザーを低空で放ち、次々とバイドを駆逐していく。オーバーウェポンも用いたその様にはある意味執念も感じる。

 

「放っておいたらそこらの妖怪よりもずっと厄介です。全滅させ……また隕石が!?」

 

 一瞬だけ俺たちの頭上を横切った影、それは大きな塊であった。だが、隕石にしては妙に角ばっている……?

 

「隕石……? 違う、こいつはメカだ!」

 

 必死の回避行動によって落ちてきた塊の下敷きになることはなかったが、落ちてきたその姿に俺は驚愕した。

 

「こいつ『モリッツG』(※1)だ! 隕石に紛れて幻想郷に落ちてきたんだよ!」

 

 緑色の巨体に赤く光る大きなコア、まるでスフィンクス像のようにどっしりと横たえている4つの脚、大口径のレーザー砲とこちらをじわじわ追いつめる球体のミサイルを発射するランチャー。

 

 そしてこれだけの巨体でありながらその機動力には目を見張る。背部のバーニア2本がそうさせているのだ。

 

 こいつは投下させた周囲を制圧させるという兵器。幻想郷、それも人里近いこの場所に投下させたということは……。

 

「こんなのが人里で暴れ出したら大惨事です! なんとしても破壊しましょう!」

 

 案の定、モリッツGは俺たちの姿を確認するも、大して興味を持ったそぶりは見せずにクルリと向きを変えて立ち去ってしまう。

 

 ジグザグに走行しながら向かう先は……。

 

「まずい、やっぱり人里に向かうつもりだ。奴に人里の土を踏ませるな! 早苗、あんたはコイツらを片付けてくれ。俺はこの素早い大物をやる!」

 

 速度を上げてバイドに指揮系統を乗っ取られた兵器を追う……。

 

 ヤツもこちらの接近に気付いたようであり、大型バーニアを思いきりふかし、距離を離そうとする。更にこのバックファイアでこちらを丸焼きにしようとしているのか、微妙に上下に揺らしてくるのだ。

 

「このっ、ツインレーザー!」

 

 少しでも機動力を削るべく、バーニアを破壊しようとするものの、吹き出す炎の威力が高すぎて中々損傷を与えられていない。どうにか振り切られないように最高速で追いすがっているといった感じだ。

 

 とはいえ、相手側も振り切ることが出来ないと判断したのか、器用にこちらを振り向くと速度を殺さないようにレーザー砲をこちらに向けてくる。

 

「まずいっ、来る!」

 

 慌ててアールバイパーの高度を地表ギリギリにまで落とす。その直後、魔理沙のマスタースパーク級の極太レーザーが頭上をかすめた。こんなのが人里に向けて撃たれたらと思うとゾッとする。

 

 仕留め損ねたらしいことを察知されると二つの副砲から円形のミサイルを乱れ撃ってくる。速度も遅く追尾精度も甘いものであったが、その物量は無視できないものとなっている。

 

 俺は高度を急上昇させつつ低出力菊一文字、つまりバーティカルマインを放り投げるように打ち出した。空中で縦長の爆風をいくつも残しながら迫りくるミサイルを迎撃していく。

 

 こちらを撃墜したのを確認する前にモリッツGは再び踵を返すと人里めがけて爆走し始める。よし、バーニアをまたこちらに向けたな?

 

「重銀符『サンダーソード』!」

 

 オプションから少しずつ魔力を貰い、突き出したレイディアントソードに収束させる。お互いにかなりの速度で移動している身。操縦桿がブレそうになるのを必死に抑えて狙いを定める。

 

「うおりゃあああ!」

 

 どうにか片方のバーニアにクリーンヒットさせた。片方から噴き出る炎が目に見えて少なくなっているのが分かる。

 

 それと同時にモリッツGの機動力も落ちたのが分かった。更にバランスを崩したのか、しばらくフラフラに走行を続け道を外れて林に巨体を突っ込ませてしまう。

 

 それでも木々をなぎ倒しながらほとんどスピードを落とさずに猛進するのだから始末に負えない。そこまでして人里を破壊したいのか。

 

 再びモリッツGが振り向く。これ以上コイツと遊んでいる時間はない。今度は薙ぎ払うように振り向きつつレーザーを放っている。そしてコイツの弱点はレーザー砲の下にある剥き出しのコア……!

 

「うおおおおお!」

 

 俺はレーザーがこちらを薙ぎ払う前にヤツの懐に潜り込む。流石に砲台の真下にまでレーザーは届いておらず、さらに弱点の目の前に陣取ることが出来た。

 

「もう一度……重銀符『サンダーソード』!」

 

 オプションに蓄えられた魔力をアールバイパーに収束させる。襲い来る吐き気などものともせず、レイディアントソードを前に突き出し、次は剣に送り込んだ……。

 

「はあああああ!」

 

 幻想郷に雷鳴轟く。光の剣が狂えるバイドの兵器の弱点を見事貫いたのだ。どうにか人里に入れずに済んだ。こちらの仕事が片付いたので早苗のところに戻ろうと元の道に戻ろうとするのだが……ここで俺は愕然とすることとなる。

 

「ひいいい! こっちにもモリッツGがぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴を上げながら倒したはずの緑色の巨体に追い掛け回されてながら林に突っ込んでくる早苗の姿が。おいおい、もう1機いるのかよ! そんな話聞いたことないぞ!?

 

「早苗、掴まれっ!」

 

 早苗の戦闘騎ではいずれモリッツGに追いつかれてしまうだろう。こうなれば逆回転リフレックスリングを撃ち出してアールバイパーが引っ張っていくしかない。追いかけていた筈が今度は追われる状態になってしまった。

 

「アズマさん、これからどうするんですか!?」

「分かんねぇ。なんでモリッツGが後ろから追いかけてくるんだよ!」

 

 元になったゲーム(※2)ではヤツはボスキャラなので、倒したらそれで終わりの筈なのだ。理由は分からないがコイツも撃破しないと俺達はもちろん、人里もただでは済まない。だが……

 

「お生憎様。早苗は後ろの敵を攻撃する手段を多く持ってるし、それだけ速い速度で迫ってくるのなら、俺にだってアテがある」

 

 早苗はフリーレンジのワイヤーフレームをモリッツGのコア部分にセット。俺はそんな早苗をリフレックスリングで牽引しながら高度を上げつつバーティカルマインをばら撒くことにした。

 

 だが、地形が俺達の味方になってくれなかった。フリーレンジは木々にばかりロックオンしてしまい、同じくバーティカルマインも木に阻まれてモリッツGに届かないのだ。

 

 それは相手側も同じ……と思っていたのだが、モリッツGは圧倒的な火力と機動力で木々をなぎ倒しながらこちらに迫って来る。時折腕のような部分で折れた木をぶん投げてくることさえ。

 

 それでも極太レーザーは木々にやはり阻まれてしまうようで思ったほどこちらにまで迫ってこない。

 

「わああっ! コレどうしましょう!? 一度高度を上げますか?」

「ダメだ早苗。遮蔽物のない空中に逃げたらモリッツGのいい的だ」

 

 コイツを何とかするにはやはり一瞬のスキを突くしかない。あちらも攻めあぐねているのか、今度は薙ぎ払うようにレーザーを放ってきた。次々と蒸発していく林。遮蔽物をなくしてからこちらを仕留めるつもりなのだろう。

 

 だが、この瞬間こそが俺達にとっても最大のチャンスとなる。

 

「早苗っ! 急ブレーキをかけろ! そして振り向いてありったけの火力をブチ込め!」

 

 視界が開け、動きを急に止めた俺達。確かにモリッツGにとって今の俺達はいい的だろう。だが、それだけ高速で走っていてはホーミング性能のそこまで高くない弾は役に立たないし。レーザーはさっき放ったばかり。つまりヤツが取り得る行動はただ一つ。

 

「突っ込んでくるぞ! 近距離からのフリーレンジで一気にカタをつけろ!」

 

 俺も再びオプションを回転させてオーバーウェポンの準備にかかる。ありったけの一撃を同時に決めたら一気に左右に避ける。そうすれば俺も早苗も無事の筈だ。

 

「アズマさん、息を合わせましょう! せーのっ……」

 

 再び幻想郷に雷落ちる。しかし今度は2つ。ゼロ距離からのフリーレンジとサンダーソードが狂える機動兵器のコアを貫いた。コアの爆発による爆風に煽られるように俺達は左右に避ける。

 

 よし、うまくいったぞ! コアを失いその巨体が崩壊する中、ヤツは両腕で狂ったように地面を掘ろうとしていた。だが、それも一瞬だけであり、すぐさま他のパーツも爆発。そして完全にその姿を維持できなくなり、跡形もなく四散した……。

 

「人里も心配だ。急ぐぞ、早苗!」

 

 他のバイドが人里に侵入していないだろうか? 俺は案じつつも漆黒に塗り替わりつつある夕暮れを高速飛行する……。




(※1)モリッツG
R-TYPE⊿に登場するボス級バイド。
本来は人類の兵器だったのだがバイド汚染を受けてアジアのとある都市に降下、街を破壊しながら爆走していた。

(※2)R-TYPE⊿とR-TYPE FINAL2
R-TYPE FINAL2のオマージュステージではモリッツGはなんと2機登場する。
ちなみに東方銀翼伝の原作「銀翼と妖怪寺」では1機倒して終わりだったのだが、こちらではFINAL2よろしく2機出てくる。

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